表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/229

まぷちの帰還と


あの後、わたしは望んだワケじゃないのに、街に帰ることになった。理由は簡単。応援が絶対必要と言われたから。エウレローラが言うには、


「応援を連れて来て戴ければその時お話致します。」


「わたし、まだする事があるので。」


「わたしが用意出来るものなら御持ち致します。」


わたしは染料を集めに来ただけなのに。渋る答えを返すわたし。それなのに彼女は視線をわたしから離さずにすがるように応援連れて来てください、お願いしますと繰り返すばかり。


応援は呼んで来たいけどトラケスの用事もまだ少し残ってるからなー・・・ふとヤルンマタインに視線を移すと、此方のやり取りをスルーして帰る仕度を始めている彼。

ちょ、ちょっと待ってよ。エウレローラがこんなに困ってるじゃん。そう思って見ている間にもザザッと装備を整え、


「次の所へ行くのかー。また会える日までさよならのかー。」


平然とした顔であっさりこの場を去っていくヤルンマタイン。ちょっとぉ、それはないんじゃない?どうにもドライだわ。


エウレローラもわたしも何も言えずに見送る事になった。引き留める間なんてなかったよ。しょーがないか、わたしも用事が終われば帰るわけだし。


「用事を手伝ってくれるなら。」


「いいですよ、ちょっと待ってね。乾かすから。」


あっさり思案する事もなくそう言ってスススッとエウレローラは陸に上がって濡れたヒレや鱗を魔法で乾かすと、


「驚かれました?地上の人には驚かれるんですって。」


異世界だからと言って、信じられない事が目の前で起こっていた。エウレローラの鱗やヒレが足になって歩いていた。どういう仕組みなのか解らないけど。


当たり前の様に立って歩き出すエウレローラを横目に少しの間、固まってしまう。


へ、へえー・・・それは皆吃驚するよ。下手するとショック死を起こすかも知れないってば。常識ってなんだろう。。。エウレローラはコテンっと首を傾げ『ん?』と見詰めてくる。


「さ、頑張りましょう!用事ですわよね。」


妙に元気になった人魚の足元をチラッチラッつい見てしまう。それに気付いてるのか解らないけどガッツポーズをして気合いを入れるエウレローラにビーンズ赤or黒狩りを説明してから歩き出す。


エウレローラは修行をしているのかわたしよりも幾分強かった。手馴れた手付きでダガーを扱う横でスリングで漸く仕留めていくわたし。


見ている間、終始にこにこ笑顔でダガーを振るう様はエウレローラには似合わなかった。優雅に踊るように敵をあしらう彼女からは駆け離れていたからかも知れないな。ダガーと言うよりはレイピアとか、似合うかもと。


結果、1時間くらい狩りを続けて染料(黒)30個に(赤)58個、更に採取した苔もたっぷり。


「此方から氷の川に出られますよ。」


「ありがとう。明日には連れて帰ってくるね。」


ほくほく顔で地底湖まで帰ってくるとエウレローラが地上までの近道を教えてくれるとゆう。他愛無い話をしながら付いていくわたし。


どれくらい話していたか暫くすると外から漏れ差し込む光が強くなり地上が近いのだとわかる。エウレローラの指差す方へ歩き出すと川の流れが聞こえてきた。


氷の川の下流の袂に出口は繋がっていて付いてきてくれたエウレローラと一時の別れと応援の約束を交わして街を目指して踏み出し、見上げると陽は傾き辺りはすっかりオレンジ色に鮮やかに彩られていた。振り替えると、ある筈のさっき出てきたばかりの洞窟の入り口が跡形も無く消えていた。





街が見えるようになるとあちらや此方から夕げの準備なのかも知れない乳白色の煙りが上がっている。外からカルガインを見たことは無かったがぐるりと外壁で囲まれた街は北の方はこんもりと丘になってその袂に天に延びる塔が聳え立っている。上を見上げても容易にはその先は雲に覆われて知ることは出来ない。


うわ、やっぱ高ぇわーカルガイン。一つ延びをして駆け出す。帰ってきたぞー。カルガイン!


外とを隔てる門を潜ると街はすぐにある。家族が夕げに着いているだろう細々とした住宅が並ぶ区域を抜けると東通りが少し走っていて大通りに繋がる。大通りを、聳え立っている塔に向かって進めば北の広場に出る。北の広場までくればあと少しで着く。


目的の店の前には仕事をして無いトラケスが立っていた。侮蔑の視線を投げ掛けるとわたしに気付いたトラケスは休憩だよと弁解してくるので、ありったけの染料と苔を手渡し、どうだと言わんばかりに胸を張ってみる。


トラケスは受け取ると快く感謝をしてくれ、報酬は明日朝には出来るから朝来てくれない?と。トラケスと朝、会う約束をして別れると、足早に酒場に居るだろう二人の所に急いだ。


広場を離れ人混みの無くなった大通りを南へ走る。タイユランの店の路地を過ぎ更に路地を2つ越えると目的の店のある路地が見え、人の行き交いが増えてくるので走るのを止めぶつからないように歩く事にする。


この辺りは大通りにも路地にも道端にぽつぽつと夕食用の露店が出るのですれ違うどの人も人種はエルフやドワーフと様々でも同じ様に露店で買ったのだろう袋包みを下げていた。それを幸せそうに家路を急ぐのか早足で離れていくのを見送るでもなく目の端で追っていた。


路地を入ると道端に露店で買ったのだろう夕げを足元に広げて摘まんだりディアドの店で買ってきたのかジョッキを傾ける酔っぱらいども。邪魔だ。


でも、ディアドの店の売り上げに貢献しているんだと思い直し酒場の両開きの扉を開き店に入ると、マトーヤに行く前はここがカオスに染まっていた光景があった場所とは思えないくらいに、宴は落ち着きを取り戻し思い思いのテーブルで酒を飲み交わし、世間話に花を咲かせているくらいだ。


大きな叫び声も聞こえて来ないし羽目を外した痴女(シェリルさんだけでは無い。念の為。)を見かける事もない、もちろん人間椅子だって見当たらない。何時ものディアドの店だ。それを見て心からそう思った。


宴は落ち着いても8つのテーブル全てが埋まっていて満員御礼。立って飲む男女もチラホラ。儲かってるね、ディアド。カウンターに店の主のエルフを見掛けて空いていたカウンター席に着くと談笑の輪の中に見つけたシェリルさんを苦労して呼び戻す。


いったい何時間飲んでるの?カウンターの隅がすっかり定位置になっているヘクトルも丸くなって眠たげにしている。視線をくれるとお帰りとだけ、もう目は開いてない。


今日はダメかも・・・すっかり出来上がった酔っぱらい二人を見て憂鬱です、わたしは。





「―――ってコトなんだ。」


ディアドに新鮮な水を人数分頼んで三人で飲み干すと真剣な気持ちで二人に話し始めた。今日見たこと、人魚に足が生えたこと、人魚に応援を頼まれたこと。


「ヘクトルは地底湖のクエストって覚えてる?」


それを聞いて酔いが醒めたわけでは無いんだろうけど騒ぎの輪から戻ってくる時はフラフラ、表情もヘラヘラしてたのにシェリルさんの顔付きがしゃんと変わり、わたしとヘクトルの間に空いていた席に移動した。

ディアドに空のグラスを差し出し水を要求。ヘクトルもゆっくりだけど動き出す。のそっと上半身持ち上げるとディアドに濡れタオルをこちらも要求した。


「ううーん。そもそも人魚が地底湖に居るのは初耳だ。」


濡れタオルを受け取ると豪快に顔面を目を醒ます様に拭きながら答える。後は暫く二人の世界しかなかった。わたしは二人の質疑応答を憂鬱にダルさを感じながらシェリルさんの背中越しに聴いている。あー、疲れたなー今日は。今更ドッと来た疲れにダルさに打ちのめされカウンターに突っ伏してしまう。


「そうなのよね。じゃあ、人魚の関係するクエストは?」


「噂で聞いたのが一つ。偶然発見したのが一つ。」


「噂で聞いた方はあれよね?海底城。もう一つは。」


「そうだな。もう一つはドラゴンが出てきた。」


「ソロで出来る?わたし達でいけるの。」


「それはどうかな。そもそもこの辺りのボスをソロなんて。」


「ヒーラーが欲しいわね。」


「あの・・・」

わたしは。


「そうだな、そう言えば酒場にブルボンの討伐隊が顔出してたぞ。」


「討伐隊のヒーラー貸して貰えればドラゴン狩りね。」


「あの・・・」


ヒールと言えばわたし。わたし、ヒールしか無いじゃん。背中越しにわたしわたしと頬に指を差し猛然とアピール。『ん?』と振り替えるシェリルさん。あ、気付いた。わたし少しだけど役に立つんだよ。


「早くお風呂入ってきなさい。明日はドラゴン狩りよー。」


「あははは。うん。」


お風呂だー。と頭の中ではしゃぐ。もう何日入ってないか。カルガインにも風呂は文化としてあるものの。市井に広まって当たり前と言う物でも無いみたい。


後ろを見回してもお風呂に浸かった事がある人がどれだけ居るか。酒場の中には20人は居ると思うけど。あっ、でもお風呂なんて昨日まで無かったのに。シェリルさんが耐えきれずに買ったのかな?


聞いてみるとテントの隣の家を買ったみたい。へ?さすが成金。金を湯水の様に使いますね。服一着買うのに朝から暗くなるまで走り回ったんですよ、こっちは!


だけどお風呂あるなら許す。お風呂入れるなら許す。お風呂浸かれるなら許ーす。ディアドに挨拶をしてから酒場を離れた。まだ二人の会話は続いているみたいだ。


「俺は今の内にヒーラー借りれる様に話してくる。」


「その人魚の関わるクエストって入り口どこから。」


「それがおかしいんだけど、リヴィンス火山。」


「今回は違う可能性もあるのね。」


「火山から海に連れて行かれたけどな。」


「じゃ、わたしも一緒に入りにいこっと。」


まぷちが酒場を離れたすぐ後、ヘクトルも銅鑼の音を耳元で聞いている気分のまま討伐隊の宿泊地へ向かおうと立ち上がる。それを更に話題を振って制止するシェリル。話はまだ済んでないと言いたげに彼を見つめ返事を待つ彼女にヘクトルは難しい顔をして返事を返すとカウンターに1万金貨を何時ものようにそっと置き去ろうとする。その背中に更に質問を投げ掛けるシェリル。歩き出していた彼は吐き出すように呟くと左の掌をヒラヒラ振って今度こそ扉の向こうに消えた。ヘクトルを夜闇に見送ると彼女は悪戯を思い付いた子供のような顔に変わりひっそりと呟いて同じように1万金貨をカウンターに放り投げる。ディアドに会釈をして外へふらりと出ると千鳥足で買ったばかりの家へと歩き出すのだった。



少し時間を巻き戻して、酒場を先に離れたまぷちの元へ。


テントの隣の家を買ったって・・・これ、少し壊れてるけどお屋敷じゃないの。玄関は無い、1階のリビングも無い、お風呂どこなのよ?あ、シェリルさんが書いたのかな。壁に直接矢印を書くなんて。矢印に従ってフラフラと廊下を歩く。


あった!岩風呂だー。廊下の突き当たり、玄関は丁度正反対に当たる。

元々は湯浅するだけの場だったんだろうタイル地の上に石組みで岩風呂を作ってある。これでも囲みだけじゃない、お湯どうする・・・あ、自分で沸かすのか。


見渡すと一連の作業が見えてくる。今からわたしがしないといけないこと。どうやら一度外へ出て薪をくべ、湯を沸かす。充分溜まったら壁に添え附けられたスイッチで岩風呂にお湯が流れる仕組みみたい。


「ホントにお風呂だ。ちょっとぬるいかなー。」


湯を沸かせて、溜まったお湯をスイッチを押して流し込む。大きなお屋敷に住む友人の家で古いお風呂の仕組みを知っていて良かった。


知らなければ薪なんて気付いたとは思えないよ。


蛇口から出るお湯とは違った自分で沸かしたお湯に自然と愛着が湧いてしまう。


「あー、生き返るー。」


一人で入るには充分過ぎる大きさの岩風呂で何の意味もなく両手でお湯を掬う。頭の先までお湯に浸かって、心からそう思った。生き返ったって。


「わたしが作って貰ったのよー。」


「ひゃうっ!シェリルさん。」


甘かった。わたしは今、裸に何かのコラボで運営が配ったスポーツタオルを首から掛けて岩風呂に浸かった状態だ。シェリルさんが一緒に入るとゆうことを頭の隅にも考えてなくて警戒を解いていた。


音もなく扉を開けシェリルさんは裸で絡み付いてくる。呆気にとられてる間にやられた。前から揉まれちゃって吃驚して変な声が漏れる。


「京でいいってば。凛子ちゃん胸そこそこあるね。」


尚もむにむにと揉みしだかれた。


「ふわぁぁあ、やめて京さん。」


久々のお風呂に受かれていた事もあってあちこち敏感になってるみたい。


「呼び捨てでいいってば。京ちゃんも可。」


京さん、悪い顔してるよー。弄んで楽しんでる。


「京ちゃん京ちゃん、ソコ触らないでぇ。く、擽ったいよぅ。」


うなじからつぅーッと指先で撫でられた!


「ほれほれ。感度はどーかなー。」


お湯に浮かぶ膨らみの中心を摘ままれた!!


「や、めてぇー、みや、こちゃんン。」


みやこちゃんみやこちゃんソコだめーェッ!!!


「敏感なんだねー。うん、止めたー。」


京ちゃんに恐怖を感じます!ずりっずりっと距離を取って隅へと逃げる。そこまで広くは無いけど本能で恐怖したから手が簡単に届かないように。やめたと言ってもまた来るんじゃないの。それからは警戒していたからか波が引いたようにホントに何もしてこなかったんだけど。


「ヒールだけじゃ詰まんないじゃない?」


「うん。」


「マナ好きなだけ買ったげるからわたしの女になる?にやり。」


体が充分暖まったから綺麗にしようと洗い場に座り、石鹸を泡立てていると急に後ろからマナの事を聞かれたから頷いて答えると、そんな事を言ってわたしの精神に極大の爆弾を落とす。わたしの女にならないか?女同士ですよ、ええ。知ってますよ?わたし、京ちゃんに獲物に見られてるのは。


「ちょ、」


「凛子ちゃんの反応可愛い。処女、ね。処女でしょ。」


「・・・」


気配に座ったまま振り替えると何も身に纏ってない素の京ちゃんが引っ付いてきた。悪戯っこみたいな笑みを湛えて。思わず叫んでしまう。彼女は口撃の手を休めたりはしない。もう黙るしか無かった。逃げ道は無い模様。わたしは真っ赤になる顔を見られたく無い一心で両手で覆う。それが不味かった。


「あ、わかった。わかっちゃった、図星・・・なんだ。」


「わたしはノーマルですぅ。も、出る!!」



ああそうですよ、図星ですよ。京ちゃんを引き剥がすと、値踏みするような視線でわたしの全身を嘗め回す。すると、くぷぷと漏れ出る笑いを殺すように手で口許を押さえる京ちゃんに嫌なトコ指摘されて頭にかぁーッと血が昇るのが解った。ビンタを考えたけど抑えたわたし偉い!手桶に湯を掬って洗い流して一刻も早く風呂場から離れたかった。


京ちゃんの事嫌いじゃないけどそれはそれこれはこれ。割りきれるかそんなの。



「マナじゃなくて、じゃあ服だったらどぉ。にやり。」


「―――知らない!」


畳み掛ける様に京ちゃんはわたしの弱点を探るように言葉の食指を巡らせる。くっ、やっぱり気づかれてた?着る服が無くて困ってるの。後ろ髪を引かれる思いでその場を離れる。誘惑にまだ負けちゃ居ないです。頑張れわたし。



「あ、あれは落ちるな。凛子の・・・むふ、むふふ。」



後には小悪魔と言い表すしか無い京の素の笑い声が風呂場に響き渡っていた。



自重しました。やり過ぎると18禁になってしまうー。お風呂回です。生々しいほどやっていいか解らないから自重です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ