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灰色フードと少女と巻きツノいこーる獰猛という解


「我が名は黒翼。待ってろ、今、引導を渡してやる。我の手でなぁっ!」


得物でもある長剣を引き出し、イノヤとかゆった頭の両側から巻き角の生えた少女に身構え、鞘から抜き放つと一息に振り下ろす。

がきんっ!

鈍い金属音が大きく辺りに響いて、その一撃は少女の手にした斧の金属で出来てるんだろう柄で防がれる。


どうしよう?

ワクワクするのが終わらない。


イノヤはどうみても同類。

わたしの側の。

同じように今この一瞬、一時の闘いを楽しんでいる風にしか見えない。


わたしの剣の腹を足で蹴って、つばぜり合い染みた状況から抜け出たイノヤは、自分の背の後ろまでめいっぱい斧を振り被って、そのまま真っ直ぐ。真っ二つにしようと獲物を狙って。叩ききるように。

振り降ろした。


「うぉおおッ! 受けてみろ、このォッ!《グレート・スラッシュ》!」


剣で受けきれない?

振り被った斧は迫るにつれ仄かに輝き、段々とその輝きは増す!


コレってダメに倍加効果なスキルだっけ?


だからといって薪のように真っ二つになって上げないといけないという訳でもない。

そんなワケいくか!


「止まらない、なら……。始めから受け止めなければっ、力の流れて行く先を示して、やればっ!」


ジャララらララッ!


金属同士の擦れる音が耳に届く。

手に馴染んだ長剣を、重量のある斧を受け止めるのに使うので無く、受け流す方向に使ってみた。


「防ぎ方をしっていれば、どうという事は無い……技を知っていれば応用もまた然り」


両手で握った長剣を押し切るのではなく、敢えて受け、そして刃を傾けて長剣にかかる斧の力を逃がしてやるんだ。


「フニャフニャしやがって。ずっこいな!正面から受けてみろ、この!かっこつけの黒ずくめ!」


ノルンの中では剣技で言うところの笠通し。

金属笠で盾のように敵の攻撃を受け流した、という由来のあるスキル。


技は押すばかりに使用するものじゃなく、引いて力を受け流す事にもなるなる。


結果、大成功!

強力なスキル補整のついた、イノヤの振り降ろした斧は行き場を新しく示されて流された先の床を穿つように、大きく飛沫のような礫を散らして砕く。




どうしよう?

どんどん鼓動が速くなって病気でも無いのに苦しい。

まぢ、どうしよう?

でも、心地よい……。


お預けにされてた、一番のメインディッシュにやっとナイフを差し込むように。

焦がれた激レアアイテムをついに、ついについについにドロップした時の様に。

味わった事の無くはないけど、なかなかの久しぶりにえも言われぬって感覚の、興奮!

感動?


高揚感。

雲を突き抜けて虚空を飛んでるようなぶっ飛んだ、地に足がついてかないような浮遊感。


何、コレっ?

た、楽しいぃいいいっ!


くっ、くぅうううーっ!

気持ちぃいいいーっ!


やべー、……ヨダレ出そう……。


「出したからには、「引くつもりは無いっ!」」


その後、切り合い。

数度剣戟を交わし。

幾度鈍い金属音を響かせても。

結局、………………勝負は着かずに平行線を辿る。


お互い、息が乱れ。

それでも満面の笑みを浮かべる。


獰猛な獣を思わせる表情のまま斬り着け合った似た者同士。

思った通りの根っからの戦闘バカだ、わたしもか。


二人は、擦れる金属音を部屋中に何度も何度も響かせて。

命を奪い合う事も可能な武器と武器とでお互いの心と心をぶつけ合った。

そう思うんだ。


イノヤが先に崩れた。

荒い息を吐いて転がり込む。


続いて、膝から倒れ込む。

のを、片足で堪えた。


はぁっ……。

はぁっ、はぁっ……。

はぁー───


強がりかもしれないけども、だ……力の限りぶつかってくれたイノヤに対するわたしなりの礼儀とでも言うのかな。


互いが倒れてしまっては終われない、そんな空気が漂っている気がしないでも無い。


「リハビリって、言い訳だったのか?」


「いやあ? まさか、言い訳なんてするかよ。みっともねえったら、はぁ。まいった、まいった。俺を本気にさせて、その上勝っちゃうなんてな」


イノヤの息が整うのを待っていた。

剣を杖代わりに、腰の高さに床に突き立てて、全体重を突き立てた剣に預けてひと休み。

わたしも空気を求めて早くなった息を整える。


はぁ……っ……!


ルール通り、バイタルには手を着けない。

正直苦しい。

正直、今すぐ倒れ込んで天井を仰ぎながらイノヤと言葉をわちゃわちゃ交わしながら青春したい。


正直……後の事なんて。も、どうでもいい。


そこまで思わせるくらいにイノヤは強かった……とは違う、とにかくしつこかった。

それが、でも、一番嬉しい。

今は。


充実感がパないの。

それが、とても清々しく思えるほどわたしの心を満たしてた。


ちょー、た、楽しかったぁああああああああああああッ♪


「お互い剣ならどうだっただか、な?」


「んんっ?……………………剣、……使ったことも無いんだから特に結果に違いは無いんじゃないか?

そもそもお前に剣が扱えるのか、疑問だが」


ふいに思った事がそのまま口から溢れた風にイノヤがそんな事を言うから、少し戸惑って。

でも、少し考えてからあっさりと斬り返してそう言う言葉を吐き出した。

斧が使い馴れてるって言ってたぽいし。

なんとなく。


「ちっ、気にくわねえな。斧を使えてんだから剣なんてちょちょいと出来るもんだろ、やれば出来るってなんたって俺は才能の塊だかんな」


「自信家なのはいいが、それに実力が伴わないなら早死にするぞ、直せ」


「てめェ……ッ!……顔も晒せねえで。どうせ、中身も醜いツラしてやがるんだろーなっ」


「いや、そうだな。イノヤとか言う、どこかのお子様ランチよりはマシな中身をしていると思っているのだがな」


「お子様ランチって聞いた事もねえよ。ってゆーより、バカにしてるだろっ」


「それはもう、今までの言動を振り返ってみれば解るんじゃないのか?……バカ同士……よ」


「何か言ったか? ほい、鍵だ。もってけ」


二言。

三言。

憎まれ口をお互い交わすと、あ、そーだと思い出したように脇に手を差し込んで取り出す。鍵だ。ちゃりんと音を立てた。

金属の何かに触れたかなにかで音を響かせて。



放って寄越したその鍵を両の掌で受け取ると、


「これでここには用は無い……。次会うときは、……もっと強くなっていろよ」


そして、もっと楽しませて欲しいと口には出さず心で呟いた。


「ヘヘヘッ、ざまみろって言いたいからな、言いたいもんな。次なんて有ったら泣かす、絶対泣かす!」



寝転んだままの、イノヤの決意の叫びが部屋中にこだまする。



「成長してればいいな、その時には。そう、期待はしないが」


フルフェイスの奥で確かにその時を頭に過らせて、ニィッとわたし。

──期待はしないなんて……そんなの嘘。


こんなに楽しいのが、もっと、もっと楽しめるなんて……たぎりそう。

たぎってきそう、想像しただけでそんなの期待しないでいられるわけなんて、ないっ!





だから、今は敢えて何も言わずに……立ち去る。

黙って門に一歩一歩、足を進める。


「期待しろ、その期待は裏切らねえでいてやるからな。泣かす、泣かしてやる。絶対、にっ!」


そんなわたしの背に、イノヤの前から去ろうとする黒翼の姿に向けてイノヤが投げ掛けてきた素直で真っ直ぐで無垢な言葉を聞いて、門の扉の鍵を開いて次の門へと続く通路へとなんだかほっこりした気持ちでわたしは踏み出したのでした。






あー、凄く難産だったなー……。

でも、普通な終わり方になってしまったし。

内容をさっぴいてるし。


『本気』のイノヤのシーン、前に消したんだよね……間違えて。

だから……。



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