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棲んでいた悪魔

思考の海からゆっくりと帰還すると突如としてグリッケンからのラッシュの最中で。


「うぅおっ」


目の前に迫ったと思うと、右肩を掠めていく紅い穂先。


「ちっ!ぁあああっ」


かと思うと、金属音がして左膝に衝撃が走る。


「いっ………………たぁあ……」


当然わたし、立ち止まって、棒立ちにしばらくなっていたぽく、グリッケン爺さんに好きなように槍を突き入れられ、当てられ。

小さく、反射的に声が漏れてしまう。


咄嗟に跳んだ。霧の晴れているとこに、別の足場が視界に映ったのでそこ目掛けて。


一先ず、態勢を整えよう。

と、言ってもだよ?

鎧の堅さか、超自然的な能力が働いてるのか、それとも単にこっちのレア度があちらを上回ってるからダメージでも吸収したとかそんなチートな状況なのか、……ぶっちゃけ痛くない。


どうなってるの、これ───。


さっぱり怪我してる風じゃないんだ、あんなに突きを当てられたのに……って、棒立ちで思考の海にのほんと浮かんでたから正直なところ、どれだけ突きが当たってたとか解らないっちゃ解らないよね、無意識なんだから当然。


勝負の真っ最中に考え事はしちゃいけないね、一つ賢くなった……の、かしら?

きっと、懲りずに同じ事になったりするのだけど。


少なくても、今は余計な事を考えない。

敵のグリッケン爺さんが大人しくしてくれるまでは。


………………いかん、いかん。怒濤のように!脱線してるのでそんなのは纏めて棚上げして。


改めてバイザーの奥からギリギリと噛み締めて睨み付けた。


こんの、くそぢぢい。

でも、……まだ勝機がないわけじゃない。


槍からは魔力を感じた、いける!

魔法の槍だったとしたらこのままでも負ける道理がないじゃない。


何故なら、わたしの身につける宵闇のマントが好物にしてるのは純粋な魔力。


意味もなくバサッと翻してみる。

やっぱかっこよくて頼れるマントだ。


そこそこの魔法に対して、生きてるみたいに向かっていく。

そして、魔力をまるまる喰い、マントが食べた魔力はわたしの糧になる。



魔法を帯びさせた武器ならそれは好都合と言うもの、なんという巡り合わせ。


「よしよし、……よーし……第2ラウンド行ってみようか!」


無意識にほくそ笑んでいた。

頬が緩み、唇が持ち上がる。

気に食わない老人を一人、ギッタギタにして許しを請わせてやる事だって───そんな素敵な事も、やってやれない事も無いのかも。


絶対、負けないんだから。


よーし。好き勝手やってくれたわね? 反撃に今からいってあげる!


「ハンデだと? 足場が無いのは同等ではあらんかな。ふむ、その口ぶりだと儂が出任せを言い。大口を叩いておる老いぼれと言っておるように聞こえるのう? まあよいわ、すぐに思い直すじゃろうて。すぐ、にのう」


突き入れた槍を戻し、更に位置を修正して直ぐ様何度も何度も何度も何度も。

涼しい顔をして軽々と槍を突き入れるグリッケンじいさん。


だがしかし、グリッケンじい様の優勢もここまで。

いつまでもその姿を捉えられないわけじゃない。


たっぷり時間は掛かったけど、周りの霧はもうほとんど晴れた。


なんだろ。既視感ってゆっか、将棋や花札を庭先で打つ親戚の叔父さんのように嬉々としてわたしを追う視線……。

違うのは、その手にあるのが将棋の駒や花札のカードじゃなく。

その手に握られているのは狂暴そうな槍ってことだけど。


ああ、もう。

半殺しけってーい。


「御老人はゆっくり、茶でも飲んでなさい。これは、お願いじゃない──命令!」


ねっとりした視線を全身に感じて、生理的に受け付けなくってモヤッとする頭でざっと考えた戦略を実行。


まず、劣勢なリーチ差をどうしよっか?

距離詰めてグリッケンじいさんに泣いて貰おう、それがいいそうしよう。


考えてみる、イメージしてみるのが大事。

頭に脳に上手くそれをイメージ出来たら次はどうすればイメージに近い状態にもっていけるかって考え精査する、次には全身に伝える。

指の先、爪先にまで電気信号で動けと命令した。

ってわけで……早速、跳んで間合いを取る……と見せ掛けつつ飛び越えて振り向き様に回し蹴りでグリッケンじいさんは水ぽちゃ、上手くすればお仕舞い。

うん……うん、いけるっ。

力いっぱい踏み込んで跳んだ。

バネの要領で体を縮ませて屈み込み、足場になっている砕けた柱を蹴る。


「身軽そうであるな。しかし、どうかのう。足元をお忘れになっておらんかな。足場が限られておると──」




ヤバっ、直ぐに気付かれ……。

足元の方からグリッケンの声が聞こえて。


「口が過ぎたぞ。御仕舞いにするとしよう、これでっ!」


ビュンッと凄まじい風切り音。

その音が耳に届いた、その次に視界に入ってきたのは赤い槍の穂先。


空中にいる間は無防備。

でもそこはフィッド村では負け知らずのわたし。


「この程度。微調整してやれば良いだけだというのに。ユーデイルでも見せていたぞ───」


全身をぐるり捻って躱す。

次に槍を突いてくるのを警戒しつつ、そのまま着地。


「埃まみれの英雄ではやはりっ、傷一つ、この身に刻めない!」


ではなく、勢いそのままに飛び越えたグリッケンじいさんのお留守にしてる背中に回し蹴りで報復。


「まさかっ!」


「手垢まみれの英雄、かの? それはそれは、優秀なんじゃろうな。今一度言っておく、我は最強の剣」


だけど、グリッケンは振り返るそぶりも見せずに戻した槍の柄でがっちりとガードされる、うぐぐ。


そして、声が聞こえてきた。


『よう、黒いの。やたらと元気な奴だナ』


えっ、何コレ。

グリッケンって声色変えて喋ったりするの……って一瞬頭を過ったものの。


直ぐにその考えを揉み消した。

違う、違うよ、ちょっと……?


耳に声が聞こえるものだけど、今聞こえてきた声は……頭に直接話し掛けてきてる。


『ああ、そうだ。この爺いじゃねえんだナ。今この声をお前に届けてんのは──炎極・ヴァルカナ様!なんだからヨ!』


え、え……何。

わたし喋って無いのに。


『慌てふためいてんナ、ま、当然か。じゃ、種明かしと行こう。俺様、爺いの槍に棲んでるみたいなもんでヨ? 実体は無くしてんだが、ちょっとは尽くしてやってんだぜ。今んとこはナ。ま、なんだ。早い話がお前らに悪魔って呼ばれてる存在。だから、俺様はお前に語りかける事も可能って訳だ、キシシシ!』



え、ええ?


もしかしてお前に思った事が伝わる──?


『おお? 飲み込みが早いな、ねーちゃん。今、俺様とねーちゃんが思ってる思考はお互い筒抜けになってんだ、リンクしてるって思ったか? その通り、ずばり。……そんで、ちょっと頼みがあんだよナ。なんで、ワザワザこうやって語りかけてるかってーとだ……爺いにさっさと引導渡してねーちゃんには次に行って欲しいって訳ヨ』


ね、ねーちゃん?

どうして?

暗黒フルフェイスがもしかして、壊れたの?


『キシシシ、爺いに攻撃喰らったわけでもねーのに壊れるわけねーダロ。お前に俺様の声はおっとこ前に聞こえてるんだよナ? その実、俺様にはお前の声をガキの女の声色で伝わってくるんだヨ。ま、なんだ。諦めろ、こいつは仕様だナ』


え、ええええ!?


この、姿は一切見えないけど、グリッケンの槍に棲んでるとかっていってる、悪魔・ヴァルカナにわたしは女だってバレバレって事……?



『何も驚くよーなことじゃねーダロ? 喋るわけでもねーのに声色を変えてるだけの魔道具が反応しない、ってのはわかるよナ。つまり、そーいうこった。ま、残念』


あ、そっか。

喋るわけじゃないから反応しない。

こうしてヴァルカナに語りかけられる間にも間髪おかずに、グリッケンの鋭くキレのいい突きを躱わしているってゆーのに。


ずるい!


ヴァルカナはまるでそれをみて、知っているのに、楽しむように語りかけるのを止めてくれない。


『キっシっシ、迷惑そーだナ。だが、止めてやるわけには行かないんだナ、これが。手加減して爺いと遊ぼうって気をすぐにも引っ込めてだ。先に行ってくれるって確たる約束が出来ないままじゃあ……俺様のマシンガントークショーは止まらんぜ。どーだい? 得物を出して爺いを圧倒してみせろヨ。出来ないって嘘は認めたりしねえのわかるダロ?

必殺のそれやアレをぶちかませ、なんて言ってねえんだからヨ。言うこと聞いてくれるヨ、ナ?』


だああああああっ!


うっるっさああぁあああぁいーっ!!!


誰が。

こんなとこで。

武器なんて出してやるもんか。

まだ、温存できる。


『しつけえなメスガキ。俺様、悪魔だってこと忘れてんのかヨ。それとも、聞きそびれてたか? ちっ、まあしょーがねえしヨ。……じゃあ、こうしよう。俺様、爺いにお前がメスガキだってのをバラす。そうするとどうだ? もうその仮面は何の意味なさなくなっちまうナ?

そうなりたく無きゃ、おとなしく言うこと聞いてヨ? 次の奴のとこ行け、今すぐ行け。爺いに構わず行け。いいのか? どしてそんな回りくどい真似してんのか俺様にはさっぱりだが、理由あんダロ? 顔も女ってのも隠してまで爺い共をしばき倒して先を目指す理由だってヨ』


うっるさい、黙れ!

お前が火を点けたんだ、持ってるわよね?

後の責任。


やってやる、やってやるわよ。


『期待してんぞ、メスガキィ』



「───何っ?」


──でも。

狙いはそれだけでは無い。

はっきりいって背中を蹴るのは可能ならやってみようかって範囲。


最初から狙うは──。


「水に落ちるような奴は、何だったか……なあ? なんて言ってたかな……雑魚だった?」


「まさか、槍を蹴り上げてはね除けてくるとはの……」


そう、グリッケンの握った槍そのもの。


上手く行った。

グリッケンは握った槍をわたしに蹴り上げられて、バランスを失った体は背中からなす術なく、ドボンと大きく水音を立てて水中に。

グリッケンは落ちた。

最初に言ったルール通り、水中に落ちたんだから退場願おう。


こっちとしては余裕が無い。

守り通したい秘密を握られてるから。


「鍵はかけておらんよ、ご自由に通られよ……但し、この先はこれ迄のようには……って話きいてこーよっ」


さっさと出たい。

さらに、さっさと出たい。

もう関わりたくない、ヴァルカナには。

絶対にヴァルカナには。


グリッケンの沈みきった声色に一つとして何かを言うでなく。

リアクションを取るでなく。

門へ一目散に向かう。

急ぎ足で。


「…………………………」

ううぅうううっ!


今、胸を焼くこの感情は何と表せばいいんだろう。

怒りと、焦りと、悔しさがない交ぜになったこの感情は。


泣きそうになるのを下唇をぎりっと噛んで堪えながら、ヴァルカナの届ける若い男のような頭の中に直接響く声を聞き流して、金属で出来た門に対し仇でも見るような気持ちで力の限りドンっ!

蹴り開けて先を目指す。


『俺様がねーちゃんに次の奴へ急がせた理由がナ、そのマントだ。実体はとうに無い俺様がそのマントに喰われたら痛くて敵わんダロ? 爺いだってヨ、あっさりしばき倒して貰えりゃボロ(きれ)になるまで戦ったりしねーだろーしヨ。ま、なんだ。何より俺様がそのマントとは相性が悪いってとこだナ』


「最後まで五月蝿い槍め。吠えるな、すぐに消えてやる。こっちこそ思ってた、我とお前とでは相性サイアクっ……だとな!」


我慢が出来なかった。

言葉の端々が震える。

ヴァルカナめ、次にまみえる事がもしあったら──喰ってやるんだから!

存在そのものを。


「──何を言っておるんじゃ?」


グリッケンに言ったのじゃない、グリッケンの槍に向かって返した言葉。


身バレはしたく無いって。

それじゃ、何のための黒翼だかわからなくなる。


この際、グリッケンはどうでもよかった。


信じられない!

わたし、槍なんかの命令に従って───。


ホントにもう、一秒でも早く気味の悪いヴァルカナから距離を取りたくて堪らなかった。







遅くなって申し訳無い………………フライング土下座っ!(懐かし

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