ユーデイルとの決着と武人(もののふ)
実力を計ってみて。
番人であるガチムキにしても全身鎧乙女ちゃんにしても門を通していいって納得出来たら即、降参。
でも。こう、ちょっと……スッとしない感じ。
……もっと心からゾクゾクするぶつかり合いがしたいんだけど……なぁっ!
やきもきする思いに引っ張られて、クールでかっこよくて最強を自負してた黒翼だったのに、なのに。
地団駄を踏む。ようするにその場で意味もなく、ぶつけようの無い吐き出し口が見付からない怒りとゆうか……、そんな思いに委せて地面を蹴る。ぐじぐじと踏みつける。
何度も何度だって。
気が収まるまで。
ふぬぅうううっ!
「そう、いうなよ。どうこうされた訳じゃあ無いからまだまだやれるが、あいにく勝てる気が全くしないからなー。死ぬまで競り合えって命令でも……まぁ、お前を目にしたら途中で逃げ出すだろうさー!
そうだ。こいつを渡さなきゃな……持っていけ。……と、通す前にその、なんだ。お前さんの名前いいか?」
「──黒翼」
首にぶら下げてたってわけ?
首の辺りから貫頭衣のような服にガチムキは手を突っ込んで、次の瞬間──ぶちんっと首に掛けていたペンダントの鎖か紐状の何かわからないけど、どっちでもどっちだっていいし。
千切って喋りながらわたし目掛け投げ付けてくる。
薄く笑って苦笑いのように見える笑みを浮かべ、ガチムキはついでってわけか解んないけど……名前を聞いてきたから答えてあげた。
簡潔にただ一言。
口から出てきたのはそれだけだった。
あっさり通せないとか言った癖に、こんな感じでバトルが終わって、あーあってイラつきもあったわけで。
「黒翼、だ? 聞かない名だな。これだけのことをして見せた奴だ、たいそう名の通った奴だろうと思ったんだがな、……ふぅむ。しかし、黒翼。お前の名、覚えたぞ」
テンションあげれないわ。なのにガチムキと来たら、満面の笑みを浮かべてわたしを見てくる、刺すように鋭く。
勿論、テンション高い。
声のトーンが上がる、上がる。
「名は……」
「俺はなー、ユーデイル。聞いたことは無いか? そうだ! 俺が、メカ山賊団をやっつけた。あの、雷刧のユーデイルてんだ」
「…………知らない」
いや、礼儀じゃないかなと思って聞いただけなんで。
こっち的にそのテンションに付いてけないよ?
俺の名前も聞いてこいよ、と思っていたのかもなガチムキは、わたしの視線に気付いて頬を緩ませ目を細めて名乗った。
ユーデイルと。
ジョシフォーヌの魔導双剣みたいにガチムキにも二つ名があったみたいね。
『雷刧』だって。
す速さからついたの?
雷刧って感じだったっけ……。
そんな早いとは思えなかった……ああ、でも。
ジョシフォーヌよりは早かった、確実に。
当然だけど。
「我も覚えたぞ……またな、ユーデイル」
「ああ、またなっ」
***
「…………………………つまらないフィールドよりはいいけど、一体……どういうことだっ」
霧が立ち込めていた──うっすら錆びの匂いが漂ってきそうな青銅色でがっちりとした金属の扉を開く。
と、すぐにぼんやりとした、それでもしかし、ゆっくりと……靄がかかった不確かな空気が流れて来て全身に絡み付く。
こちらがわに移動するように。
わたしを招き入れるように。
時間を置かずに、すぐまた扉の外へと流れ出ていく
一歩、足を踏みいれる。
ん……?
足元がいつもと違うような……。
ん、んんっ……?
ユーデイルとお互い視線も交わさずに別れて扉の鍵を開く。
そして、いつものように一枚岩のような石で作られた通路の床をモヤモヤしながら歩く。歩く。歩く。
辿り着いた扉を開いた先は、向こうは……濃い霧に包まれてた、ちょっとびっくりした。
ヤ、な感じぃ……。
ま、まぁ? 視界を奪われてもさいあく、殺気さえ感じれれば敵からビーコンが発せられてるみたいに場所を特定できるから殴れないとか、勝負の優劣がそんなとこで決まるかって言ったらそうじゃない。
殺気さえ感じられれば……。
「少し、厳しいか───」
デキる敵から殺気程度でも感じとるって至難の業だったりするんだけどね……、そうも言ってられないか。
「これはこれは。随分、凝った趣向の変わったフィールドだな。さっきまでよりは楽しめそうだ。この、水の中に石………………いや、柱か?」
覗き込んだ水中は、霧に包まれた水面上よりもはっきりと見えた、クリアに。
「何か、……あるな。スカッド!」
水中に視界をズーム。
どうも、水中に引きずり込まれて人魚とか半魚人とかと闘うってのじゃ無さそう。
もし、そんなバトルな仕様だったらどうしよーと考えてたから、心配の種は消えたわけで。
どうして? それは───
深さは1㎡、もっと?
部屋の床のほとんどを満たす青く綺麗な水の中、白く大きな物体が沈んでいたから。
いくつも、……幾つも。
それは折れた柱。
辺りを包む霧。
……良かった、足元はかろうじて見えなくは無いか。
今わたしを支えている、わたしの足の下に立っているのは頑丈そうな一本の大きな石の柱。
おぉーい、コレッてさぁ……。
「これは、どうなってるんだ。少しのズレでポチャんと水の中ってコトか。そういう事なら気を付けねばな」
何か、罠。
そうとも取れる。
濡れている……?
水面ギリギリにまで砕いたように足場になった柱は、均一なまっ平らじゃ無い。
だから、いつもと違う足場と。
整った平らな床じゃなくて、ガタガタで歪で傾いている足場だって思ったんだった。
ジャリッと礫を圧し砕く音がする、強く足元を踏みしめると。
その瞬間、
「我はグリッケン。今までの些末な番人とは違うと心得よ……。我は帝国最強の剣、全てを踏み越えし者」
唐突に霧の向こうから名乗りを上げる声が響く。
視線を声がしてきた方に向けると、どうやら名乗りを上げた声は水面から覗く足場代わりの幾つかの柱、その内の一つから上がったらしい。
低くなく、高くもない、それでいて弾むような声色でなく震える事もなく平坦で。
その声からも声の主が落ち着き払っていることが伝わってきた。
何といい表したら近いかな、俳優さんがわざとらしく有名アニメで棒読みしているような、そんな特徴ある声。
耳に残る、嫌でもその声に引き付けられるそれは……無視しよう、聞き流そうとしても拭いきれない違和感。
こ、こいつ……今、棒読みした……。
こっちのやる気を削ぐつもりっ!?
扉の外へ盛れ出していく流れ出した霧は段々と薄くなって、すぐ傍の幾つかの足場がぼんやりと見えるようになる、すると。
気づけばその柱の上にどっかり座り込んでにこやかに笑い掛けてくるキツネ目の老人。
ナニソレ、中二病っぽい名乗りじゃない。
ちょっと、ちょっとだけカッコいい……かも……。
あの名乗りは棒読みじゃなきゃもっとキマったんだけど。
経験豊富そうな顔のシワとか、実績から産み出される余裕を感じる物腰とか精悍な瞳とか。
枯れてるのに芯は強そう。
こーゆー人種を言い表せられる一言があるなら、そうそれは───武人。
まぁ、休日な日曜なので起きてたら昼くらいにまたあいましお。