鳥籠の中のビッグマウス
なかなか、やる。
ガチムキのくせに。なによ、こいつ──危険感知でも出来るの?
まさかね……。
ホントのホントに忍者……て、無い無い。
だって、全身黒ずくめの鎧に身を包んだ黒翼となったわたしは素のわたしよりかは当然、鈍る。遅い。
普段よりタイミングはズレる。
それを頭の中でイメージトレスした軌道と同じと思っちゃうからどうしても……
目に見えてわかるくらい遅いと鎧脱げ!って事になるわけだけどそこまでは無いのが踏ん切りがつかないとこ、……あ、そもそも鎧取ったらここにいるって意味無くなっちゃうわねー、ほとんど。
夢中になっちゃってついつい、ここに来た理由ってちょっと忘れちゃうけど、そもそもは悪名をかきけしちゃうくらい大きな話題作りのために黒翼の名前を売りに来た、とそういうこと。
で。
ついでに腕試ししてるだけだってわけ。
あくまで、ダンゼの撒いていった餌に食い付いたわけじゃないのよ、そこを間違えないで欲しいわ。
これもガチムキに当たるイメージは湧いてたのにわたしの後ろ回し蹴り、鎧の分タイミングがずれちゃって見事に距離を取って躱されちゃった。
って、言っても鳥籠の枠の中なので、跳んで後ろに逃げたガチムキにしたって大した距離を取ることは出来てない、だってさ。
鳥籠、うん、鳥籠なんだけど。
見た感じ、それほど広くない。
三メートルいかないくらいの全周で、高さは十、……もっと?
いやいや……、三階建てデパートの吹き抜けを思い出す見た感じだから、十あるのかな、ん……無いわよね。
凝ったバトルフィールドだとは思うけど、次の門に行くには鳥籠の内周をぐるりと巻くように続いてる螺旋階段を登らないとなのが罠っぽくて解せないとこ。
ん、そうね、何より倒さなきゃ門は通れ無いわけで。倒してから考えよ。
目の前のガチムキの舌を巻かせれば今までの感じ、大人しく鍵を出して通しては……くれるんじゃないの?
「さっさと鍵を渡せ。なにもわざわざ痛い思いはしなくていいと思うが……」
でも笑っちゃうわよね、自分のバトルフィールドの性質でガチムキは自分の首絞めてるみたいな感じになっちゃってるんだもの。
と、言ってみたはいいけど螺旋階段を登らないと上に行けなくって。
想像する。何回かジャンプして登れば、上に行けないことも無いかも知れない。でもそれはガチムキに飛びかかって来られたりしないならって事で、そんなことまず無いしガチムキを無視して駆け上がるのも考えるには考えたけどそれは、こいつ妙に勘が働くのを思うと難しいだろうし、んー。
「俺としても痛い思いをする、そんなのはごめんだ。そんなこと言ってもなー、なんだかんだ言った所で番人を任されてる身。ここまで来たやつ──つまり、お前の実力を計るのも重要なお仕事だからなっ、それに俺も三番手だ。ここまで怪我のひとつも付ける事も出来ずに突破されてきてる、一の門、二の門の奴らよりは後なわけでな。ん、つまり何が言いたいか、それはな───」
フルフェイスの力を借りてわたしが低い声で喋り掛けるとニカっと歯を剥いて微笑む。
それから番人としてガチムキは自分がどうあるべきか、何をすべきかたらたらと持論を口にしてから、一拍置くようにむんっと気合いの入った息を吐いて、「三番手の俺があっさり無傷で通したりしちゃだめだろうがっ!」と、気合いたっぷりにギラっと光る瞳を剥いて飛びかかって来た。
やっぱりこれ、かなぁ。
挑発してあっちからかかって来てくれるのを蹴り落とす。叩き落とすのがいいかな。
こっちから仕掛けて。
ガチムキが自由に動き回るのを追いながら攻撃を当てるのは、かすりもしないで躱されたさっきのを思い出すとちょっと厳しいんじゃない。
「そう、いうことかっ」
迎撃体勢になるわたし。
まさに飛んで火にいる夏の虫、ってこう言うことじゃないかしらと一瞬頭を過るくらいには余裕を感じていた。
だけど、それは間違いだった訳で。
「なにぃっ?!」
目の前で空を切る、わたしの上段蹴り。
動きを察知して空中で無理矢理身を翻すガチムキ。
こいつぅ、……楽しめそうじゃない!
あの状態からわたしの目の前で体を回転させてキックの軌道から外れるなんてねー。
「なるほど? 蹴りに一長はあるわけだな。自信が窺えるというものっ、だっ!」
「籠手だけでどこまでできるっ?」
ガチャンっ!
鳥籠の鉄枠を思いっきり蹴り付ける音が響く。
勢いよく鉄枠を蹴って飛びかかってくるその姿はみる間に目の前に迫る。
早いって言うほどでもないけど。
ガチムキのまだ武器らしい武器を見ていない、いつの間にか銀色の籠手が装着されているけどあれは武器ってわけじゃないんだろーし?
「それは……な、こいつを見てから言えってんだ!」
そう叫んだ瞬間、予想に反してガチムキの籠手から飛び出してきた金属で出来た爪。
まるで、そう、マジックハンドのような三本の爪。
ほんの少し前のわたし、あさはかだったなと苦笑しつつ、身構える。
あ、けど。
マジックハンドが出てきて驚きはした、でも。
「ふっ。それで何をするんだ、お前は?」
籠手から飛び出して来るようなギミックの爪。
それが固く造れるわけが無い、構造上無理。
その飛び出して来た爪目掛け、わたしは蹴り付ける。
つまり、金属のブーツで爪と籠手を蹴とばしてやった。
思わず、失笑してしまうぐらいに残念な秘密兵器……。
「はっ、……はっはっは!」
そしたらガチムキは観念したように地面に座り込み、豪快に笑い声をあげながらゴツイ手のひらで顔を覆う。
蹴り飛ばした籠手はへこみ、歪んで。
飛び出して来たマジックハンドのような爪は、蹴りの威力に耐えきれず根本から折れ曲がっていた。
「ちっ、……………………あーあー。まいった、まいったぞ! なんだってんだ、コラァー!」
わたしの蹴りでへこんだ籠手を、カランカランと大きく響く音を上げて床に投げ捨てるように外すと伸びをするガチムキ。
結局、大きな口を叩いても傷ひとつ付けれなかった事が悔しかったのか。
翳りを落とした表情で、舌打ちをひとつしてそれから、あぐらを組んだ両膝をそれぞれ掴んで吼えた。
降参と言い出したガチムキに、思わず目を落としたら視線がぶつかった──ま、それってフルフェイス越しな訳で、あっちにはそれって真っ暗闇を見てる様な感じでしょうから解らないんだろうけど……。
わたしと視線がぶつかったなんて。
そのしゃがんだまま上目使いに見上げてくる鋭い目付きからは降参した敵とは思えない。
どこか、まだ余力充分に残してそれでもわたしの──黒翼の実力を認めてのことなのかしらね。
「ん……暖まってきたとこなんだがな、こっちは。ふん、まあいい」
拍子抜けってこう言うこと?
ん、まぁ、デスゲームしてるわけじゃ無いし。