え? あれは事故なんです!
心底、悔しそうなジョシフォーヌのしゃくりあげるような、水音まじりの泣き言を繰り返し呟く声が聞こえてきた。
小さな声、か細い声。
だけど、繰り返す事によって言っている言葉が解っちゃう。
「弱い、弱い弱い弱い弱い弱い弱い。どうして、どうしてどうしてどうしてどうして。わからない、解らない解らない解らない解らない解らない……」
魔法が効かないんだもの、相性が悪かったんじゃないの……あ。
そんな言葉が頭を過って気付く、ハッとした。
さっきの、男が言っていた相性が悪かったからこれ以上はやっても意味が無いってこう言う事なんだって。
そう、思ったら理解できてしまった。
ジョシフォーヌの場合は魔法だけど、……さっきの男は何を感じ取って相性が悪いだなんて、決めちゃったのかまでは……うーん……判断しかねるけども。
まだ、うじうじと泣き言をうわごとのように地面に向かって繰り返すジョシフォーヌは放っといて。
だってね、わたしには敵に優しい声を掛けたりなんて趣味ないんだもの。
今のジョシフォーヌになんて話掛ければ正解?
広い心で、広い視野で見れば敵では無く、強くなろうとしてる似た者同士と見えなくもない、かと言って。
「俺たち、似た者同士だよな。仲良くやろうぜ」
って、そんな事を言うほどジョシフォーヌに親身になりたいと思えないんだ、これが。
ノルンのゲーム上、モンスターだけが敵じゃなくってNPCの兵士だったり……戦争クエストもある、シナリオで戦争したりする、一般人のNPCとも戦うんだ。
回避も出来る、出来るけど……けど。
ロック機能がそれを許さないとこがあって。
ユーザー側もロックが出来る、勿論複数をロックして一度にデカくてキツいの一発でロックした全部を黙らせることも出来ちゃうわけ。
レベルが同等なら苦もなく狩りもやりやすいけど、敵だって当然だけどこっちをロックして襲ってくる、しかも複数……。
経験した最大で数が多い時は、目に見える範囲全部がわたしをロックしてるってレベル。
「わ…………ちょ、マジで?」
そんなだからレベルが低いって、わたしより弱いからって安心なんて出来ない。
「少々詠唱が長いからって───どーだ!攻撃させなければいいのよ。一撃即滅、これよコレ。やっぱりファンタジー異世界なら魔法ぶっぱなしてこそよね!」
強力な魔法か、単発スキルでも盛りに盛った極盛りステータスからオーバーキル並みの一撃で終わらせれば話は別だけど。
「ちょ、……何コイツめちゃ堅い……ぃいいいいっ」
ステータスが高いならダメージがゼロだったりする事もあるにはあるかな。
……でも、属性攻撃が加算されたり特殊なバッドステータス(毒とか麻痺とか、他にも色々)もあるから敵に攻撃させないのがどっちにしてもやっぱり一番。
「毒消しある限りは全部相手したげる。さぁ、アイテムよこしなさぃよおっ───あぁあぁあぁぁぁぁぁあ!毒消し切れたぁっ、属性避けないとツラ過ぎっ、あぁ……もうっ!!!
……死んだ………………帰ろ…」
更にレベルが高い敵なら死に戻りを繰り返す必要だって出てくるし、アクティブなモンスターならそれでなくても、複数からロックされてロックした敵全部、一度にお相手したげないといけないのに。
ダメが通らなかったり、攻撃その物も出来なかったりする。
ちなみに、ロックとゆーのはゲーム内で敵から狙われる事。
一度ロック入るとロックされたユーザーが死ぬか、他のユーザーがロックしてる敵に一定以上のダメージを与えないとロックは外れなかったりする、例え他のユーザーが近くに居ても通りすぎるだけだったりするとロックは移らない。
例外は、ロックされたユーザーが敵を振り切ればロックは消える、けど。
ロックが切れたわけじゃないので『振り切った、良かった』って安心していると追い付かれてロックが再びされてしまうので、簡単にロックは外れない様に設定されてたり、そうみたい。
加えて言うとノーマルモードとぼっちモードと言う視認システムがあって、ぼっちモードだと他のユーザーが全く目で見えなくなり、一人でファンタジー世界に転生しちゃった感が味わえる。
パーティに入るの煩わしい人とかコレ。
……なんだけど、ロックした、ロックされた敵はぼっちモードだと見えなくなるのがタマに傷なんだよねー。
困ったことに、すぐ近くで死に戻りなんかされちゃうといきなりロックがこっちに来るの。
敵の種類によっては残りHPの数値で強パラメータモード《激昂》や《憤怒》って状態を持ってるのも居るわけで、場合によっては『どこから来たのっ?! うわ、……死んじゃったじゃん!』てコトもある。
伊達にぼっちモード長くないですよ。
そーゆー訳で、初心者の頃のマトーヤ洞窟の入り口に突然現れるグランジ《興奮》は未だにトラウマ。
何が言いたいかっていうと、ミニマップのロック表示が消えない限りわたしは安心出来なかったり。
ついつい、敵の動きを目で追う癖が着いちゃった。
必中なんて物は広範囲魔法でも使わない限り無いし、その広範囲魔法でも例外があったりしたし、確実に敵を倒したいなら当てる事の出来る間合いで斬り結ぶ。
または、体と体を離さずに殴り合う、とそう言う事になっちゃうんだよね〜。
属性に強い敵なんかは特に広範囲魔法なんかへっちゃらで、まぁ……だからわたしは凍結させて動きを止めてくれる氷系魔法を良く使ってて、使う事の少なくなった他の属性魔法を疎かにしてるってトコもあったり、無かったり?
この世界、最後に信じれるのは強力なスキルと磨いてきた剣技、それにカンストされた体!(パラメータ)
魔神対エルフなんて、体で勝ってないなら回れ右!よね?
自己再生だってするような敵に死に戻りのデスマラソンなんか意味無いし、死に戻りした時点で底上げアイテムの効果も無くなって……テンションだだ下がりだし、………………はぁ。
思い出したら、今でもテンション下がる……HP100倍とか、全ステータス二倍、MPオート回復その他諸々課金ガチャのアイテムをばかすか飲んで浴びて強化。
「わーい☆今日は講義も終わったし、制限一杯レベアゲ集中してやんよーっ♪」
って息巻いた、その三十秒後に激レアフィールドボスの魔神なんかに会っちゃって、
「これだけやったんだからっ!」
って余裕ぶっこいて激レア、極レア落とせこのやろーと応戦しちゃったら返り討ちにあって……即、ログアウトして家に帰って泣いたのは…………ノルンに関わってる限り忘れられない思い出。
悲劇中の悲劇、課金額5k分の底上げアイテムが融けたんだもの。
鬼ほどアイテム飲んで、底上げして、普段より強くなってるから舞い上がっちゃって、狩り場のグレードを上げてたわたしも悪いけど……運営の罠じゃないのってそーとしか思えない。
バグかよ……嘘でしょ。
確定エリアも無いし、広いフィールドで出現報告があったけど確実な沸き場も無くて数日に一回……悪いと月一回出現するかしないかの魔神・ポロフェネス。
そんな稀少な敵がまさか、わたしの目の前に湧くなんて。
しかも、これ以上の底上げ出来ないギリギリのアイテム制限一杯にドーピングしたわたしの。
あれは……、痛い事故だったよ。
そこまでやってるんだから、逃げるなんて選択肢ある?
無いね、無い。
だから逃げずに、ばかすか削られるけどこっちだってばかすか削って……《神─魔─降─誕》モード突入したポロフェネスにめった叩きされちゃうまで『勝てる、勝てる』って思っちゃうでしょ、夢みちゃうでしょ。
まだ──誰も倒してないレアボスとったどーっ!!!
っていうの憧れちゃうの解るでしょ?
称賛のコメントの雨を全身に浴びて、得難い──中々味わうことも無い優越感に浸りたかったんだもの。
ポロフェネスの事は事故なんです。
ぼっちじゃなかったら勝てたかも、とかそんな……そんなこと……思ったからその後、ギルドにも入ったし少しずつパーティにも参加する回数を増やしたりしたけどさ。
ポロフェネスの事は事故です、絶対事故なんです!
そんなこともあってなのかも知れなく、今では悔しい思いをしたくない!って事も加味して過去の激戦の経験が生きている。