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全身鎧は乙女ちゃん


鏡を見せられてるみたいで、少しショボンとなってしまいそうになるのを奥歯を噛んで堪える。


いや、わたしは良いのよ。

わたしはわたし、後ろ向きな考えは捨ててきたじゃない。

どんなに似通っていても、どんなに痛いやつって思ったとしてもこんなので精神ダメージを喰らってたら何のためにあの過去を捨てたのか解らなくなってしまう。



「女……か?」


気を取り直して、俯いた顔を挙げてジョシフォーヌを見る。

目の前の全身鎧から発せられているはずの声は若い大人の女。


見た目は、わたしと同じ全身を覆う鎧に包まれててジョシフォーヌの容姿は……見えない、見えない。


カッチリと、西洋のグラディエーター風な甲冑兜をバイザーまで下ろして、被っているから見える隙があるはずないんだけど。


言って見ればわたしと、黒翼と変わらない出で立ち。


違うのは色で、わたしが黒翼たる黒ずくめなら、ジョシフォーヌと名乗った若い女の甲冑の色は全身青銅色。


そう、あのどこか埃っぽいイメージの。


イメージはイメージなんだけど、青でもない碧でもない、言ってみればマイナーな珍しい色合いとゆーか、日常的に見ること無いんじゃないの、ってそんな感じの色じゃない?

今は日本ではって言うと。


「早速やろうじゃないか、男の、女の関係無くなるからなあ。戦うのにっ」


言うが早いか全身青銅色の鎧の中でジョシフォーヌがぺろりと舌なめずりをした感じがして、その青銅の西洋騎士風の鎧が見た目より速く動き出す。


一瞬で目の前に距離を詰められて、斜め上に振り上げた剣の白刃がみるまに赤く炎を巻いて輝くのが見えた。


魔法剣──なるほどね。


「おれの一撃を受けても、男だ女だ、言ってられるかーっ?」


「──むんっ」


「なんだとっ」


「魔導双剣……ふむ、こんなものか?」


そうなのよね、見切ってみての感想を言うと大仰な呼び名だけど、言ってみればちょっとマシになった魔法剣。


魔導双剣って最初に種明かししてくれてたわけだし、手品ほども驚けない。


ああ、双剣だから魔法剣よりは良いものなのかもね、それでも一撃必殺のと言うレベルに仕上がってるわけでなし、わたしに通用するしないの前に……何でもないと言えばわかるかしら。

今、身に纏っている宵闇のマントの特殊効果は魔法を喰う。

吸収してわたしの魔力にしてくれるのよ。


だから、直接魔法をぶつけるような戦うとか魔導士タイプにはそれだけで倒せる道理が無いと。

相性が悪かった、そう言うこと。


修練の門って、ゲームに置き換えたら何て言えば……そうそう、変則的な闘技場じゃない。

魔法で一撃、より技の限りをぶつけ合って戦いたいじゃない。


不粋なのよ、全力で腕を、持てる技を奮っても恨まれたりしないなんてそうそうない機会なんだから蹴って、踏みつけ、踏みにじり、そういう達成感を全身で感じたいじゃない。


わたしの持論だけれど、強さを究めようとしてるなら、そういった感性を修練の門を守ってる番人たちも心の奥にどこかしら持っているはず。


用は、わたしは纏っていたマントを翻して真横に一歩距離を取った。

宵闇のマントは役割を果たした、ジョシフォーヌの振り下ろした剣に巻き付くように帯びていたオーラのような炎は何事もなかったようにただの金属で出来た元の剣に戻っていた。


マントは意思を持っているように剣に向かっていった、そんなようにわたしの瞳に映る。


いやぁ、主人(わたし)を忠実に守るだなんて良くできた下僕(マント)よね。





「……うん、こんなもんだな。門の鍵だ、先へどうぞ。お前の実力はわかったから」


「いいのか……?」


ガントレットの隙間からチャリっと軽く音をたてて出てきたのは次の門の鍵。


ジョシフォーヌはもう一方の掌の上に落ちてきた鍵を受け止めると。

それをノーモーションでジョシフォーヌは、フルフェイスに囲まれているわたしの顔目掛けて一息に投げつける。


当たり所が悪かったら痛いんじゃないの、と思ったけど今わたし、頭すっぽり真っ黒いフルフェイスに包まれてるんだった──当たっても大したことなかったか。


投げつけられた鍵を右手で顔を庇うように受け止め、一応睨んでおく。

見えない、気付かれないんだけどね。

ジョシフォーヌに。


「ふっ、……そりゃなあ。今のおれが、……ちょっと頑張ったところで、実力を出しきって無い敵相手に、実力を出しきった思いの丈を乗せた一撃を崩されてちゃ、どうやってもかなわないだろう? 悔しいくないかって、クスっ。………………悔しいぃ……」


青銅色の全身鎧の奥から取り繕ったような小さな笑い声が聞こえて。


握った両の剣を床にぐっと突き立てて、くらりとジョシフォーヌが揺らぐと突き立てた右手に握っていた剣を支えに、そのまま跪いて小さな小さな呻くような声が。

くぅぅぅ、だなんて可愛らしいとこもあるじゃない。


心底、悔しそうなジョシフォーヌのしゃくりあげるような、水音まじりの泣き言をいう声が聞こえてきた。


あっさり全身鎧の乙女ちゃん、ジョシフォーヌが片付いちゃったから。

ダイジェストで最初の一撃を躱したあとの事をわたしなりな説明で解説を交えて。


振り下ろしたジョシフォーヌは手応えの無さに瞬間固まったから、わたしは予めかけておいた腕力強化魔法で上乗せされた正拳一閃。


ジョシフォーヌが不味かったのは、固まってしまったことよね、もし予想外な事が目の前で起きたとしても敵がいるんだから目線を敵から離してはダメ。


わたしだったらそうね、まず後ろに飛んで避けるか、逆に敵の間合いに飛び込むわね。


躱された後にカウンターが無いなんて有り得ないもの。

一般的にノルンのゲーム上ではレベルが同等なら苦もなく狩りをする事が出来るんだけど、レベルが同等でも低くてもやり返して来ないという事は無いもの。

一撃で終わらせれば話は別だけど。


更にレベルが高い敵なら死に戻りを繰り返す必要だって出てくる、アクティブなモンスターならそれでなくても複数からロックされて一度にお相手したげないといけないのに。

ダメが通らなかったり、攻撃その物も出来なかったりする。


そんな激戦の経験が生きている。

モンスターの行動と目の前の敵の行動とは違うもの?

違うでしょ、それは。

だけど、違って無い部分もある。

わたしを踏みにじろうとその隙を窺っているところはモンスターも人だって変わらない。

ゲームで経験したことから覚えている事だ。


そしてもう1つ、わたしの隙を突こうとすれば──そこに隙がどうやっても生まれるってコト!


わたしの放ったぐーぱんちは見事にジョシフォーヌの腹部を捉えた。

抉るように突き刺さり、鎧を貫きはしなかったけどこぶし大に変形して、着ていた鎧もメリッと歪むくらいに。


ノーガードで固まった獲物は、大きな隙を生む……まぁこうなる運命(さだめ)だったのよ。


ジョシフォーヌは痛いはずのを堪えて、わたしを狙って真横に剣を線引くみたいに振り抜く。


堪える元気があるなら考えて、感じて切り込んでくればいいのに。


実力差を感じたなら、まずは距離を取って様子を見るものでしょう?

本能だって働かせないと勿体無いわよ。


また一つ覚えみたいに魔法を剣の刃に帯びさせてたのね、宵闇のマントがそれに反応してゾ……って動いた。


それを見て弧を描いてわたしは後ろの空間に跳ぶ。


で、また距離を詰めたジョシフォーヌは取り乱して火が着いたみたいに何度も剣を振り上げ、振り下ろす。

それだけの作業をするオモチャみたいになっちゃった。

気合いを込めてるのか、よく解らない意味の無い言葉の羅列を叫びながら。


うーん……不完全燃焼。


その間、わたしは。

さっさと鍵出してよー、とか。

しつこいな、もう、とか。

そんな目の前で気違い染みたオモチャ紛いのジョシフォーヌを見ながら、わたしの中では終わって消化試合でもしてる気分でいたんだった。


ジョシフォーヌが縦に切り込んでくるなら身を捻って躱し、一歩踏み込んで重い一撃を狙ってくるなら真横に一歩跳んで躱し、首を振って袈裟斬り気味に下りてくる白刃を躱し……、まあ見切ってしまってわたしが躱して、躱し捲ってるだけで──ジョシフォーヌは伸びちゃった、つまんない……。


ハァハァと息切れをするジョシフォーヌに目を落としながら、ザコだったなぁ、と思って心の内で嘲笑っていると。


がちゃりと金属同士がぶつかるようなそんな音がして、俯いてた青銅色の全身鎧のヘルムが持ち上がり、バイザーの奥から恨みがましく呪っているかのような暗いオーラを帯びた、わたしを睨みつけてくる視線を感じて。


うっ、と声にならない気迫に()されて一歩下がる。


恨まれてるの、それとも呪詛でも唱えられてる?



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