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認めたくないけど……痛い子


「ち、……まいったまいったよ。降参だ、さっさと門の先へ行きやがれ」


「雑魚め」


まず最初に奇襲気味の一撃で浮かして吠え面を晒している男を吹っ飛ばし、このワクワクをぶつけようと両腕から繰り出すラッシュ、ラッシュで千回は殴った……つもりだったのにねー。


半殺しの、ミンチ肉になってなきゃいけない一人目の、名前もよく考えたら知らない番人はそれだけ言うとけろりとした表情で鍵を寄越して。

何事も無かった、そう装うようにどっかりと足元に座り込む。


一人目だからこんなものかと思う反面、手応えがあんまりにも無かったから、逆にフラストレーションが溜まってくみたいに感じてあまり良い気はしない。


座り込む男の上目遣いの視線にわざと視線をぶつける。

ゴミでも見る気分で睨みつける。

ああ、でも外から中が見えないから。

この目の前の男は何とも思わないのか、見えないからこそ不気味に映る、というのはあるでしょうけどねぇ。


「充分実力は見れたからな、相性も良くなかった。ってよお、言い訳をたっぷりしていたいとこだが、良いや……さっさといけよ」


「ふん……通らせて貰う」


男の言葉に引っ掛かりを覚えながらも何が気になったかと、伸ばした一差し指を顎に乗せてうーんと静かに唸ってみる。

男の脇を通り過ぎようとしてわたしは見逃しはしなかった。

そう言った男の額や頬に見付けた一筋の汗。


今のけろりとした表情は強がりからなのか。

それとも……表情があまり変わらないタイプだったりしたりする?


実は今、ドキドキ、バクバク心臓を忙しなく跳ねさせてるのかも知れないわね?


早く通れ、どっかいけよって言うのもそれなら納得、うん。


つまり。

わたしの、黒翼の凄さにビビったな☆

ほんと些細な事よね、無駄に考えて悩む必要なんてあるのかしら……?


えー……っと、相性。

今どうしてそれが関係あったのか………………。


まあ──いいわ。

軽く頭を左右に振ってから気持ちを整理したら早速、次の門へ。


それでも金属製の門に手をかけながら、なんと無くモヤモヤする頭でふと思う。


『あいつ、名前なんてゆーのかしら?』


まぁいいんだけど。

名乗る風でも無かったし、わたしも名乗らなかったし?

聞いた訳でも、聞かれた訳でも無いからあいつが名前を名乗る訳もわたしが名乗る義務も無い──当然って言えばそれまで、としか言いようも無いか、うん、気にしない気にしない。


気持ちを切り替えた。

ギイイと重い音をたてる門の扉を押し。

中を覗いて……それまでの胸が弾むように期待してたワクワク感が裏切られ、どこかへ行ってしょぼんと瞳が細まるのを感じた。





「これは……」


飾り気の無い金属で出来た門を掌で触って押す。

力を込めて。

重い金属同士が擦れるような音がしてゆっくり開いていく門の向こうには、


「肩透かし……か……」


通路があった。

何のへんてつもない、城の内部のような青い煉瓦を積み上げて組んだ両側の壁。

両手を広げたらきっと両方の指先くらいは届いてしまう、そんな範囲くらいしか無いのに全身鎧を飾ってたり、交差して重なった斧が引っ掛けられるように飾られてたり。

らしいと言えばらしいと取れるけど、それならもう少しくらい通路を広げたらよかったんじゃない。


踏みつけて歩く足元からはコンクリートのような、それでいて一枚のひどく大きく切り出された石のような、そんな感じがした。


魔法が進んだ世界。

どんな巨大な一枚岩なんかも方法さえ確立してれば簡単に作れるから、わたしの中の常識なんか通用しないじゃないかって思った。

人の手でこんな大きく凹凸の無い石を切り出すことは出来ない、それが常識。

だけど、……魔法で作った、作ると言うことならそれは話は別。


わたしだって、別装備に嵌め込んだマナの中には石を地中から動かして的となるものにぶつける事が出来る岩塊鎚ストーン・ブラストを持ってるもの。


少しガッカリ気分が芽生えた頭を軽く振ってから扉を開いて踏み出し、次の門までの道をそんな事を思いながら何事もなく歩きたどり着いた、また金属で出来てるぽい外見した門扉。ぽい、と言ったのは感じこそ金属なんだけど実際押し開くと、何ていうのかしら。

この、見た目倒しの軽さ。


何よコレ、片手でも楽に開いちゃう。

重量が見た目と余りにも違うことに気づくみたいな。

どうも金属板を張り合わせた系の、いざとなった時の防御力と言うと心許ない、そんな出来の門が目の前にはある。

思わず目を細めてノックして中を確認してしまう。

……ああ、完全に中身は木だ、コレ。


さっきと同じ、扉をぐいと押し。

一思いに開いて、中へ。


「期待したのn……だがな」


一歩踏み込んで思わず声がこぼれてしまった、とそう言うワケだった。

キャラ立てをした言葉遣いを思わず忘れちゃうくらいに。


すぐに思わず口走りそうになった『に』の声をぐっと喉の奥に咥内の水分と一緒に飲み込んで、キャラは通せたと思う。

わかってたことだけど。

人知れず、自分の持ってるカラーじゃないキャラを演じると言うのは意外と難しい、うん。


そう、練習テイクもない、やり直しをする事さえも出来ない、そんなぶっつけ本番の演技を続けるのは。

意味もないのに、詐欺師って言うのはこんなのを四六時中やってるんだよね、お疲れ様です、と胸の内で愚痴ってしまったり。





さっきのステージというか、エリアと言うか。

少しは凝った作りをしてたんだけど。


また凝った作りをしていて裂け目の上をロープが張り巡らしていてその上で戦うとか、そう言うのイメージしていたりなワケなのだけど。


「よーこそ、我がステージへ。おれは……。こいつが得物でなあ。だから、魔導双剣のジョシフォーヌと呼ばれている」


残念な気持ち、というか。

なんだろ、このガッカリ感は。

ただただダダッ広いだけの空間が次のステージな様なのよ。


その広くて広いだけの白壁と地面も石畳でしかない空間にただ一人。


番人と思われる、つまり次の相手であり、わたしがバトルを楽しむ……黒翼の勇名を高める為の踏み台となる何者かが立っていた。

金属で包まれたその手には対の細身の剣を構えて。


聞いてないのに自己紹介をしてきたかと思えば、握った双剣を胸の前で交差させて『ふはは!』と笑って見せるジョシフォーヌと名乗った全身鎧。

どーでもいいけど、自己主張が強い奴……って、ああ──完全にわたしも同類だったわね……。


他人の振り見て我が身を正せ、だったかしら……そんな(ことわざ)みたいな、もう何年前に習った言葉かも分からないようなうろ覚えの言葉が頭を過っていった。

思わず、頭が重くなる。

そんな気がした。

長い睫毛が下を向く。

い、いや。無理。

気付いてしまったら直視出来ない。




そ、そーか……そーよね。

他人からはわたしはそう思われててもおかしくないってコトね。


こうなんだ……認めたくないけど他人の瞳から見えているわたしという存在は。

凛子や愛那も、それにヘクトル……今のわたしが抱いた感情でわたしをその瞳に映してたんだとしたら、嫌だなー……。


『思いっきり、痛いコじゃないっ』






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