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スケープゴート、それにしては余りある

「さぁ、ショーを始めようっ!」


前蹴り一発。

ドォッン!と言う破壊音と共に駆け抜けていく。


今、わたしは疾風が通り過ぎていくかのように速く、全身を包む風がバリアを巻いているかのように何物をも寄せ付けない。


強引に蹴り開けた門を翔ぶ様に駆けてくぐり抜けながら、気合いを込めて吐き出したその言葉はまるで最初からわたしの声がそうだったかのように、意図通りに再生されて耳に届く、低くて渋い男の声。


思わず聞き惚れて恍惚(うっとり)としてしまいそうになる。実際、ゲームの時にこのきりっとしていてお腹の奥にまで響いてじんわり染み込むような声を聞いて一人悶々(ううう……っ)としてしまう事もあった。

自分の声なんだけど、そうじゃなくて、違う──フルフェイスが変換して産み出した声。


暗黒フルフェイス、魔粧鎧・ポルケヴデットに宵闇のマント。

身に付けているのは、どれも極レアづくしの黒ずくめの外見で決めた今のわたしは──笹茶屋京でも、全然気に入るコトは出来ない……かなり一人歩きした悪名・『性悪エルフ』のシェリルでもない──今は、ただ唯一の黒翼。


性悪エルフ・シェリルの噂が大きくなりすぎてたから、必要になって産み落とされたスケープゴートでしかなかったんだけど──

これがピンクとかオレンジとかなら心がポッキリ折れてた……恥辱の極みだよ、そんなの。

裸を見られる方がまだ恥ずかしさって言うとまだマシ。

人生の早い段階で少女趣味とは無縁な子にそだってしまったせいも大きいし、何よりわたしのカラーと違うと思わない?


グラクロが、わたしの姿をしたドラゴンにピンクのドレスを貸した時だって面白そさと恥ずかしさがごちゃまぜになった気分で着替える姿を目で追っていた。

怖いものみたさって言うと違う。

失神してもおかしくないくらいあの時は胸の鼓動が速くなってて、込み上げてくる思いを押し止めてやっと見てられたくらいで。


もしかしたら、……ムリヤリ襲われるとかよりずっとずっと嫌だったかも知れない。


それはおいおい考えるとして──黒翼という存在を演じる、演技すること。

最近は割とこれもこれで悪くないかなって。

そう思えちゃうのは、クマーことアスミの戯れ言をヒーロー観をあーだこーだと散々聞かされちゃったからなのか、うう。


こんなのは柄でも無いみたいな──ホント柄じゃない、言ってみたら重みでしかないんだけど?


どちらかってゆーと、むしろ愛されるべき悪の大幹部とかそっちの方が憧れるし、ヒーローよりかそっちの方がわたしのキャラだと思うんだけど。

そっち側のが好みだし、自分分析でも性分じゃないなぁって思う。


属性でいえば、ヒーローは光りとかでしょう。

わたしの属性はそんなんじゃなくって、どうも光って感じよりは闇。


心の一番深いとこから抜け出せなくなって──居心地がいい訳でもないのに、良いように思い込んでそこに、何も、考えずに嵌まり込んでふさぎ込んでた時期だってあって。


例えば、わたしがわたしの底を覗き込んだって解る、わたしが抱える闇は深い──温かい光は眩しすぎる、今は。

それを避けたいって訳じゃない……願わくは表に堂々と立って、降り注ぐ様な光を浴びてそれだけで気持ちよく思えてた頃に還りたい。

頑張ってたい。

折角、自由な心があるんだもの。




最大級の譲歩で、外見には手元にあるアイテムの中から闇、漆黒って属性に拘った、拘ってみた。


明るいカラーだったら身につけるだけで気分が明るくなる?それだけで気持ちが豊かになる?

そんなの、詭弁過ぎる。

堕ちた人間はそんな目に付く色を身に付けたくない、嫌か、って言うと違う。

ううん、恥ずかしいって言えばいいかな。


堕ちた事も無い人には分からない、分かって貰う必要もないけど。

不特定多数の他人の目に付くそれだけで恐怖だもの、喉を鳴らしてトラウマが近寄って来そうで。


だから何もかもが怖くなってしまったんだし………………。

救って欲しいと誰にでもすがり付いて、どうにも為らなかった。

神にも。


──答えは簡単なとこにあったのに、きっとね。

とても簡単で、でも……とても危険な。




黒光りするフルフェイスの中は、どんなに覗き込んでもそこに見えるのは、闇より更にずっとずっと暗い漆黒。


全身を包む鎧は生物のように、そのものが生きているように息づく。

身に付けて初めてその脈動を感じることが出来るのだもの、わたしの鼓動と鎧の脈動が別々に響いて、さっきまでいたわたしはどっかに綺麗さっぱり消えてしまう。

ワクワクしてる、ドキドキしてる。

少なくても今、この瞬間は。


ばさりと翻る宵闇のマントを纏い、わたし颯爽と登場っ!

あははは、あっははははははーっ!








「先に言っておく。死んでもな────っ」


城の様に大きく、塔の様に高く積み上がった煉瓦の壁の一角から浮き出た門を押し開けた中に入れば、そこには大きく暗い穴が口をあけていて、その奥底には揺らめく炎の灯りに浮き出るようにぼおっと番人的なキャラが一人。


まぁ、当然ね。


しかし、今のわたしは気分がいい、全身の全て──魂の一欠片にしても勝負を求めている様に感じる、そんな気分。

強い高揚感。

わたしの端から端まで行き渡っている、血管の一本一本にまで熱を帯びた。


くぅううーーーっ……たぎってきたぁあああーっっあっ!


熱く灼ける心地でギュッと掌を握る。

これが血がたぎって来たって言うアレか〜。

いつもより興奮してる。


ダンゼは言ったわよね。

この場所には、このサーゲートという国の一番強い猛者が集まるって。


そう、だから少しくらいの気分を害したってだけで、この跳ねる様な期待は変わったりはしないのよっ。


強いやつを求めてるんだっ、強い奴、出て来なさいよっ。

そして、わたしを満足させてみなさいっ!


「はぁああっ! まどろっこしいのは苦手でな、悪いが──その門の先へ通して貰うぞっ」


暗黒フルフェイスを通してわたしの高い、少女っぽい声が渋い大人の男っぽい声に変わって。

それに合わせて、自然と男の使うような言葉遣いになっているわたしが居る。


思わずジャンプしたり小躍りしちゃいそうになる──これ楽しい。


この機能はゲーム時と変わってない。

アイテム説明には何て書いてあったかしらね?


渋い声に少女ちっくな言葉遣いってどうしてもミスマッチな気がして。


…………いやいやいや、どう言い繕った所でわたしが別人格を、キャラ作りをするのが好きだと言う事は隠しようがないと思うのだけれど。


黒翼はこうであって欲しい、こう言う喋り方をして、そう言う行動を取るのが黒翼だと──わたしは線引きをした。


自己選択式人格。

簡単に言うとなんちゃって多重人格、砕けた言い方ならなんてことは無い──ただのキャラ設定。

自分で作ったキャラに、正体さえバレ無いで性悪エルフよりも目立って噂が書き消えたらいいだけなんだからそれは黒翼に必要も無いのに自分で課したある意味、縛りプレイでの自分ルール。




身代わり──そう、それだけのつもりだったのにそれが今では愛着が出てきてこれ、……黒翼もわたしの一部になってしまっているわけで。

割りきれない弱い女よね、つくづく嫌になる。


わたしは──強くなったつもりだった、物理的には強くなれた。

少なくてもこっちに居れば。

でも心は、……こんなに簡単に揺れて……、脆い。





暖かくなってきました。

ぼちぼち、ぽちぽちと書いてこうとか。

心を入れ換えようとか。

思ってたのになんか、中味が重く……アレ? こんな話だった……っけ?

みたいな。


当初とは別物に脱線していこうと、


それは後で考えるとして


の一言で全回避☆


使い勝手のいいフレーズですねー、て寝よう。

ではではー

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