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ちっぱいの中に詰まっているのは溢れる正義とステータスです!まだ成長の余地があるんです!



きっと上から降りてくるわたしを見定めようと近づいてきていたんだ。

わたしの全身を舐めるように観察している不機嫌そうな男の、品定めでもしているみたいに細めた視線と、ビックリしているわたしの目を見開いた視線がぶつかった。


目の前の男的には、『ン、なんだコイツ。なんで固まってんの?』とか思ってたりして?

男の細めた瞳が更に細く絞られてく。

いや、それはわたしが思っただけなんだけどね。


見えていたのが青白い顔だけだったのが、暗がりに瞳が慣れてきた。

男の全体像が見えてきた。

まだ色は鉄だか銀だかはっきりしないけど、金属製の胸当てをしていて、同じ様な金属製の籠手を嵌めている。


その内右手は顎に添えられてて、人差し指が左頬、親指は右頬を押し上げて頬肉が少ーし盛り上がって見えた。


ぐるぐると頭に巻いた布から茶色のボサボサの髪があちこち飛び出していたりはするけど、顔のパーツはそこそこだなと思う。

ヤンチャ顔というか、クラスの女子が騒いでいた先輩で空手部のキャプテンがこんな感じな顔をしてたっけ。


具体的にいうと、切れ長の瞳で長そうな睫毛。

ちょっと高めの鼻筋の通った真ん中のライン。

今はへの字に曲がってるけど、笑えば可愛いかも知れない薄い唇。

頬骨は張ってなくて程好く痩けた頬。

馬面でも卵型ほど丸くないいわゆる普通な楕円状の顔。


と、何ですか?

どーしてわたしは今から戦う相手にトキメキを感じてるんですか?

男らしさを感じるいい顔ではあるけども、だけどさ。

顔下半分にぷつぷつと生えた不精髭と手入れしてないぽいふっとい眉毛がいい顔を台無しにしてる。

いや──今はそうじゃない、そうじゃないでしょ、敵の顔を褒めあげてどーする。

首から下が重要でしょ?

瞳に見える範囲ではしっかりと筋肉が付いてて触ると固そうかな。

こんなトコにいるくらいだから、王子さま体形じゃなくやっぱり鍛えて絞り上げた体って感じ。

ほら、陸上競技の選手とか、アスリートって感じの。

痩せてはいるんだけど、実質むっきむきで動きはとても俊敏そうかも。


それはひとまず、どうでもいい。

鼻先、とは言わないけど……ホントに近い。

距離が。

わたしの顔と男の顔が。


『ドキン』胸が鳴った。


降りて来てる間、わたし覗かれてた?


いやまあ、穿いてるスカートの中身が見えたからって……ンンンン、やっぱりそれはダメでしょう、人としてっ。

感情は昂るのに声にならない、からだがブルッて震えてるのがわかる。

これはドキンとかトキメキじゃない。

ああ、ビビッてるんだ──変質者的な意味でぴんち。


「あー!……つってもなあ、胸も無いのか。よく見るとニンゲンだしなー。やれやれだな、……ホントに。なんで、お前みたいのがこんなとこに来てんだよ……」


「む、胸あるもんっ」


な、なんて言いました?

胸が無い?……、人が気にしてる事をまっさきにペラペラとっ。

コイツ、声も良く良く聞いたらイケボだ。


なのになのに中身が伴ってないとゆーか、今の今まで出会った男とか女とかその垣根を越えて人という枠の中で最低……。

京ちゃんとゆー、変態はいるけど恐怖は感じてもこんなあからさまな不快感を感じる事は無かった。


あからさまにガッカリした顔で視線を外す男に恥ずかしいのも忘れて、顔を真っ赤にして食って掛かるわたし。


まず、戦いをする今の状況でね?

胸、関係ないでしょ。

一つも。


ビビッてるのもどこかへ吹っ飛ぶ、全身が煮え立つような体の奥底から沸き上がる怒りの感情がビビリに勝った瞬間だった。


ふつふつと怒りが込み上げてきてカァーっと顔が熱を帯びていくのに気付く。

血がたぎる、というのはこんな感じでOK?


「見ても興奮しねぇ胸をあるとは言わねーんだっつーの。なんか、お前程度相手にしてもよ、本気になんねえ……どーしたもんかなーっ、こう沸き立つ色香つーの? そーゆーのが、かんじられねーんだよなあー、──ふんっ!」


条件反射で言い返したわたしの言葉に、更に追い討ちをかけてくる芸能人みたいな良く通る低いトーンの、聞き取りづらくない、最低なイケボ。


……、興奮しない胸。

それは胸があるとは言わない?

呆然とした。

わたしの瞳はみるみる内に色を失っていったかも知んない。

漫画でもドラマとかでもあるじゃん……、酷い事を言われて呆然としちゃってそれ以外もう耳に届かないと言うか……、『胸があるとは言えない』が脳内リフレイン。


わたし、女の子だよ?

そんな、ね。

胸が大事な武器の一つの、女の子によりによってそれはなんて酷で、底が見えない深淵に突き落とされたような極悪な言葉。


ダメだ。

わたし、もう。

どうして、一瞬でもこんなクズで最低な男にトキメいちゃったんだ、わたしは。

男はやっぱり顔じゃないな、顔もそこそこ大事よ、大事だけど──脳みそまで筋肉で、重度なおっぱい星人だとなあ……。

一発コイツ、殴ることに決めた───


「むっ、胸が小さいと、わたしはっ、女のコには! 存在価値は無いのかーっ!」


わたし、血が浮くほど握りしめた拳で目の前にある顔を殴り付けた……はずだった。

かなり、近かったからイメージとしては当たる、絶対確実殴ったはず。

なのに。


わたしは決意の一撃、それはヒットせずヒュッて後ろに跳んで、男は躱した。

男の飛んだ先を目で追うと側面の壁の補強用の木に、ぶら下がる猿みたいに手を掛けているのが見えた。


「緋い髪したニンゲンの女かー。ふつーなあ、そのレア感だけで想像が湧いて湧いて湧き上がって、あれもしようこれもやりたい、めちゃくちゃにしたいっ! つって想像だけで体の芯から燃えるように興奮させんだけどな。……はぁ、そもそもそんなぺたんこの無い乳じゃなあ……」


「う、うるさいっ! 無くないもん、あるしっ。ぺたんこじゃないもん、あるもん! ちゃんとっ!」


木につかまりながらも、男の凝視してくるじめっとした視線はあいも変わらず胸に刺さってくる。

痛いはずも無いのに不思議とキリキリ痛み始めるような気になってくるほど。


「そんなの、お前が、あんたがあっ! おっぱい星人だからだろー。それはわたしのせいにしてほ・し・く・な・い。切実に」


「えー……?」


わたしの上げた抗議の声に、よりじっとりと男の視線が全身に刺さる。

冷たい視線という、存在はしないけど綺麗に研がれたナイフみたいな鋭利な刃物で切り裂きにかかる。

まるで、……『見当たらないなぁ』と、言われてるみたいで、わたしの事をバカにしてるみたいな声に感じてわたしの耳に届く。


「一発、殴るっ」


それにイラッとしたかどうかは知んない。

ただ、掌を握り込んで。

固く、堅く。



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