あれっ? わたしどうしてこんなことで楽しいんだろ。嬉しいんだろ? わかんないや
ヘクトル一人にしても、だってわたしは打ち込ませて貰うことが今のところ出来てない。
スキが無い。
はじめから終わりまでひらりひらり躱される。
それで、ダメなとこを指摘されるわけ。
先生でも無いのに偉そうなんだ。
だけど、見ていて身になってる気がする。
「たち? 一人じゃないんですか。……どおりで、なるほど。決まりきった型じゃあないもんね、待ちの姿勢は長ーいですけどっ」
「うん。二人、いやーぁ。三人かな。みっちり二人に仕込まれて。もう一人は暇潰しに戦いかたって言うかー、さばきかたって言うのかな? それを教えてくれたんだー、そいつの口癖がこうなの。『まず逃げろ、無理すんな』って、さ」
「その考え方は新しいですねっ、まず逃げろとはここでは教えてませんよ。危険を取り除かなければ明日は無いって教わりますからねっ」
「ふーん、でもそれってさ。勝てる敵にならそれでいんだけど、とか。強い敵には負けちゃって、死んじゃったり、痛ーい思いしちゃったり……逆に危険を生んでる気がしないでもないかなー、わたしとしましては」
ササミンゴくんは知らない、知らなくて当然なんだけどわたしはもう何度も死を感じとる場面に直面してたりなのだ。
来たばかりで遭遇したカルガインの襲撃。
初めて一人で行ったダンジョン(by・マトーヤの洞窟()で、グランジに猛突進を受けた時。
ニクスの街(国?)に向かう水中で襲ってきた、不気味に牙が生えててそればかり覚えてる巨大魚・ペリディム。
黒錬洞っていう洞窟の奥には龍神様を祀る祭壇で、代わりにふんぞり返ってた、京ちゃんとヘクトルの攻撃が利いてないみたいに堅くて手応えなくってぴんちな状況になったワーム、なんてのも居たっけ。
鉱山の人が困ってるって聞いて竜退治を手伝いに行ったら行ったで、圧倒的な大きさ(鉱山全体より大っきいの!)とパワー(鉱山におっきな穴開けて、その先の山の半分を吹っ飛ばしちゃう!)で一瞬頭真っ白になるくらい『これがドラゴンだ』って見せ付けて自信もやる気も刈り取ったグラクロ。(by・ぐーちゃん)
山の中で居もしない竜調査に行った、イライザ達を強襲したオークの群れをどうにかする為に(ほっておくと近くの村が餌場にされちゃう……)応援にいったら襲ってくるオークの数にまず死を感じて、次にオークとは大きさとパワーが段違いなオークキング。
村を出てからも、デュンケリオンに向かいながら某便利屋みたいに悪党へち倒しながら進んでたら、セレンってそこそこな大きさな町の近く、森の中じゃ京ちゃんとアスミさんとはぐれちゃって色んなのから追われちゃって生きた心地しなかったり、ここまでの旅色々イロイロ、ほんっとに色々あったんだよね……。
モンスターじゃないとこじゃ、京ちゃんとかゴロツキとか割としょっちゅう違う意味でぴんちになってるけども。
あはは……、よくよく思い出すと京ちゃんとかヘクトルとか助けてくれる誰かが居ないとわたしは。
結構あっさり死んでたんじゃないだろーか、うん。
だろーか、じゃなくて本気で五体満足じゃ済んでないと簡単に思えちゃって改めてササミンゴくんの顔を見詰めながらもその後ろに京ちゃんを思い浮かべて感謝する。
いつも、ホントにありがとう。
本気でお礼言うね、こんな役立たずなわたしの前に立って助けてくれる京ちゃんはうまく言い表せられないけど、だから……、感謝してます。
でも、………………それでも貞操の危機となったらそれは京ちゃんに瞬間的に恐怖を感じるのでそこはお願いですから、勘弁してあげてください。
わたしは、割とノーマルだと、普通な女の子で居たいと何かある度に思ってるんだよね、そう、うん。
感謝する、感謝してます、でもね、その一線は越えたくないとゆーか、越えちゃったらわたしは何か今のわたしに申し訳ないとゆーか、ね?
ダメだ、ダメ。
京ちゃんに感謝をしようとすると、嫣然と微笑んでる恐怖の対象といつの間にか擂り変わっちゃってる。
普段の京ちゃんの行動をいかにわたしは、わたしの内で恐怖に感じてるかって再確認しちゃうだけなんだよなあー。
──あれ? 話が斜め上に脱線しちゃってない?
……えーと、──そう。
今までいかにわたしは『死』を感じていたかって思い出してたんだっけ。
ササミンゴくんの話の中で『逃げるな、戦え』って思える的な教えが出てきたから、そうだ。
だから、逃げないで戦えなんて……あの感覚を知っていたら、ちょっと額を抑えて考えてしまうなー。
死の匂いが漂っててむせかえる様な気分と同時に、全身に縄でも巻き付いたみたいに捕食者に対して身動きできなくなったり、震えが止まらなくなって普段と同じように動くことが出来ない、あの感覚。
リセットボタンなんてありはしないんだから、ね……。
「出来ないと思うな、出来る自分を常に頭に思い描いて感じろ、行動しろ。と、こう言ってシゴかれます、ふふっ」
「出来ないと思うなって……キツいね」
「キツい……、よ、でも。だから、新しい事を一つ覚えて強くなって、またその先に目標が出来るんです。そこには、出来ない僕じゃない僕が見えてるから」
「うはー。長い、話だね。でもそれ、いい目標だと思う。出来ないわたしじゃないわたしかぁー……」
この子達を指導してる教師的のが誰かなんてわたしが知りはしないけど、とんでもない論点で言葉で子供たちの精神に理論武装させてるんだなー。
出来ない自分じゃない自分を思い描いて……そこを目指して頑張れって、それって結構ハードな、高いハードルじゃあ無いですかっ?
どうしてもどこか遠くを見詰めてしまう。
隣で熱を込めて話してくれてるササミンゴくんの後ろに。
「そうですっ。どんどん目標が大きくなっていくのが、その目標を乗り越えなきゃって頑張るのがとってもとってもとっても大変だけど、その先にはなりたい、なりたかった自分がいると思えるようになったから続けられてるんですよっ。
どんなに、キツい思いをしたとしても」
「男の子っていいな。そこまで(精神的に)強くなれないよ?」
うわ、それをキラキラさせる清みきった瞳を見せられながら言われると、こう……、心の奥に響き渡るものがあると言うか、この……。
言い表せないけど、ありがとうっ!
ぎゅっと掌を握って心で泣いた、感動。
どうしてかよく分からない感情。
「(肉体的に)強くなれないことないよ、男の、女のって区切りは(衛士には)無いんですよ…………って、それはわかってるからここに来てるわけなのか、ごめん」
「んーん、今のとこで何もササミンゴくんが謝るとこ無かったよ? 気にしないで、いいと思う」
その一連の会話の内容が、叩き込まれた剣の型だったり、体重移動させて上手く攻撃を躱してる事を誉められる、とゆーお喋りだったとしても……、ね。
一部を除いて、始終ニヤケ顔で緩みまくったわたしが横に自然に座ってきたササミンゴくんと、戦い方の話をしていたらいつの間にか、精神論の方に向かって斜めに脱線してお喋りしてると突然、扉がドンって開いた。
それによって訓練場全体の空気が一気に一変しちゃう。
───なになに?
今、ちょっとだけ楽しかったんだけど、ホントちょっとだけだよ……ショタなんかじゃないんだよ、ホントだよ?
扉が開いてそこに立ってたのは昨日、帰る前にステージの上でラストに戦った子だった……子、ってゆーか背はわたしと同じか高いくらい、ちょっと。
ここの子達のリーダーか、ボスって感じ。
そんな風格の男の子。
勿論、ケモ耳。
ササミンゴくんよりか年上でわたしよりも(?)年上かも知れない。
そんな彼が慌てたような怯えたような表情で、開いた門に手を掛けたまま叫んだ。
──回想をブッた斬る。
で、わたしは扉を開け放った男の子の叫んだ言葉を脳内リフレインさせながら、頭をがじがじ掻いたりなんかして修練の門へと続く、磨り減った石畳の上をひょこひょこ歩いてるわけなんだけど正直、前に進むため持ち上げる足は重いわけで。
何でかって? 脳内リフレインさせてる言葉だよね、それは。
『黒翼って奴がっ、修練の門を全員倒す勢いで連戦してるぞっ! 黒翼なんて聞いた事も無い黒ずくめのよそ者が、もう五人も抜いたってよっ』




