そんなこんなで門に再挑戦……することになったんだけど……
やっあっと!
修練の門だー!!
少々雑に敷き詰められた横幅一人分くらいの、石畳の上をひょこひょこ歩く。
石畳はよく見るとかなり踏み均されてて磨り減ってる。
当然だよね、ナビの子達だってこの上を歩いて通うんだろうし。
わたしは今、修練の門に向かって余り乗り気になれずに足を動かしてるワケ。
やっとの修練の門。
……うん、そのはずなんだけど。
嬉しいはずなんだけど。
どーも心の内のわたしはそう喜んでもいないっぽいの。
まぁ、理由があるからなんだよ、ね。
その理由がなんでかってゆーとねー?
昨日は修練の門には早いからって、巨人ってくらいの背の高い門番?に連れてこられた、ナビ・コースってエリアフィールドで小さい子達の相手をひたすらしたわけだけど今日、そのめっためったにやっつけた子供達のとこへ顔を出したら、
「おっはよー。さあ、今日は誰が相手してくれるの? ……かもん、かもんっ! って、あれー───……掛かってきてよーっ」
「……あんたにここで勝てる奴居ないんだって皆わかったし、誰もやんないと思うぜっ」
「そうそう。まっさか、オディナルドをやっつけるなんて。なー?」
「トッジ、フローブ、言い過ぎ。ま、……オディナルドさんがあんな感じで倒されちゃったのを見ちゃうと、勝ち目が無いって言うのもわかるけど……」
って具合に。
このナビ・コースの子供達の中じゃ強敵認定受けちゃったらしくって。
わたし、張り切って俺tueeeeeeeし過ぎちゃった、のかなー?
遠目にわたしを白い眼で見てる子達ばかりで、誰も昨日みたいに掛かってきてくんないの……いいもん、……いじけてやるぅ……。
暗黒成分物質をそうやって周囲に撒きながら、ステージに上がりもせずに観客席と隔てた壁に背を預けていじけてたら、子供達の内の一人がひょこひょこ歩いてわたしの前まで来た。
なぐさめるつもり?
どこか浮かない表情で、作った笑い顔をしてわたしの顔を覗き込んでくる。
これは、ビビッてるのかな。
「あはは……」
「な、によ。もう、用はないんでしょ? 一人にしといてっ」
わたし、いじけてるんだから。
「はは……、あ。そーだ。……お姉ちゃんの名前なんてゆーんですか?」
「……り、っ……まぷち。キミは?」
“クセ”って怖い。
チャットなら名前聞かれても本名より先に『まぷち』って名前が出てきたのに。
すぐ凛子って言っちゃいそうになるんだもん、直さないとだよねー。
こっちの人と話す時はもう、凛子って名乗る事も必要も無いんだから、さ。
「僕? あ、言ってなかったよね、ごめんっ。僕の名前はササミンゴ」
ササミンゴくん。
そう言う名前らしい子供の髪の色は、陽に照らし出されて金色に輝いてる。
じぃっとわたしを覗き込む瞳の色は、愛那の碧よりずっと深くて鮮やかなグリーン。
体育座りで膝を抱えてるわたしの目線にあわせて、ササミンゴくんてば背を曲げてるけど折り畳むほどじゃないから、身長は子供サイズ、120〜130くらいってとこ。
高くなく、低くなく、十歳くらいかなって思うんだけど。
「まぷちさんってとっても強いよ、どこの街から来たの?」
「……どこ、かあ……。そーだなー、フィッド村って事になるかなー、一応……?」
ササミンゴくんの容姿をちらちら観察して、探りながら話してると話題は『どこから来たの?』って……それはどう言えばいいのかなー?
嘘をつかなければ日本って事になるんだろーけど、言っちゃダメって京ちゃんに口チャックされちゃってるし、……じゃなくてもササミンゴくんには理解できないと思うし。
そんな何だかんだぐちゃぐちゃ一瞬考えた後、無難な答えに行き着く、うん。
嘘じゃないしね、サーゲートに着いたわたし達の出発点はぐーちゃんと出会ったあの山だし、フィッド村なワケで。
頭を過るのは両親と妹とクラスの友達の顔、それがスクロールするみたいに浮かんでは次に進んで消えてく。
最後に、日本で誰よりも同じ時間を過ごしてきた葵ちゃんの心配そうな顔が浮かぶ。
その顔はゆっくり口端を持上げてにっこり笑顔に変わるんだけど……皆、心配してるよね。
きっと。
何か、なんか、泣きそう。
瞳の辺りが熱くなってるかも。
「……? うーん、知らない、なあ。この辺じゃないのわかったけど。あ。そうだ! どこで習ったの? あの、剣さばき。それにひらりひらり躱してた体重移動。全部、僕は初めて見たよっ」
キラキラ瞳を輝かせてわたしの目線を追ってくるササミンゴくん。
泣きそうになってる顔を見られたくなくって、必死に目線を外そうと頑張ってるのに……どんなに目線を外して、俯いてるのに後頭部に凄い圧の熱視線を感じて、……抵抗は無駄っぽいって諦めた。
……俯いてた顔をおっかなびっくり持ち上げる、ゆっくりと。
そしたら、ほら。
鮮やかなグリーンの瞳がキラキラと輝かせて鼻先まで近付いてたり。
そしたら、ハッと気付いたんだ。
目蓋は潤んでるかもしれないけど、熱はどこかに引いていったみたいだって、ね。
圧を感じる程の熱視線を、刺すみたいに特に顔に、真っ直ぐ見詰めて降り注いでくるササミンゴくん。
わたしにすっごく興味津々、って感じで迫ってくる男の子って初めて……じゃないにしても、手のひらで数えられるくらいだし……しくしく……。
気を取り直して、何にしたってわたしに興味を持ってくれる、その態度が嬉しいじゃん♪
心も踊り出すってもんだよ、うん。
小さい子なんだけど、………………きっとすごく年下なんだけど……。
「剣……、うーん。あれは師匠がいてねー」
ジピコス師匠とゲーテ師匠に覚えるまで体に覚え込まされた剣の型。
体さばき? 体重移動?
なんてゆーのかわからないけどあれは、正面から打ち込まれたらこう……、敵から離れた方の足を引いてそうじゃない足に力を込めて即、体を動かせるように考える。
それに、突いてこられたら剣の腹を払って躱す。
それから真横に回り込まれたら回り込まれた方の腕を畳んでガードしつつ背を見せないように敵に打ち込ませてから動くなり、防ぐなり感じて考えて動くってのを……みっちりジピコスにボコボコの血まみれにされながら教え込まれたんだし。
「あーっ、やっぱりどこかで習ってたんだ? だと、思った。あんなに強いんだから、まぷちさんって」
「ふふ、そうー? わたし強いかな?」
こんな子供のササミンゴくんの言葉にだって、誉められると心が動く。
何の為に俯いていじけてるかなんてどーでもよくなって、ササミンゴくんとお喋りしてると自然にぱあって心が晴れてくみたい。
ほんのさっきまでと正反対になんかニヤケる。
嬉しんだ、きっと。
こんなに男の子にじぃっと真剣に目線あわせて喋ったことあったかなぁー、あ。ゲーテとジピコス師匠には無理矢理目線あわせられて説教喰らったりしたけど、あれはお説教。
これはお喋り、それも今までになくごくごく自然な。
「お師匠さんはどんな方ですか?」
「そーだなー、怒ると恐い。けど、わたしと強くなろうと頑張ってる感じかなーっ」
「と? まぷちさんにこれだけのものを教えたりできるのに……、姿を見たことは無いのに凄く立派な人だって思い浮かぶよ」
「そんなことは無いの」
ジピコスもゲーテも師匠としては尊敬する、けど立派な人……無い無い。
「ええ? だって、まぷちさんはオディナルドさんと戦ってどうでしたか……っ?」
「うーん、えーと。こんなもんかなって」
オディナルド……ふぅむ。
そう言えば動きにキレがある男の子がいたっけ。
でも、みやこちゃんやヘクトルやゲーテその他を見てきたわたしから言わせて貰えば当然、こんなもんかなって、そう答える。
他に答えは浮かばないの。
「う゛ぇっ!? あの、オディナルドさんは。修練の門を一つ二つ突破して先に行った事もあるんですよ───こんなもんかなって……」
「師匠たちの方が強いかなー」
修練の門、わたしはそれを今の段階では知らないんだけど。
だから、一つ二つのクリアが何を意味するところかまでは思案仕切れなくて当然だった。