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疑問だらけ3

目の前のお姉ちゃんからはとても苦労してるなんて全くも感じない。

商人の娘……ってわけでも無さそう、商人の娘なら後継ぎにしないとしても、衛士になんて親からとてもじゃないけど猛烈な反対に合うし、家から出して貰えなくなるだろう。

衛士は素晴らしい職業だって言っても、危険が降りかかる事の無いとは言い切れない、どっちとゆーと危険。

そんなとこに大切に大切に育てたって分かる、お姉ちゃんみたいなぽやーとした娘を行かせる商人なんて居るのかな。


そもそも身なりからその辺のニンゲンとは何か違うんだし、僕なんかの想像の追い付かないとこから来てる可能性がどうしたって高い。




いや、でも、どうしたってなー。

農作業をやってる手では無いし、見たら分かるけど。

商人の娘の可能性は上がる、けど……そんな商人はまずこのデュンケリオンには居ない。



ここの商人は、父みたいな役人に会いに来る商人なら僕はよく知ってる。

そんな商人たちは皆、お金が大好きで、皆、力の強い方になびく。


父にはお金が通用しないから、商人たちは皆、父にいい印象は無い。

勿論、父にだって商人とはそんなもの、って印象が頭に焼き付いている。


僕はそんな父に教えられて育ったから、なんと無くわかる気がした。


商人の娘だとしたら、とんでもなくこのお姉ちゃんはじゃじゃ馬ってカテゴリーなんだと。

親から余り良く思われてないレベルで、自己中な、我が儘娘だったりして、とまで考えて新たな疑問が浮かぶ。


───自己中っぽく無いし、そもそも自己中な街娘なんかにナビとは言っても、修練所で鍛えた僕らが全く勝てないなんて……そんなこと……、そんなこと……有ってはならない、い……嫌、あって欲しくない。

僕はこの一年近くをここ、ナビでの授業に注ぎ込んだんだ。

いずれ、衛士になり。

いずれ、父を守れるように。

大事な、大切な家族を、周りの人を守りたい、その人たちの笑顔を曇らせたくない。


そう、思ってナビから始めたんだ。

この思いを踏みにじる奴は誰だろうと、僕が許さない、許せるわけなんてない。


「ォオオオ、ォオオオッ!」


吠えた。

思わず、声に出してしまっていた。

思えば、頭が熱くなっていたんだ。

理性を溶かすほどのドロドロとした嫉妬の、本能の熱が僕の脳を支配していた。



改めて、このお姉ちゃんの観察をしてみよう。

上はモンスターか獣の皮で出来た服を着てて、下はスカートまではいいんだけど。

問題はその下、黒くて光沢があって肌にぴったりと貼り付く……何かの皮。

蛇……とは違う、あるべき鱗模様が無いし、もっと平坦な感じ。


それでいて防御力もあるみたいで、捲られた裾から見て腕から肘までも足を覆う、光沢のある黒い皮と同じ素材で覆われてる。

どうして防御力があるみたいって思ったかって言うと、腕でマテラシを受ける事があるんだけど、全然痛がらないんだ、お姉ちゃん。


マテラの樹はよくしなる材で、触れた外側だけじゃなく内側までしなって痛め付ける。


言ってみれば、そうだなー、超大なしっぺをされてるような事なのに表情は柔らかいまま、……って……なんだそれ──!






全く、……利いてない……って……事じゃないか!






──まいった。

お姉ちゃんはどうにも、謎だらけとしか言いようが無い。

高価なアクセサリは、目立つ様に着けてるわけじゃないから冒険者ぽいんだけど、僕にはどうもそう見えない。


僕の見立てだと、商人の娘がどうしようもなくやんちゃで、周囲を困らせてるお転婆で、そんなお姉ちゃんは衛士になって大冒険がしたい、……そんな感じにしか見えないんだ。


だってだよ、このお姉ちゃんからはとても冒険者をやってる風な危うさとか、荒っぽさが無いように思えるんだ。

僕の見たことがある、知ってる冒険者に酷い偏りがない限りは、見立ては当たってると思うんだけど。


父に紹介された冒険者は大体、どれも、誰もギラギラしていて今にも襲い掛かって来そうなそんな荒々しい獣の瞳をしてた。

男のひとも、女のひとだって。


なのにお姉ちゃんの瞳や表情からはどこかペット的な小動物をイメージさせて、ほやんとさせる……今まで僕の見てきた冒険者の姿とはまるで正反対。







なのに!


それでも……勝てない!






「運が無かっただけだって♪」


今度はダグが。

僕が思考の海をさ迷っている間にお姉ちゃんと戦っていたぽく、音の無かった思考の海から引き上げられるみたいに僕の耳に周囲の歓声が刺さって、急に音が戻ってきた。


ダグは濃い金色の髪を丸く短く刈り込んだ髪型を只一人ナビでしているから丸わかりだ。

これはとにかく間違いないと言える。

ダグ以外に有り得ないからだね。


ワアアと叫ぶ歓声に混じってお姉ちゃんがダグに掛けた声が聞こえた。

本当に自然に話しかけてる風に聞こえたその声に、


「いつか、勝つ。覚えてろっ!」


ダグはキッとした表情で振り返ってお姉ちゃんを睨み付けていた。


「──楽しみに待ってるよ」


お姉ちゃんがそう返事する前に、ダグは転がるみたいにステージからさっさと降りてしまっていたけど、ダグに返事をした時のお姉ちゃんの顔は何が悲しいのか僕にわからないけど、どよんと曇った表情をしていたように僕は思えた。


何故ダグの言葉にそんな反応を見せたのか、僕らが知るのはずっとずっと後の事だったんだけど、この時の僕はお姉ちゃんの事を僕なりの目線というか常識でしか測ってなかったから、その僕の中の僕の常識に当てはめて見ていたから、どうも、このナビに来る前に何処かで稽古受けてたのかも知れないし、修練の門に挑みに来た冒険者だったりするのか?


とてもそうは見えないけど。

……なんて事を……思っていたかな。


お姉ちゃんの事情を偶然知ってからは、その奇跡も信じてしまえるようになったんだけど、それは又、別の機会に。








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