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疑問だらけ。強いけど、只のニンゲン


訓練を積んでそれだけ強くなって、猛者揃いの修練の門を突破出来るようになれば、それだけで王宮付の衛士になれるとゆう、将来が約束された未来が広がっている。


僕だっていずれは……そう思ってる。

修練の門を突破出来るように、いずれは……。








その、最近は特に変わった事なんて無くて見知った相手としか手合わせする事も無くなってたナビコースに、今まで見たことの無いお姉ちゃんがやって来た。


紅い髪で青い瞳をした、瞳の色と同じ青い服を着てる。

その下は王都でもまず見たこと無い、肌にぴったりとして貼り付いた黒い何かを太ももから足首まで穿いている。


そんな外見的には変わった人だなぁって印象で、よくよく見ればニンゲンなのかと分かるには分かる、このお姉ちゃんちょっと、……強い。


フローブとトッジと一緒に行かないと僕が負ける。

三人がかりで勝てるかってそれは言いきれたりしない。

けど、協力すれば倒せなくは無いかもだしさ。


僕より背が高くてすばしっこいフローブ、背は僕と変わらないけど力が強くて僕じゃ敵わないトッジ。


そんなフローブも、トッジも一人対一人じゃ全く、このお姉ちゃんに勝てない。

打ち込む手数は圧倒的に僕達の方が多いのに、気付いたら地面に転がされてて……負けたんだと気付く。


ナビコースには男だけでも50人近く居るけど結局、誰一人お姉ちゃんには勝てない。


今も目の前でアルナウス、僕と仲は良くも悪くも無い男の子が、一方的に攻め込んでお姉ちゃんを押してた様に見えたのに倒された。


「これでっ、どうだー!」


カンっカンって棒同士を打ち合う高い音を出しながら、お姉ちゃんの構えた木の棒……マテラシって言うんだけど、数度マテラシ同士で打ち合いアルナウスが下からそのマテラシを切り上げてお姉ちゃんのマテラシを弾くと斜め上に浮かし、お姉ちゃんまで後、ほんの一歩まで押し込んだアルナウス。


なのに、お姉ちゃんは最初から最後まで一方的に攻められて、マテラシを体の前に構えてずっと、アルナウスが打ち込んで来るのを右に左に、上に下にと構えたマテラシを動かしてアルナウスの打ち込みを反らし、受けに回っていただけなくせに、


「んーふふっ、あまーい」


アルナウスの渾身の打ち込みを右に反らしてそう言った瞬間、お姉ちゃんの瞳がキラリ煌めいた気がしたかと思うと、アルナウスの後ろにしゅたたってお姉ちゃんは回り込んで、後頭部をぽかんと一撃。


何が起こったかわからない風に振り返りながら、地面に倒れ込むアルナウス。


「──嘘っ! ……っだろ!?」


地面に倒れたアルナウスがお姉ちゃんに向かって、気の抜けた表情でそう言った。

見ていただけの僕にも、あっさり戦況を、態勢をひっくり返されて負けてしまったアルナウスの悔しさとかが、伝わってきて痛いほどわかってしまう。


後頭部に打ち込むのと同時に足払いがセットで叩き込まれるから、よっぽど警戒してないと本命の足払いで転ばされるんだ。


事実、今、アルナウスはお姉ちゃんに回り込まれる瞬間……。

右に左に頭を振って何かを探してるようで、まるでお姉ちゃんを見失ったみたいだった。


そんな偉そうに言ってる僕も、足払いで転ばされて終わりにされたんだけど。


「なんでだ……」


アルナウスは強い方なのに、ナビコースの中じゃ。


そのアルナウスが、自分の身に何が起きたかも分からない内に勝負を決めるなんて、僕達よりずっと強いと思う。

どうしてこんなに強いのに今更、ナビになんて居るんだろう?


もしかしたら、王都の外から来たのかも知れない。

マルセラドや、セレン。

それよりもっともっと遠いとこから来てるのかも、ラミッドとか……僕が名前も聞いた事の無い遠くの国だったりするかも知れない。

だって、本当にニンゲンなのかと疑うくらいには強かったんだ。

お姉ちゃんは。


ニンゲンなのに、高価な魔法を使っている。

失礼な言い方になるけど僕の知ってる、僕達の習ったニンゲンは獣人より弱くて脆い。

そんな掴まれただけで骨は砕け、肉は飛び散るくらい脆くて、軽く殴ったり蹴っただけでぶっ飛ぶように弱くて……な、ニンゲンには冒険者なんてまず出来ないと思うんだ。


何故って?

弱いんだから、当然モンスターにやられるか不慮の事故で簡単に死んじゃうから、冒険者をやってお金を稼ぐなんて出来るわけないと思ったから。


王都の辺りのニンゲンは商人じゃないなら、雇われて荷運びや、ちょっとした荷物の番だったり、誰でも出来るような仕事をやってるのが普通で、冒険者みたいなあっさり死んで『ハイ、おしまい』みたいな仕事をわざわざしてるニンゲンはなかなか居ない。


完全に居ないって訳じゃないけど、ニンゲンだって死にたくはないだろうし。

冒険者は強くないと続かない。


「マルセラド、……いやセレン。いやいや、それよりもラミッド……。まさか、それよりも遠いどこかの国?」


単純なミス一つが死に結び付くって話だし、王都近くなら余り見ないって事だけどマルセラドまで足を運んだら少しは心配をしなくちゃいけなくて、


「でも、僕らより強いからってモンスターや、野党には勝てない……と思うんだよなー」


それは野党。

セレンからラミッドに向かうってなったら高い確率で野党に襲われるから、様々な荷を運ぶ商人や旅行者目当ての馬車なんかは冒険者を雇って身を護らなきゃ行けないって聞いたことがあった。


「こんな平和ボケしてるみたいなお姉ちゃんが、まさか……ね。ありえないよ、モンスターが出たってだけで震え上がって逃げ出しそうなのに」


商人は護衛に冒険者を雇うんだから、野党に襲われたら冒険者を置き去りにしてでも逃げてしまう、当然だ。

どの場合も雇ってる方の命が優先で、冒険者は替えが利く『御守り』でしか無いような物。


「僕なら、お姉ちゃんをお守りには選べない。命をこんな弱そうなニンゲンに、預けたいって思わない。その旅の荷物が僕の命一つだとしても、絶対な信頼は出来ないから」


大きな街の正門近くに行けば必ず、馬車の営業所と同じくらいに冒険者をいっぱい雇ってる商会とゆー組織があって、直接金を払う商人なんかはそこから好きなように護衛を選ぶんだとか。

商人も『御守り』の質は自分の眼で見て決めたい、そう言う事。


役人をしてる僕の父が言うには『強い冒険者は大体、一目で分かる。身なりがしゃんとしてるし、いい装備をしてる。稼げる冒険者は強い。

それだけ修羅場を乗り越えてきた証拠なんだし、見た目にも弱い冒険者とはやっぱり、差をつけたいだろう』

父は王都を離れて遠い街にもたびたび足を運ぶ、伝使をしてる。

そんな父だから、良い護衛を選ぶ眼は肥えてるはずで、その父の言葉は信用できると思う。


目の前のお姉ちゃんを見てると大体、そんな大変そうな仕事が出来そうな気がしないもんな。


だから、思ったんだ。このお姉ちゃんは外から来たのかもって。








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