勝てて当然、でも勝負は勝負
「クソッ! このぉ!」
わたしの右脇腹を狙って打ち込まれる、水平な一撃を見透かしてさらりと躱す。
続けて、返す勢いで下から振り上げるような一撃が飛んでくるけど、それも一歩後ろに飛んで躱した。
「うー……」
……この子供相手に、
「何だっ? 避けるなっ、こらぁーっ!」
ムキになって戦うことなんて、わたしが出来るわけないのに。
「はい、はい。……っと」
「何で当たんないんだっ! このっ」
今度は力任せに大振りでわたしの握り構える楯目掛けて、両手に握ってフルスイング。
実力が違う。
違い過ぎると全身で感じることが出来た。
「はい、残念でした♪」
「あ、……うあ?」
その金髪で尖ったケモ耳の子の後ろ側、背中に楽々と回り込んで今度はこっちの番、わたしのターンっ!
振り返るその子の怯え顔。
わたしはニコッと笑って。
目の前で青い顔してわたしを見詰めてくるその子のおでこにコツン、と。
お見舞いした。
勿論、刃の付いてない金属ですらない、木製の簡単に握りと、鍔だけ作っただけの棒を軽く、ホントにゆっくり振り下ろしただけ。
「どう? まだやる?」
子供相手にジピコス師匠、ゲーテ師匠に教わった駆け引きを試す。
それだけの事だったんだけと、なんか……負けないんだよね。
理由は、簡単で。
ジピコスと比べても、ゲーテと比べても、……それにわたしのこれまで戦って来たどのモンスターに比べても。
ここの子供達は、……ありえないくらいに遅いんだよ、ね。
スピードが。
重そうにもたもたと振り上げる木の棒。
左右をキョロキョロ見てから、ゆっくり振り返る動作にしたって。
薄い金属の板が入った、安全の為の布袋を張り合わせたような簡易な鎧だって、そのひとつひとつが足枷になってる気がするんだよね。
この子供達にはまだ使いにくそうで、使いこなせて無いっぽいカンジ。
身の丈に合った武器と、装備それに相手を良く見て、見失わない事の大切さをこの子供達を反面教師にして、身を持って体感出来た気がする。
「はーい。じゃ、次ー」
こんなに武器に振り回されたり、自分勝手に打ち込んでも的じゃなくて敵なんだよね、生きているから動くし躱すし勿論、攻撃だってしてくる。
「えーと、じゃあそこのキミ」
だから、判断を間違えば反撃されちゃったり逃げられちゃったりだ。
「え、ぼく?」
「うんうん、はいはい。どっからでも、掛かってきてくれていいよー」
わたしを、敵をしっかり見て観察してないから見失って探してしまってたし、重いからかな、もたつく動作でやっと振り上げ、振り下ろした木の棒も自分にあった重さの物で手に馴染んでいたら、わたしが躱す事だって出来ないくらいに風を切って命中したし、なにより金属の板が入った簡易鎧が重いみたい、子供達の動き回る速さをゼロにしてる。
「うやあーっ!」
「はい。ブーっ」
次の子は体こそ小さいけど、力はさっきの子より強そうで力任せにブンブンと振り回す木の棒は、デタラメだけど躱すのがやっとなの。
躱せてるんだけどね。
「ち、──えいっ!」
「まだまだー、もっと動いてみ?」
今度は足元。
まだ余裕見せてジャンプして躱し、今以上のスピードを要求してみる。
「これでーっ!」
「はい、上。はいはい、下から行っくよー」
振り上げた棒に合わせてクルリと回転を加え、叩き込む。
反撃開始だ。
みるみる内に顔が曇るこの子、犬みたいなケモ耳した茶髪に茶色の瞳をしている、目の前の子供の足元から宣言どうり斬り上げる。
その後も、打ち込む場所を言葉に出して犬耳をした子に教えながら木の棒を振り上げ、振り下ろし。
又は、斬り上げたり横凪ぎに打ち込む。
「真面目にやれーっ! クソッ」
そんな事をしていたら何回目かで犬耳の子がしびれを切らしたっぽく叫んだ。
真面目にやってないとか……心外だなー、
「真面目に? わたし、真面目だよー? 真面目にそれでもやってないよーに見えるんなら、さ。実力が無いんだろうねー? 君たちが」
水平に打ち込みながら、そう言って微笑んだ。
面を取りにいくみたいに何度も打ち込む。
最後に両手に持ち直し、
「何だとー……? もう一度、言ってみろっ!」
犬耳っ子の待ち構える頭上目掛けて打ち込む。
「言わなくても、だいじょーっぶ。はい、残念っ♪」
と、……見せかけて足元狙っての、しゃがんで足払い。
派手に転んだ犬耳っ子の腹に乗ってKO。
そんな感じで……例え、子供でも勝てて当然って思ってても勝負は勝負、実際に勝てたら嬉しいに決まってる。
めっちゃくちゃ、嬉しい! わたし、やれてるじゃん♪
ふん、ふんふん。
あれ?
わたし、ちょっと強くなった? なってる?
ナビ・コースの子供達、一人対一人なら負けない。
ま。子供、なんだけどね、相手は。
でも、でもでも!
ジピコス相手に連戦連敗してた、全く歯が立たないって感じでひたすらふるぼっこされてた、わたしからすると子供って解ってても勝てるって気持ちぃ!
スッキリする!
わたし、tueeeeeeっっっ!!!!
……って……子供、十歳くらいかな………………年下相手に、どれだけ………………はしゃいでるんだか、……わたし。
なんか、何か……………………恥ずい……!
京ちゃんが圧倒的に差が開いてるゲーテやジピコスと稽古したくなかったのは、こんな感じに実力が解りきってて、面白くも無いからだって何と無く改めて理解出来た瞬間だったんだ。
ジピコス師匠と稽古つけて貰ったら、血を吐くってなるくらいにボロボロに痛め付けられたっけ。
わたしに、この目の前の子供達をボロボロにするまで本気で相手にするなんて出来ないんだけど、ね。
それを真面目にやってないって言われるんだとしたら、わたしはここには居られない。
こんな、キラキラして可愛い生き物を叩くなんてわたし、……出来ないに決まってんじゃん!
そして日が傾いて、明らかに周りが暗くなっていく夕暮れ。
「ヴェー」
「帰ろ。みんなのとこに」
「にく、ニク、肉っ」
「……はい、はい……。待ってみて……」
わたしは門の前で大人しくしゃがんで待っててくれたシロイにオーク肉をあげて……寝てたんじゃない、待っててくれたんだよね? っとみんなの待つ宿に帰還。
だんだん、だんだんと辺りは暗くなっていったけど、見覚えのある景色を、記憶頼りに、手繰り手繰りでなんとか宿に、迷わずに帰れて一安心。
わたし、方向音痴って訳じゃないもんね。
だよね……、初めてのとこだったから行き先がわからないだけで、行き先さえハッキリ解ってて道も見覚えがあれば迷子にはならない……はずなんだけど。