シロイも迷う、凛子も迷う
更にその後。
わたしは。
お昼だしな、まだ。
ってコトで、愛那が喋ってる事を頭で覚えてる内にって図書館に向かったんだけど……。
「……迷子かな、……迷子だね、たぶん」
「迷ったな」
「シロイも迷っちゃうよ、ね。……こんなに道がいっぱいだと」
「まっすぐ、道なら迷わないぞ!」
「……まっすぐなら。誰も迷ったりしないよ、ホントだね」
「腹減った」
「……大きそうな道探そっか。その方が早いと思うんだ、お前もそう思うよね? シロイ?」
「腹、減った!」
「……うん。わかった」
何処かでシロイが道を間違えて迷子になった先で、大人しく大通り探そうって出た先が。
なんと、中央市街環状大通り。
シロイに肉をやたらしつこくねだられて二回、止まってお食事タイムになったり、些細な事もあったけど、
「──!」
もう、ね。
「……嘘っ、ホントにでっかい! ……よ? 馬車がっ、あんなにいっぱい!」
ビックリし過ぎて、茫然って言葉がぴったりなの。
わたしの目の前に広がるこの道は市街大通りって言うだけあって、道路がさっきの大通りの倍広い!
馬車がいっぱい通るのにやっぱり、句切りが必要だからって真ん中は馬車一台丸々入れそうな植え込みがあって、その植え込みには色取り取りの花が咲いてる。
ぱっと見、馬車が5台ずつ余裕で両側走れる、ちょっとわたしの見たことが無いくらいの大きな大き過ぎる通りになってるの。
そこを、そこかしこに忙しげに馬車が次々と走ってく。
わたしみたいにシャダイアスに乗ってる人も居るけど、大多数は馬か馬車かなー。
とにかく、右を見ても左を見ても人、人、人。
馬、馬、馬車、馬車、馬車、馬車が!
それで、食堂や喫茶店がズラッと並んでて、幾つもの商店が賑やかに繁盛してるみたいで、どこもそれなりに人が、エルフが、ドワーフが、でもでもやっぱりどこを見ても多いのは圧倒的に……獣人。
角があったり、ケモ耳が生えてたり、尻尾があったり、牙がはみ出てたり……。
ゆっくり歩いて貰いながらじゃ無いと、この通りはシロイに乗って通れないくらいに、何かって馬車が走ってて……とにかく、スッゴい賑わい。
首都って言うくらいなんだから、人がいっぱい居て賑わってて当然なんだけど。
そんな風にキョロキョロと物珍しさに辺りを見渡しながら、図書館のあるマリーピア区を目指して北へ北へと進んでたら、どこをどう間違えたのか──
「ここは──」
気付いたら、高い塀に囲まれた大きい門が、あって……いつの間にか見当違いの場所に迷い込んで立っていたんだ。
見上げると大きい門の上にはアーチ状の看板があって、こう書かれている。
「うーん。……えーと、……しゅ、習練場?」
おっかしいなー、図書館に向かってたはずがどうして。
でも、ひょっとしたら……。
わたし、ここでいっぱい、目一杯戦って凄い強敵なんかと戦ったりして、……それで強くなれちゃうかも?
スキルをいっぱいゲットして!
うまく戦術を使える様になっていってだよ!
こう……、なんだっけ?
心の師匠、ジピコスが言ってた言葉が頭に思い浮かぶ、
『戦術と駆け引きが大事なんだよ、悪いけど。凛子は、駆け引きがまるでなってねえ! なって戦術が頭に、この頭に! 浸透してねえ! ったく、何度も言ってるのによ! ま。実戦したほが早いんだけどよ、駆け引きを身につけるってのはっ!』
思い出すと、なんか、なんか……いまいち腹立つ言い方。
自然に掌をギュッて握りしめて、ギリギリッて痛いくらい握りしめて、ジピコスが目の前に居たら殴り掛かってる。
ま。
ホントに全然、駆け引きヘタでジピコスに良いように悪態つかれてたんだけど。
駆け引き! と、戦術を身につけられるんじゃない?
神のお導きかも知んないし。
取り合えず、
「お邪魔しま〜す。誰か、居ますかー……?」
門をソローっと半身が入るくらい開けて中をキョロキョロと見ながら、そう言って声に出すと返事が無い。
でも、なんか気配がある……てゆーか、寒気がするくらい。
何なの? ………………コレ、…………………………殺気?
「避けたか、まあまあだ」
ううっ!
って、体が思わず動いてそのまま、前に前転気味になりながら倒れ込むと、後ろでザンッて風切り音がして、その後で低い男の声がする。
……あのまま体が動いて無かったら、怪我してんじゃん!
「いきなり、なんなのっ!」
「ふぅむ。まあまあだ。修練の門の挑戦者……にしては、武器もなしか?」
「避けれて無かったら、怪我してるわっ」
……髭?
振り返って声の主に視線を移すと、そこには小さい時に童話か絵本で見た『これぞ! バイキング』っぽい風なツノの生えた鉄兜に鎖帷子に左手には手の甲に張り付くくらいの楯、右手には今わたしに向けて振り下ろした、木こりが普段使うような柄の長くて大きな斧。
それに兜に隠れて無い部分から覗く、もさもさの赤茶色した毛。
そんな、髭とも髪の毛とも判断出来ない毛の間から、はみ出す様にちょこんとある太くてずんぐりとした鼻、その上にある二つの、鋭くわたしを睨み付けてくる青い瞳。
しばらく黙って、わたしを値踏みするようにじろじろと全身舐めるように観察していた背の高い、ガッチリした体型のバイキングっぽいその男が、握っていた斧をガチャンと重い音を響かせて足元に放り出し、わたしに向かって一歩、ズシンと踏まれたら骨が砕けそうな迫力のある音をさせて足を踏み出した。
「なにやってんだ、こっち来い。お前は、この──」
すると、斧を握っていたゴツいって言ったら正しいくらいの大きな手でわたしはつまみあげられて、バイキングっぽい男の視線の高さにまで掲げて持ってこられる。
瞳と瞳が合う。
「お前みたいのは、こっちの初心者コースだ。まあまあだからな」
「ふえ?」
「お前に修練の門はまだ早い、そうゆうことだ。魔法で傷は治るとは言え、死んでしまっては、どうする事も出来んからな」
「子供、……と?」
ズシン、……ズシンとゆっくり一歩一歩踏み出して進む男に、宙ぶらりん状態でつまみあげられたまま運ばれた先は、キャッキャッキャッキャッと子供達がはしゃぎ回ってる風にわたしの瞳に映る──グラウンドって感じの広い空間。
トホホ、強くなるって。
大変だ!