会いたかった
他にも、あちこちいっぱい、いーっぱいマップの触った場所の有名な施設の名前が飛び出て表記される。
何々、・・・っと。
マリーピア区に王国大図書館、えーとグロテア区に歴史博物館、バニラハイト区にバニラハイト工商、ナーデル区に国立魔導研究所、レポルヤード区に王国美術館。
なんか。
うーん、近代的とゆーか。
なんてゆーか、バニラハイト区なんてエリア全部が工場だらけっぽいし、ナーデル区は研究所の周りの殆ど空白で繋がってる道路も珍しくひとつも無いし、この辺怪しい。
ん?だからって、行きたいなって思ったのはそんなきな臭いトコじゃなくてー、図書館とか、博物館とか。
このノルンって世界を少しでも多く知る為にもそーゆートコ行かなくちゃ。
みやこちゃん、どーせ。
この酒場に入り浸って飲んでるだろーし、ね。
少なくても今日じゅうは。
チラッと横目に窺ってみる、やっぱり酒だけには目が無いんだもん。
みやこちゃんは。
グラスに波々と薄紫色のお酒を注いで、一気にグラスを傾けてグイとあおる。
で、またすぐに注いで。
それを見詰めながら、溜め息をひとつ。
ふかーく、深く。
そこに。
みやこちゃんの全く同じ顔がニコニコしながら入って来た。
おう、ぐーちゃん。
あのピンクのレースがいっぱいいーっぱい付いた綺麗なドレス、無くしちゃったの?
って!
ぐーちゃん?
今までどこで何してたの。
どうして。
ここに来るまでにその辺ですれ違った人達みたいな、ありふれた格好になってるの?
「ふ・・・ううっ!会いたかったーっ!シェリルっ!」
行き違いになっちゃって、連絡手段も無い異世界ではぐれ、どうやって会えるか解らなくなっていたぐーちゃんがそこには居た。
全く同じ顔をした京ちゃんの後ろから、ひしっと抱きついて頬と頬をすりすり擦り合わせてる。
思わぬ再会でなんだけど、酒場の扉の影にはにひひと笑ってる、一緒にぐーちゃんとここまで旅をしていたんだろう愛那の姿も。
「んっ?えっ?んん、・・・ありがとう、わたしもよ。・・・なぁーんて、そんなわけないでしょーっ!」
きょとんとしてされるがままの京ちゃんの方を見ると、一瞬明後日の方向に視線が移ってた。
それから少しの時が流れると後ろに振り向きながら、にぃと口許が緩んでる。
なんだかんだ言ってもぐーちゃんが、愛那が帰ってきたのを喜んでるふうに。
「どーして、・・・貸したドレスがボロボロになってんの?」
「さあ?」
「じゃあ。こっち?グローブは片方無くして、もう一つもこんなにビリビリじゃ、直しようが無いじゃない。」
ぐーちゃんの格好をチラ、と見ながら京ちゃんが子供を叱るように語り掛けてる様は、顔がソックリそのままだから姉妹みたい。
姉が妹を叱ってる、そんなカンジ。
雪豹の恵み亭の一階にある、酒場の隅のテーブル。
その上には京ちゃんが貸した時には綺麗で華やかなピンクのドレスだったものが、くすんだピンクの布切れになって置かれていた。
これは酷い、京ちゃんで無くったって怒るんじゃないかなー、さすがにコレは。
「・・・ごめん。」
「あ、シェリル〜。あんまり、ぐーちゃんを怒らないでーぇ?今、むっちゃ強いよ。シェリル、負けるかもよ。」
じぃっと京ちゃんと瞳と瞳を絡ませてるぐーちゃんに、事の成り行きをにへらと笑いながら微笑ましそうに見定め様と並んだ二人を黙って見詰めていた愛那から、ポツリと爆弾発言が飛び出した。
思わず、わたしも京ちゃんも愛那の顔を見ちゃう。
「それって・・・。」
「どーゆーことかしら?」
すると一層、濃い笑いを浮かべる愛那。
「自信あるよぅー、なんだったら・・・金貨1000枚、掛けるぅ?」
あーあ、何その顔?・・・似てきたじゃない京ちゃんと。
悪戯好きな小悪魔っぽく笑ってる雰囲気とか、真似てるんだって思う、それより。
スゴい自信!
金貨1000枚って1枚が確か1万グリムだから、じゅ、ひゃく、一千万グリム!!!
「え?」
「はい。負けたー。シェリルの負けー。ししし。」
負けた、・・・京ちゃんがぐーちゃんに。
あっさりと。
何をしてるかって?・・・それは、腕相撲。
愛那が何を思って、京ちゃんとぐーちゃんを争わせようとしてるのって、胸に重みが掛かったみたいで苦しくなったけど。
良かったー、・・・これなら安全だし、万にひとつも死に至る怪我を負うなんてことあるなんて有り得ないし。
「ちょっと、・・・嘘よね?いきなり強くなり過ぎ。」
「ん、じゃあね。種明かし、ごにょごにょごにょ。」
「は?そう、本体を取り込んだ、それっ・・・て・・◯ル・・・。」
良く解らないな、京ちゃんと愛那の話してる声に耳を傾けてもわたしには難しい、知らない知識の話をしてるみたいで。
ただ、解ったら解ったでまずいみたい、そんな気がする。
「うちもそう思ったから、否定はしないよぅ。」
そう言ってテーブルに樹のジョッキを取り出す、そのジョッキにトクトクと小気味よい音を立ててジュースを注ぎながら、へらへらと笑う愛那。
ゴクリ、と喉が鳴る。
お、おいしそう。
ジュース、そう言えば10日は飲んでないや。
「じゃあ。もしかして、あの・・・ブレスも?」
「うん♪やって見せよ?ぐーちゃん。」
京ちゃんはブツブツとテーブルに向かって、どこか気が、魂が抜けてしまっている様に見えた。
チラリとそれを横目で窺いつつ、ぐーちゃんの金色の瞳に訊ねた。
真顔で。
「コォオオオ!」
あの時のブレスの音。
空気が・・・ううん、空間を歪ませて見せるくらいにマナがぐーちゃんの口元に集まっていく。
答えたのは愛那で、愛那はニイッとぐーちゃんに向かって口の端を引き上げて微笑む。
ぐーちゃんも瞳を絡めただけで、アイコンタクトを取って解り合えたようにニッと笑い返す。
そして、始まった。
ぐーちゃんの口元を中心とした空間の歪みが。
パニクりそう。
おかしくなりそうだった。
だって、
「や、やばいって。」
ここは酒場の店内。
「と・・・止めてー!」
もっと言ったら、大都市のど真ん中じゃ無いかも知れないけど門を入って囲いの中、周辺にはどれくらいの人がね、住んでるんだろーね、その。ブレスが吐き出されたら、どれだけの被害になるか想像もつかないよー!
良かった・・・。
わたしがあたふたしてる間に、空間の歪みがあったのが消えてブレスの音も止んでいる。
いししと笑う愛那がぐーちゃんと笑い合ってる、・・・。
「キャンセルできるなら先に言ってよぉ。」
思わず、椅子から転がって落ちちゃったじゃん。
「ごっめ〜ん。でもこれでぐーちゃんがー、メチャクチャぱわーあーっぷ!したの解ったんじゃないかなぁ〜?」
ごめんって言ってるだけって感じで。
愛那はまるで悪いとか思ってないって。
頬が緩んで緩みきってて、まるで愛那が強くなったみたいなそんな風におもってるみたいにわたしの瞳には映った。
脳裏を掠めていったんだよ?
目の前で大惨事が起こるビジョンが。
「何?も、もしかして歩く大量破壊兵器とか。」
京ちゃんも、思いがけないぐーちゃんの進化ぶりに口ごもりながら、振り返ってぐーちゃんの顔に視線をむける。
ぐーちゃんはと言うと、何の事か解らないようで取敢えず笑っていた。
大量破壊兵器・・・、ぐーちゃんが知ってるわけないか。
「そこはぁ、・・・ぐーちゃんの理性に懸けよう?」
その言葉からやっと危ないぞ!と愛那も気付いたみたいで冷や汗を一すじ、タラリと頬に垂らして表情が苦笑いに変わる。
その時、被り気味にわたしの後ろから声がした。
「なんやぁ、ふわーぁ。騒がしい事になっとるし、うちの知らんのんが増えとるやん。・・・なぁ。うちにも解るように優しゅ〜説明頼むわぁ。」
まだ寝てたんだ・・・?
振り返ると、関西訛りのアクセント入った言葉を使う声の主、アスミさんがふわわ〜!とアクビを漏らしながら、つかつかとゆっくりした歩みでこちらに近付いてくるところだった。
土曜にしあがらなかった上に時間が無い……てわけでもなく、寝すぎますた。
11時間寝ちゃった、アハハ……