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余談3・貧相な聖女


ゆっくりと、京ちゃんの腕の中からわたしは離れた。

目の前の大きな胸に手を伸ばして、んんーっと突き放すように押したら、


「ん?熱に、浮かされた?それとも、・・・わたしに恋してるのに気付いて照れちゃったのかしらぁ?」


「──っ!そんなことないのっ、そんなことあるわけ無いっ!」


京ちゃんは両腕に込めてた力を緩めてくれて、わたしは地面にとんっと足から着地する。


するとわたしの背中に、京ちゃんは変態根性丸だしで頭に浮かんだ願望をそのまま吐き出したって感じ。


振り向けないでわたしは、両の掌をギュッと腰骨辺りで握りしめた。



照れ隠しとかじゃない、恋してる?

京ちゃんに?

京ちゃんと?

わ、わた、わたしがぁ!


わたしをほんの少し、その思考は動揺させた。

わたわたしちゃった。


けど、考えて、考えて、考えて、考えたら──


お姫様だっこされて、わたわたしない女の子は居ない、例え女の子同士だって、という答えに行き着いて。

自分自身を落ち着かせるのに、京ちゃんの一言のせいで無駄に時間かかっちゃった。

この胸のドキドキは、そう言う事じゃ無いよね?


わたし、のーまるだもん!








何なんだろう、この人達。

ヒールを掛けて癒しの光が包む、あのエフェクトが芝生の上に寝かされた二人を包む。

でもでも、『うーん、とかいぎぎぎ。』とか苦しそうに呻いてて。


ヒール、掛けたんだよ?

治ってるはずなんだけどな、多分。

うん、自信無くす・・・こんなんだと。

思わず、ぺたんと芝生の上に腰から座り込んじゃった。

適度に芝生は湿ってて涼しく感じ、一気に緊張がほぐれたっぽくて外気だって認識した体が、早朝の冷気を下半身に感じてから、ゾゾゾと全身が冷えく。

わたしがやらなきゃって、大ケガの二人を見た瞬間から意識しすぎちゃってたのかなー。

忘れてたけど、上に何も着てなくて下着って、そりゃ冷えて当然だって。

両手を交差させるみたいに肩を押さえて、ブルって震えたその時。


「お、オイオイ!まじかよ、痛みがねえ?を、・・・う、腕が!折れたはずの腕が、・・・動・・・く?」


「ほ、ホントだ!い、痛くない?すっかり、痛くなくなってるぜ!──ジャシ、なんだ?──!その顔!」


体の変化に、痛みが無くなった事に気づいたガリガリの方が急にビックリしたっぽくどんどん声のトーンが大きくなってく、・・・朝早いんだから近所迷惑だよ・・・。


そのガリガリの声で離れて寝かされてたマッチョの方も、ぐちゃぐちゃになってた頬や顔を押さえて声を上げる。


こっちもどんどん興奮して声のトーンが大きく、激しくなってく。

だから・・・朝早いんだってば、宿のお客さん起きてくるから・・・わたし、下着なんだよ、見られたら恥ずかしいじゃん。


「───!ポン、お前の顔も!」


ジャシってマッチョの方がガリガリの方を向いてそう言ったから名前なのかな?

そしたら、ガリガリの男、・・・ジャシはマッチョの方を向いてポン、と言ったんだけどこれもマッチョの方の名前なんだって思う、気付けばわたしの目の前ではガリガリのジャシとマッチョのポンが抱き合って、涙を流し合って、ぐちょぐちょで。


これも男泣きって言うのかな、感動を二人は体で表すみたいにお互いの無事を喜んで顔を触ったり、抱き合ったり、ハイタッチしたり。

賑やかな人達だなーってそれを、呆れた感じで見てた。


うん、呆れてたんだ。

改めて二人の喜んだり、叫び合ってる言葉を頭でリフレインして反芻するまでは。


「顔が、前と違うぞ?ジャシ、前より良くなったみたいだ!」


──え?


「ポン、お前も角張ったとこが無くなってんぞ?」


嘘。


「どうなっちまってんだ?俺たちは!」


どうして・・・。


「んなこた、どーだっていいだろ?」


わたし。


「ああ、体がもと通りに戻ったってのが、何より奇跡だ!」


そう。


「ち、かなり見れたツラになっちまったな?ポン。今なら、寵姫にでもなれんじゃねーか?」


ヒール、それ。


「んだ?──ほんとに?顔、丸くなってんぜっ!やった!やっと、女に見て貰えるっ!」


ヒールをしただけなのに。


「──!・・・お、・・・おろろ?」


マッチョな男の人と思ってたポンて人、マッチョな女の人だった・・・。

マジか、え?

・・・嘘。


喜んでるポン、驚きながら照れ混じりに表情を和らげてポンの顔を触りまくってるジャシの声をよそに、わたしは一人、目の前に靄が出来たみたいに視界がどんどんもやもやしていく。


たかが、ヒールなんだけど・・・。


しかも、ヒールしか取り柄の無いわたしの、って、え?

骨がもと通りに戻ったって驚いてる、何でー?


えっと、あれ?

ダメ、何かパニクってきたかも。

ヒールだよ?回復してもと通りなんて、当然・・・だよね?


「はい、はーい。良かったわね、何にも無かったみたいに治って。・・・じゃ、寝たいからさっさと帰って?」


そこまで靄にかかったみたいな思考に包まれてたわたしの視界が、京ちゃんのその一言でぱあって晴れてく。


そだよ、眠い・・・し、それに少し肌寒いし、早くベッドに戻ってシーツを・・・頭から被りたい。

それで──今が朝早いから・・・。




チラリと見上げると日の出が近いみたいで、オレンジ色に朱が混じった緋い空。少し視線を落とすとそこには静かな黒と、冷え込むような青に包まれて眠っていた街が広がっていて、そんな街がだんだんと緋い空に導かれて起き出すみたいとか思っちゃう。


これはヤッバいなー、昼までコースで寝たいかも・・・。

睡眠が足りてないからどこかロマンティックめいた思いとかが、こぼれだしちゃうんだってそんなカンジ。


「ち、ちょっと待ってくれ。ま・・・さか、霊薬を俺とツレの為に使ってくれたってのか?」


「霊薬なんて、使ってないわよ?只のヒールしただけ、まぷちが。」


霊薬ってなんだっけ?

そう思って声が聞こえたジャシの方に視線を向けると、気分でも悪くなった?

さっきまでと明らかに変わってて表情が歪んで青い顔。


訊ねられた京ちゃんは仁王立ちのまま、ニッと半月っぽく口の両端を吊り上げて微笑んでるし、わたしの、わたしにも解る様に説明してよーっ!


取り残され感がパないんだよ、ね。


「骨がヒールで元通り治るなんて、有り得ねえよ、な?ジャシ。」


「おう、それに聖女さまでも時間の経った傷を消すなんて出来ねえっつーんだ。で、・・・お前、何物だ?ま、・・・──まさか、聖女・・・さまじゃねえとは思うがよ・・・。」


「むっ、胸見てゆーなあーっ!」


耐えきれなくなった。

泣きそう。

瞳の辺りが熱を持ってる。

ジャシに発育途上の胸とわたしの顔とを交互にチラチラ見られて、思わず。

はち切れた。


そこは、超コンプレックスだから──見比べるなっ、見ないでえっ!

発育途上なのっ!


ちいさくないもん、わたし。


周りの人が大きいだけ、それにこれからまだまだ育つんだから、育ち盛りなんだから・・・ねえ、聴いてる?

あなた、あなたよ?

わたしの胸!

解ったら、少しは育ってよ。

ねえ、ねえってば!

大きくなる、大きくなる、大きくなるよねっ、ね?


京ちゃんのみたいにならなくても良いから見られても、見せても恥ずかしくないくらいに育ってほしんだよ、じゃないと水着があー!って、聴いてる?

わたしをいつまで惨めな気持ちにさせるんだよーぅ!


1ミリでもいいから、・・・育ってよ、大きくなってよお・・・。





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