余談2・はやとちり
──!今、瞬間的にわたしの脳裏を掠めて行った思考は、『こんな格好でわたし、京ちゃんの夜這いにあったら耐えきってわたしは、わたしの、わたしをっ! 守り切れるの?』だったり。
京ちゃんが、
『今夜は忘れられない夜にしてあげるわね。』
って、わたしの全身あらゆる全部を揉みしだいたり、優しく撫でたり、弄ぶ様に触ってみたりしてきて。
わたしは真っ赤になりながら、それに流されて、本当に忘れたくても、忘れられない夜になっちゃったりするんじゃないかって、恐怖でブルルって震えた。
そんなのって無い、そんなのって無いよ、そんなのってわたしは認めないんだから、・・・はっ!
飲まされたのは、この為って事?計画的犯行なの?
パニクった、盛大にパニクった。
窓の縁に足を掛けたまま、意味深に笑う京ちゃんの表情をみたら余計に心配になっちゃったんだ。
だって、婀娜っぽく誘惑するような心をガシッと掴まれたみたいな笑顔をしてたんだもん。
「火照っちゃった?・・・あー、っと!そんな事してる場合でも無いかな。おっ邪魔しまーすっ!」
「えっ、ちょっと!」
「酔っ払いを歩かせるの、危ないでしょ♪」
わたしが止めるのも完全スルー。
ま、京ちゃんは決めたら即実行って感じだから、抵抗しなかったら本当に何か変な事されちゃうのは解ってて、必死の抵抗で乗りきるつもりではある、ものの・・・。
強引にベッドに乗ってくる京ちゃんの決心は相当に堅そうだったりする、だから一瞬、
わたし、ダメかも・・・、なんて。
過っても不思議じゃないよね、理由が解らないけどわたしを掴もうとする京ちゃんの手を払いながら。
「だ、だからって!」
ん?
歩かせる?ってどこに行くって?
「いいから、良いから。」
「軽く持ち上げないでー!」
刹那、わたしが逡巡した間に隙が出来てしまって、ひょいっと抱え上げられ、カチっと嵌まる様に瞬きする間も無かったのに気付くとお姫様抱っこの形に、脇の下と膝の裏に京ちゃんの腕が入り込んでて、当然の様に京ちゃんのドーン!と主張する胸の双丘のふくらみが手に触れて、目の前にはかなり、ううん、一連のわたしの今の今までの脳内劇場を思い出すと、間違いなく一番精神的に見たらグサリと心を抉る様に刺さる、大きさに合ってないっぽくカップからはみ出して見えそうになってる蕾。
それだけでも、なんでか熱を帯びるわたしの頬。
見えたわけじゃないし、見えたとこでどうってこと無いはずなのに、なんでー?
重そうで、大きくて、肩が凝りそう──うっ!これは今見てはいけないモノ。
意識すると目の前の双丘(コンプレックスの塊)に押し潰されそうになるから、目を逸らす。
「モノじゃないんだからー!・・・って何?えっ?」
するとその上で、そんな格好のまま京ちゃんは窓の縁に足を掛けちゃう。
ち、ちょっとマジ?
今わたし、上は下着だけなんだよ。
それより何よりここ──3階だよーっ!!
マジだったんだ、京ちゃんは躊躇も無くて窓から外へ飛び出しちゃってて。
その時、ホントどうでも良いかも解らない事に気付いちゃった。
ベッドの上に京ちゃんが土足で上がってた事に。
パニクりながらも京ちゃんの履いてたのは黒いハイヒールだってのがまず、スローモーションっぽく見えてから。
わたし達は落ち始める。
二人して外に飛び出したんだから、当然と言えば当然だったかも知れないけど。
何も考えられない、頭真っ白。
京ちゃんが何をしたいのか、何をされちゃうのか解らないとかそんな思いはどっかあっさり飛んでっちゃってたから、頼りになるのは京ちゃんしか居ないわけ。
思わず、ひしっと京ちゃんの体に抱きついちゃってたとしてもしょうがない、よね?
「わ、何かいい匂い・・・。」
頬に当たる柔らかい胸とか鼻をくすぐる京ちゃんのココナッツオイルみたいないい匂いとか。
恐怖からしがみついたらそーゆー事があっただけで。
特に他意は無いんだけど、わたしは何かダメージを受けたみたいなそんな感じ。
京ちゃんにお姫様だっこで抱えられちゃった格好のまま、白い下着姿のまま飛び下りた先は、芝生の生えた宿の裏庭。
・・・また、京ちゃんの退屈しのぎの犠牲に誰かがなったってわけなんだ、水色の瞳に映し出されたのは芝生の上に寝かされたボロ切れになったマッチョマンに、その隣にはガリガリな体で荒い息をしてる男の人。
で、視界の奥には何故か土下座させられてる男の人が二人、そんな情景が視界に映って。
何となく、わたしは理解した。
そして、どこかホッとしたわたしもいたわけで。
「ヒールしたげて?いいよね?」
「そ、それは良いけど・・・。」
フィッド村じゃ、冒険者を放置してたりした癖にー。
どーして、この人達を助けようとか思ったんだろー?京ちゃんの気紛れってやつが発動したのかも知れないね。
チラリと怪我の具合とゆーか、体調が悪そうかなって寝かされた二人を少し見てると言われなくても大体解っちゃった、マッチョな人はまだ大丈夫っぽいけど、ガリガリな方はあちこち骨が折れてるぽくって、かなり辛そうな息遣い。
「いつも通り、やり返しただけなんだけどねー?やり過ぎちゃったわ、ひ弱で困っちゃうわよね、うんうん。」
ひっくり返した三日月みたいな瞳と口になった京ちゃんが笑ってる、うす気味悪く。
この人達で楽しんだって証拠みたいな、そんな笑顔。
「喧嘩、買わないって選択肢無いの?シェリルさんは。」
「酒場の中で騒ぎになるよりは、さ?黙らせた方がいいんじゃない、って思って。だから、先手必勝!」
「・・・はぁ、ヒールするね。」
大人しくしてるって事が難しいっぽいのはカルガインの酒場で解ってたけど、・・・小さな子供みたい、喧嘩で強かったからってそんなに偉いかな?
声に出して直接言えない。
京ちゃんはそんな事で怒ったりしないんだろうけど。
怖いんだよね、なんとなく。
判りあえてる気がしても、また初めて会った時みたいに睨み合ってマジな喧嘩になっちゃいそうで。
あのとき、そうだ──怖いより、ナンダコイツって方が大きかったかな、あのときは。