余談1・夜這い
う・・・う・・・ん・・・。
雪豹の恵み亭の一室。
一人用のベッドと、書き物をする用の机と、一着・・・、二着くらいは掛けられそうなクローゼット。
それはわたしの部屋の事だけど、京ちゃんやアスミさんのとこだってきっと同じだと思うわけで、部屋の内枠はこんなとこ。
広さはってゆーとフィッド村の宿の部屋の広さより狭い。
村と街の地価の差のせいだったり、と思ったけどデュンケリオンの広さはけた違いだし、そんな事ではなくて別の理由で狭くなってんのかも、わたしは知らなーい。
ちなみにトイレは各階1箇所あって、それを共同で、お風呂はついて無いっぽい。
そもそも、お風呂の概念が無いのかな、魔法で埃も弾いて掻き消すとかだったりして、きっと。
気持ちいいのにね、湯を張ったお風呂に全身で浸かるの。
だから、濡らしたタオルで体を拭くor穴を沢山空けた皮袋を利用しての簡易シャワーでここ7日間を過ごしてるわけ、湧き水とか湖が進む先にあると京ちゃんと二人で狂喜して水浴びしたっけ。
『わー・・・、生き返るう゛ー♪』
そんな時は京ちゃん、革のビキニにぱぱッと着替えてぷかぷかと水の上に浮かんでるのが好きみたいで。
何回か有った水浴びポイントも無理やり毎回のように剥かれたわたしは、御決まりになりつつあるスク水、ってなって欲しくない!
そんな御決まりはいらないんだけど、京ちゃんのイタズラ心を擽っちゃってるのか、気が付くとスク水姿になってるわたし。
・・・はっきり言って恥ずかしくないはず無い、スク水なんて子供じゃないんだから。
「なんかヤだ!説明出来ないけど、なんか、こう・・・スク水着てると恥ずかしいよ・・・。」
そんなわたしの抗議の声も京ちゃんには完全スルーされちゃってて、
「よォーしっ、泳ぐわよー。あの島まで競争ね♪」
「わ、待ってよー・・・!」
200メートルは有りそうな島までの距離を、遠泳するつもりなんて全く無かったのに京ちゃんたら島に着いておいて、やる気無いわたしに気付くとまた戻ってきて『いいから、良いから。』ってニコニコ笑ってわたしの手を取って結局わたしも連れてかれちゃったんだよね・・・。
微睡みながらそんな感じに思い出しちゃうのは、お風呂に入りたくなっちゃったから?
ちなみにアスミさんは、とゆーとピンクの可愛らしいワンピースの水着。
毎回この水着でぽやーとした表情をしながら、岸辺に座ってパシャパシャ水を蹴って遊んでるアスミさんを目にしてる限り、これっきりしか持ってないぽいけど、普段の大雑把な格好と全然違って、イイ。
何より男の子っぽさが消えちゃうんだ。
灰色の地肌にピンクのワンピ、アンバランスな様で実はアスミさんにはぴったり似合ってる不思議。
・・・なんてゆーか、・・・水着の話題はそれくらいにしないと、わたしが惨めなのでこれくらいにしよ、自分で言うのもなんだけど・・・特筆するものが無いわたしのスク水姿、二人と比べると、・・・だけどって言ったら強がりみたいに聞こえるかな。
そんな事は無いって、強くは言えない、悲しい・・・。
・・・くびれ、は有るけどでっぱりがもう少し・・・欲を言ったら自信持てるくらい、自慢出来るくらい欲しい、重くて肩が凝る〜って言ってみたい、・・・はぁ。
中学時代からまるで変わってない気さえして来た、そんな事無いだろーけど、あー!鬱だわ・・・。
・・・鬱。
・・・鬱。
鬱。
・・・鬱。
よ、・・・よーし、気をっ取り直してっ、回想おしまい!
雪豹の恵み亭の部屋の窓にはよろい戸が嵌まっていたりするのも、それは特に必要と思わなかったから有るって事だけ把握して使ってない。
好奇心ってゆーのも後押しして、そんな必要と思ってなくても一応、一度だけ下ろしてみたり。
うげ・・・、これじゃ牢屋だよ。って思ったからすぐ戻しちゃった。
うう、・・・んん・・・。
ちょっと、ほんのり少し。
お酒と言うものを京ちゃんに付き合って飲んだ、したらこれだ。
「・・・気持ちわるい・・・。」
誰に言ってんのってそれは『もう、乗せられてもふいんきだけで』飲むなって自分への戒めと言って言い様な、そんな些細な呟き。
「何、二日酔い?まさか、グラス二杯で?」
「──!う、・・・うわぁっ!」
ここ、雪豹の恵み亭にやっと昨日の日暮れに部屋を取れて、それから少し京ちゃんとお酒を飲んで部屋に帰り、草のクッションで作られてるマットの敷かれたその上にきちんとシーツの張られた綺麗なベッドに向かって、ドアをちゃんと閉めたのを確認してからすぐ、ふらふらと倒れ込んで寝ていたわたし。
二日酔い?
それは朝になって言う事だったんじゃなかったっけ、違うかな?
ん?
それは、こっちへ置いておいて・・・、驚いたよ!寝惚け眼を曲げた人差し指の関節でなぞる。
何で・・・そこに京ちゃんが居るんだろ?
普通はドアを開けて入ってくるものなのに。
よろい戸を下ろして無い窓からは外の風景が見える。
まだ日が昇ってなくて群青とか紫とかそんな色に染め抜かれた遠い空の色。
月明かりはあって、千切れたみたいに纏まってない雲が所々に散らばって見えてて。
視界の下の方には、高い塔が見えたり背の低い一軒家が隙間無く整然と並んでいる。
そんな外の景色を背景に、窓の縁に片膝を付いて部屋に入り込もうとしてた京ちゃんと瞳が合った。
うん、・・・確かに京ちゃんの声がしたから声の聞こえた窓の方に寝返りを打ったんだよ、それは認める。
だけど。
えーと、いや、まさかホントに京ちゃんがそこに居るなんて思わないじゃん。
「・・・。」
「・・・。」
お互い黙って見詰め合う。
ほんの瞬きをするくらいの時間、わたしが見詰め、わたしの瞳を見詰め返してくる金色の瞳。
「えへへ、何?何か言いたい事ある?聞くよ、わたしで良いなら。」
「・・・え、・・・何で窓から入って、・・・それより何でここに居るの?」
沈黙に耐えきれずに先に声を上げたのは、京ちゃんの方で。
二人とも、同じきょとんとした顔をして見詰め合ってたんだって思う、だってわたしはそこに京ちゃんが居ると思わないし、京ちゃんは京ちゃんでまさかいきなり瞳が合うなんて思ってはいないだろうし。
そしたら京ちゃんの、きょとんとした表情がもにゅっと緩んだ、プリンみたいに。
連れてそれを見た、わたしの頬も緩んでくのが解っちゃう。
「それは、用があってに決まってるよね?飲み込みの悪い子は嫌いだよー?」
「無茶苦茶だってば、それ。・・・あっ!」
気付いた。
なんかスースーするなって思ったら、・・・服を着てない。
砂埃の付いてるはずの上着も、汗まみれで匂いそうな服も脱いで上は下着だけ。
下はスカートは穿いてるけど、ゴムみたいなタイツは脱いだまま脱ぎっぱなし。
──!今、瞬間的にわたしの脳裏を掠めて行った思考は、『こんな格好でわたし、京ちゃんの夜這いにあったら耐えきってわたしは、わたしの、わたしをっ! 守り切れるの?』だったり。
ビ様「あちぃな、ヴィシャス。」
ヴィシャス「そーですねー、ビー様。水浴びでも、しますかぁー?」
ビ様「おいおい、ヴィシャス。・・・今、エロい瞳であたいを見てたね?そんなに──溜まってんのかいぃー?いくら何でも、オイラに熱上げ出したら人生やり直した方がいいと思うんだ。」
ヴィシャス「・・・いやっ、自分でもビックリします。見た目だけなら、・・・ゴクっ(生唾飲む)掛け値無く絶世の美女なんですけどねー。」
ビ様「ふん・・・(白い目でヴィシャスを見ながら)配下にとんだホモォがいたもんだ、オイラ悲しいよ。」
ヴィシャス「──っ!正常ですっ、(ビ様の服のはだけてるのを指差し)正常ですよっ!外見が、いまっ!そんななんですよ?ビー様。」
ビ様「おっ!忘れっちまってたな、オイラ。ん?(ニターっと笑って)──こうか、これが、いいんだろ?堪らないんだろ?(胸元やスカートをチラチラとめくって)」
ヴィシャス「もう──耐性つきましたっす。(真顔でビ様を見て)」
ビ様「なぁんだ、つまんねーえなっ!」
ヴィシャス「さぁーて、ビー様はほっておいてっと。いつものをやりましょうか、ガサゴソ。(メモを取りだし)」
ビ様「むぐむぐ。(肉串をほうばる)」
ヴィシャス「ベベベ団は我らに尽力してくれる配下を募集している。報酬は、その・・・頑張りに見合っただけの額を払うので、力をもてあましている優秀な人材がベベベ団に加わることを強く、我らは望んでいるっ!」
ヴィシャス「では。」
ビ様「またなー!」