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餌に時間は掛けない──でも、楽しめるだけ楽しませてよね、ね?ね?

頭にドクドクと音を立てて送り込まれる熱のこもった血液。

それとは逆に驚くほど冷静に、澱み無く澄んだわたしの思考。


黒ずくめで黒翼なんて、正義の味方・・・じゃないけど、弱者の手助けをしてきた七日間、それがあったからってわけでも無いなって思うよ、でもわたしがわたしじゃ・・・無いみたい。


こんなに熱くたぎってるのに・・・それでもまだ冷静に、手加減出来る自信があるもの。


だから、ゆっくり裏路地に出るんだろう入ってきた扉と逆の扉に手を掛け、振り向いて黙って挑発したんだ。

今は賑やかになった、店内の喧騒にかき消えた殺気をたぐりよせて、絡み取る為に。


やっと泊まれる宿を見付けたんだから、その宿を叩き出されるかも知れないのに、宿が運営してるかも知れない宿の一階にある大きめな酒場の店内で、わざわざ騒ぎを起こすバカとはわたしは違う、はず。


外なら良いでしょ、宿の、酒場にも迷惑にはならない、と思うんだけど。

どうかな?


そしたら、時を置かずにガシャンっと音がわたしの視界の右手奥から聞こえて、見るとひっくり返ってるのはそこそこ大きな、4人掛けの丸いテーブル。


店内がざわざわと別の意味で騒がしくなる、やっちゃったかなあ、接客してくれたウェイトレスさん達からも冷たい視線が刺さって痛い。

転がったテーブルのその傍にはイカツ顔のきわ者ぶった、破れた袖から飛び出す二の腕に血管がびっしり浮かび上がるがっしり体型の男が一人、どっかりと椅子に腰かけてる。


ぱっと見だけどね、秘孔を使いこなす七つの傷の男が出てくる、有名なあの作品の雑魚キャラっぽく、わたしの瞳に映ったんだけど大丈夫かな?

ホントに雑魚だと、ヤだな。


筋肉隆々なマッチョって、技術も空っぽ、戦術もなんもなくて駆け引きとか無しにただ力押しってそう思えてね、ゲーテとか最初そうだったし。


と、一切関係ない無駄な詮索は止めにして、コイツがテーブルを蹴りあげて倒したのに間違いないと思う、だって、わたしの視線に気付いて立ち上がる。


釣れたけど・・・酒場にとっては迷惑な事になっちゃったか、ま、いっか。

愚か者が釣れた♪


あれ──!違う、こいつじゃない・・・。


さっき感じたネットリと全身に絡み付く、嫌な気配の強い殺意は・・・。


まぁ、いっか。



さっさと片付けて引きずり出してアゲルから──!









「いつでも良いわよ?掛かってきて、どうぞ。結果は解ってるけど、あなたじゃあね?」


わたしが思った通り、握っていたノブを回して足を踏み出すと、裏寂れて人通りのまったく無いそこそこ広めの路地に出た。


愚か者を痛め付けて、いたぶっていたぶって、血へど吐かせるのにうってつけの酒場の裏口。


あるのは、最初目についたのは腰の高さくらいある大きな酒樽が幾つかと子供が4、5人入ってそうに膨らんだずだ袋、これにはきっと空の瓶でも放り込まれてるんだと予測。


わたしに挑発されてのこのこ付いてきた男が3人、テーブルを蹴飛ばした男と増えた二人はその仲間だと思う。

特に特徴あるってわけでもなくて二人の特徴をあげるとすれば、普通過ぎるくらい普通に服着てパンツ履いて歩いてって事が特徴なのかな。


こんな普通なナリの人、わたしに絡んでくるわけ無かったし、どっちかってゆーと視線が合ったら逸らされて終わりって部類、マッチョって味方がいるから自分も強くなった気がしてるのかしら?


見た目通り、小者にぴったりね。

くす、でも勘違いで痛い目に会うんだから、カワイソ。


「──死ぬ?ねぇ、死んでみる?お前も、お前も、お前もっ!」



結果から言うと、三人合わせてもとんでもない雑魚で。

舌打ちしたくなるのよね、ひ弱で、フラストレーション余計に溜まるわ、特にマッチョ。


こいつ、とっても胸板も厚くて肩幅も大きくて丸ごとゴリラって感じでゴツイのに、体つきだけは。


特に駆け引きがあったわけで無くて、殴り掛かったマッチョがゆるりと躱したわたしの手抜きの右ストレートを食らって、反対に無様にワンパンでドサッと地面に転がるのを見て、一人は逃げ出したから樽を持ち上げて頭を狙って叩き付けた。

今はゴリラ顔のマッチョ、背中をヒールに踏みつけられて、わたしの足の下に。

思った通りの力押しってだけの展開に、あくびを噛み殺さなきゃって苦労しちゃう。

あ〜あ、退屈。


「ば、化け物!」


化け物?

弱いのを棚に上げて、化け物って、ふふ。

わらえる、嗤えるわ。


「エルフがこんなに強くなるはずがっ!」


ほざくだけほざくがいいわ。

瞬時に声だけいっちょ前の残った男に狙い澄まして近寄り、上段の射程に捉えるとブンと左足を軸に後ろ廻し蹴り。


カカトが男のこめかみにめり込むミジィッと言う音が、わたしの耳に届くと同時に気を失ったっぽいのよね、なっさけない。

小者はやっぱり、小者。


思えば、そういえばゲーテって、まぁわたしを舐めて掛かってきた割りに中々もった方だったのね、普通で中身からっぽの小者と比べたらゲーテもジピコスにしたって少しはできてたんだし、比べちゃ可哀想かな。


ふっと頭を過った思いを軽く首を左右に振って揉み消し、視線を戻すと崩れ落ちた男の耳の穴は当然、鼻、口もとからもつうーっと流れ出てくる血。


「ひいいっ。」


一瞬、場が静まった後。

その光景を視線に捉えて投げた樽に潰されてた男が叫び声・・・悲鳴を上げる。


その後、視線がわたしと重なったらこれ以上ないくらいにカァッと瞳を開いてその場に固まり、股間に染みが広がっていく。


あら、漏らしたの?そんなにわたし、怖かった?

大した事無いと思うんだけどなー♪


次の瞬間にはもう、わたしの視線は薄汚い石畳に片方の頬を擦り付けたままの、ゴリラぽい男の怯える瞳を捉えている、鋭く睨む?


ううん、違って、逆に満面の笑みを届けてあげるの、退屈過ぎて楽しめて無いんだけどね?


「う、ぎいいいっ!!!」


カツカツと近寄って汚く(あぶく)を吐き出すゴリラ顔の惨めな様を目に下とす。

獣化するつもりなら待ってあげる?

ザンネン。

このひとくくりで雑魚って言える、餌にそこまで時間掛けたくなかったりー。







今日のわたしの足下を飾るのは、鈍い銀のダブルバックル付きの黒いハイヒール。

力一杯、男の横顔を蹴飛ばしてから踏みにじる度、ゴリっ、ゴリっと骨の軋む音が足の裏の更に下、ヒールが刺さった名前も知らない愚か者の頬から聞こえ、骨が奏でる音にさえ心地好さを感じたわたしはクスッと笑った。


わたしを見る、足下の愚か者の怯えてすがり付くような視線を、押さえつける様に見下ろしながら昂っていくのが解る。

敵わないと気づくのが遅かったわねえ?


やがて、ゴギンッ!と痛々しい音がして足下の男の頬骨が砕けちゃった、あはは♪


「──お前の全力とか興味無いんだー♪だってね、餌に過ぎないんだから、とか言ってみたりしちゃったり。ねえ?」


頬骨が砕けた男は意識が飛んだ。

それに気付いたけども、ヒールは刺さったまま。


足下に目を落として見詰めながら、頭に浮かんだままの言葉を頬の辺りが形の変わっている男にぶつけていた。


すると少しの感覚も空けずに、禍々しく強い殺意がわたしに刺さる様に向けられて、


「そーのへんに、しといてくれよ。頼むわ。」


餌に食い付いた。

何度も何度も繰り返し、わたしをイメージの上で殺しているんじゃ無いのってみたいに、余裕たっぷりにその男は現れた。



雑魚でした、雑魚でした、雑魚でした・・・。


獣化もさせて貰えないくらいに、雑魚でした。

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