祭りを満喫した後で。
「何かー、わたし!寂しいコみたいじゃんかっ!」
デュンケリオンに着いて、門を抜けるとそこは賑やかな商店街。プラス、お祭りみたいにずらりと屋台が並ぶそんな光景が広がっていたんだ。
どことなく、日本とは全然違うんだけどなんか懐かしい、そんな風景。
ゴミみたいに人がうじゃうじゃ湧いてて、喧しいくらいに騒いでて、お腹に優しくない美味しそうな匂いが漂ってきて。
そんなだから、わたしもリミッター外れて、普段の緊張も解れて思いっきり火燥いだ、うん、ゆるゆるに緩み切ってたね、多分。
付き合わせた凛子には悪かったとは思うけど、通りの端から気が済むまで屋台を廻りに廻って満喫しちゃった、お祭りみたいな屋台の群れを。
がじがじと甘辛なタレたっぷりの肉串片手に紐くじとか、串を咥えてスリングで射的とかね。
あ。的の景品、瓶とか無いよね〜スリングじゃ、当たったら割れるでしょ。
そうそう。
他にはねー、ピラニアみたいに凶暴だけど金魚くらいのサイズなレモって魚掬い。
ちゃんと糸を格子状に張ったポイを使ってるんだけど、なにぶん凶暴だからさ、糸くらい噛みきっちゃって一匹も掬い捕れないとか。や、でも楽しめたからそれはそれで悪くないのよ?
あ、これじゃないな感が漂ってたのは輪投げで。
結果から言うと、まあまあ楽しかったんだけど、スライム状の触手型モンスター使うのは詐欺だと思うのよね。
間隔の開いた5つの穴から触手が出てて、通った数に応じて景品があるんだけど、輪が入りそうになったら触手が避けるんじゃ輪投げになってないじゃない・・・。
気持ちがふわふわしてたわたしだって、流石にこの仕掛けにはイラっ!
凛子には止められてなかったら、キレてあのスライムをブッた斬るとこだったりね、お祭りなのにあぶない危ない。
そう言えば、メサイアが広めちゃったのか、それともクドゥーナがここに居た頃売ってたりしたのかも知れないんだけど、焼きそば擬きが売られてて思わず買っちゃったのよ。
小麦粉擬きがあるって知ってるから作れない事無いの解ってるけど、屋台の焼きそばとかうどんにはちょっとわたし、うるさい・・・そう、ちょっと辛口評価になるとゆーか。
うーん、クオリティがイマイチ。
カツオ節が無いのは諦めるとしても、もっと麺はもちってしてそれでいてカリって焼けててもいい。
火が弱いのかな、均等に焼けてないのかな。
そもそも麺がダメなのかも、何だこのふっとい麺は!
う、うどん?焼きそばじゃなくて焼きうどんだったりするの?
野菜の量がまちまちなのは、屋台っぽさが出てていいけどさぁ。
焼きうどんを焼きそばって言い切るのはどーかな、と思うわけですよ、わたしとしては。
屋台を満喫し終わったら、他の通りに移動してアクセサリの路上売りに足を止めて、衝動買いをしちゃったりするのもお祭りの醍醐味?だったりするわよね、ね?
その後も周りの商店の冷やかししたり、マナショップでちょっと財布に優しく無い買い物に踏み切ってみたり、武器屋、道具屋をハシゴして足りないものの補充したり。
思い出すと、とても穏やかで充実した一日だったわよね。
「あ。このチーズぽいの、酒にバッチリ合う♪」
凛子が逃げるように酒場の扉を閉めたのを見送ると、なんか淋しくなっちゃって。
グラスに残ったお酒、グイッと一息に飲み下す。
追加で、ここのチーズを頼んでみた。
ウェイトレスさんも可愛いの揃えてて、瞳に優しい。
頼んでみたチーズを運んでくれたのは、茶色の丸耳で黒縞の入った尻尾のあか抜けない感じなウェイトレスさん。
聞いてみるとなるほど。
タヌキの獣人らしい。
タヌキのウェイトレスさんがテーブルから離れてから、わたしを見る周囲の視線が痛いのは気のせい、きっと。
・・・空のボトルがひーふーみー、あらら、15本。足元にも転がってるから20本越え。
コレ見て震え上がってんのかしら?って思ったけどちょっと違うぽいわね。
好奇の視線が強いけど、それに混じって殺気を孕んだ視線がある。
そこまであってわたし、気付いた。
ふと、自分の手を見て。
あ。今、シェリルのままだった、何のためにここに辿り着くまで大活躍をしてきたのよ、黒翼が!って。
何にしてもこれは・・・面倒ね。
性悪エルフかぁ・・・。
そこまでの悪さした覚えないんだけどなぁ・・・。
思いとは逆に、殺気を孕んだ視線が増えてく、一つ、二つ。
そして我慢しているわたしの心の奥底では、ふつふつと沸き上がってきていた。
殺気立ってるオモチャを、いたぶるだけいたぶって嬲り、バッキバキに捻り潰して、地面に首立てにブッ刺してから反省を促して、そこから更に更に、たっぷり謝罪させた上で殺気をぶつけてきた理由を聞きたいと言う、ほぼ八つ当たり染みた思いが。
最後になったチーズを手に取ってあんぐっと口を開いてチーズを引きちぎって噛み潰す。
今夜のオモチャも同じようにぺちゃんこに潰して、喰ってやると頭を過らせて。
ぱらぱらと散らばって殺気混じりの視線がわたし、笹茶屋京こと、2つ名には性悪エルフって勝手に呼ばれてる、長い黒髪のハーフエルフに向かって刺さって来てる中に一際、強い殺意を込められた視線が混じっていたんだ。
東の門の大通りからは離れている枝道の何処かに今泊まってる宿、雪豹の恵み亭はあった。
昼間から賑わっていたかは知らないけど、酒場付きで面倒が無い、わたしに取って良物件、出歩かないで済む宿。
倍額取られて、ちょっと涙目、仕方ないか!シャダイアス連れ。
シャダイアスって言えば荷方としてもビミョーに使われてるけど、モンスターと変わらない、時には人に反撃してくる種類の肉食、猛禽だものね。
結局、この宿にするなら最初から倍額出して決めれば良かったのよ、他にあるはず、なんて甘い考え覗かせなきゃよ?
グダグダ枝道をあっちこち引き返したり進んだり、迷ったりしながら宿探しする必要なかったんだもの。
・・・、はぁ。
疲れてるけど、アッチはわたしに気に食わないってサインを送り続けてるんだから・・・、引く訳ないんだけどなぁ。
やるしか無い、か、ううん・・・、楽しませてよね?
やる気になってきた。
腹ごなしと思えば、何てこと無いわよ。
どこのどいつか解らないけど、まだね。
すぐに後悔させてあげるわよ、生きているって事を教えてアゲル♪