成長。忘れるもの、気付くこと
「──え?ぜーんぜんそんな事無いよっ!京ちゃんはスッゴく可愛くて。頼りになって、それに・・・」
俯き直ぐまま京ちゃんに対しての言い訳。
俯いた時からズキズキして、でもドキドキして、やっぱりキリキリする心臓。
御世辞にも聞こえたかも知れないけど、御世辞じゃない。
わたしが普段から京ちゃんに感じていること、感謝とか、それでも。
「ん。もういい。解ったから。」
わたしの続ける言葉はすっぱりと遮られて、京ちゃんの見せる雰囲気とゆーか、プレッシャー?に圧し負けて小さくなり、出て来なくなる。
「え?ええ?」
オーラ怖いんだけど・・・。
その時。
京ちゃんの背に突然、闇!と言っていいくらい黒々とした炎の様なオーラが、現れた様にわたしの瞳に映し出されてカミソリの刃で全身を少しずつ、少しずつ刻むようなチリチリとした痛みが。
変だな、ホントにあるわけじゃ無いのに痛むなんて・・・。
「ま。・・・酒飲んで暴れて、・・・騒いでる姿見てたら、はぁ。・・・ダメな大人に見えるの解る、のよ。」
「う?うん。」
ほんの少し前まで、凄く可愛く見えた京ちゃんが今はもの凄く・・・怖い。
背に映った黒々としたオーラもそうだけど、落ち込んで?キレて?
嗤った顔が超怖い。
少し、ううん、かなり引いた。
「でも、・・・そんなに年くってないわよ?酒が飲める様になったってだけでー、・・・ぶつぶつ。」
「う、うん・・・。」
ドっと全身に吹き出す冷や汗。
気にしてたのって、そっか・・・、年上って事。
大人だから京ちゃんが居てくれるだけで頼もしいって言いたかったけど、・・・またにしよ。
火に燃料を注がなかったらいつか消えるはずだし・・・。
「おっ。あのアクセ可愛いー!」
「ど?似合う?」
「うんっ、キレイだね。似合ってるよー、とても。」
「そか、お世辞でも嬉しいかなー。凛子にそう言われちゃうとー、このペンダント買っちゃお。」
あの後、あからさまに落ち込む京ちゃんを宥めて、慰めて。
隙間を見つけてすり抜ける様に路地を抜けて、一つ隣の通りへと足を進めたわたし達。
路地にも勿論、屋台が出ていてヒトの波だってある。
そんな歩きづらい路地を抜けると、少し落ち着いた雰囲気の通りに出た。
落ち着いたと言っても、人混みが少し晴れたくらいで特に何も変わってない気もしないでもない。
それでも食材の匂いが漂ってこないっていうとこは大きく違うのかな。
相変わらず人混みの喧騒に混じって、売り込みの呼び込む声や『今に限り!』とかの殺し文句が聞こえてくるのを他所に、わたしと京ちゃんは一つの屋台に目を引かれて、吸い寄せられる様にその屋台に足を止める。
銀や、金や、鉄製の、金属で出来たアクセサリを売る屋台が多く、この屋台も他所と同じで台の上の防犯上なのか、高級っぽく見せたい演出上なのか、硝子っぽい透明なケースの中で色とりどりの宝石や、なんと無くっぽくしかまだ解らないけど幾重にも魔力を練り込んだ《魔宝具》アミュレットなんかが売られている。
「わたし、この青い指輪にしよっかな〜。ホラ、見てみて。」
瞳の横に並ぶように翳してみる。
「洒落てるわね、似合うんじゃない?いいと思うよ。」
「へへ、ありがと。」
あ。お金が無いんだった・・・。
京ちゃんに似合ってるって言われたし、凄く欲しくなっちゃったのに。
正確には少しは魔石とか、泥したアイテムを売ったりして貯えはある、けど・・・宝石は買えない、どうしてこんなのが3.5万グリムもっ!
結局、・・・こうなる。
わたしが欲しがってるけど買おうとしないのに気付いた京ちゃんにサッと手の中から掴み取られて、
「まいどありー。」
そう言う白髪の店員のしゃがれた低い声が耳に届いた。
と、同時にわたしの掌に返ってくる青い宝石の付いた指輪。
・・・京ちゃんのと代金を纏めて払われちゃったみたいで、掌から京ちゃんに視線を移すと視線に気付いた京ちゃんが早速、首から提げたペンダントのトップを見える様にチャリ、と音をさせて持ち上げてからウインクして見せた。
「次っ、マナ買おう。」
「え?ええ?」
屋台を離れて歩き出すと少し機嫌がいつもより京ちゃん、上向いて来たカンジ。
良く解らない鼻歌なんてしちゃってるからそう思うんだけど。
何かキョロキョロしてるなー、なんて思いながら後ろ着いていってたら急にそんな事言い出す。
思わず、苦笑い・・・頬がヒクヒクっと強張るの解っちゃったけど、そのままで聞き返しちゃったけど京ちゃんは振り返りもせずスルーしてどんどん先に進んでく。
「ちょ、ちょっと!待ってよー、京ちゃん。」
マナって。
そんなお金無いよ?
「中級って感じのマナショップね。これなんかどう?浄化だって。」
「た、高いよ?」
「買っちゃう?出すわよ。」
「夜が怖いんだけど・・・。」
少し物色するみたいに通りを歩いてから京ちゃんは、一つの商店に入っていった。
確か、看板にはこう書かれてた、《ゾシロ魔道具》。
で、中に入ると腰の高さくらいの透明なケースが6畳くらいの店内の両側に並べてあって、それと同じ高さの透明なケースはカウンターと思われるトコまで続いてる。
ケースの中ってゆーと、カルガインでヘクトルと見た、あの同じ感じで赤かったり、青かったり、色々なマナが整然と並べられていてざっと効果と値段が提示されてる、どれも高い。
わたしには。
「良く抱き枕になってもらってるし、そっちのお礼も込めて、ね♪」
「勝手に入ってくんなー!」
今夜の事を心配してケースの中のマナの値札から、きっと青い顔をしたままわたしが京ちゃんに視線を移すと、待ち構えたみたいに視線がぶつかる。
すると、京ちゃんは嫣然と表情を変化させて上唇をペロリ、舐めてから口を開く。
何か思い出して脳裏に浮かんだのか、頬が朱を引いたみたいに徐々に真っ赤に染まっていった。
わたしの批難の声も、京ちゃんにはそよ風ほどにも伝わらないみたいで返事はなくって、かわりにニコニコ嬉しそうに楽しそうに可愛く笑う。
買い物をしてるとそれだけで楽しくて仕方無い、って人種なのかも知れない、京ちゃんてば。
「アハハハ、あ・・・。これ、良く無い?てか、スゴくいい。」
「値札無いから、絶対高いよー。」
笑顔のままで、買い物してるだけでテンションアップしてる京ちゃんの指がケースの上から指していたのは、黄色い色のマナ。
良くよく貼られている値札を読むと。
エリアヒール・複数に纏めてヒールの効果。
って書かれてあった。
こんなのを買っちゃったら、京ちゃんに弱味を握られちゃうじゃんかぁ〜!
「ヒーラーを充実させるのが一番の安心でしょ?ねー。わたし、お金あるのよ♪」
「知ってる、知ってるけど。」
京ちゃんがそう言うのも解るし、助かるし、万歳なんだけど簡単に万歳出来ないのは、京ちゃんの性癖とゆーか固有の性格とゆーか、でもそれは京ちゃんに対しての恐ろしいとか怖いと言う感情じゃなくて、・・・流されて取り返しの付かない道に、足を踏み入れちゃいそうになるかも知れないわたしの事を怖がってる、恐ろしい、・・・ううん。
だらしない、気持ち悪い・・・。
頼りきっちゃって、依存しちゃって、どうにも脱け出せない深い穴に引っ張り込まれてる感覚あるのに、断れない。
・・・お金さえ、あれば。
「うゎ・・・買っちゃった。」
結局、エリアヒールはわたしがまごまご考えてる間に、いつの間にか代金をささっと京ちゃんが払ってて掌の上に有った。
成金、金持ちめ・・・。
買う、なんて言ってないし欲しいとか言ってないし。
はぁーっ、溜め息を一気に吐き出す。
買っちゃった、買っちゃったよ・・・、エリアヒール。
「お礼は?」
「ありがとう?」
促されてお礼を言うけど、どこか夢見心地でふわふわしちゃって、地に足が着かないとゆーか何て言えばいいの?
京ちゃんに心臓鷲掴みにされた気分。
あの、カルガインの岩風呂でわたしに迫った京ちゃんを思い出すと、
『金払うから。凛子の体も、心も、全てわたしのモノになっちゃいなさい!』
そう言われてる気がしたのは気のせいじゃないはず。
あくまでわたしの中にある京ちゃんのイメージでしかないけど、つまりそう言う事になる。
満足っぽいニコニコ笑顔の京ちゃんを見て、ぞわっと全身が戦慄くのを感じた。
「ふふ、宜しい♪」
そう言う京ちゃんを見て、サァァっと直前の緊張が解れ、腰から砕けそうになった。
そういう顔も出来るんじゃん。
どうにも京ちゃんの柔らかい笑顔って、怖いイメージあるけど・・・今、頬ゆるゆるに緩ませてる京ちゃんからはそう言った意味じゃ威圧感のような感覚は無い。
純粋に買い物を楽しんでいる京ちゃんからは、敵をめった叩きにしてる時の蠱惑的な微笑いじゃ無い、それとは別な・・・さっきも感じたけどどこかキラキラした同年代ぽい、思わず人を惹き付けるカンジの感覚。
とか言って、脱力してゆるゆるになった京ちゃんを中々見る事って無いんだけどね。
その後も通りに沿って武器屋などその辺の商店もウインドーショッピングと洒落こんで、さ。
ただ冷やかしてるだけって、それは違う。
必要そうなのは、買ったもん。
それに。
京ちゃんは京ちゃんで何か買ってたみたいだし。
「矢束も、オプションも買ったし、これで凛子ちゃん、まあまあの半人前ってとこね。」
オプションてなぁに?
矢束・・・わたしがバトる上で最低限必要なものだもん。
そりゃいくつか買ったよ、買いましたともさ。
「ははっ・・・、半人前で・・・、すか。」
「一人前はカンストしてから。だから、ね。」
半人前かぁ、もっと強くなりたい、京ちゃんに頼られるわたしになりたい。
あ。京ちゃんだけじゃ、なくって、その・・・、仲間に頼られて背中を任せて貰うくらいに成長したい、そーゆー意味で。
他意は無いんだから。
そんな事を思いながら、ぽつり呟くとそれを拾って京ちゃんが返答する。
声に気付いて京ちゃんの瞳を見ると『、ね』の前にウインク一つ。
「カンスト、それって遥か彼方だよー。」
ジョークっぽく返したけど、カンストなんて今のわたしにはホントに遥か何処か彼方にあって見えそうも無い気がして。
「暗くなる前に、悪くない宿さがさなきゃ。」
「庭が広いとこがいいな?シロイ居るし。」
京ちゃんに手を取られて握られちゃう。
やらかい手。
こんな手でいつも、わたし達を守ってくれてるんだな、って思って不思議。
でもそうだ、いけないいけない。
わたし達のこの体は、何かのダミー。
決して現実のわたし達を形作ってるものじゃない。
そんな脳裏に浮かんだ事とは全く関係ない言葉で返して、通りを戻る。
・・・決して、・・・決してアスミさんを忘れ切って楽しんでた訳じゃないんだもん。
寝かせてあげようって親切心なんだもん。
って、自分に自分で言い訳するけど。
いつの間にか、ホントにあっと言う間な、いつの間にか。
もう陽は傾き始めて、まだオレンジ色には早いけど、すぐ夕暮れが街を包んでもおかしくない、そんな気がした。
ホントに、アスミさん・・・忘れててごめんなさい・・・。
陽の低さを見て、いたたまれなさから、そう心の中で門の前に放ってきた仲間の顔を思い出して心の底から謝罪した。
あー。一日って過ぎるの速いや。
ビ様「突然だけど、ここはオイラが乗っ取ったよ。おーい、ヴィシャス。肉串もってこっち来ーい。」
ヴィ「ビー様、いいんですか?こんな勝手して。あ、これ肉串もって来ました。」
ビ様「いーのいーの。出番まだまだ無さそうだから、アタイらはこーやって草の根活動しなきゃ、よ。」
ヴィ「べべべ団の活動は一応、順調ではありますが。こんな隅の隅で活動して何か効果があるとはとても思えないんですがね。」
ビ様「んむんぐ、それは違う。オイラが思うに、最高の仕掛けは見えないとこから動いて、締める時にちゃんとシめるもんだって思うんだよなぁー。んぐ、そうじゃなくっちゃつまんねえよ。」
ヴィ「食べるか、喋るかどっちかに集中してくださいよー、ビー様。食べカスが俺の顔にね?」
ビ様「お。悪い悪ぃ、悪かったね。もう一本いっていいか?あたしゃ、この串に目が無くって。」
ヴィ「ビー様、そろそろテープチェンジのようですよ。肉ばっか喰ってないで、ちょっとは活動しましょうよ・・・。」
ビ様「ようし。活動してやるか、カメラこっちか?──コホン!我がべべべ団は有能な配下を募集しているぞっ、これを見てぴんと来た奴居たらオイラの店に来てくれ。なぁに、面接とかまどろっこしいのはいらねえよな?な、てわけで若干名の募集をしてんだよ、あたしゃ。あ、報酬は毎日肉串3本出すよ。これで、食いっぱぐれも無いだろ?あ、それに・・・」
ヴィ「以上、べべべ団からのCMでしたっ!」
ビ様「おまえらの応募を待っているっ!」