あれから10日経って....
「着いた・・・。」
「思ったより、遠かったわねー。」
「・・・ゼェー、ゼェー。肉、肉っ!」
あれから。
イライザ率いる査察隊がオーク達に強襲されて、そのオーク達を束ねていたオークキングの討伐を無事終わらせたあの日から、10日が経って。
えーと、10日。
色々、ホント色々あったんだよ、うん。
あんまり、わたしには関係無いんだけどね。
京ちゃん、性悪エルフの通り名が一人歩きしちゃってるみたいで、さ。
村を出て、初めて着いた村っていう規模じゃ無い集落でも、はたまたラミッド手前のそこそこな街でも、京ちゃん、姿を見られただけで相手の表情が一瞬で青い顔に変わって逃げられちゃう。
酒場や宿でもそんなカンジで『お代はけっこうですから、殺さないで・・・』的な、なんだろ、悪名?
黒髪のエルフに凄い恐怖抱いてるのね、行く先々で会うヒト会うヒトに目線を逸らされてるの。
京ちゃんてば。
あーそうそう、───ラミッド手前じゃ盗賊退治にそーいえば手を貸したりとか。
あったんだけど。
京ちゃんの姿を見るなり、盗賊団のほとんどが降参しちゃって、とか。
有名になっちゃダメって言ってる当人の京ちゃんがだよ?
姿見せるだけで、盗賊団が降参って、そう。
まるで・・・あれ、ミト門の印籠みたいじゃん。
それっ。
凄く、スゴく有名になっちゃってるって事だよね。
そーゆーのコミコミで今、わたし達の格好ちょっと変。
京ちゃん、本気モードの時着用の黒い異形の鎧。
それに、顔も見られないようにミラーシールドフェイス付きで、中を覗き込まれても大丈夫な黒いコレも本気モードに被るフルフェイスヘルメット。
更に宵闇色のマント、内側は紅色になってて・・・全身揃えて見ると、コレって。
もしか、○ーシュ?
的な、ね。
あ。でもでも、京ちゃん、人を瞳合わせただけで操ったりしないし、他のどんな事しても操れたりしないし、そもそも操るより京ちゃん自身の拳なり、剣なりで切り開いていく方が好きみたいだし。
こほん!気を取り直して・・・コレは、通り名も用意してて『黒翼』。
既にここ5日で黒翼を名乗って、京ちゃんは悪人退治とか、困ってるヒトを助けたりとかやっちゃってます。
有名になっちゃダメなんじゃない?
京ちゃんに言ったら、さ。『性悪エルフより有名になるのが狙いなのよ?もっと、今ならもっと。人助けでも何だって黒翼の名が売れるなら、しちゃうわ♪』
・・・だって。
だからってなんで。
わたし、こんな格好、ちょっと?
白いフードに、白いケープに、白いマントに、更に白い眼鏡に、トドメに白いロングブーツ。
白いマントは弁慶の辺りまでスッポリ!
黒と白にしましょう。ってのは解るけど。
おかしくない?変じゃ、無い?
クマーこと、アスミさんも手持ちの和服ってゆーか、和装?
真っ赤な着流しで、中着も着流しよりちょっとだけ抑えた、赤。
着流しを纏める帯だって深紅色。
赤、赤、赤。
えーと、わたし達って何してるの?
何かの戦隊モノだよー、これじゃまるで。
そんなかんなってワケでも何でも無いけど、目指してた場所に着いたんだ。
わたし達は。
門番は居ない。
え?
辺りをキョロキョロ探して見たけど、やっぱり居ない。
ちょっとそのまま後にバック、ギギギと首を傾ける様に45°後ろに倒して、遥か上空を見上げる。
大きな雲、小さな雲、様々な雲がふわふわ流れていく。
風は吹いているけど、いつも通りそんなに強くない。
青い、どこまでも蒼い澄みきった空。
陽はまだ昼前だから、なかなかフードの隙間から差し込んでくる、照りつける陽射しがキツいなぁ・・・フード無しなら日焼けしてたかも。
ううう・・・お腹空いた・・・っ。
と、いつまでも現実逃避ってしてられないので目に映ったモノを説明しようかな。
うん、──壁。
壁だね・・・高い高い壁が見える。
ビル10〜15階分は有りそうな高くて頑丈そうな壁。
中に巨人が眠ってたらスゴく背が高いね、その巨人って。
に、しても壁があるから安心?
平和ボケてるの?
門番くらい居ないとダメなんじゃないかなー、パッと見、街道沿いの街や村では常駐の当番や門番役の為の詰所が門の外にこじんまりとだけど建ってたりしたものだけれど。
この門には詰所も、門番らしきヒトも居ない。
通用門らしいから、別にも門が沢山有ってそっちには門番がいるんだってしても・・・無用心だと思う、とても。
通用門ってくらいだから高さ、横幅制限がなかなかあって高さは馬に乗ったままじゃ入れなくて横幅は3人並べないくらいの。
それでも、通用門は綺麗なアーチを描いて石橋を型作る様に輪石が積まれて、真ん中に要石が填められて頑強な作りをしている。
輪石の厚さはパッと見1㎡くらい、それが門の中に入って下から覗くと3つ並んで見える。
組んだ輪石が1つ崩れてもアーチ状の門が完全に崩れない為に念を入れて作られてるのかも知れない。
この見るからに重そうで、しっかりした壁石をヒトの力だけで整然と積み上げた・・・わけじゃ無いよね、きっと。
この世界、ノルンには──魔法が、妖精が、ドラゴンが、元の世界地球には無い“力”が存在している。
魔法は“マナ”と言う特別な結晶に納められて恐らく誰でも魔法を使う事ができる、はず。
使えてるもん、わたしが。
知らないだけで空を飛ぶ、モノを浮かす、頑強にくっ付ける的な魔法を使えるマナがあるのかも知れないな。
それくらいの生活魔法が使えたとしたら、この高い高い頑強そうな防壁を作り上げるのも無謀とは思えない、だから。
来る途中、大きな街があってそこにも高い防壁があったんだけど・・・モンスターとか、魔獣の襲撃でも受けたみたいに防壁も崩れて、街のあちこち瓦礫だらけで。
住んでるヒトに聞いてみたら、やっぱりモンスターが出て来て壊したみたいで、さ。
更に気になる事言ってたんだよね。
『閃光が走ったんだ、光だよ。』
『ピカピカピカって光って防衛壁の中も外もあっとゆうまにキレイに何にも無くなっちまったんだぜ。』
『ドラゴンが居たのよ、ドラゴンなんて今まで見たこと無かったんだけどね、誰かがドラゴンだ!って叫んでたし。』
『鍵騎士様方がいち速く来て、避難させてくれなかったら・・・て思うと、思わずブルッちゃう。ホント、怖かったわ。』
・・・ドラゴン?
ん?
閃光、光り?
ん、ん?
あっとゆーまにさっぱりキレイに何にも無くなった?
ん、ん?
んんー?
それって。
うわ、街をこんなにしちゃったのって、さ。
もしかして、もしかして、えーと・・・、ぐーちゃん。
・・・、だったりするんじゃないの?
ぐーちゃんと愛那は今どこに居て、何をしてるのかちょっと検討付かなくなっちゃってる。
いや、でも、まさかだよ。
ぐーちゃんだったとして、どーして街をこんなにメチャクチャに・・・って思ったりしたんだよね。
無残に転がる瓦礫と、踏み荒らしたぽく見えなくもない無数の穴ぼこ、そして街道って訳でも無いのに、綺麗な真っ直ぐに引かれた平坦な道。
その平坦な更地の先には崩れて破壊された防壁。
ぐーちゃんの本体が何かの事情でコントロールを失ったか、悪い魔法使い・・・ノルンじゃ誰でも魔法使いになれちゃうんだけど、そのっ・・・魔法を使って悪い事をしようとした魔法使いが居て氷の川のヒュドラぽく、そんな魔法使いに操られたぐーちゃんの本体が、暴れちゃったのかも知んないし、この惨状は。
シロイの首に、跨がる京ちゃんは少し前に居るんだけど、どんな表情をしてるか見えないけど何か思う事が有るぽくて、瓦礫を片付けてる人達を横目にぶつぶつ呟いてるのが聴こえてくる。
街の外じゃないから、シロイの速度ももっさりとしているから、聴こえてくるんだけどね。
それにしても鍵騎士様って他の街や村でも名前だけは耳に入ってきてたりする、よく知らないけど、きっとこの国を守ってる的なヒト達なのかなーって。
ぐーちゃんと会って訊けばこのモヤモヤも解けて消えるんだよ、でもぐーちゃんも、愛那も今どーしてるんだろ?
あれ?
どーしてかな、二人ときゃっきゃうふふして騒いでたのが遠い遠い昔に思えてきちゃう、不思議。
デュンケリオン到着しました。
2章の終わりの始まりです。