暗く不衛生な部屋と、ゴミの山と魔法陣
そうだな。
あれは──
「俺は、無いぞ・・・!・・・悪魔を、召喚した・・・つもり、・・・は・・・。」
震える声は丸められた汚い巻物が雑多に散らばり、何かの素材だろうか汚れた幾つもの袋が巻物に混ざって、そこら中に放り投げられたように積み重なった、とても清潔感の感じられない薄暗い部屋の中で、周りのものを押し退けて作った僅かなスペースに、びっしり書き込まれた魔法陣に向かって発せられた。
「くふふ。いいのよぉ?このままアナタ、焼き殺しても♪」
どうしてかとても嬉しそうにバイ菌的な声音で脅してくる声は発するのに、魔法陣の中から螺旋を巻く光と噴き上げる煙と共に姿を現した存在は口すら動く仕草も無く、姿がとても薄く感じられる。
そう、まるで霧の様に。
そのシルエットも強そうにも見えない、レッサーデビル程度のバイ菌型だ。
ただし、大きさは人間らしかった。
まとめると。
霧のように凄く薄い影、みたいなバイ菌型の声すら弱そうな悪魔と名乗った存在。
と、言うことになる。
まとめるとトンでもなく弱そうだな、弱いなって感じ。
「も、・・・もう、(ゴクリっ!)一度言って・・・、貰える、・・・か?」
震える声で、男は聞き返した。
緊張からか、何なのか次から次に喉に唾があふれてきて、必死に飲み込みながら。
「ふあ?焼き殺すゾっ!ってんのよ。きししし!」
人間大のバイ菌は独特の濁った機械音声めいた声音で、呆れた、イラッとしたような言葉を返して気味の悪い笑いをあげる。
「ち、違・・・。出てきた時に言った事をっ、言ってくれ!」
弱そうに見える事、レッサー的な小悪魔と思えた事で当初は取り乱していた男もだんだん、普段の自分のペースで話せるようになってきている。
まだ、自分の召喚に間違って呼び出された、レッサーデビルの親玉みたいなバイ菌型の小悪魔を見て少しビビッている部分はあったが、レッサーデビルなら何度も召喚に成功し契約する事を幾度も重ねて来ているのでそれなりに自信があった。
それが、男を少し強気にさせた原動力となる。
「へ?・・・ん、ま・・・まぁいい!オホン、喚ばれてデンデンデーン!現れてキラキ〜ラ、リンッ!忙しい身の我を、悪魔である我を喚んだのはお前かニンゲ〜ン!」
これは・・・、呼び出した男で無くても腰が砕ける、何とも気の抜けた登場の台詞だと思う。
バイ菌型もどこか恥ずかしそうなフシが見られる辺り、繰り返させられるつもりは全く無い上での口上だったみたいで、つまり、ノリと勢いだけのやっちまった!感が部屋に漂う。
「・・・。」
「・・・、黙るなよ・・・せめて何かリアクションを返して、お願いっ!」
「いやぁ・・・ははは、悪いんだがよ?」
「んーっ???」
「もう、いいから。喚んだのは悪かった。───とっとと帰れっ!用は無い!」
ビビッていたのが嘘の様に強気に出て、男はそれまでに無い口調でそこまで言うと、バイ菌型の鼻先に(あるのか?バイ菌に鼻先。)人差し指をビシぃッと突き付け、帰れと、用は無いとまで言い放った。