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嘲笑う女の声音と、継続する迷惑と、ちょっと本気出す!

イノヤとベーレッタハイムの二人の前からぐーちゃんとクドゥーナが消えた訳は。


線引きをしたようにまったいらになったマルセラドの街中、二人のさっきまで居た場所より更に南西に向かった辺りにおかしな反応があった。

いや、有り得ない反応が。


辺りに散らばる瓦礫も、好き勝手に暴れまわるワームも何もかもブレスによって削られ、綺麗に更地になった平坦な道の上を音速超のスピードで黒髪のエルフ、ぐーちゃんは翼の生えた幼い少女、クドゥーナの胸を抱き抱えて飛ぶ。


その何もかも無くなって当然の更地の上に強大な魔力の存在が、ぐーちゃんがブレスを吐き炸裂音が轟いた後に現れたから。

それはちょっと、有り得ない。


巨大な山でも形が無くなるまで容赦なく当たった部分を抉られて吹き飛ばす、そんな何物をも凌駕したドラゴンのブレスを喰らって、反動でも強大な魔力がそこに現れる事はドラゴン自身、ぐーちゃんが経験した事は無かった。


同族だろうと一瞬で削り、存在が無くなる。

それ以上の存在と言うと・・・神物なら、いち速く察して次元逃避で消え、現れたりしない。


何物をも凌駕したブレスだけに、連発をすぐ!できるようなものでも無かった。

だから直接確認しようと今、ぐーちゃんはまた気を失って白眼だけになっているクドゥーナを連れて飛んでいる訳で。


う・・・う・・・う・・・う・・・う・・・う・・・う・・・う・・・


クドゥーナの口からは無念の呻きがただ溢れて、すぐ何処かに飛んでいった。

流される様に。

けれど、尾を引いて。







そのフード姿の男は更地に渾然と立っていた。

恐ろしく歪み、澱んだマナをだだもれに溢れさせて。


何が、自身の身に起こったか。

それすらフード姿の男には解っていないだろう。

そんな事はまた後で話すとして。


ほんの少し前まで何にも無かった中空に今、みなぎるマナの塊がフード姿の男の目の前に現れた、周囲の空気をぶわんっと震わせ、砂煙を伴って。


「!──悪魔・・・!?」


音速超のスピードで確認に飛んで駆け付けた、ぐーちゃんの瞳に映った更地の上に一人、立ち尽くしている男の姿は人では無い存在となっている、そう直感させた。


ぐーちゃんはその手に相変わらず無念の呻きを繰り返しながら気を失っているクドゥーナを抱えて。


『..──悪魔、だと!?』


ぐーちゃんの声にハッと気付き突如として意識が覚醒するフード姿の男は、悪魔と言われるだけの理由を知っていた。


「イグジストッ?」


思わず、喉を突いて声に出す名前は悪魔と名乗った存在の物。


「くふふ。どうした?矮小の存在よ。」


男の口からは明らかに違う、男の声ではない高い声音の女が喋っている。

男の言葉では無いもの、男がイグジストと呼んだ悪魔が喋ったとすると納得出来る。


負の力を糧に存在を顕かにする歪な存在・悪魔。


どちらにしても、姿は見えないものの悪魔が更地になったマルセラドの街中に突如として現れた。


『なるほど。悪魔の存在を感じ取って、我が本体が呼んでいたのか。』


ぐーちゃんは地面にゆっくりと降りながら、そう思った。

世界を脅かす、バランスを著しく歪めて混沌を望む悪魔が相手なら、疑いようがない。


「同化だと? 愚かだな、ニンゲン。もう、人としての幸せは手放したか。」


そう言うぐーちゃんがじぃっと見詰める目の前の存在の姿はもう、人では無いもの。


醜く瞳は大きく釣り上がり、口は片方だけ裂けた様に大きく開いて口だけで意思を持つかの様。

見る間に腕な指な節くれ立って、大層に鋭利な鎌首ぽい爪まで生えた。

そして、男の全身を包みこむがいっこうに焼ける様子の無い白黒の炎。


騒がしくなってきたからか、その時うぅ〜と可愛い唸り声をあげてそれまでぐーちゃんに抱えられたまま、完全にほっぽられていたクドゥーナが瞳を覚まし、クドゥーナを掴んでいるぐーちゃんを見て、嫌な気配を感じ取ったのか男の方に視線を向け驚いて一言。


「んん・・・ぐーちゃん? ──なんだ、コイツわっ!」


「はははははははは!驚いてもらえたようだな、竜王・グラクロデュテラシーム──もとい、ベヒモスよ・・・。」


「俺の口でッ!勝手に喋るなッ!」



乾いた笑いが男の口から高い声音の女の声で洩れ出ると。

鎌首の様な爪を上にしてぐーちゃんに指差す。


それと同時に。

フード姿の男と思われる声が辺りに響いたが、誰もがそれをスルーした。


『このシェリルの姿で竜王と我を呼ぶか、うぅむ。この悪魔、過去に出会っている?』


男と同化したイグジストを見詰めながらそう思い、過去を見返すぐーちゃん。

しかし、邪神ならともかくもこのような悪魔は記憶の隅にも残ってはなかった。


「何故、解るという顔をしているな?そりゃ、マナだよ。決まってるだろ、高密度のマナの塊が飛んでこっちにやって来たんだ・・・。我じゃなく、誰にだって解るというものだ、たとえ姿がまるきり違ったとしてもなあ。」


「うるさい!話、長いしっ!」


イグジストの話を静かに聞いていたものの、何もせずにいた訳では無いぞっ、と言いたげに、亜空間を生み出しそうな程の、マナが、ギュッと握りしめたぐーちゃんの拳のなかに、みるみる凝縮してゆく。


そして、目に映らない速度でイグジストと同化した男を、もう半身が醜い悪魔に変わってしまったフード姿の男の左脇辺りを、光輝く閃光とともに殴り付けた。


確実に殴り付けたはずだった。


だがしかし、殴り付けた左脇辺りを中心にイグジストは異空間化を始め体を逃がして躱す。

ニンマリと微笑む男、イグジストが、


「おっと、マナを貯めたその拳で殴られるのは勘弁願いたいね。その小さく脆弱な器によくそれだけのマナが注ぎ込めたものだ。」


そう言いながら異空間に逃がした体を解いて、残像のように周囲をクルクルと飛びつつ、ぐーちゃんに対して挑発を仕掛けた。

もちろん、ぐーちゃんも目にも止まらぬ速さで追って追撃はしていた、そのどれもが残像のようにかき消えて手応えが全く感じられない。

それだけの事だった。


それでも。

この場に居て。

明らかに。

何にも。

手出しの。

しようがない。

クドゥーナに取っては。

次元の違うバトルが。

目の前で。

行われていたのである。


「うゎ・・・、うぅわ、・・・うゎあーっ!!!」


自然と頬がひくひくと引き吊り、ブルブルと全身が押さえ付けても効果が無いほど震えだし、取り合えず本能から危険と判断して少しでもその場から離れたかったみたく、ずりずりと後ろに際限無く離れていくクドゥーナ。

それは正解であり、間違いかも知れなかった。


『ぐーちゃんから離れたらっ。あの、アイツに人質に取られるかも知れない。でもっ、ムリ!うちは、この場で何にも出来ないしぃ。言い訳だって、解ってるけどぉ・・・、死にたくないしぃ。』


人質。

その可能性を感じながらも、場違いな高次元のバトルを見せられて震えが止まらなくなったクドゥーナが出来る事と言えば、どうしても逃げ出すことしか思い付かなかったのだからしょうがない。


目の前では激しいバトルが繰り広げられている、それは肌で感じるのだ。


しかし、碧眼の双眸に映り情報としてクドゥーナに入ってくるのは、ぐーちゃんの腕が見えなくなって敵を追っているのか視線がやたらめったらに動いている事と、相手が素早く動く為たまに旋風(つむじかぜ)がクドゥーナを襲う事くらいで。


「避けるな!」


「ハッハッハ!じゃぁ!こう言うのはどうですかねぇっ!」


裂けた口を大きく開いて聞こえる声、今度はフード姿の男の声でイグジストは笑う。

笑い声が途切れるとブツブツと早口で何度も何度もリピートするみたいに唱える声が聞こえて。




──数多(あまた)のカタチ無きものに役目を与えん、我の声に応え──来い!レッサーデビル!




すると、鎌首の様な爪の周りに幾つもの魔方陣が舞い踊るように浮かび、そこからにょきにょきと次々生えてくる黒い無骨な槍を持った小さな存在、魔方陣を通して現れたのはレッサーデビルという悪魔。


イグジストと同化したフード姿の男の召喚によって。

歯医者でよく見かける、バイ菌に似たシルエットの悪魔が無数にぐーちゃんとイグジストを囲むように出現したのだった。






うん・・・、やっぱり空気だったね、クドゥーナ。


悪魔、何でもアリって感じでめんどくさーい。


早くここ終わらせたい、のに・・・え。


強そう、・・・よし、寝よう〜

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