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露出狂が空から降ってきて街をこんなにしやがったんだって、そんなの言っても誰も信じねえよクソッ──by.イノヤ



ボッ!ジュッ!

不気味なワームにベーレッタハイムの短剣が命中した音だ。


起死回生とまではいかない、少しの隙を作れただけでしかない、それでも。


魔力を込めた短剣は当たったそばから魔力を暴発させる事には成功した・・・しかし、ワームの皮膚を僅かなだけしか削げなかった、それでも。


畏怖させられて固まって動けないでいるイノヤは最早餌認定され、真っ直ぐに伸びたワームが鋭い牙を妖しく光らせた、次の瞬間には。

狙いを付けて襲い掛かった鋭利な牙がイノヤを貫く・・・はず、だった。


だが、それより速く飛び込んだ小さな影・ベーレッタハイムがその背中から腹を抉られる所を、イノヤは目の前で見てしまった。


思わずその瞳に焼き付く、貫かれるはずだった自分の身代りとなった、ベーレッタハイムが浮かべる苦悶の表情。


「ええ?」


『なんで、オッサン・・・ベーレッタがオレの目の前で死にかけてんの?・・・いや、それよりっ!』


いきなり姿を見せたベーレッタハイムを視界に入れイノヤは一瞬パニクるものの、しかしそのお陰か今まで動かなくなっていたのが嘘の様に自由に動く足で、身代わりになってワームの牙に串刺しにされて、その場に崩れ落ちたベーレッタハイムに駆け寄る。


「ちょっと、ぉ!」


腹が裂けて苦しそうに低く唸る、ベーレッタハイムに何かしたくて。


「ぐ、ごおっ、ふっ。ぅえっ。死に、たく・・・、逃げ、ロ!」


「うっせ、オッサン。・・・オレは、オレなんかっ!何にも、何にも出来てねー、のにっ!」


大量の吐血をして、大量の出血をして泣き言を口にするベーレッタハイムの体をイノヤは抱き締めながら叫ぶ、自分自身を鼓舞するように。


逃げろと言われて『はい、そうですか』と逃げる様な真っ直ぐには育っていなかったようだ。


うぉおおぉッ!!



ワームを見上げて、足元に転がした、いつの間にか手離していた斧に視線を落とすイノヤ。

そのまま斧を拾い上げ、振りかぶり叫びながらワームに睨みを効かせて勢い込むイノヤを視界に捉え、


「お、おイッ!何の為にくそぉっ、痛え目にあってると・・・思ってんのよ!くそぉ。」


そう言ってベーレッタハイムは『逃げろよ、クソ!』と苦しげに続けて呟く。

イノヤまで死んでは、ベーレッタハイムが逃げなかった意味が無くなるからだ。


「くそぉっ、死、ねえっ!死ね、死ね、死ね、死ねえ!」


連呼しつつメサイアの斧を振り下ろしては振り上げ、イノヤは唯ひらすらその動作を繰り返すだけでメチャクチャ。


『・・・その手もある、あれもこれも。』


基本を忘れたわけでも無い。


ベーレッタハイムを抱えて逃げ出す手もあったはず。

考えて、それを振り払う。

迷いがあっては、意思をもつかの様に襲い来るトゲにさえ思考が鈍って躱しきれない。


次々と襲い来るトゲに意識を奪われていた。

ひとつを斧の先で。

背に迫るふたつを返す斧の刃で。

眉間にまで迫ったみっつ目を躱して横薙ぎに振り払う。

よっつはまたしても背に刺さる直前に気付いて、振り返り叩き落とした。


しかし、遂に。


「あ。ぐぶっ。」


いつつめのトゲは本当に易々と。


「はぁはー、よし!いいぜ、オレはどーせ死ぬ。」


イノヤの胸当てを貫く。


「・・・だが、お前だけは道連れだあっ!」


ミスリル製の脆くは無いはずの。


何の策も用意できてないイノヤは苦し紛れに血を吐きつつ、胸の痛みでどうにかなりそうになりながら途切れとぎれで、いまわの言葉にも聞こえる覚悟のこもった呪詛にも似た叫びを赤黒いワームに向かって上げる。


このまま・・・イノヤもベーレッタハイムにも、酷たらしい死が訪れるかと思われていた。




が、その刹那!


ゴッ、ドッオオォォ・・・ンンン!



上空から飛来した何かがイノヤとワームの間に割って入った。

激突の凄まじさに瓦礫が巻き上げられ、砂煙が上がって周囲の視界が奪われる。


『ち、死ぬ覚悟を確認した後だってのに・・・よ。何なんだよ?こりゃあよーっ!』


『やった・・・のか?イノヤの奴、ぐっ、痛えーって。クソ!』



イノヤは砂煙に歯痒い思いで、奥歯を噛み締め。

その一方で上空から飛来したそれがイノヤの放ったスキルと勘違いするベーレッタハイム。






それよりほんの少し前。

マルセラド上空。

ふたつの点が飛んでいた。

そういう風に視認できただろう、地上の瓦礫まみれのマルセラドからは。


そのふたつの点は良く見てみると人の姿をしていた。

一人は単なる女性としか言えない出で立ちだが、もうひとりは翼が生えている。


天使?とも思わせるシルエットだが、無い。


天使の頭上には必ず輝くと言う天上の光の環が。

つまり、翼が生えている人・・・という事で間違いなかった。


「──ぐーちゃんっ!」


「──見えたっ!人が、居るっ!」


翼が生えている方がもうひとりに向かって叫ぶ。

良くよくみると翼が生えていない方、ぐーちゃんと呼ばれた女性の出で立ちはかなりおかしかった。


一体どうしてその状態で体に巻き付いているのか解らないくらいボロボロのピンク色の布切れを身に纏い、これもまたボロボロの薄いピンク色の紐が腕に巻き付き、どういう原理で飛んでいるのか翼が生えている方を引っ張りながら空を飛んでいる、何より長い艶のある黒髪の隙間から覗くエルフ耳。

地上で見ていたとすればぐんぐんとその姿が近寄って見えていたはずだ。


そして、スピードを緩めずにぐーちゃんと呼ばれた黒髪のエルフは、上空からそのまま赤黒いワーム目掛けぶつかった。





ぐーちゃんが空高くから地上に突き刺さると、軽く地響きを上げて砂煙が辺りを包む。

その煙が晴れると真っ先に声を出したのはイノヤだった。


「ん?・・・はぁ??」


気を締め上げて限界まで警戒していたところに、何とも有り得ない存在が突如として現れれば、そんなリアクションを取ってしまうかも、確かに。

普通に考えれば、


『んだ?露出狂か?』


それが正しい。


酷い格好の・・・『デカ乳・・・。』


イノヤは一瞬で引き締めていた気が緩んでそんな事を思う。

それもしょうがなかった。

死が近付いて緊張しきっていたのに、


『ワームが。どうやったかオレには解んねぇ、けど。倒しやがってくれてよぉ。』


イノヤの目の前には右の掌を地面に埋めてクレーターを作りつつ、何をやっても攻撃の効かなかったワームを握りつぶしている黒髪のエルフ?がもう一方の手に翼が生えた人──翼人、鳥人とも言われる種の幼い少女を掴んで酷い形相のまま固まっていた。




『助けられた?援軍か、いや!断言できる、こんな恥知らずは鍵騎士には居ねえよ!』




余りに一瞬で変わった目の前の光景にイノヤは何とも言えず、助けられた感謝より何より・・・露出狂としか言えない黒髪のエルフ──ぐーちゃんの姿に圧倒された。






『お、い、おいおい!何だって空から露出狂が降ってくんのさぁ!』


一方でベーレッタハイムもイノヤと変わらない感想を叫ぶ、心の底で。


「んん・・・、ぐーちゃん・・・?うぅわっ!汚い、くさいぃっ!」


地上に突き刺さるより速く『いやぁああぁああぁ・・・』と上空で叫びながら気を失っていた翼人の少女が瞳を覚まし、握りつぶされたワームの体液塗れでベトベトになった体を引き起こして、やっぱりベトベトになった手を見て今の感想を溢した。


「ベトベトから異臭がするよぅ・・・」


「クドゥーナ、どうやら生きている人を助けられたようだ。ん?・・・、大丈夫?」


翼人の少女に視線を向けたぐーちゃんが、クドゥーナと呼んだ幼い少女を心配そうに見詰める。


追記しておくと異臭の件はクドゥーナとぐーちゃんがわちゃわちゃと言い合っていたが、少しすると決着がついたようだ。


上空から落ちてきたのは、戦っていたイノヤとベーレッタハイムを助けるためにワームを『竜の爪』で握りつぶしたぐーちゃんと、それを望んで一人でも多く街の人を助けたいと願ったクドゥーナの二人。


「・・・ん、どうもまだまだ居るみたいだ。どうする?」


「やっつけちゃってよ、ぐーちゃんっ!」


やって来た方と真逆の、遠くの方を見詰めてぐーちゃんがクドゥーナに問い掛ける。

ニコッと笑ってから、キッと唇を釣り上げて指差すクドゥーナの姿は、さも当然のようにぐーちゃんに『命令』している、ようにイノヤとベーレッタハイムの瞳には映った。


「お、い・・・、いや?助けてくれたのはすげえ嬉しいんだけどよ。」


血を流し過ぎて渇く喉で必死にイノヤは声にするが、実際はぼそりとしか聞こえない。


「あの・・・」

同じくベーレッタハイムもバイタルやバイタルやバイタルを使ってどうにか生き永らえている状態で。

イノヤ以上に渇く喉で必死に叫ぶ。


「「露出狂?」か?」


酷くそのままの意見だったがそれに構わず、ぐーちゃんは口を大きく開いて息を吸い込み、構える。

二人の声など、聞こえてないのかも知れない。







コオオォオオオ・・・──シュ、・・・ン!






ピ、──ドゥウウウウウウゥゥゥンンン!


二人は目の前で繰り広げられた光景に泣きたくなった。

失禁すらしていたかも知れない。


何がどうしてそうなったのか、訳がわからず二人は泣いていた。


言い知れない恐怖、死を覚悟させたワームですらそこまでの恐怖は無かったのに目の前で小首を傾げて微笑む幼い少女と露出狂の黒髪のエルフにただただ恐怖した。


本能が『大人しく降参しろ』と言っているような純粋な、強大な存在に対する絶対的な畏怖。


それを目の前の二人から感じて、


『やべえ、やべえ、やべえってコレ、なんだよなんなんだよっ!』


カタカタと震えるイノヤ。

イノヤほどそう言う感情に鋭敏でもないベーレッタハイムも、


『嘘、どーなっちまったんだよぉ。あ。夢か、夢か。そーか、夢じゃないなら死んでおかしくなってんだよ。有り得ねぇっての。』


白旗だった。


白眼を剥いて涙を流している事にも気付けずにゆっくりと意識を手離す二人。


山をも軽々と更地に変えてしまうぐーちゃんの何物をも凌駕するブレスが瓦礫まみれとは言え、マルセラドの街中で吐き出された結果だった。


まず一瞬、音が消えて周囲の瓦礫が逆に吹く風に舞い上げられた。


次に舞い上げられた瓦礫が、音が戻ってきた後まとめて、ブレスが吐き出された方向に吹き飛ぶ。


そして、遠くで聞こえる炸裂音と地響き。


その間、周囲の視界は瓦礫の砂塵や砂煙でゼロとなっていたが、視界が晴れると何も、何も無くなっていた。


そもそも、イノヤとベーレッタハイムともブレスだとは思わない。

竜ですらない、露出狂がブレスを吐くなんて誰も思わないから。

至極、当然。


二人はブレスを見て、おっそろしい魔法とでも思ったのかも知れない。

そして、そんな魔法使いを従えている様に見えた幼い翼人の少女、クドゥーナも畏怖の対象となり気を失ってしまったのだ。


遅れてやって来た衝撃波で二人が瞳を覚ますと、ぐーちゃんとクドゥーナの姿はもうそこには無かった。


それを目にしてイノヤはベーレッタハイムを、ベーレッタハイムはイノヤを見詰めて歓喜した。

なんだかよく解らないままひたすら歓喜した。


「ああっ!メルヴィ様。祝福を、ありがとうっす!」


「メルヴィ様ぁ、あんたの事は大して信じちゃねーでしたけどね、今日から、今から信じますよ。奇跡を見たからね、誰に言った処で信じちゃくれねーのは、奇跡だろ?」


アハハハ、ハハハハと何度も何度も笑い声を響かせて。






二人の視線の先には瓦礫が転がる中、線引きをしたように瓦礫すら無くなって真っ直ぐ更地になったマルセラドの一部分と、街を囲っているはずの壁も切り取った様に崩れている、そんな嘘のような光景が広がっていた。





「ああ、こんなの誰に言ったってよ、信じねえよクソッたれ!」


そう言って毒づくイノヤだが本心は、


『オレ、生きてる・・・良く生き残れたな。あんな化け物が目の前に。いたのに!』


沸き上がる吐き気を抑えて飲み込む。

黒髪のエルフはイノヤの中で絶対の恐怖の対象となったのだった。






2日くらい掛けてプロット作って、やり直しやり直しした結果、ベーレッタハイムも死にませんでした・・・


マルセラド、再起不能なっちゃいましたねー(しみじみ)


さってと、次はぐーちゃんがあの人とバトル?


です。

いや、はしょってもいーんですけどね、なんと無く戦った事を匂わせて終わりでも。


でも、ま。

プロット作ったし、書いて文にしようかなって。


クドゥーナが次回も空気なのか。

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