マルセラド──3
「!──ぐーちゃんっ。なに、なにこれ?・・・なにこれ、なにこれ、なにコレっ。」
見ないでいいものを見ちゃった。
見ない方が幸せ、エグいよ・・・バッラバラ殺人事件を間近で見た人もこんな気分かな?
うちとぐーちゃんは門を抜けた。
ぐーちゃんは早く本体へ急ぎたいみたいだったけど、そこはホラ。
我慢してよ、はい。
門番とか居ない?
あれ?
この鎧が門番かな?
あ・・・。
ダメだー、死んでるぽいよぉ・・・。
そう、嫌なカンジしかしない・・・。
もう門の辺りに生きている気配はしないんだもん。
それから、何故か黙り込んでしまった、ぐーちゃんの手を引っ張り門を抜けて目の前の通りへ。
すると、大きな震えが遠くから響いて来て、さ。
反射的に頭を抱えてしゃがんじゃったんだよねー。
変な顔してうちを見詰めてくる、ぐーちゃん。
うん。
違和感だいぶ無くなったかも。
顔の表情の動かし方を教えるのに苦労したもんねー、ホント。
うーん、それにしてもさっきの震えは小さな地震でもあったかな?
あれー?
隣を見るとぐーちゃんが、みやこもどきがおっそろしい顔して睨んでる。
一点を見詰めて。
「恐ろしく強い魔力が暴れまわった後のようだ。・・・おそらく、・・・同族。・・・どの種だとは言えないがっ、これほどの魔力ならば、竜だっ!決まってる!豚の様に人を食ったな!」
すさまじい怒りを当たり散らすように吐き出したぐーちゃんの声。
ぐーちゃんの視線が見詰める先。
通りの先の方を見て、ブンブンと首を振ってからうちはもう一度。
同じように。
通りの先を視界に捉える。
・・・、無い。
通りの先は無くなってて。
見間違いなんかじゃなくて、ホントに瓦礫だけになってるんだ。
思わず、駆け出してた。
ぐーちゃんの手を引いて。
オークの巣。
あそこでも、ひっどイのをこれでもかって見ちゃったけど。
巣にあった横穴の更に上を行く、死が転がってて。
声が出ないのに。
熱い粒だけが。
頬を。
つつー。
つつー、と。
流れ落ちてって。
なんか。
良く解んないケド。
これって。
死んで・・・るんだよね?
首から。
足だったり。
手。
この棒・・・、ゆ、指?
瓦礫の紅いシミに。
こびりついてるのは。
・・・白い歯。
どの、なにか・・・解んない。
腸。
なんか踏んだかも、って思ったら肉片、だし・・・。
うちは。
意識を失った。
こんな。
光景を。
受け入れられないで。
受け止められなくて。
・・・ぐーちゃん・・・。ぐーちゃんが、言うには、
「1分無い、くらいだ。いきなり、寝るな!」
だとかって。
怒っても、さ。
うちは・・・、まだまだ大人になりきれない子供。
ううん、子供を抜けきれない子供、なんだと思う。
いや。
でも、これは。
知らない人達だけど、こんな無惨な死を一度に大量に見せられたら、誰だって、日本人なら見なかったフリしたくなるよ、って。
あ。
また。
涙、出てきた。
嘘?
止まンない。
やだ・・・。
もう。
「・・・ひっ、・・・うう、酷い・・・。」
絞り出して、こんな事しか言えない。
瓦礫の上にへたりこんで。
そこから体勢を変えて、足を抱き込んで体育座りみたいに膝の皿に睫毛を押し付けて、泣いた。
ぐすっ。
ぐーちゃんが、竜が喰ったって言ったけど、ソイツどんだけ大喰いなのよ?
そこでまた。
あの、大きな震えが遠くから響いて来たんだ。
まだ、居るし!
これって。
竜が居るんだ、動いてるんだ!
うちは立ち上がって、震えがやって来た方に視線を合わせる。
丁度、何かを咥えて赤黒い大きなモンスターが直立してて。
何かはモゾっと動く。
そして、バタバタと手を動かし・・・。
消えた。
飲まれた?
飲み込んだんだ。
きっと。
赤黒い大きなモンスターは、くの字を描いたかと思うとまた地上に消えていった。
「間に合えば、お・・・わたしが止める!本体はもう近くだ。」
「は、はぁ、はぁー。ぐすっ、・・・ううう。い、生きてる人、ぐすっ、居ないかな?」
ぐーちゃんがぐーちゃんなりの決意をしてる横でうちは。
泣きべそを掻いて。
心が。
ぽっきり。
折れそう。
瓦礫の下とかで。
生きてる人。
居たりしないかな。
「──残念だが・・・。」
今起きてる現状を受け止められないうちを、更にぐーちゃんの言葉がグサリと。
「ほ、ホントにぐーちゃんが止められるなら!急ごっ。」
頭を抱えてうずくまるうちの頭をぽんぽんっ!、と優しく叩いてぐーちゃんが一言『我、本体があれば止められる。』って、そーだ。
そーだよ。
神でも竜がこよーとぐーちゃんはどっちも倒してくれる、信じていいよね?
「もう、加減は出来ないがいいか?」
「・・・う。・・・うん。」
ぐーちゃんの念押しを聴いて、心音が猛烈に跳ね上がっちゃう様な気がした。
加減・・・、してもしなくても、うちは気絶しちゃってたのね?
取り合えず、クドゥーナの視界を借りて見た、マルセラドの光景。
瓦礫と肉片しか無いですがな・・・。
助けて!ぐーちゃんー!