マルセラド──1
大陸の西側にあるサーゲート王国の、その東寄りに首都デュンケリオン、その更に南に第二の人口を誇るラミッドがある、など主要な都市は王国の東に集中していた。
西側にも人々は住んでない訳ではなくは無かった・・・のだが、東寄りの都市に較べれば数も少なく見劣りする。
その理由が50年前の禍根である事も、無くは無いのでしたが。
強大な力──目覚めた巨大な竜の暴走で西側に関しては、文明が無くなる一歩手前まで破壊されてしまった。
丁度、幾つかの獣人対ニンゲンとニンゲン側の獣人で生存権を争って戦争が続いていた時代でもあり、この巨大な竜についての子細な情報は少ない。
そもそも?
現代の地球とは決定的に違っている、ニンゲンは既に生存権の争いに各地で過去に破れ今はかつての栄華は見る影も無く弱い存在と言う事。
ニンゲン以外の人種が権力を握り、そして栄華と栄光を謳歌している時点で。
人の王の治める国は、この大陸には唯ひとつとして無くなってしまっていた、それも大昔の話。
それでも───踏み込んだ者を焼き尽くす砂漠を越え、凍える山脈を越え、深い深い密林を越えた先にある暗黒大陸と呼ばれる未踏の地にはいまだ修羅のように暴れまわるニンゲンの、人の王が治める王国があるらしい。
暗黒大陸で国が滅亡し、そこから逃げてきた人々の口から伝えられた事だという以上の話でも無かったが。
とはいえ。
獣人の王が治めるサーゲート、魔人の王が治めるブルボン、エルフの女王が治めるグロリアーナのある大陸──ブリンデオール大陸で人は、ニンゲンは魔法の適性でも持ち合わせて産まれて来ない限り、最も弱い。
多くのニンゲン達は、その運命を受け入れて暮らしていた。
土を耕し、作物を育て、その実りに一喜一憂し、原始一歩手前の・・・、いいや?牧歌的な、農業専門民族になっていたわけである。
サーゲート国内第三の人口を保有し、通商の為にいくつもの・・・その数、八もの街道の始まる街でもあり、隣には首都・デュンケリオンがあり、グロリアーナとの窓口でもあるラミッドも大した距離ではない、とそこまで条件が揃えば──巨大なマーケットをもつ・・・自然とあちこちから商人が集まる街になってしまうのも仕方が無かった。
しかし、それに加えてもう一方でこの巨大な街に求められた役割がある。
それは。
デュンケリオンを守る楯とする事。
ここ──マルセラドにはその為に先人が築いた巨大な防衛壁がある。
有事には魔法の効果を無くす事は出来ないとしても、ほぼ無力化させる為に液状のミスリルをメッキ加工の様に壁面全体に塗り拡げて、更に当直の役人大勢が防衛の魔法、フェンルドで壁面の内側に魔力でドーム状の膜を張り巡らせば、強力な魔法で攻撃されてもある程度は持ち堪えられるというわけだ。
サーゲート国王もお墨付きの防衛の要であり、何人もかの楯を突き崩してデュンケリオンには通させないとする、考え得る最大最上級の防波堤とも言えた。
ではマルセラドの防衛壁の外には平原があるのか?その答えはノーで。
内側と変わらず街道に沿って街はどんどん大きく広がり続けた為、外にもそこかしこに住宅があり、人が住み、街があるのだ。
八つある街道の全てでそんな状況になっているワケでは無いものの、先人が壁を築いた時には考えもしなかっただろう事に、壁のすぐ外側は環状の街道が出来ていた。
商人達は壁を越えて商売をしなくても、外側をぐるっと周ってデュンケリオンに入れば財布に優しいと知っていたからだった。
勿論?
モンスターに襲われる事も壁の外側の街では稀にある事でもある。
マルセラド外周の街々では鍛えられた冒険者や腕っぷしに自信のあるならず者を雇って、マルセラドの東にある白髪の森のモンスターや、群れからはぐれて住人を襲う魔獣を積極的に狩りをする商会も常用に活動をしているので、平和はあるレベルなら約束されていた。
けっして壁が人々を完全に守ってくれる物では無いと外側の人々は知っていた。
では──内側の住人はどうだったのだろうか?
「ふはっ、ははははは!あっはははははははははは!!」
何かを探り探り歩いていた、深緑色のフードを目深に被っている男がある地点まで来ると突然、大きな声を張上げ笑い出した。
まるで。
壊れた、小さい子供が好きな音の出るオモチャめいて笑い声は止まる事がない。
フード姿の男が歩いていたのは内壁北側のシャーウン区の十字に通りが別れる真ん中。
辺りは住宅街とは違って窓もあまり無い倉庫と言った建物が男の背丈の倍程の高さのものが整然と通りに沿って建っているだけのもの静かな通りだった。
かと言って、きらびやかな歓楽街や酒場がこう言う場所に無いわけでも無い。
外周の環状の街道の様に門を抜けてすぐ、そこに賑やかな大通りが始まるワケでは無くて、大抵の街と同じ様にマルセラドの街にもそこにあるのは旅の疲れを癒す歓楽街だったり、宿だったり、そして倉庫街だったりするのだ。
男が来た道を歩いて5分も経てば大きな酒場もあった、寵姫と呼ばれる奴隷達を見せる店もあった、更にもう少し歩いて街道まで戻れば壁門もすぐだった。
だが丁度、どの歓楽街の店も閉店の時間は過ぎている。
商人達が集う街、マルセラドにもあらゆる夜の店が閉店する時間帯。
夜明け前にはフード姿のこの男の様に家路につく。
しかし、このフード姿の男はどのケースにも当てはまらない。
何が可笑しいのか、狂気からなのか、男の笑い声は止む事無くずぅっと続いている。
笑いながらある一点にしゃがみこんで地面に手を翳した男はその手に実感を得ていた。
ドクン!ドクン!と脳がかき混ぜられるように震える、確かな感触を。
周囲はその様子を見て怪訝な表情で男を見守っていた。
「なんだ?」
長い尻尾をくるんと巻き上げた1人の獣の耳をピンと立てたリスの獣人がまず、それに気づいて声を上げた。
が、まだ日ノ出には早い時間帯、こんな時間に通りを歩く人達には家に帰るのだったり、仕事場にいくのだったり、何かしら用事があって他人の事に構ってられないのかも知れない。
「おい、どうした?」
まだ夜が明けきらず、人の往来もまばらな石畳の真ん中でしゃがみこんで、地面に向かって何事かぶつぶつと念じている男を見るのも珍しい。
どうせさっきまで飲んでいた酔っ払いだろうと、自分の店を開けるために通り掛かった兎耳の男は思い、最初は気にもしなかった。
ふと、前に向かって歩く足を止めチラリとフード姿の男を盗み見るまでは。
ほぼ説明とゆー斬新な入り方で始まるます。
5、6話で終わらせたい?って言ってたケド無理無理。
マルセラドだけで1、2、3使いそうなんだもん。