ぐーちゃん無双
さっきの街、モーボンの街を抜けて結構な距離を走った、あ、勿論だけどぐーちゃんが。
モンスターに襲われたり、旅の商隊に怖がられたり色々あったけど、ぶっちゃけ有り得ない速度で走ってくるぐーちゃんみたいのに、何にも知らないで道の上で会ったらうちでも『スゴいのきたー、ヤバい』ってあんな態度になると思うし、全然あれで良いけど・・・うちの事をぐーちゃん以上に怖がられたりするのは、ちょっとショック。
お姫様だっこされて運ばれてる顔色悪い女の子だけどぉ、望んでだっこされてるワケじゃないしー、顔色悪いのはスピード酔い?だし、それにぐーちゃんの御主人様とかじゃーないし。
怖がんなよー、あっちがボスか?とか言わないで?断然うちの方が弱いので。
あ。ついでだからお腹の話をいきなりだけどしとくね、川を船で渡る前に少〜しお腹に入れただけ、これについてはマズく無いかマズいかは人の好みだし、なんてゆーか薄口。
簡単に解りやすく言うとね、屋台で買ったのは・・・唯一売られてたのは薄い塩スープに太く切られた麺が数本入っている、きしめんに似て非なる料理。
これで100グリムは高いって気が・・・しないでも無いっちゃ無いんだけど、他に店も無い渡し場で贅沢を言っても代わりは出ても来ないし。
せめて倍は麺が多ければ満足したのにー。
うちが代わりに屋台出したら、この店には客が居なくなると予想、ううん、断言できるっかなっ。
味がしない麺よりは味があるパンの方が売れるよね〜、絶対にー。
そうそう、乗った船をワニとカエルが混ざったみたいな、ジェイルリザードが襲って来たんだけどぐーちゃんが会心の一撃みたいなパンチを、一発浴びせて倒しちゃったんだー、どーんって。
さすが、みやこの体・・・。
体?姿だけじゃなくて能力もみやこ?それともぐーちゃんがLV上がったから?みやこの姿くらいに大きくなったから?それとも別の何か・・・。
考えだすと纏まらなくなっちゃったー、ぐーちゃんに聞いても『元の大きさとサイズが余りに違いすぎるから、能力が元に戻ったかとか解らない』的な事を返されたしぃ。
街や村をはぐれたモンスターが襲ってもねー、門番がどーにかしちゃうからかもなんだけど、サーゲートって平和な部類に入るぽい。
だからかー、忘れがちだったりだけどでも地域に住んでる魔獣やモンスターもちゃんと居て。
そーゆーのにも、フィールドを歩いて旅すると襲われるワケ。
うちの顔よりでっかいコウモリでスピットウイングとか、羽の生えた蛇でゴエティモとかはー、出会てすぐぐーちゃんがあっさり倒しちゃうし、オーガ何かぐーちゃん見たら逃げてくし、オークとかゴブリンとか何も考えてなさそうなのに顔色変えてスルー。
シャダイアスも、ぐーちゃんの存在が畏れ多いっぽい事言ってた気がするしー? ぐーちゃんが居ればフィールドエリアをどんなに歩き回っても安心な気がしてきたー。
ゆくゆくは異世界一周とか? ぐーちゃんが本体になったら一日でぐるっと廻れちゃいそーな?そんな気がしないでも無いかなー。
何より、ぐーちゃんが怖い存在なんだもん、そ〜らをと〜ぶーくもーのよーに〜♪うちもモンスターを気にしないなら並んで飛べなく無いしー。
いつか飛んでみたいなー。
さすが最強種のドラゴン、その中でも最高峰にそびえる神竜クラス、だっけ?
ぐーちゃんが。
格の低い神よりは強い、みたいに自慢じゃないけど口にしてて。
あれはぬいぐるみサイズになる前だったかなー、初めて逢った時だったかもだけど。
ま、そんな感じ。
そのぐーちゃんが何よりも焦って、慌ててるのは本体が──神より強い本体が危険だから?
断崖に寸断された道なき道だったり、ジャングルみたいな深い森だったり、辺りに骨が散らばる魔獣の巣だったりでも迷わずまっすぐ走り続けるぐーちゃんの腕の中で過ごすこと数時間。
今は夜。
船で川を渡った時にはー、お日様も傾いて一面オレンジ色の夕方だったんだからー、それはもう当然のように。
無理を言って休憩中。
いいじゃない、山をショートカットをしても街道を馬で3日掛かるデュンケリオンまでの距離をかなり縮めてるんだもん。
マップを開く、とそこまでの距離がどれくらいかってちょっと解らないけど、マルセラドの街と今居る広い森──白髪の森が表示された。
安心しちゃって思わず溜め息がこぼれる、だって。
マルセラドからデュンケリオンまではフィールドエリア1つ分だったはず。
つまり、凄く近い。
目的地は大きな街のそばって事は、ここまで来たんだったらマルセラド、デュンケリオンのどっちかだと思ってもいいとこだ。
朝、昼前にはセフィスやケイン、デフックに会ってたはずなのにどーしてこーなった?
ぐーちゃんのお願いに折れて着いてきちゃったんだけど。
「いやぁ、ホラ・・・ぐーちゃんが走ると速いけどぉ、ホントにー?」
うちは、簡易テーブルに突っ伏したままでぐずってた。
夜なんだし、寝たいよ。
正直色々・・・疲れたー。
メニューから今突っ伏してる簡易テーブルと椅子(無駄に4人掛け、笑)を取り出し、テーブルの上にメニューから更に取り出したレンジとパンとざく切りにした各種野菜とタッパ入りの漬け肉を並べて料理って言えるほどでもない夕食を済ませた所だったりする。
ちらとぐーちゃんの方を見ると、
「このまま走る。」
一通りパンやマスタード肉を腹に入れたぐーちゃんが、満足そうな口調なのに眉を下げて指についたマスタードをぺろりと舐めながら、うちに視線を合わせてそう言う。
「夜だよ?」
周りは焚き火の灯りが無かったら真っ暗。
しかも、深い深い森のなか。
さっきも言った通りモンスターが出てもね、大して心配ない。
みやこが居るよりぐーちゃんがずっとずぅーっと強いくらいかも知れないんだもん。
その点はすっごく信頼してるから、うん。
「何を心配するのだ?」
立ち上がったぐーちゃんがさっきまで・・・休憩を取るまでずっとお姫様だっこされてここまで走ってきたんだけど、また抱え込まれようとされたから反社的にスッとそれを躱す。
それはそうでしょ、だって。
「真っ暗だよ、足元も。」
灯りの届かないとこは真っ暗でそこに木々が立っているのか、繁みになっているのかって事も普段の瞳には見えないくらいなのに。
状態強化──各種ドーピングするなら目も良くなって敵の攻撃を先読み出来る様になるくらいだから、視覚も強化されるのは当然。
でも、悲しいかな。
各種ドーピング用の料理を今は用意できない。
「月明かりがあるなら充分だが。」
「あー、・・・もう。解った。」
月明かりで充分?ぐーちゃんが大丈夫でもー、うちは全然大丈夫くない。
ぶっちゃけ有り得ない、暗闇をがっしり抱えられてるっても精神的にキツいって、そんなの。
たいまつも大量にストックしてるっちゃそうだけど、スピードが有りすぎて走り出したらすぐ消えるね、きっと。
だから・・・。
ゆっくり目蓋を閉じ、周りがうんたらかんたらピカピカ光ったなって思ったら、
「クドゥーナ。」
頬っぺにぴたぴた触りながら話掛けてくる声。
その声を合図に目蓋を再び開くと、キミドリ色と黄色のグラデな妖精さんが目の前に現れている。
人形大の妖精さんの名前はトロン、雷の力を持っていて契約をしているうちにその力を貸してくれるんだ。
「トロン、あなたの雷光を。」
声に従うように、両手に収まるか収まらないかくらいのトロンから雷のバチバチ瞬く光がゆらゆらと現れる。
「杖の先にこう、やって、明るくなったぁー。」
現れた雷をカンテラ代わりにしようと言うわけなのよ。
解った?たいまつも消えるスピードだとしても、魔法ならうちから離れないはず。
ミスリル製のロッドの先に乗るように、雷をゆっくり掬って定着化するまで待つ。
うっし、
「準備はいいか?」
ちょっと借りるよ〜トロンの光。
「えーとぉ、おっけぇー。」
ぐーちゃんの声にロッドの雷を見ながら返事を返した。
雷は上手く定着してくれて、そこに収まってパリリと光る。
「落ちない様にな。」
そう言った声が耳に届いてすぐがっしり抱えられて持ちあげられたかって思ったら。
即、スッゴいスピード!
耳鳴りと、風をびゅんびゅん切り裂いて走る、まるでジェットコースター。
「ひっ、ひぁあああっ、ああああああー!───」
ぐんぐん暗闇に進んでいく偽非ジェットコースターぐーちゃんの乗り心地は気が休まる暇がない。
自然に叫んじゃってて、気を失う前に視界がゆっくり狭まっていく。
頬に当たってくる風圧だけで、首を持ってかれるかって思ったらコレだもん。
ぐーちゃん、手加減してよー。
お願いだから。
「──ーナ、クドゥーナ!良かった、起きたか?」
遠くから聞こえてくるぐーちゃんのうちを呼び掛ける声に、ぐわっと引き揚げられるように意識が覚醒する。
まるで水の底に沈んでて、手を取られて陸に引っ張られた気がするくらいに力強く。
気絶してた?
気付けばオロオロと心配そうに、うちの周りを飛び回ってるキミドリ色の球体。
瞳をハッキリと開いてそれがトロンだ、となんとか解った。
「良くない・・・、ミスリルの杖落とした・・・。」
手に握っていたはずのその感触が無くて、ぽんぽんと手近の地面をてさぐりで叩いて探してみるけど勿論、そこに転がってなんか無い。
「ごめん、まさか気を失うなんて。」
うちが杖を探してる間もぐーちゃんは視線を逸らさず、心配してくれてるぽくてじぃっと見詰め続けている。
ぐーちゃんが見詰めて居ると理解っていても、姿はみやこなんだからちょっとドキっ。
なんて瞳で見てるの?
あー、もう一、ぐーちゃんてば。
頬っぺなんて真っ赤で、目一杯に溢れさせてまるで死人が甦ったみたいにさー。
それなのに、どうして?
熱っぽいトロンとした瞳してるのは。
表情をコントロールする練習少しは教えたのに、どこか違和感。
どこかあべこべで。
「ん? たくさんあるから杖はいいんだよぅ。」
うちは今、地面を背に寝かされてた。
こーゆー時は毛布を敷いてくれたりするんじゃない?ぐーちゃんにそーゆー『普通』は無いの知ってるけどぅ。
その姿勢のままメニュー画面をぱぱっとクリックして、これでもかってくらいミスリルの杖を取り出して見せたんだ。
これで安心してくれるといいなぁって、視線をぐーちゃんに戻すと、
「・・・。」
黙り込んで大量に溢れたミスリルの杖、同じ種類の杖を固まったぽく見詰めて居た。
あの後。
急ぐ旅だって知ってたけどうちはもう、どうしよーもないくらいには我慢できなくなって。
トロンに帰って貰って入れ替わるようにウェリアを召喚。
彼女はちょっとぶつくさ言ってたけど真剣にお願いすれば素直に頷いてから上空に舞い上がり、進行方向と違う方にヒュンと飛び去ってしばらく待っているとふよふよと青い球体が視界の端っこに現れる。
来た時と全く違う風に、ニコニコと満足したように微笑みながら。
ウェリアにうちが頼んだのは『近くに水浴び出来る水場ないかな?あったら教えて。』ってことで、手招きする彼女にぐーちゃんの手を取って付いていくと、そこには、目の前には今一番欲しかった水が。
普段は森の生き物の喉を潤してるぽい、木々に囲まれた中にぽこんと現れたどこからか湧き続けてる泉。
ウェリアは充分な水量を蓄えた小さな泉を見付けて来てくれたんだ。
水の精だから水の気配でも解るのかもね、もの凄く助かるし便利。
早速うちは、村でみやこに言われて作った簡易なお風呂・・・木桶製なんだけど。を、取り出してこれも合わせてその時作った魔道具、水をごく簡単な火のマナで沸かして温めるだけの『湯沸し器』を取り出す。
何をしたかったか、解って貰えたよねー。
そう、ズバリお風呂。
湯沸し器は村にもいくつか残してるから・・・ま、みやこに酷い事はされないと思いたいかな。
お風呂は・・・なんかで代用して下さい・・・。
うちは外でお風呂って言うとバスタオルを巻くよりは、水着で入る派。
林間学校とかレクリエーションとかキャンプとか名前と場所を変えて学校行事だったり、地域イベントだったりで外でお風呂とか温泉に色々なんだかんだ入る機会があったせいも多分5割強。
実家以外でお風呂に入るって解ってたら、水着は必須アイテムなんだもん。
「聞こえた? 歌、ぽいの。」
みやこの姿をしたぐーちゃんと背中合わせに、木桶のお風呂に全身を浸からせて深い深い溜め息をひとつ。
ふー、生き返る〜♪
付け加えるけど、ぐーちゃんはそのまま入ろうとしたから『いや!ここは脱ぐとこだから』って突っ込みを要れて説明を少し。
あっさりドレスを脱ぐぐーちゃんは全裸で入ろうとする。
あー、もう。
ぐーちゃんてば、前の姿の時もお風呂によく混ざってたっけ。
でも今は、みやこの姿してるんだからちょっとは恥じらいとか持とうよ?
水着もサイズ合うの無いから、バスタオルを巻いてて大人しくね。
なんて、まったりしてる時間も長くは続かなかったみたい。
誰か来る?
「歌? 人が居るのか。」
きゅうきゅうの木桶からぐーちゃんが立ち上がって、うちが見詰める方向を睨み付けた。
「暗いのにね。商隊でもやって来たかなー、あ。灯りが見えたよ。」
立ち上がったぐーちゃんに視線を向けるように見上げると、片足を木桶のお風呂から出して居た。
今にも歌が聞こえた方に駆け出しそうに。
それから、歌みたいな声が聞こえた方に視線を戻すと、相当近付いてきたのか揺らめく灯りが見えた。
「──フォリレム!」
ん?灯りなんかじゃない!
マナ使用の呪文と言うかキーワードと言うか、炎の魔法を相手が唱えたんだよ。
帯を引く炎の渦が真っ直ぐこっちに向けられて伸びる。
「いっ?」
揺らめき燃える炎の渦が目の前に迫ってくるのに恐怖し、思わず叫び声をあげて這い出すようにお風呂から出た。
背中に沸騰したお湯みたいな熱を感じて振り返ると、お風呂が炭にまで焼け焦げているのを目にして。
あと少し遅れてたらと思うと、ゾッとする。
同時にね、背中に冷たいものがつぅっと通っていく気がして見るとウェリアが必死に背中を冷やしてくれてるみたい。
よじって背中に手を伸ばし触れると、水着は溶けたのか焼けたのかその部分が無くなって少しヤケドになってるかも知れないと知って更に再びゾーッと震えた。
「クドゥーナ、逃げるぞっ。」
ぐーちゃんが叫んだから、ついそっちを見てしまってすぐ後悔して更に震えた。
だって、全裸だったんだもん。
みやこの全裸姿を見るのが恥ずかしいとかより、ずっとやっぱり。
較べたく無いけど、自然とにじぃっと見ちゃうんだ、見比べちゃうくらいに。
頭上からバリバリどかーん、て雷に撃たれたみたいにショック。
溜め息が漏れるくらいのモデル体型で出るとこも充分なサイズ・・・それに比べてうちは。
もっと頑張れよー、うちは成長期のはずじゃんかぁ!
みやこの股間・・・短くてあんまり生えてなかったなー。
お手入れはやっぱり大切ってとこ?うち、まだ産毛くらいなんだけどね、・・・トホホ。
そんなことは今はどーだって良い。
良いことは無いけど、じっとしてたら生死に関わるぴんち。
でもね、うちは。
「ふっふっふ、うちはホラ〜? 飛べる!」
ぐーちゃんにそう言ってからいつまでも引きずってもしょうがないってうちは自分に言い聞かせてから・・・だってみやこは大人。
うちはこれからだもん。
ぶんぶんと頭を振って落ち着かせると気を取り直して、一気に背中の翼をパタつかせて月明かり煌めく夜空に飛び上がった。
「クドゥーナ?」
見過ごそうとしてか、急いでいるからか駆け出そうとしていたぐーちゃんが上空に浮かぶうちを見あげてそう叫んだ。
一言付け加えると、勿論・・・裸のまま。
頭痛い。
『着る』って習慣ぐーちゃんには無いから、そのままの姿で来た繁みに足を突っ込んでるとこだった。
ぐーちゃんには悪いって思うよ?でもね──
「いきなり魔法ぶっぱなしたのはそっちよー?──トロン、やっちゃって!狙いはあの馬車の周り、全部!」
引き下がれないでしょ。
怖い想いしたんだし、翼も含めてちょっと燃えたし、ヤケドしたし。
少し間があってどどん、バリバリって強烈な稲光と轟音が辺りを包んで、お風呂を楽しんでいたうちとぐーちゃんを何の警告も無く攻撃してきた卑劣な一団・・・上空に舞い上がり超状強化って効果のある料理・・・お刺身(失敗作)で全身をちょっとステータス上乗せしてからやっと気付いたってとこなんだけど、単独じゃ無いぽくて馬車が少なくて三台と・・・わかんないな、更にっ超状強化重ね掛けしないと、お刺身(失敗作)をむぐむぐ・・・『うぅ、苦い。何でお刺身なのに苦いんだろ。』えーと・・・他に馬が4頭と獣人が・・・けっこうな数居るね。
その馬車の周りがトロンの放った雷撃が落ちたとこから地面に伝わってまず、馬が痺れてビクンと震えたかと思うとその場に倒れていく。
続けて、更に魔法を唱えてうちを狙ってきたフード付ローブを着た獣人、その後ろに居た獣人を地面からバチバチと通電した雷撃が伝わるとビクンビクンと震えて呻き声をあげながら意識を失ったり、失神まではいかないものの痺れて動けなくなった。
そんな光景が狙いは変わるけど何度も何度も、動くモノが無くなるまで続けられた。
勿論、雷精・トロンの力・・・《雷衝》サンダーショック。(メニューには妖精さんのスキルの名前は出てなかったりする。だから、うちが命名。痺れる雷、だけにサンダーパラライザーとかでいいかも?だけど、ダメージだってあるしぃー。)
これも以前より少し強くなって一度に痺れて倒せる範囲が広がってる気がする。
ぶっちゃけ?トロンの、クールタイムの為に間を少し置いての連発する光景をニヤニヤ見てただけ、うちは。
戦闘能力なんてほんの少し、投げナイフも当たればラッキーくらいには使えるし杖だって叩くくらいには使える・・・はっきり言ってうちはそんなカンジ。
召喚士って大体そんなもんなんだよね。
ぐーちゃんがやる気なら、任せても全面的に無力化してくれるンだとは思うけど?獣人がどれだけ居たってね。
でも、それじゃ──うちのこのメラメラと燃え上がるみたいな心が晴れないんだもん。
ぐーちゃんが殴り倒すよりも、トロンに雷を撃って貰う方がずっと気持ちスゥッとするしね。
「えへっ。空から麻痺の電撃連発しただけなのに、もう降参?」
動かなくなって安全になった事を確認してから、馬車に近寄って敵さんを間近で瞳に映した。
みやこならこんな時、こうやって頭を、顔を、鼻をグリグリと踏みつけるンだろーけど?うちは、みやことは違うから頬っぺをグリグリって踏む。
だけ、にしといた。
いやぁ?でも、殺されかけたよねー?殺意、無いわけ?違うじゃん?
思い直すとまたメラメラと燃え上がるものが。
他の奴は何にもされてないけどっ、コイツは!
足元のローブ姿の唸る巻き角を生やした獣人の睨んでくる瞳を睨み返して、ガツッと顎を蹴飛ばした。
これくらいにしてあげるわー、うちの心が広くて良かったね?
「クドゥーナ、いいか?これくらいで。」
「うん、もっ簡単には起きてこれないって。」
この馬車、何故か大量にロープ乗ってたんだけど、ありがたくそれを使わせて貰っちゃう。
外に倒れて痺れてる獣人は御者、護衛?合わせて10人。
それをぐーちゃんにも手伝って貰って縛り上げる。
っていっても綺麗に縛るとかは出来ないから、ごめんね、片結びなんだ。
誰に対して謝ってんだろ?うち。
「あ。・・・ぐーちゃんごめん。」
ナルホドー。
だから、ロープとか何の道具か解らない、真ん中をくり貫いて二つの穴が空いた木の板がたっくさん、ホントにたくさん、馬車の荷台に転がってたわけかーぁ。
二つ目の馬車の中には目隠しと口封じ、その上で縛り上げられて後ろ手に木の板で手枷をされた人がいっぱい・・・多分、みっつ目も・・・ホラ、ねー。
同じ様に縛られた、お世辞にも綺麗って言えない服装の人達がいっぱい乗ってて。
幸いなのは、馬車の中は雷撃が通電してなくて何が起こったか解らないって感じだけど痺れちゃったとかの心配はないぽい・・・ダメージは多少どうしてもでちゃうんで、そこはごめんなさい!
あーあ、解っちゃった。
人拐いか、奴隷商が奴隷をこの先にあるデュンケリオンかマルセラドに運んでる途中で、出会っちゃったわけだ、うちとーぐーちゃんに。
「なんだ?コレは?」
「奴隷商人の馬車と護衛ぽいの。解りやすくゆーと、悪いやつ。」
ぐーちゃんは見た事ないよねー、人類の汚い部分てゆーか黒くておぞましい部分てゆーか。
他人にはどこまでも酷くなれる部分があって、それは『ま。他人だから。』で済ませちゃう人達が大勢いるからかも知れないし、ちょっと簡単にはニンゲンに出来ない酷い事でもやれちゃう存在が欲しいってゆーのを実現させちゃう為に必要だったりなのかも知れないし。
欲しがる人達が居ないなら、成り立たないはずだからファンタジーな世界で明日にも皆死んじゃうかもってゆー、モンスターがその辺をウロウロしてるこの世界でもやっぱり欲しがる人達居るんだ。
「なんだ、そう・・・悪いやつなら罰は必要だな、クドゥーナ?」
ぐーちゃんがそう言って足元に転がる獣人をつまみ上げる。
「うん、そう言うよね。セフィスだったら。」
うちは、つまみ上げるぱわー無いから蹴飛ばしとくか。
セフィスはぐーちゃんに余計な事を教えた、いや・・・必要っちゃ必要よ?でも、ぐーちゃんが手加減──出来るわけ無い、よねー?
セフィスがぐーちゃんに教えた余計な事、それは──
「罰はおしりペンペン? 何がいい?」
悪い事をしたら罰を受けさせないといけないってゆーこと。
前のぬいぐるみなぐーちゃんが叩いたってダメージはそんなに無いからその時は良かった、でも今は。
目の前に立ちふさがるモンスターをばちこーん一発殴っただけで瀕死か、即死にさせちゃう強烈なぱんち!
どどーんと蹴っただけで明後日の彼方に蹴り飛ばす、きっとけた違いなレジェンド的なきっく!(上段蹴り。)
そんな殺人級のぱんち&きっくが出来ちゃうぐーちゃんがおしりペンペンをしたらどーなるか、
「うーん。それじゃ!」
それはもー、罰じゃなくて死刑執行じゃまいか?
それはあっさり殺し過ぎるよ、もっとゆっくり酷い事をするから罰になるんだよ?
ちらりと足元を見ると、死刑執行間近の罪人である・・・獣人と瞳が合った。
ぐーちゃんの怖さが解ってないから、おしりペンペンでどーなるか解ってないから、どこか余裕の瞳をしてる。
うちは、そんなにあっさり殺してしまうつもりは更々無いからね?
「こいつら、獣人だし。背中に穴空いても大した事じゃ無いでしょ。」
「これが罰か?」
獣人の背中に、ロープを巻いたフックを刺して通していく、フックは棒ナイフをΩみたく釣り針の役割を果たせる様にぐーちゃんに曲げて貰って作った。
ぐーちゃんは、この先に待つ奴隷商人の末路が理解ってないから不満そう。
「馬車が走れば引きずられるもん、痛いよ。たぶん。」
そう言ってうちは、フックの先のロープを馬車の後ろに括り着けていく。
まるで竿に釣糸を付けるみたいに、勿論えさは奴隷商人の体。
何を釣るワケでもなくて、ただ馬車が走っている限り引き摺られてその内、運が悪いと死ぬかもね?
でもぐーちゃんはどーしても、おしりペンペンがしたかったぽくて、
「悪いやつにはやっぱりこれじゃないと、ダメだ。」
手加減は出来てない。
一発目で拾った枝はへし折れた。
気を取り直してやっぱり拾った枝で振り下ろした二発目にはメリって音がした、合掌。
悪いやつなんだけど、枝がヒュンて振るわれただけで腰のどこかの骨が折れるなんて、思いもしないんじゃ無いかって思うから。
うちだって、人並みにえすえむだって知ってるつもり。
セフィスが教えた躾としての罰、おしりペンペンなんだけど、ぐーちゃんがやっちゃうとー。
そのどちらでも無い、セフィスが教えた通り10発を振り下ろした頃には死んでるンじゃない?
ショック死か、パニック死か。
「は、はは。 真っ赤だね。」
笑うしか無いよ。
ぐーちゃんのけた違いなおしりペンペンで、奴隷商人はびくびくと痙攣をしてるんだもん。
あ。ぐーちゃんにはドレスを着させたよ?奴隷商人を縛るのを手伝って貰うときに。
「馬車にはこのまま自由に走って貰おっか。」
運ばれてた『荷物』は全部下ろした後だよ?勿論。
目隠しと口封じはまだ取ってないけど、下ろした時に縛られてたのはほどいたし、手枷も外したり、数がけっこう、えっと・・・38人も居た。
ニンゲンが多いけど、兎みたいなモーラ人や、エルフもホビットぽいのや、ジピコスみたいな狐さんも居たり様々。
で、何で目隠し取らないのってゆーのも奴隷商人が酷い目にあってるのを見てこの人達がどーゆー行動をするのか、うちにはそれがわっかんないから。
「行っちゃった。・・・どうするんだ?」
荷が軽くなった馬車を馬のお尻をピシイッと拾った枝で叩くと御者も居ないのに動き出す馬車。
アハハハハ!
奴隷商人たち、ズリズリと地面に擦られながら引っ張られてく、ざまみろし!
ぐーちゃんが違和感たっぷりに微笑んで訊いて来たのは、
「この子達? 街に届けるか、近くの集落を探すか。」
荷物の事だよね。
正確には荷物『だった』人達。
訊かれたから、答えたけど・・・街、モーボンの街はけっこう離れてるから、マルセラドまでぞろぞろ連れて歩くワケになるっかなぁー。
「良かったね、小さいけど集落あって。」
森をマルセラドに向かって歩いてると集落に出た。
実は奴隷商人が馬車を走らせてた道が茂みの向こうに続いてたんだよね。
で、その道を少し進むと脇道が現れて。
少し観察すると、その脇道けっこう人の出入りがあるのが解ったんだ。
良かったって思ったよ、ホント。
子供達の話だと、南の方から奴隷にしようと拐われたんだって。
出身はラミッドや、聞いた事も無い村だったり集落。
返して廻るわけにもいかないし、自力で帰ってもらわないと・・・
「急ごう、クドゥーナ。」
「はいはい。解ってるって。」
子供達って言っても上はうちより年上っぽい人も居るし、まぁ大丈夫かな。
真夜中だってゆーのに、その後もぐーちゃんは走り続けて、我慢仕切れなくてリヴァースする羽目になるうち。
そんなこんなで色々あったはあったんだけど、朝早くに大きな街の巨大な門の前に着いた。
目的の場所は近いかも知れない。
しばらく、夏風邪が再びとか、スランプとか、良い文が浮かばないとか、色々ホント色々あったにしろ──サボったのは事実、ごめんなさいでした。
文が浮かばない、これは他の事柄が頭に浮かんでくるからだったり。
とらどらを視てるからでそーか、あーゆー恋愛モノばかり浮かんできてねー、短編くらいなら書けるかな?くらいの。
メモとってないんですけどね。
脳がファンタジーしてないとどーもダメみたい。
後は、・・・ただ辿り着くだけなのに長いよ・・・。