死屍累々──獰猛の目覚め 30
ヒール!
ザ、シュッ!
ヒール!
ズゥ、バァァアアッ!
わたしがヒールを唱えて間も置かずに、アスミさんが多分オークキングの何かを斬る音が耳に届く。
それは遥か、上空で起こっていることで。
見上げてもアスミさん、速すぎて叫んでる声が耳に届くってだけなのは変わらないみたい、ね。
「ひゃっはー!死なんオークキングなんぞ初めてやわ。」
アスミさんに言われた通り、休まずヒールを唱える、ギロリと睨み付けてくるオークキングに向かって。
ヒールを唱えて、ヒールがオークキングにダメージを与える。
それを繰り返し繰り返し、どれくらい経ったか、何度めかのヒールがオークキングを絶叫させる、と。
──ザリザリザリザリザリ・・・と、耳障りな音を頭上から響かせながら近付いてくる、何かが。
なおもヒールを唱える、無駄撃ちじゃないけど頭を過るのは、わたし・・・どうしてヒールで戦ってるんだろ。って事だったりする。
耳障りな音はそんな事御構い無しにどんどん大きくなって、
「ザクザク斬っても切り口同士が縫合しよるわ、質が悪いやん!うちやってアンデッド苦手やー、キッショ〜!この、うねうねしおって!」
間近でアスミさんがそう言って叫んでる声が聞こえると同時に、耳障りな音が止んだ。
音の正体、それは。
刀をかなり上の方で、オークキングに突き刺してそのままアスミさんが降りて来たんだ。
見上げて傷口を見ると・・・、すでにオークキングの体は小さな管か触手みたいの同士がウネウネ動いて、その・・・、アスミさんが『気色悪い』って口走るのもしょうがない光景です。
パックリと割けている傷口同士がズ、ジュ、ズジュと嫌な音を出して縫合されていく様はトラウマになっちゃったかも知れないくらい衝撃的。
嘘・・・アスミさんの攻撃がまるで無かったみたいに、跡片も無く綺麗に元通りとか。
そんな風に思案しながらでもわたしは、言われた事はちゃぁんとやってて。
絶賛ヒールを大盤振る舞いちう!
「はー、・・・連続ヒールも疲れるぅ。」
アスミさん関西弁?何と無く、意味が解らない言葉があるような、無いような?
「はっはー!後、一息や。りんこちゃん、頑張ってやぁぁ。くすっ。」
無理に笑ってるアスミさん、オークキングに何をしても手応えないみたいで苦しそうなのを隠せない。
不意に振り返ってニコッと笑う。
その微笑みもやっぱり、どこか無理をしてるみたいで痛々しい。
視線を上空に戻すと深ーい溜め息に迷いを包んで振り払うように吐き出して、
「──うちも、もっかい行くわ。青天一頂!!」
そう言ってアスミさんはまた体の周りを閃光で包みながら、あの急速に上空に引き寄せられるみたいなスキルを使ったぽくて、弾かれるみたいに空に昇っていった。
一瞬、目を開けてられない衝撃波か突風が辺りを襲う。
スキルの副産物なのかもだけど、大迷惑・・・。
「ふぃー、疲れ・・・。」
オークキングの攻撃は言った通り、アスミさんが集中して引き受けてくれてて、わたしにはそう言うの一切来ない。
凄く助かるけど、わたしの解らない上空でアスミさんが一人でオークキングを引き付けて攻撃を躱したり、切り合ったりしてると思うと・・・ちょっとだけ申し訳無くなるんだよね。
アスミさんが斬ったり、何かしてるのは唯わたしから目を逸らして、アスミさんに向けさせる為だけなんだもん。
攻撃をしても、ダメージは無かった事にされて再生されちゃうだけ。
無駄って思ってても、やらない訳にいかないジレンマに苦しんでたりするのかな?
そう思ってると、キィンキィンィン・・・上空からあの音が聞こえた。
まるで、ビームでも止めどなく発射し続けてるみたいな音に誘われてわたしが上空を見上げると、
「──かーらーのー・・・──もっかいブッツケ足るわぁ!ダイナスト──」
両手に握った刀から、全身から黄色やオレンジの閃光を発するアスミさんが浮いていた。
すぅぅと真一文字に立てた刀を振り上げて、そのまま振り下ろしながら前に全身を回転させると、更にまばゆく全身が光に包まれて。
キィンキィンィンと音を響かせながらアスミさんは回転する刃の様に姿を変える。
「ブレイク!どやァー!!」
巨大な丸いチェンソーの様に、回転するオレンジ色のグラデーションの閃光。
オークキング目掛けて体当たりしたそのチェンソーの閃光の刃が巨大な体を切り裂く。
と、ガリガリとかザリリとか音をあげながらオークキングの体は左腕の付け根辺りから右の脇腹辺りまでを両断していた。
その間も回転刃が襲いかかった時から、おぞましいオークキングの叫ぶ断末魔が途切れず、辺りを地響きも引き起こしながら続いてる。
──ずるりっと何かが滑り落ちて来る音が聞こえてそれを視界に入れてしまった事をわたしは後悔する・・・だって、それは。
おびただしい眼、眼、眼。
何かゼリー状の・・・何だろ、コレ?に包まれているびっしり生えていたあの邪悪な眼がオークキングの躰だから剥がれ落ちてきてたんだ。
「くっくっくっ、真っ二つや。さすがに今度は死んだ・・・やろ?」
左腕の付け根から右脇腹を引き裂く様に真っ二つに両断したアスミさんは、そのまま地面に着地して発動してたスキルを終了させる。
何で解るかってゆーと、音と閃光がピタっと止まったから。
それと時を同じくらいに、目の前にはドッオォオオォオオンッとオークキングの躰の上半身が落ちて来た。
上空から降ったオークキングの躰は砂ぼこりを上げて窪みを作ったうえ、その場に小さな地震を引き起こすくらいの衝撃。
下半身はそれでも何も変わらず、立っていた。
そんな!また、甦ってくるかも!わたしは尚もヒールを唱える、ヒール!ヒール!ヒール!叶うなら、もうこのまま復活とか、再生とかナシで、お願い神様!
しばらくヒールを続けて唱えると目の端でずるりずるりっと動いているスライム状に纏まったあの眼、眼、眼を見付けた。
見詰めている間にも、ひとつまたひとつとそれは他のゼリー状の眼を加えて大きくなっていく、えっと。
わたしは、その光景を見て脳で考えるより速く──それに向かってヒールを唱えていた。
何故かって?オークキングの再生とかの時に見た触手っぽいので繋ぎ合ってスライム状の眼はじりじり集まってくる眼を加えて大きくなったから。
そんなの見ちゃったらさすがにわたしでも解るって。
コイツが!
オークキングを再生とか甦生させてたんだって。
「あ。ぁ、ぁ゛っ?」
スライム状に纏まったそれはひとつじゃなかったぽくて、声がする方に振り向けばアスミさんの目の前にはまたスライム状の眼。
まだ、・・・終わらない、終わってない。
溜め息を我慢できないでひとつ、ふぅと吐き出して眼に向かって唱える癒しの光、ヒール!
「コイツか、オークキングを動かしてたんわ。コープスの癖に、ホンマ・・・キッショい!うぇッ。」
シュウウ、と力無く小さく萎んでいくスライム状の眼に向かってアスミさんは真底うらめしそうにそう言って呟いた。
それでコイツの名前が解った、コープスって言うんだね。
「えぃヤッ!」
え?最後はこんなにあっさり終わっちゃうの、終わっちゃっていいの?
アスミさんが小さく萎んだゼリー状の眼をグリグリと踏み付けてコープスって言う、オークキングを操ってた敵を倒しちゃった?みたい。
その証明に、あれだけ何回やっても再生とか甦生してたオークキングの体はしばらく経ってるのに再生しないし、アスミさんはうさ晴らしするみたいにオークキングの残った体を滅多斬りに何かのスキルの的変わりにしてたくらいで、さ。
終わった。
わたし達はオークキングを見事、撃退してフィッド村を襲撃から救ったんだ。
やっと終わりです。
オーク襲撃編。
しばらく更新出来ないでごめんなさい・・・躰が、言うことを聞いてくれない事態になってて・・・ああ、ただの夏風邪なんですけど。
汗掻いたら、すぐに拭かないと良くないですよ。
アニメも積んだ感じで見れて無いです、その内みようっと。
次は幕間?挟んで、舞台が変わりますよー。