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死屍累々──獰猛の目覚め 26


空は何処までも青に澄んでひとつ、ふたつの入道雲が浮かぶ、そんな空模様でどことなく夏を思わせ。

実際、夏なのか一年じゅう暑いとこなのか解らない。

でも、サーゲートは陽が上り、肌を焼く様な陽射しが照り付け始めた遅い朝にはもうじわりと汗ばんで暑く感じるとこだった。

とっくに陽が上ってギラギラ燦々陽射しが、肌を焦がして暑くなるはずのアスタリ山の山奥の開けた木立。


わたし達の居るその木立では、そんな事は知りませんとでも言う様に辺りが冷たく、一気に冷え込んで寒く感じる。

それは、もうすぐ準備した魔法が整うって合図。


まずは脚、一本貰いましょうか?


片手でオークキングに突き立てた剣を握って、両足で落ちない様に踏ん張ったまま、わたしは次の手を発動させる。


「──ダルテ!」



踏ん張ってる足元からパキパキと凍らせ始め、底冷えする凍気がオークキングの肌を黄金の毛を凍り付けにする、局地的な超寒波が暴れまわる様な吹雪が巻き起こる。

と、わたしは剣を引き抜きその場を離れた。


留まれば凍傷にならなくても、酷い冷えで体がしばらく動かなくなるかもじゃない?


無事着地して距離を取り、顔を振り上げ見上げる。

さっきまでわたしが何とか立っていたオークキングの太ももはカチコチに凍っていた。


思っていたより効果が薄いのは、魔法防御とか魔法抵抗値なステータスが結構高いのかも知れない、面倒な!


わたしが持ちうる最高のスキルは、属性攻撃。

契約神の力をちょっち借りて、一時的に触れるものを全部凍り付かせるってゆーか、自分自身が絶対凍土の氷になってるみたいなもの。

魔法抵抗値が高いと、スキルの効きだって弱くなっちゃう。


周りも、わたしだって相当冷え込んでる筈なのに、ツウッと一筋の雫が落ちていった。

こんな時に汗が?

わたし、・・・動揺してる・・・?


効き目が悪くても。

やることをやるだけ、そうでしょシェリル。


思い直して心の奥底に語り掛ける。

答えは勿論返ってこないんで、強がって微笑んだ。

わたしが今、動揺して良いことなんてひとっつも無い、断言できる・・・わたしが倒さないと、イライザもゲーテも他の誰だってオークキングに勝てない。


そんな事思うと何か、わたしが勇者にでもなった気分。

悪い気はしないって事にしとこう。


そんな事を考えている間もオークキングが、突然太ももを襲った耐え難い寒さに悶え苦しみ、周囲の樹々を踏み抜いてへし折りながら暴れまわれば、大きな地響きを鳴らして足元も当然規模の小さな地震のように揺れる。


効き目が弱いだけで効いて無い訳が無いじゃない。


極北の、生けるもの全てを凍り付かせてその生命を奪う超寒波に匹敵する凍気に曝されたんだから。


凍り付かせて動きを止めるまではいかなくてもダメージはあったはず。


ネガティヴな弱気になる思考を頭の隅に追いやって、超寒波がまだ止んでいないオークキングに再びわたしは飛び掛かった。


「──パンツァースラストッ!」


ジャンプしてオークキングの膝に狙いを定め、後ろに両手で構えてわたしが出し切れる最大の渾身の衝きを繰り出して肉を、骨を撃ち抜いた。

何度となく鼓膜を震わせる断末魔が響いて、すぐさま振り払おうと掌が近付いて来るんだけど、刺さった剣を引き抜いた勢いで押し潰しに来た掌を袈裟斬りにぶった斬り。

すると玉の様な血が噴き出して血風が舞い、べろりと皮が、骨が裂けぶらんぶらんとぶった斬った左手の指が皮一枚で何とかくっついていた。


スローモーションの様に血玉が噴き出すその様に釘付けになっていると、悲鳴に似た絶叫を上げて、オークキングの左手は物凄いスピードで上に引き上げられて行った。


まだまだぁ、・・・ふふふ。


覚悟は出来たもの、・・・寝る覚悟だけどねっ!


「──ダルキュニルッ!」



今度こそ止まれぇっ!


大地にオークキングの脚を打ち付ける様に、氷の柱が脚の甲を突き刺して生えた。


次の魔法を準備する為の時間稼ぎ。

なんだけど、その時オークキングの全身で変化が起こり始めた。


んっ?眼、眼が嘘!


気付くとオークキングの足の甲からわたしを睨み付ける、寒気でゾゾッとするほど味わった事の無い、冷えきった、全身が逆毛だつ悪寒を感じる嫌な視線。


眼が新しく生えて、ひとつ、ふた・・・えっ?


何、こんなオーク見たこと無い。


なんなの、・・・な、なんなのコレッ!


もう、数えきれない・・・眼がそこらじゅう、あちこちに生えて、・・・キモッ。


気味が悪い、吐き気しか出てこない。

どっかで見たな、こんなのって・・・あれは──コープスの。

シナリオで・・・確か。


「ふぅー。・・・やるか。」


でも、怖じ気付くわけには行かないんだ、この悪寒の正体が解っても。


倒せるのは。

わたしだけ、わたしだけ、わたしだけ、わたしだけ・・・──わたしだけっ。


胸を押さえて、落ち着かせるように念じていく。


救世主?国を救う?そんなのどうだっていいから、唯生きて仲間の皆で帰りたい、願いはひとつ、誰も欠けずに。


「行きますっ!」


わたしはここに居ないヘクトルも含めて仲間達皆の笑った顔を思い浮かべながら、オークキングの胸目掛け飛び込んでいった、地面を渾身の力で蹴って。


ぐんぐん迫るオークキングの上半身を見る。

視界に飛び込んでくるのは悪寒、寒気、吐き気・・・嫌な気分のオンパレードを撒き散らす、夥しい数の眼、眼、眼!!


数百、数千の邪悪な気配を放つ視線を全身に受け、思わず身震いして一瞬瞳を閉じた。


目蓋の裏に浮かんだのは、まず日本で元気にやってるだろう家族、次に『死ぬな』って励ましてくれた、声は聞こえるけど顔が見えない元彼、そして次に何故かぷんぷん怒り顔で『──居ないのっ!京ちゃんしかオークキングを倒せるのっ』って勇気付けてくれた・・・凛子。


うっしゃ、気合い・・・入った。

ありがとう、皆。


わたし、頑張れるよ──もっと──


「エクセッ──」



より強い決心に支えられて、わたしの取って置きを発動させた。

すると全身を包み込む青白いオーラが現れて、間を措かずに爆ぜる様に光を伴って霧散する。

爆ぜたオーラがわたしを作り替えるみたく血管の一本一本に染みていく様な感覚に襲われるけど、不思議と何の恐怖も無かった。





「──ザリオス!!!」



全身に行き渡った青白いオーラは、握った刀身にも溶け込んでから再び噴き出す様に現れて絡み付く。


全身の血管の一本一本がシャーベットにでも変わる感覚がもう一度ほど襲ってくると、くらりと目眩がした。


わたしがわたしじゃなくなる──


キラキラと刀身が輝いて綺麗。

そう思う暇も無いほど全身が悲鳴を上げても、わたし自身から噴き出す冷気を受けても驚かないくらい思考はクリア。

キィンと耳鳴りを伴って冷気が凍気まで引き上げられて行くのが自然と解る。


わたしが、わたし自身が絶対凍土の氷の刃となった瞬間だった。


手始めにヒュンと風切り音を上げて、夥しい数の眼に覆い尽くされたオークキングの胸を袈裟斬りに切り払う。


使ってしまえばどっかへ飛んで行ってしまった。

オークキングに生えた眼に対する脅えも、悪寒の正体に気付いてから生まれた怖じ気付く気持ちも。


後はオークキングを殺しきるまで、オーバースキルの効果が無くなって睡魔に負けるまで腕が無くなっても、体が動かなくなっても唯ひたすら斬り付けるだけ!


死ね、死ね死ね死ね!


ブシュ、ブジュと斬った傷から大量の血が噴き出す事も出来ずに凍り付いていく、オークキングの躰。


袈裟斬りにぶった斬りにしてから、返す勢いで滅多斬り。

そのまま狙いも付けずに視界に入る眼と言う眼を気付けば狂喜して、高笑いをあげながら滅多衝きにしているわたしが居たりする。


その刹那、グラリとオークキングの巨体が揺らいだ。


そんな事は関係ない。

今、わたしがしなければ行けないのは何?斬撃をひたすら叩き込むだけでしょ?


今のわたしは風より軽い。吹雪に曝された冷たい冷たい結晶の粒。

そんな感覚。


出来うる限りに滅多斬り、滅多衝き、前転からの回転斬り、腰を捻って廻し蹴りの通りに撫で斬り、剣を突き立てて抉る、抉る、抉ってそのまま──胸から首筋までオークキングの背後に広がる蒼天を両断にする思いで斬り上げた。


斬り付ける度に奏でられるザク、ザシュ、シュパッと言う斬撃音を聞きながら、それよりもオークキングの天を引き裂く様に哭く甘美で素敵な、断末魔が心地好く耳に響く。


ああ、もうすぐ──終わる。

楽になれる。


わたしはやりきったよ、凛子。


後、迷惑かけちゃうけどよろしくね。






最後に両手を逆手に重ねて、死ね!と剣を突き立てた胸から腹迄を裁ち切るつもりで袈裟斬りに斬り下ろす。


するとオークキングはそれまで小気味良く叫び続けていた断末魔を止めて、ゆっくりと崩れ落ちていった。


やった!・・・の?





・・・・・


・・・


・・



「死ねっ、死ね死ね死ねぇー!いい加減っ、にっ、死ねっ、てのーっ!!」


動かなくなったオークキングの腹の上で、わたしは溜まったうっぷんを晴らす様に斬りまくった。


これで終わったと思うと名も知らない冒険者たちの最期の姿が、怒涛の勢いで次々と浮かんできてその弔いの意味もある。


「ふ、ふふふ、うふふふ。」


自然と湧き出した笑い声も我慢できないで、そのまま斬り続け、暴れまわった。


ぴくりとも動く事の無い完全に死んだオークキング、それでも拭いきれない一抹の不安はある。

もう動かないし、夥しい数の眼はいつの間にか全て消えていた、それでもこびりついたように悪寒だけがわたしの全身を包み込んで放れなかったから。


ねえ、・・・もしかして。


「いっか。ま、いっか。」


頭に浮かんだ思考を振り払う様に首を、左右に嫌々みたく動かしてわたしはわたしの持ち出した疑問を誤魔化す。


途中、アンデット化、うん。

オークキングはアンデッド化していたと思う、眼が生えたアレって死霊が集合した時に同じ事が起こったんだ、確か。


コープス・レギオンとドゥームドラゴンの融合。


ううん、あれは・・・ドラゴンがコープス・レギオンに乗っ取られた、取り込まれた感じがした。


シナリオ上で、だけどねっ。


思考を打ち消した瞬間、わたしはゆっくりと意識を最強の敵──睡魔に奪われて、目蓋は抗えないように重く閉じてくるんだもん、とても瞳を開けてられない。


そして、膝から下に踏ん張りが利かない・・・ううん、そこから足が無いみたいにふわふわ。

わたしは知ってる、これは◯◯ほー。


そこで、記憶が途絶えた。


プツンと。











とっくに出来てたのに、気に入らないで加筆に、書き直しにと欲張っていたらもうこんな時間。


要するに天翔ける◯の◯きがしたかったです、後悔も反省もしてないです。


読み返しとかしてたら2時間あっとゆーまに過ぎてた…ユーザー合同の強ボスもやっと死んだー、お疲れ様って気分…でもないか、まだ何か引っ張ります、ボスがこんなモンじゃないって言ったのは笹茶屋さんでしたしね。


ひさびさに見直しとかしたー、毎回しなさいよって。



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