死屍累々──獰猛の目覚め 24
どれくらい、キングを相手に斬り合ったんだっけ・・・。
いや、避けて、躱してだから正確には斬り合ってないのか・・・。
動くオークは数えるくらい、覚えてるだけで握り潰したマナチューブは8コ。
8回の鬼神化はさすがにオークの残り数を目に見える範囲で成果をあげた、らしい。
意識が飛んでるからか、神速を味わってるからかわたし自身、ダイジェスト程度にしか何が起こったか把握出来てない。
言える事は、雑魚だろうとボスだろうとゲーム時代はバーサークを使用すれば楽々倒せてたんだよね。
但し固いのとか、属性由来のダメしか通らないのはエンチャンターで無いと楽勝とは行かない、むしろ固いボスにバーサークとか・・・ただ死ぬだけ。
鬼神化って字面は凄い強そうだけど、うん強い、強いんだけど。
カウンター1つで、けっこう酷い意味で良いの貰うの。
攻撃100%、防御0%にするって感じで固いボスから反撃なんて喰らっちゃうと一気にゲージが減ってステータス表示が赤く染まって・・・死。
ボスじゃなくても非常に固い雑魚だって同じ、回復アイテムをがぶ飲みしても追い付かないダメージを貰って死んで、レベ上げに組んだ急造partyを全滅させた事だってある、あの時はごめんなさい。
言いたい事は解ってくれたかな?
雑魚か、余程固くないボスにしか使えないのだって事なんだけど。
あと、面倒なコトに使用したら魔力を0になるまでキャンセル出来ない、ま、数秒経てば魔力は空になるけどねー、その数秒間は絶対無防備。
例をあげると今。
オークキングのあの包丁を素で喰らっても圧し殺されそうなアレを一回喰らっちゃうとゲームオーバー。
魔法を使えないのか、使わないでも楽勝とか思ってるのか・・・魔法を一回喰らっちゃうとこれも又ゲームオーバー。
説明してて何だけど、固そうなキング相手にはとても使えないし、使わないで済めば使いたくない魔法だわよ。
命が何回あるわけじゃないのに。
そんななのに、躱せてるから今はいいけどって使ってるわたしって、どんだけのチャレンジャー。
あれだよ、オートリザレクション、買っとけば良かった。
フルプレートは、今のがあるからって渋っちゃったのマズったなー。
あ。見た目も・・・可愛く無いのよ、全部金色で所々プラチナで装飾されてるんだけど、その名も『レジェンド・オブ・イーリス』・・・わたし属性も契約神も違ったし、そっちの意味でも散財してまで欲しくなかった、せめてデザインが好みだったら回したよ?
今は、後悔してる。
ホントの意味で死なない体になれる、死んだことにならないで蘇生するスキルが付いてるんだもん。
これひとつあれば、どんな無茶だって出来る、出来たのに・・・。
「死ねっ、死ね死ね死ね死ね死ねーッッッ!」
こんな事してたらいつか、死ぬなー。
キング固いのに、《バーサーク》とか・・・。
ダイジェスト映像みたく自分自身がキングに斬り付け、斬り払い、斬り下ろして返り血を浴びて血に塗た姿を見詰めながら沁々そう思う。
忘れてた・・・、失念してたわ・・・。
オークキングなんて、一人じゃ倒した事無かった・・・それ言っちゃうとそもそも襲撃イベントは、何日もイベント期間が用意されててユーザー全員が参加自由で、軽く何万人が一度にキング狙いで戦うようなイベントなんだよなー、それを、さ。
掌の数で足りるくらいの人数で倒そうって無理だよね・・・そうじゃない、そうじゃないよ、無理だろうとぶち殺すと決めたんだからこのわたしが!だから、無理とか言ってらんない殺さなきゃ。
絶対に今なんだ、殺さなきゃ、今。
逃がすもんか。
わたしが人知れず強く決心を固めていた、その時。
「堅い・・・」
聞き慣れた声が近くで聞こえた。
何でここに居んのよー?
死ぬわよ、ゲーテ。
声のした方にチラリと視線を移すと二足歩行の巨大な虎が立って居た。
わたしには届きすらしなかったご自慢の爪で、キングの特撮の怪獣じみて太くて固い足首を引っ掻き、わたしには届きすらしなかったご自慢の牙でキングの太くて固い脚の親指に噛み付く。
言ったら悪いと思うけど、・・・何にも効果なさそうなんだけど?それで死んだら、無駄死に以外の何でもないわよ。
キングに対して、わたしの斬撃一回のダメが100とするならゲーテの攻撃は・・・10、ううん、多く見積もって8、良いとこ5くらいかな?
肌に傷を付けるにも至ってなくて、皮一枚引っ掻いてる感じで。
何やってるの!わたしに助けなんて要らないの、死にに来るな!
わたしの前で死んで見なさい?恨むわよ、恨むから、恨んでやるんだからーッ!
死なれたくない、死んで欲しくない、死なせてしまったら悲しくて、苦しくて、悶えて、どうにかなってしまうかも。
見知らない誰かなら『ああ、助けられなかった!』って気に病むくらいで済む、でもっ!知ってしまったらっ!そいつはもうわたしの記憶に残ってしまうからっ!
わたしは狡い人間だ。
わたしとわたしの友人や、仲間に危害を加えようとする人間なら殺したくなる。
わたしは弱い人間だ。
どんなに殺したくなっても、どんなに壊したくても、どんなにぐちゃぐちゃのめちゃくちゃにしたくても・・・人間を殺したり出来ない。
わたしは・・・臆病。
実際初めて会ったゲーテには、ぐちゃぐちゃのめちゃくちゃにして殺したくなった。
でもそれは出来なくて。
死んだら二度と戻ってこないと解ってたら殺せない。
これが人間の理性なのか、本能がどんなに昂って殺そうとしたとしても、ブレーキを理性が掛けてくれる。
だから、ゲーテ・・・わたしの為に死ぬな、下がって。
心苦しく、脳内のネガティブ思考が螺旋を描き出す。
死ぬとか、死なないとか、死なせてしまうとか、死ぬとか、死なないとか・・・グルグルグルグル。
「くそっ、姐さんっ!無茶だ、俺たちだけなんて最初か──」
「喋りながら斬れっ、戦え!戦闘民族なんだろっ!」
キングの目の前でくっちゃべるとか自殺志願者にでもなったわけ?違うでしょ、ゲーテ。
わたしはキングが包丁を振り下ろしているのに気付き、咄嗟にゲーテを掻き抱くように抱き抱えて茂みに飛び込んだ。
その刹那、ズゥウウウゥウン!と言う大地に何か相当重いものを落としたような音がさっきまで居た方から聞こえた。
少しでも気付くのが遅れてたらゲーテ、あなた死んでたわよ?
「周り見ろっ!」
わたしはスッと立ち上がって、キングに向かい指を差し出す。
ゲーテに気付いて欲しい、気づかなきゃダメなんだゲーテは。
キングの周りに視線を移せば、こっち───ノルンに来てから初めて目にする程の惨たらしい残骸が散らばっているのが視界に飛び込んでくる。
やったのはわたしと、わたしの中の狂気──シェリルと名付けたそれが暴れまわった結果なんだけど。
ギリギリの選択で、オークを全滅させようとわたしの頑張りは、誰も死んで欲しくない、死なせてたまるか!ってわたしの意地みたいなものだったりする。
ゲーテが無駄死にするような事になったら、わたしの頑張りは何だったの?って事になるでしょうがっ!
意地であり、決心であり、望みだ、わたしの。
獰猛の目覚め──もついに24、長いです、中身薄っぺらなのが続きます。
バーサークの効果は、やってたアレの効果です、解る人には解るアレですね。
弱い敵にはトコトン強くて固〜い敵には瞬殺される上に状態異常なると速度リセットされちゃうアレ。
実体験でもホントに強いのに、使いどころ間違えるとあっさりparty全滅ってあったですね、苦い想い出です。
過疎るまでは最高に面白かったし、毎日無茶してたなーぁ(遠い目)
レベルあげが作業ゲーになっちゃうと、どんなゲームも過疎っちゃいますね・・・
次は・・・ん?
昼は無理ポなので明日かな、頑張ってキング倒せる準備をしよう。