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呪われた魔槍


その後は地図に付けられた点に従い氷トカゲを殲滅した後、凍り付いて流れなくなった滝に戻りザクザクと滝の表面を覆う氷壁を何度も何度もヘクトルとレットがこの為に用意したハンマーで叩いて崩してゆく。


直に水の流れる音がしはじめ段々と、僅かだった水音が大きくなりついにはゴォオゴォオと地鳴りを伴った轟音へと変わり、見上げれば凍り付いていた滝全体が今まで流れを止められていた鬱憤に押されるように爆ぜて―――――


「これでー。町まで水が元通り流れていくよね。」

「1日2日じゃ元通りとは言わないと思う。けど、ありがとう。その内には皆に綺麗な水が行き渡るだろうな。」


答えるレットの後ろを氷塊を押し流しながら激流となって水が流れていく。



その情景を遠目から眺めている存在があった。翠の鬣、蒼い瞳の一角獣―――ユニコーンが静かに流れ始めた川をただ見ていた。




それから時間を7日程巻き戻し――――カルガインの町の南東30キロ程に進むと大陸中央の国サーゲートのラミッドと水の女神に祝福を受けた運河の国グロリアーナの王都とを結ぶラミッド街道へと合流する。この合流点を北上するとカルガインがあるのだがその途上にはモンスターの巣である鉄の森があり迂回路のハザル山越えも決して安心できる道ではない。


このラミッド街道をグロリアーナの王都へと向かう少年の姿があった。少年の名はエクト、NOLUNのヘビーユーザーである。着いてからそろそろ2日が過ぎようと言った所。彼は好奇心からカルガインを南進してここまで辿り着いたのだった。


「まだ着かないの。」

濃紫のハーミットローブを愛用している為少年の容姿は貞かでない。そのハーミットローブの下から呟きを聞きつけた槍が伸びて来てエクトの左頬の辺りで止まると、

「カルガインを出てから3日目だもんなァ、そらァそろそろ見えるんじゃねェか?」

なんと!槍が喋っている。槍の名はアーベンライン、冥王が3槍の内の1本であり、エクトに事実上『憑いている』為第三者にはアーベンラインの声は届く事は無い。

「おなか空いた。」

「カルガインで大人しくしなかったエクトがバァカ。悪いが俺様は食べる必要ねェからなァ。」ガハハと笑うアーベンラインをぐいと押すエクト。


「うるさいうるさい!勝手に新マップが更新されてたら行かなきゃだろ。」


メニューを開いてマップを見る。そこにはブルボンのシナリオで話には出てきたもののその更新は見送られていたグロリアーナの王都の文字が表示されていた。

「だからなァエクトォ、何度も言ったがよォここはお前の知ってるゲームじゃねェよ。更新とかそう言うのはわかんねーが。」

「呪いのアイテムが喋るような更新されたんだ?それとも夢?」

「どー思うもてめェの勝手だぜ、エクトォ。いいのか?さっきから変な奴が付いてきてるのによォ。」

「わかってた。」


アーベンラインの声に頷くエクト。その時、街道の両脇に生い茂る木々の影からガサガサと大きな音を立てて何者かが姿を翻す。


「高そうな服着てんなあー?金だせ金、量によっては命だけは助けてやる。」

山賊Aが現れた。山賊Aを倒した。

「ブレイズ・ヘル。」

エクトが一声吠えると暗黒の炎が左の人差し指から渦を巻いて現れ目の前の男を焼く。

「何ぃ。」

山賊Bが現れた。山賊Bを倒した。

「貫け。」

ローブを翻し振り向き様アーベンラインを使役し右から飛び出して来た男の胸を貫く。

「このヤロウォ。」

山賊Cが現れた。山賊Cを倒した。

「うざい。」

後ろから背中を狙ってダンビラが振り下ろされる。が、見切っていたエクトは上空に飛び上がり下り様に右手の裾から延びたアーベンラインが男の脳天に刺さる。

「なんだこいつは!」

山賊Dが現れた。山賊Dを倒した。

「目障りなんだ・・・」

両手斧を力任せに振り回す大男の背中にステップを踏んで交わしながら回り込みブレイズ・ヘルを唱える。大男は黒く燃え上がり力尽きる。

「てめぇ!よくも」

山賊Eが現れた。山賊Eを倒した。

「よ!」

弓を引いた男に向かい左の掌を差し出すとアーベンラインが驚くべき速さで伸びて胸板をぶち抜いた。

「エクトォ、新手がくるぜ。」

アーベンラインの声を聞いて目を細める。馬の蹄の音が段々近づいているのを確認すると

「アーベンライン。」

「何だよエクトォ。」

「おなか空いた。」

山賊の死体をしゃがんで探りながらエクトは力無く呟く。山賊は食べ物を持っている様子はなかったので、それ以上は諦めたようだ。3日飲まず食わずの上で山賊相手に手加減無しの大暴れだったのだからそろそろエネルギー切れを起こしてもしょうがない。新手が敵だったら常人離れした強さのエクトでもさすがに敵わないのかも知れない。主に空腹という意味で。


馬の蹄が近づき、エクトの横に並んだ刹那、すでに馬上で剣を抜いていた新手と邂逅する。


「女?」

「貴様は何者か?我はサロの巫女騎士・シャリア!名を名乗れ。」


馬上の人物はエクトが山賊で無い事と、その後ろに山賊の死体が散らばっている事を確認すると御決まりの口上を発する。シャリアと名乗った騎士は警戒を解かず今にも斬りかかろうと構えに入っている。見た所山賊の集団をかすり傷ひとつ負わずに殲滅している、見た目に反して強者なのだろう。自然と口の端に笑みを浮かべる。


『返答次第では斬り捨てることになるだろうが、斬り合う事を考えるとワクワクしてくる。どのように楽しませてくれるのか。』


だがシャリアの望みは叶うことは無かった。目の前の不振人物は「おなか空いた。」力無くそう言いながらパタリとその場に倒れ込んでしまったから。


「シャリア様、大丈夫ですか!」

「大丈夫だ。この者を拘束し尋問にかける、連れ帰れ!」

「は!直ちに。」

「残った山賊がまだ居るやも知れない、後の事は頼むぞ。」


駆け寄った女騎士に的確に命令を下すとシャリアは手綱を引いて言うべき事を言って駆け出す。


『まさか、グロリアーナのこんなに近くまで山賊が出るとは。我々騎士団が嘗められたものだ!』


シャリアが山賊を追って街道を西走してから数時間後。


「ガツガツ!ムシャムシャ!ゴキュッ!」


拘束を一時解かれエクトはグロリアーナの騎士団予備隊舎の尋問室で、3日ぶりの食事にありついていた。質より量の食事だったが、今は何より腹を満たせることに感謝するエクト。

「そんなに急がなくても食事は出来るだろう。それより、名だ!お前の名を教えろ。」

その食べ方にどこか引き気味にシャリアは当初の目的である少年の調査に入る。

「言葉使いが成ってない女だな。」

シャリアの問いをエクトが咎めるとシャリアは

「嘗めるな!名無しの下郎を切り捨てても罪にはならんぞ!」

激昂し、言うが早いかスチャッと右手で剣を抜いた。「胴とさよならを言うがいいわ!」


強い殺意を感じたエクトはテーブルの上の報告書をくしゃくしゃにして右手でナプキン代わりにしながら左手にアーベンラインを取り出す。平時のアーベンラインは只の金属の筒にしか見えない為女騎士や隊員も拘束を解く前に取り上げてはいなかった。そもそも呪いの武器が所有者から簡単に離れるのかも疑問。


「態度を改めろ。アーベンラインはどんな金属も貫く。」


エクトは飛びずさり、独特の構えをとって斬り掛かろうと剣を抜いたシャリアに備える。


「聞いたことがあるぞ・・・。アーベンライン、冥王の魔槍。」


シャリアは目を細め不利を認めていた。

『納得だ。魔槍が相手なら何人いようと烏合の衆でしか無かっただろうな。』朝の街道に散らばった死体が目に浮かぶ。

「ごちそうさま。試すか?ここでっ!」

エクトは威嚇にアーベンラインを飛ばす。シャリアは避ける暇無く右耳のすぐ近くを真っ直ぐ壁にまで閃光が刺さる。


「む・・・敵わないか、ここは非礼を詫び剣を降ろそう。お前にではないぞ、その魔槍にだからな!」シャリアが屈辱を噛みしめエクトに頭を垂れた。その更に数時間後、辺りは夕暮れに包まれようとする頃。エクトは不慣れな馬に乗せられ先を悠然と手綱を取るシャリアに付いて、何故か王城へと連行されていた。城に付くと説明もないままシャリアに急き立てられ着いた先は謁見の間。重い音を立てて開いた部屋の奥には只一人威厳を以て頬杖を突いた絶世の美姫が待ち遠しそうにこちらを窺って居た。

新キャラいっぱい出てきたけどどうでしょう

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