死屍累々──獰猛の目覚め 15
一層濃い血の匂いを纏って、木々の生い茂る藪から飛び出して姿を現したのは白いシャダイアスに乗った、異形の黒い鎧に身を包んだ京ちゃん。
オークの群れを、ここまで追い立てながら駆け抜けて来たんだきっと。
白いのは荒い息を上げ、クタッと躰を寝かせるようにその場に倒れちゃった。
ぜーぜーと苦しげな声をあげて。
それを見て京ちゃんはスタッと白いのの首から飛び降りる、不敵な笑みを浮かべながら。
「京ちゃん、白いのに無茶させないで。」
スタミナ切れしちゃったと解るけど、可哀想に思えるくらいにグッタリ。
「肉なら余るほどあるでしょ、ほーら白いのも良かったわね?食べ放題よ、好きなだけ食べていいわ。」
わたしの訴える声を、視線を向けて笑うだけで京ちゃんはスルー。
今倒れたばかりのオークの傍まで歩くと下半身を拾いあげて、白いシャダイアスの口元にぶら下げながら叫んだ。
いやいやいや、確かに白いのやオレンジの餌になる肉はたっぷり周りにあるけどね?
一人で行くのは無茶だよ、心配すんじゃん。
京ちゃんは無敵じゃないんだよ、なんか歯痒いなー・・・せめてわたしが付いて行けたら・・・
「ホ、ホントだな。しかし、オークもわざわざ肉になるために襲ってくるとはな。」
白いのから声がする。
見ればむしゃぶり付くように、京ちゃんの差し出したオークの下半身を啄んでいる白いシャダイアス。
わたし達に向けて言っているのか唯呟いてみただけなんだか。
下半身をみる間に食べきったので、わたしも散らばっているオークの肉塊を拾って差し出すと白いシャダイアスはちらりと見上げてから、目の色を変えて饕りつく。
何時の間にかオレンジまで、やってきてそれからはシャダイアス達のエネルギー補給の為に、オークの肉を拾って差し出し続けていると、それを見ていた京ちゃんは任せたとだけ言って、残りのオークを片付ける為に行ってしまった、イライザ達が居る方へ。
オレンジは冒険者の死体を食べようとして叱られたのを覚えていたのか、唯単に餌だ、と与えないと食べないだけなのか自分から動いて食べようとはしなかった、元気なはずなのに。
わたし達だけじゃ食べきれないし、二匹にかなり食べて貰おう。
山と積まれたオークの肉塊は腐り始めてるものもあるくらい、て言ってもどの肉塊の山が古いのかなんてわたしが解るわけ無いんだけどね。
山盛りオークの肉塊をこれでもかと、饕り喰うシャダイアス二匹。
食欲も凄いけど、山1つ殆どを気づけば平らげてたんだ。
躰は確かに大きいけど、コレ丸々胃ってわけでも無いような・・・そんな事を思案して居ると、それまで続けざまに聞こえて来ていたオークの断末魔が止んで、わたしはここのオークが全て討伐された事に気付いた。
これでまず安心出来る。
どこかからイライザや、京ちゃんを讃える声があがり、それに続いて歓声や口笛も聞こえて来た。
でもそんなの第一波に過ぎなかったんだって、冒険者もわたしも思い知ることになるんだけど、さ。
「白いのも言ってたけど、指揮をとってるのが居て、襲って来てる。上で一つ潰したけど・・・って、下からまた来たわねっ。」
二匹が満足するまでオーク肉を与えたわたしが、新鮮そうなオークの肉塊を拾って、アイテムBOXに放り込んでいるとこに後ろから声がする、京ちゃんだ。
次はオレンジを使うみたいで、声に振り返ると京ちゃんがオレンジの鞍を外しているとこ。
京ちゃんだけには解るくらいにオークの群れが近付いてるみたい。
しっかし、懲りないなぁオークも。
山と積まれた肉塊だけじゃない、京ちゃんが山の上でも下でも、それにすぐ真横でも氷付けにしたオークだって居るのに。
これだけ数を減らされてもまだまだ次がやってくるんだから、ホント懲りないなぁって思うんだ。
「しっ、オレンジ行くわよ!とっつげきーっっ!」
準備が終わった京ちゃんは、オレンジのシャダイアスに跨がると村に帰る道を駆け上がっていった。
駆け抜ける前、不意に視線を向け姿を追うと京ちゃんと瞳が合う。
もうとっくに何かのスイッチが入ったみたいでうすら寒い気さえした、冷たく研ぎ澄ました様なあの京ちゃんの横顔は。
「凛子ぉ、姐さんはやたら働くな。どーしちまったんだ。」
「さあ。いつもの暇潰し感覚なんじゃない?」
声の主はジピコス。
視線を向けると、太い刃のナイフを手首のスナップだけで上に投げて受けとる、投げて受けとるって危険な遊びをしてる。
ジャグリングみたいにエンドレスで、玩ぶみたいに。
そんな事は置いといて。
ホント解るわけ無いじゃん、京ちゃんが一人で突っ走ってるんだもん。
「いや、俺には何かを待ってるような気が・・・な、何だ?」
ナイフでジャグリングみたいな遊びを止めたジピコスがそう言って、長い前髪を摘まんでかきあげながらわたしに近寄って来たその時。
何かが目の前を通り過ぎていく、松明の燃える薄明かりの中良く見ると飛んできたのは人。
勢い良く飛んできたのは、
「くっ、退きなさい、皆さん!」
「イライザが、飛ばされてきた?」
イライザだった。
細い体でどんなに軽いとしたって、イライザをかなりの距離吹き飛ばした敵が居ることに戦慄を覚え、背筋がぞわっとする。
イライザは何て叫んだ?
えっ、オークは倒したんだよね・・・どうして逃げなきゃダメな事に?
ほんの一抹の疑問。
イライザの次の言葉でそれはすぐに明らかになったんだけど、こんなのって無い、無いよ!
「前に大きな、あれは──キング・・・オークキングッ!オークキングが出ました!」
キングだって。
必死な表情をしたイライザが、更に声を裏返るくらいにここに居る冒険者皆に報せ様として張り上げて叫んだ。
イライザの視線の先に、見たことも無いくらい大きな豚の顔──金色の巨大なオークが残忍そうな笑みを浮かべて、全体が見えないのに闇から現すその顔の大きさだけで異様だった。
普通のオーク10匹分はあると思う、金色の肌をしたオーク。
王と言われたら、うん。
そんな感じで威厳がありそうに見えない事も無い。
だけど、オークなんだよね?汚なくヨダレを垂らした豚の顔が闇夜をバックに浮かぶ。
「──え?」
何が起こっているのか解らない、唯・・・飛ばされてきたのはイライザだけじゃない。
まさに今。
目の前を誰かが投げられた様に弧を描いて、樹に叩き付けられるのを見てしまう。
すると、ジピコスが重そうにぐったりした誰か冒険者を一人は肩を貸して、もう一人はジピコスと同じ狐耳の女の人なんだけど背負って息を荒くさせながら、
「凛子ぉ、ヤバい。ヒールをありったけ飛ばされてきた奴にかけてやってくれ。退けっ、ゲーテ!お前らっ、逃げるぞ!」
わたしにそう言うと、途中で語気荒くゲーテに向かって逃げろ!と叫んでから、村に帰る道の方へ足を進ませながら踞っている冒険者達にも声をかけてから足を進ませる。
頼まれたのですぐに飛ばされてきた冒険者数人に近寄ってヒールを掛けたんだけど、残念ながら一人は息を吹き返さない。
「どうしたの?ジピコス、皆あわてて。」
「はぁ?キングが出たんだ、こりゃもうオークとの戦争だぜ!200足らずで出て、見ろよ。な、残ってんのはこれだけ!100居ねえんだよ、五体満足に動けるのはそこから20居るか。ジャバーも大怪我、フローレも魔力疲れ。なあ・・・俺達、やれるだけはやったぜ。解るだろ?凛子ぉ。」
わたしの問い掛けに、振り返って足を止めたジピコスの顔は歪んで涙目。
説明をしてくれながら、悔し涙を流すジピコス。
そこに何人かを寝袋に詰めて、強引に引っ張りながらやって来たのはカイオットとゲーテ。
「凛子、ジピコスも。足止めはやって置いた。キングだって一人じゃ襲ってこないと、思いたいなぁ。今は。」
二人は動けないけど生きている冒険者を連れて帰ってやろうと、必死に怪我人を寝袋に入れたんだって。
「そう、なんだ・・・戦争、?・・・これ、戦争なんだ・・・?」
「急いで!下がるっ!退くぞっ!」
自分に言い聞かせる様に呟くと、近くでイライザが退き上げの指揮をする声が聞こえて来て少しホッとした。
イライザが死ぬはず無いと頭では解っていても、キングの巨大な顔をこの目で見てしまったから、不安だったのかもね・・・。
「ちっ、凛子!気ぃ抜くな!キングが出たならオークどもも自然に集まる。逃げれる内に逃げるぞっ。」
「う、うん・・・」
ホッとした表情を見たジピコスから語気の強い口調で急かされて、わたしも退き上げの列に加わる。
イライザもダンゼも、声を張り上げて最後の冒険者を下げさせるまで残っているみたいだった。
大変なことになっちゃったよ、京ちゃん。
あんなの・・・ヘクトルが居たって厳しそうなのに、今はここを離れてる。
わたし達・・・どうなっちゃうのかな。
オーク強襲も15ですよ。
長いな〜でもやっと5万文字くらいなんだよねーどれだけブツ切りにしてるかってゆー。
てか、ドラゴンさんが5万文字くらいで終わったんですよ。
あれプロットで1万文字だったの。
オークは8000行かないくらいだったけど・・・やっとボスが顔出し(物理的に)しただけって・・・どれだけ修正加筆したのかってね…
早く次行きたいのにーぃ
次回──昼くらい?上げたいかな〜