表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/229

死屍累々──獰猛の目覚め 14

ひりひりとした感覚がする。

全身の毛が逆立って、注意を呼び掛けているのにわたしはどうしようもなく──興奮していた。


抑えきれない。

強く手強い敵が迫っている事に張り裂けそうなくらい、速くなる鼓動。


それに誘発されるように息がしづらい。


しかし、それも峠を越えれば何の事は無い、慣れてしまう。


脳内から、強い薬が出されているのを止められない、望んでも。


ザコだけじゃないのを、警戒が報せている。


それをとても冷静に受け止めて、息の乱れや鼓動の速さと比例しても恐ろしく澄んでいる心。


おかしくて堪らない。

気付けばあべこべだと、嗤う事が我慢できない。


気配は・・・下の方が多い、逃がさず餌にしようってことなの、おばかさんねぇ。

ザコが何匹死んだか、なんて数えないんでしょうけど・・・ねぇ?オークロード、相手したげる!今っ!


「ダンゼ、用意を!!動けるものはわたくしに続きなさい。」


夜の闇を背に慌てた様な声が響く、イライザだ。


その声を聞いて何かあったかと冒険者が寝袋や、簡易のテントの布目から顔を出すと馬車からダンゼも顔を出す。


違う。

違うんだなぁ、イライザ。

数がこっちのが多いなら、撃って出る・・・アリよね。

でも。

圧倒的にこっちが不利で数が少ない場合は、


「ダメ、全然ダメ。挟まれたら動かない、それか別動隊を出して相手の側面を切り崩すとかじゃないなら。出方を待つのも策よ?」


青い長剣を鞘ごと取りだし、腰のベルトに固定する。

ま、楯とヘルムはいいかな?強いって言ってもオークだもん。


にしても──イライザ、少数で大群を相手した事が無いのかもね。

今の状況なら、わたしは遊撃をやるべきだと思う。


「うぅっ、怪我人に被害が及ばぬ様にこの場に展開。先んじないっ。」


間違いを指摘してあげると素直にイライザは受け入れてくれた。

ちょっと落ち込んだみたいだけど。


囲まれてる訳だし被害が大きくならないように、


「ジピコス、ゲーテ、怪我人を中央に!オークどもは上から突っ込んでくる!」


そう言ってお目当てのものを探す。

キョロキョロ・・・居た。

夜も深まったし、お前らだって眠いわね。


「姐さん、何を?」


でも、我慢してねー。

ゲーテの声を聞きながら白いのから鞍を下ろす。


「乗り物酔いは我慢する。借りるわよっ!上は任せた。」


お目当ては白いシャダイアス。

巨鳥で馬より速くて、おまけに強い。


問題は肉を食べなきゃ、走らない。


でも、今は大丈夫。


豚肉まつりの始まり始まり〜!


「上からも、下からも・・・ゾロゾロ、ゾロゾロ塵みたいに湧いちゃって。ごみ掃除しないと、ダメよねぇ。」


シャダイアスの首の根本に跨がり、踵で羽根の付け根を蹴る。

これだけで白いのはくるりと反転して、下った坂を登り木々が作る自然のトンネルを飛ぶように駆け抜けると、トンネルを抜けた先の左に多くの気配。

おそらくオークの群れ。


嗤う。

隠れてるつもり?丸見え──なんですけどッ!


用意していた魔法を解き放つ。



「──ダルテ!」



冷気が凍気に変わり、辺り一帯を極北の大地に吹き荒れるブリザードの吹雪になって木々も、草も何もかも、そしてオークも凍り付けにして息の根を、生命活動を強制的に止める。


余程の魔力の高さがあるか、冷気に耐性が無ければ・・・この極大魔法を喰らって動けるものは無い。


見たか、これがっ!わたしのっ!魔力なのよっっっ!


オークの群れはカチンコチンの氷壁を棺に全滅した、と思う。


白いのが、緩く『さみぃ。』とだけ呟いたのを合図に、わたしはシャダイアスの羽根の付け根を蹴り走らせる、次の群れに襲い掛かる為に。


「どした?そんな吃驚しちゃって。」


わたしが反転して目指す先は、討伐隊が拠点にしている広場。


苦もなく辿り着くと、いいリアクションでジピコスが出迎えてくれる。


瞳を大きく開いて、口をぱくぱく餌をねだる鯉のように。


既にオークに襲われているみたいで、凛子の叫ぶヒールの声が耳に届いた。


「姐さん、下行ったんよね?もう終わったんですか?」


「足留め程度ね、自由に動かれると厄介でしょ。」


シャダイアスの上からジピコスに目を落とし、下から挟み撃ちにしようとしていたオークの群れを無力化した事を教えてやった。


すると、ジピコスは口を尖らせてヒュー♪と口笛を吹いた。

ジピコスも少しはオークの相手すれば?


「ゲーテも前に出てオークどもをやっつけてるはずじゃねぇかな。」


ジピコスの言葉に黙って頷くと、声はするけど姿は見えない凛子を探した。

キョロキョロ・・・お!


簡易テントの1つを背に、凛子は怪我人にヒールを片っ端から掛けて廻っている。

数人の怪我人が、それぞれの毛布の上に寝かされているのを見ると、まるで野戦病院じゃないの。


「前に出るわ、回り込む。凛子、ヒールお願い。」


シャダイアスの首元を叩いて止めると、白いのに睨まれた。


走らせるのには少し慣れた気もするんだけどまだ止まるのは難しい・・・。


走らなくなるのは困るので、視界に止めて白いのに許可を出す。

オークの肉塊を食べる事を。


「ヒール!無理しないで、帰ってきてよ・・・」


ヒールの癒しの光がわたしの全身を包むと、凛子に向かって手を振り羽根の付け根を蹴って、またシャダイアスを走らせた。


「見えた!──ダルテ!」


発動するのを待たせていた魔法を解き放つ。


白いシャダイアスを走らせて少し。

林の中の木立を行くオークの大群を目に止める。


ザワザワと一団がこちらを指差す。

気付かれた・・・?でも、遅い!


冷気が、凍気が地面に生える草木を凍り付かせながらオークの群れに向かい暴れ立てる、パキパキと音を上げて。


周辺の温度を極北に変えて進むブリザードが発動すれば、ザコに逃れる術は無いッ!


「側面を切るっ!はああっ!」


吹雪に巻き込まれた林も地面も凍り付き、何も知らない人が見ればこれは、雪深い氷に閉ざされた北国に迷い込んだように錯覚するかも知れない。


吹雪が止んでも何もかもを巻き込んで氷の壁が出来上がり、辺り一帯の温度は下がったまま。


その氷の壁を勢いを付けた白いシャダイアスで飛び越え、更に先の群れに向けて斬り掛かる、と同時に吹雪が止むのを待つ間に唱えておいた魔法を群れの奥に狙い定めて放つ、


「──ダルキュニル!」


途端に頭上には柱ほど巨大な太さの氷塊が現れる。


氷塊がバキバキと音を立てて長さを伸ばすのを見て、叩き付けた。


オークの群れの真ん中を割って、宙を飛んできた氷塊が刺さる。


お目当てのものを探した。

まだ健在なザコオークが飛び掛かって来るのを、まるで火の粉でも振り払う様に斬り払いながら。


ヒリヒリと、猛る殺意が近付くのを肌で感じる。

すぐ側に居る!どこだッ!


次々に並ぶ怪我人。

いや、死体じゃないだけマシなんだけど、さ。


わたしの他にもさー、キュアやキュアフィールドを使える冒険者が何人か持ち回りで必死に、ホントに必死にだよ?回復魔法を唱え続けてるのに、それでも足りないんだ。


京ちゃんや、愛那から貰ったマナジェルのチューブを押し潰す様に口に流し込む。


魔力回復アイテムなんだけど、ノルンの世界には余り・・・全く見かけない樹脂製?歯みがき粉みたいな感じの入れ物からにゅっ、て緑色の何かが出てくると思って想像してくれると近いかな。


愛那が生産で作っても、このチューブに入って出来上がるぽくて『不思議。』って言うと『気にしなかったけどぉ、ホント!不思議ぃー。』だって。


「京ちゃん、一人で飛び出したけど大丈夫かなぁ?」

唇に着いたマナジェルもペロリと舌で舐め取る、勿体無いもん。


白いシャダイアスに乗って、駆けていった京ちゃんを思い浮かべる。

大丈夫かなー、平気だとは思うけど一人で行っちゃったし、心配。


と、その時。


ズ・・・ゥゥウウウンンン・・・!


オークと冒険者の戦いの音が支配するこの場に、より大きな音が響いて耳に届く。


「あー・・・大丈夫そう、だね。」


凄い音のした方向に見上げれば、ダルキュニルの物だと思うけどズン、ズンと、氷の柱が山の上の方に何本も立つ。


あの辺りはもう動けるオークは居ないかも知れない、京ちゃんが下りてくるオークの群れを、その前に叩いているんじゃないかな。


「ひゃあ!凄えー。」


山の上に突き刺さる氷の柱を見て、ジピコスが叫んでいた。


その気持ちも解る、ここに集まる冒険者も魔法を使うには使うんだけど、一撃必殺とは行かないみたいなんだ。

それに比べて京ちゃんの魔法の桁違いな威力。


オークの意気を切る京ちゃんの働きで、わたし達の方へ押し寄せていたオークの勢いも今は無いくらい。


とは言っても、ダンゼやゲーテやイライザの頑張りが無かったら、この場にいる冒険者は全滅してたかも。

カイオットだっけ、あのおっきな羆の獣人さん。

あの人だって、オークの猛攻を引き受けてたみたいだけど、今じゃ目の前で痛みを堪えて唸ってる。


キュアフィールドが掛かるのを見て、寝転がった冒険者にヒールを唱えながら歩いて廻るのは地味に疲れる、それでも我慢。


2つ目のマナジェルを握り潰しながら、前線に居るゲーテにもヒールを掛けた。


「はああっ!!」


イライザの鬼気迫る叫び声。

前線にやっとヒールを掛ける余裕が生まれてやっては来たんだけど、噎せ返る血の匂いにクラクラする。


キュアフィールドを誰か解らないけど、冒険者が唱えているから前線も持ち応えているんじゃないかなー、きっと。


冒険者とオークで揉み合う中に、イライザの姿を見つけ安心した、なんと無く。

イライザは黒い、ハードな印象のする革っぽい戦闘服に身を包んで、数も減って勢いも無くなった感のあるオークを相手していた。


「ニードル・ダンス!」


イライザの叫びと共に、十数の槍の穂先だけを思わせる光の閃光が現れる。


その閃光がイライザが剣先を構えたオークを何度も突き刺し、切り裂く。


数匹のオークが光の閃光の餌食になると、音もなく全て消え去る槍の穂先の様な光の閃光。

きっとそう言う魔法なんだ。


後でイライザに聞いた話なんだけど、『聖なる剣がうんたらかんたら。』長いので要約するね、聖属性の魔法の剣・・・らしい。


1つ1つの光は弱く、ゴブリンを何とか一撃必殺出来るくらいってゆーけど、わたしに比べるとそれでも弱い・・・とは言えないんじゃないかなって思ってしまう。


複数を攻撃するには良いけど、単体にはそれなりのダメージしか与えないから使い勝手は良くないんだって。


ダンゼやゲーテだって負けてない。

獣化を我慢してゲーテが振り回す剣は、周囲のオークをザク切りに刻んで。


ダンゼもイライザを気にしつつ、思いっきり剣を振り抜く。


もうすぐ終わりと思ったその時。

新たなオークの群れが飛び出して来る。

何か恐怖に怯える様に。


そして、


「てりゃぁぁぁぁあああ!」


白いシャダイアスに乗った京ちゃんの帰還を報せる様な叫び声がその後に続くと、飛び出して来たオークの殆どが瞬間的に血風に変わって断末魔を上げながら果てた。


帰ってきた京ちゃんからは一際濃い噎せ返る血の匂いがした。


実際、返り血を白いシャダイアスも被って所々紅い。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ