死屍累々──獰猛の目覚め 13
それからしばらく、自由に素振りを楽しむイライザを眺めていた。
セライア製なのでミスリルより更に精錬すると木の棒かレイピアと間違える軽さに、オマケでもなくセライアの真意だと言っちゃえる、強度と高位のエンチャントに耐える素材その物が持ったオリハルコンを凌ぐ魔力。
ステータスではオリハルコンに遥かに劣る、セライア銀なんだけど、『神聖白銀』と言われ伊達じゃない魔力は『なんちゃって魔剣』を作るならセライアと攻略サイトにも載ってた。
オリハルコンには載せられない強力なエンチャントも、失敗する確率をグッと下げてくれる、廃人じゃないユーザーに嬉しい素材だったりする、但しエンチャントを載せて精錬すると・・・装備レベルが跳ね上がって大変な苦労をする仕様、そんな運営の罠。
そんな回想にどれだけ浸ってたのか・・・、気付くと隣には満足げなイライザがふぅー!と言う声をあげて座り、わたしの長剣を差し出していた、『ありがとう』と言いながら。
受け取りながら、『満足した?』『それはもう』とイライザと他愛無いやり取りをして。
「何でもありだからあの子。服も作れちゃうし、薬だって。」
話の腰をわたしが折ってしまっていたから、軌道修正。
あの娘の他の動向を知りたくて・・・ううん、絶対やらかしてると言う確信を持っている、そういう娘だったもんね・・・メサイア。
わたしの言葉にまた何か引っ掛かりを覚えたイライザはあちらの方を向いてピンと伸ばした指先を頬に添わせ、んんーと逡巡して瞳を閉じる。
「んー・・・、あ!それで都が騒ぎになった事もあるんです。」
カァッ!と瞳を見開いて、凄い事を思い出してしまった、と言いたげに隣のわたしにグッと寄るイライザ、鼻先と鼻先が触れるくらいに。
それだけ言って顔を真っ赤にして口をモゴモゴ動かし俯く。
いやぁイライザはホント可愛い。
言わないけどイライザは、照れたのね、お互いの顔と顔が近い事に気付いて。
解るわよ?わたしは。
それでも、思い出してしまった事を話したかったのか、顔を上げると結んだ唇を噛み締めてイライザを見詰めるわたしの耳元に寄せる、潤んだ唇を。
「えへへ。・・・霊薬を銀貨10枚、本物の霊薬なの!一つ欲しかったなー、死なない限り元通り。偽ものなら良く見ます、王宮に保管されてたのも偽ものだったし、路上で霊薬売ってたなんてまず、誰も本物なんて思いません。」
言葉を選ぶ様に、詰まりながらそう言うとイライザはまた『えへへ』と照れ笑いを浮かべながら、両手を後ろで小さな子供みたく組んで元居た場所へ戻った。
「あー、霊薬かぁ。」
アハハ・・・バカか、アホか、それともその時はまだゲームと勘違いしてたってゆーの?
霊薬は体力完全回復アイテム。
バイタルも回復アイテムだけど(大)でも最大回復はHP3000だった。
ソロリストが何個有っても足りない、と言う回復薬だし。
そもそも泥するのもボスだ、いやまあ参加賞で90%泥するものではあるんだけど、死に戻りが面倒臭くてなかなか手に入らない。
わたしだって有ればあるだけ使うし、・・・路上で霊薬を売るなんて有り得ないわよ、バカっ!
そんなの自我のある異世界で、見せびらかすみたいに路上で売ったらヤバい事になるの解んない娘だったかな・・・異世界を受け入れられなかった、という線で考えると後先考えずに売ったのかも知れない・・・けど、ノルンに入れ込んで廃人やってるぐらいなんだから逆に、『憧れの世界にわたしは来たんだ!俺Tueeeeeeeee!』ってあの娘なら言いそうだし、あれだ、うん。
確信犯だわ。
そう考えると見てきたみたいに理解る、あの娘なりの行動が。
目を丸くして騒ぐ目の前の客を見て、フードの奥でニマニマ微笑うメサイアの顔と、我慢仕切れない笑い声が脳内再生された。
嫌な笑い声だわ、磨り潰さないと。
私欲でこの国を混乱させかね無いってゆーか、そゆとこあるんだ、あの娘。
上位生産の成功率がメチャ低い武器をわざわざ装備してレベアゲの狩り場に現れるとか、『PKしてみろコラァ!』って言ってる様な感じだし。
自分しか作れない、一番最初に自分が成功した、そうゆう自己満が大好きだもん。
霊薬の素材もかなり面倒なのに、自己満の為ならどんな苦労も苦労じゃない、それがメサイアなんだ。
「治らない病気も体に行き渡って完治させちゃう。路上に列が出来たし客同士で奪い合いになってメサイアはまず、その通りに立ち入り禁止になって次は東裏通り、その次は・・・」
思案するわたしに構わずイライザが、持ってるメサイアの情報を次々と喋るその表情は興奮仕切っていて。
どこか陶酔仕切っている、ううん、悦に入ってしまっていた。
気持ち良くなって居たんだと思う、メサイアの事を賢者か、救世主めいて語るイライザの潤んだ唇にうっすら濡れた瞳。
「結局、メサイアは殆どの通りから立ち入り禁止になっちゃったのか。可哀想に、混乱させようと店出してるわけでも無いのにね。」
見なかった事にしよう、わたしの脳内に描くメサイア像とイライザの思い描くメサイアは別物だと解ったから。
むぅ、メサイア・・・あなた、新興宗教の教祖ぽくなってるゾ!
霊薬の効果が凄いのは手に取る様に解る。
イライザの長い話を要約すると、不治の病の母子が助かったとか、生まれつき目が見えない患者の目を開いたとか・・・これは霊薬でも完治には成らずに、常人の視力とはいかなかったみたいだけど。
他にも骨折、腕を無くした剣士に腕を生やしたとか、何十年も子に恵まれない夫婦に子を授けたとか、起たなくなったアレを起たせたとか、うん、どんだけ規格外なアホなのかとも思ったけど、役に立ちたかった?とか、まさかね。
そんなのやったら、しちゃったら・・・教祖だし、救世主だよ。
「ええ、でも害悪でした。少なくとも太府からは恨まれてますよ、エヘヘ。ざまみろです。」
どこか、ふわふわした表情だったイライザが急に悪い笑顔に変わって、ニヤリと笑う。
ん?鏡で見飽きてるだろって?悪女、・・・わたしってホントにそんななの?
「ふふっ、くすくすくす。太府っての随分、嫌ってるのね?」
イライザの金色の瞳が、口許が逆三日月に変わるのって、初めて見る。
それが、どうしてか嵌まっちゃって我慢できずに零れる笑い声。
たまったら発散しなさいっての、ストレス。
「たらい回しにしばらくされました。その、・・・全てが太府からの命令だとは言えない、でも太府が悪意を持って辺境にわたくしを追いやったのは確かな事だって、役人やってれば誰も解ります。ね?、嫌われてるなら嫌いになるでしょ?」
イライザの口ぶりだと、役人としての上司なのかな。
太府にいいように使われて、かなり溜め込んだ恨みとか、後悔とか、そんな感情がこっちにも伝わってきて同情しちゃう。
そんな時だった。
「当然。・・・んっ!」
いや、ホントまったりした時間ってゆーのは短いものね。
エルフとしてもそうだし、会得したパッシブスキル《警戒》で、周りが騒がしい事に気付くわたし。
「何?」
イライザにはまだ解らないみたいだから、まだ少し遠いのか。
獣人なんだから、そーゆーのあるはずでしょ?
「・・・寝かさないつもりよ、こっちに向かう足音。相当な数。下から・・・ううん、挟まれた!上からも来るっ。」
溜め息を1つ。
もう警戒とか関係なしにビンビン殺気が届いて、わたしの全身の肌が粟立つ気がした。
ヤバい、・・・完全にヤバい。
眠気なんてうっすらあったくらいだけど、完全に無くなった。
──来る。
仕切ってる奴だ、この数のオークを!
──オークロードッ!
此のとき、わたしは微笑ってたかも知れないし、震えてたかも知れない。
但し、恐怖とか全然!
歓びに打ち震えてたかも知んないってコト!
これから始まる虐殺が楽しみで楽しみで・・・たまんないっ、クゥウウゥウウウッウゥー!
豚どもを千切って殺し、突いて殺し、切り裂いて殺す。
氷付けの壁にして、大量の豚肉に変えてやるから、汚い臓物撒き散らして、許しを乞いなさい?
そしたら、絶望をDNAの隅々に到るまで刻み込んであげるわぁ、二度と逆らえないように。
二度と姿を現さないように。
二度とわたしの手を煩わせないようにっ!
導入ですねー。
中ボス戦への。
そんな感じなのかな〜
清書してないから、どうなってるか・・・
やぁっとバトルですーよー。
起きれなさそうだから今ぅp
次回──昼かなぁ。
ぅpできたらいいなぁ