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死屍累々──獰猛の目覚め 8

「数が解らないまま、敵を追ってしまったのは失策だった。しかし、オークの害は国を揺るがすもの。追わねばならなかった。必ず、必ず皆殺しにしなければ・・・、いつの時も力の無いものから餌に変えられる。この規模でオークが出るなど、聞いた事も無い。」


シェリルさんにここに到っての私の考えを聞かせる、ラザは間違ってないのですよ、と含ませて。

いや?

ホントにそうだ・・・この規模でオークが出現するなど聞いた事はあっても、体験した事は無いぞ。


聞いた話も西側の山脈の切れ目で、古い昔の話。


昔、だからこそ今──オークが大量に湧くのかも知れない、私は一抹の不安を胸に秘めた。


『いやいやいや、さすがにそれはないだろ。あれはお伽噺であって、吟遊詩人が詠う詩でだな。』と思う事にした、シェリルさんの力を持ってしても、敵わぬ強敵を思い浮かべながら。


「そう、残念。わたしは──何度も体験してるんだけどな?」


それを知ってか知らずか、シェリルさんは楽しみね?といいたげに片目を閉じて、嫣然と微笑うと何事も無かったかの様に毛布をどこからか取りだし寝転がる。


「何度、も?」


「まぁね、・・・これいくつ居るのかにも依るけど。ヤバめ。」


いやいやいや、言葉と正反対な顔をしてますよ、今。

私が痛がるラザから視線を変えてシェリルに向かい口を開くと、ヤバめと言う口ぶりから真逆の、ニコニコ笑顔で返事を返して来た。


楽しみで堪らない、とそんな表情を浮かべて。


「うん?数は確かに多い、・・・魔法で一網打尽じゃないのか?」


暗に私はシェリルさんが強力な吹雪の魔法を使ったのでは?と含ませて聞いたのだが。


「ダルテで、そうね・・・。500は減らせたでしょ、魔力はいずれ尽きるのよ?どれくらい居るかも解らないのに、連発して尽きた後でいっぱい出てきたらどーするの。」


当のシェリルさんは隠すつもりも無いらしく、魔法名を口にして更に、魔法は有限なのよ?

と、諭されてしまった。


フフン、それくらい知ってはいるんですよ?

ただ、魔力を無くすくらい魔法を使う事が無いのでそう言う事になり様がないのだがな。


獣化切れ後のクールタイムが似た感じなのかな、いや?

シェリルさんの口ぶりなら魔法以外で戦えそうだ、獣化のクールタイムはタチが悪い。

無防備に動けなくなる場合もある。

ラザの様に加減を忘れてはしゃいでしまえば指先も動かない、顔を動かす事も、何もかも全身が拒否反応を示す。


「そうか、そうだよな。魔力は使えば減るもの、無くなってから慌ててもどうにもならない・・・か。」


魔力もそうだが加減が出来ないで、フルパワー出し尽くしなどやっては行けないと言う事か。

加減は大事だな。

シェリルさんの言葉を反芻しながら、ラザのはしゃぎっぷりを思い浮かべる。

後の事を考えたら、ラザが獣化するのは控えさせないとダメだろうな。


私がそう思いながら腕の中のラザの変化に気付いたその時。


「──ヒールっ、イライザ様。退きましょう、下は動くオークは居ませんよ。」


シェリルさんの連れてた仲間、凛子と言う名前だったか・・・。

山に入る時、そう言えば居なかったな。


ヒールの癒しの光がマントを、その下のラザを包み込む。

すると、ラザの顔色までみるみる内に良くなって。


「ふぃー・・・、んんっ。動く、動くよ!ポンコツの体が。・・・ダンゼ・・・聞きましたか?」


まず緩い声を吐いてから体を伸ばしラザは腕の中で嬉しそうにはしゃぐと視線が私のラザを見守る視線と重なり、恥ずかしそうに視線を泳がせてからポウッと頬を赤らめて、ぷいと横を向く。


しばらくそのまま見守っているとハッと何かに気づいて次にはキリッと真面目な顔に変わり、私へ問い掛けて来る。

この間1分ほど。

ああ、ラザ何て可愛らしいのでしょう、いつまでもそんな貴女で居て欲しいと願うばかりです。


「はっ、下はオークども居なくなっているようです。退いて策を練るとしましょう。」


マントに包まるラザを下ろし、周りを見回し避難した冒険者達を確認してからマントの傍に跪きそう言う私に向かって、


「よい、お返事です。しかし、・・・ダンゼ?だっこ。」


ラザは少し不機嫌そうに視線を私に絡ませ、何故下ろしたのです?と言いたげに改めて抱っこをせがむ。


緊急だと言え、命令でもないのに抱き抱えて吹雪から守る為だったが、ラザに覆い被さるように丸まって抱いてしまっていた。


動けないラザを抱えるのと、動ける自由なラザを抱えるのとでは、必要な覚悟が違うのですよ・・・。


「・・・そ、それは。」


「命令です、運びなさい。」


「はっ、了解いたしました。イライザ様。」


口答えなど何の意味も成さず凛とした声に逆らえないまま、さっきまでの様にラザの温もりを私は腕の中に閉じ込めた。


私の腕の中から退く最中もラザは指令を私に下し、我々は後続に下がり合流する事が出来た、何事も無く。

ラザは始終ゴキゲンそうでしたが。


「・・・下はもっと亡くなったのですね。」


やがて最初にオークに襲撃を受けた場所まで私達は帰ってきた。


凍り付けのオークがそこに、あそこに、あっちに・・・極めつけは、切り倒された樹々諸ともオークが凍り付いた氷の壁。


ここで何があったか良く解る。


すっかり寒くなった山道に、見回すと血の滲む地面に脇に寄せられ積み上げられた死体がラザにも目に着きシェリルさんと会話を交わす、悲しそうな顔で。


死体を集め、積み上げられている場所からは、血だまりができていたり流れ落ちる血の川。


冒険者の死体と、オークの肉塊とはちゃんと別けられて積み上げられている、良かった。

オークの肉塊の中から死体を回収するのは非常に厄介だろうから。


「獣化は解けた後が危なすぎるわね、ろくに動けないで目の前で殺されてったわ。・・・動けたら、逃げる事だってできたでしょうね。」


悲しげな表情のシェリルさんの言いたい事は尤もだ、それは解る。


だがしかし、獣化アニミテイジは獣人のアドバンテージでもあり、これ1つで戦況がひっくり返るのだ。

やるなと言ってやらない、または控えてくれる獣人がどれだけいるのか・・・事と素質に依っては倍々に能力を引き上げてくれる獣化、解ける時間がくればそれまでで加減を忘れれば余力なく身動き出来なくなる、諸刃の剣。


それでも必殺であり、獣化300人と8000のニンゲンが闘い獣人が勝利した物語だってある、実話だ。


解けるまでに殲滅すればいいだけ、しかし・・・オークの湧きが早く殺した数は上で100足らず、下は800を見て良いだろう。


ほとんど凍り付けのシェリルさんの手柄なんだけどめ。

本気でシェリルさんはどこから来た化け物なのか、それとも吟遊詩人の詠う英雄や救世主だとでも?・・・

いやいや、まさか。

こんな所で、救世主が無駄に時間を使うわけがない。


しかし・・・あの神々しい光もな、気になる所だ。

それに素行は、仮にも救世主とするならおかしな事にならないか?


酒場で冒険者をぶちのめす救世主など聞いた事もない、そもそも救世主が現れる時は・・・世界に滅びが訪れようとする時だと、吟遊詩人は詠ったよな・・・。


「わたくしの責・・・」


「私の失策です、イライザ様。王にも、亡くなった者の家族にも私が侘びましょう。だから、イライザ様は何──っひとつ責任を感じる必要御座いません・・・?」


私が思考の海に溺れそうになっていると哀しげに俯いたラザが居て、話は耳に余り入っては来なかったもののラザのある行為が目に入って勢いのまま、私はラザが喋るのを遮った。


王族がそれはやってはいけない事ですよ、ラザ。


衆目の前でラザは、顔の横に広げた利き手の掌を掲げて跪くという、メルヴィ神の懺悔をしようとしていたから。


パァン!


すると、私はラザに睨まれながらはたかれたのです、それも思いっきり。


ラザの為だったのに。

いや、忘れていましたがラザは恥ずかしいからと禁止されていようが、必要と思ったら実行する子でした、昔から変わってないな。


「これ以上わたくしの顔に泥を塗りますか!ダンゼ!わたくしの・・・、浅はかな考えで・・・皆さん・・・を・・・ぅぅうっ!」


ラザがしようとした懺悔、それは。


生きている冒険者にではなく、死んでいった者に対してだったんだ。


己の浅はかさに恥ずかしくなる、そうでした。

ラザはそう言う子でした。

そもそもラザの言う、浅はかな考えを授けたのは私でしょう、全ては私が空回りした結果。


何にもラザは悪くない。

悪くないのに何故?

そんなに哀しそうに泣いてるんですか?


責めてください、こんな時ぐらい私を楯に使ってください・・・ラザ。


「泣くの、早いわよ。そんなのあざといだけ。やるべき事をして、それから・・・無事に帰れたら泣く事を許してアゲル。・・・解った?イライザ。」


泣くラザを見てあざといわよと叱るように、諭すように頭を撫でるシェリルさんの手。


その手は私では駄目だったんでしょうか。

ラザと生まれた時から一緒に過ごして来た私ではなく、なぜシェリルさんがラザを落ち着かせられるのでしょう?


妬いてしまう。

妬いてしまう?


シェリルさんの態度に私は、嫉妬しているのか・・・それは、それは余りにもカッコ悪いんじゃないのか?

出会って数日のシェリルさんの手管でラザがあっさり泣くのを止めたから?


シェリルさん、貴女が憎らしくて羨ましくて。

どうかしてしまいそうです、私。


「シェリル・・・さん。はい、取り乱してしまいました。恥ずかしい所を御見せした事も、必ず帰って侘びますね。」


村でのあの勝負、勝ったのはラザなのに。


すっかりあれからラザは、シェリルさんに耳を常にピンと立てるように、懐いてしまったように思われて。


ダメです。

あれは魔性の女。

魅いられているだけなんですよね、ラザ。


いつか必ず、ラザ?あなたに並べる身分を手に入れ陛下からラザを奪い取りたいのに。


陛下からラザを奪うより、大変そうな壁が新たに立ち塞がった様に思えるんですよ・・・どうしてでしょうね・・・ラザ?







笹茶屋にダンゼが妬くという話ですた。


ダンゼが女々しくなっていくのは活躍が出来ないからです、どっかで活躍させてあげたら、落ち着くんじゃないですか?


次は皆で肉喰おうぜ!的な


次回──昼、できたら良いなぁ。

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