死屍累々──獰猛の目覚め 7
援軍は来そうに無いな・・・この分だとどうやら後続もオークの群れに襲われている、そう思って間違いない。
イライザ様と共に数十の冒険者を引き連れオークを切り払い、時には逃げるオークを追って山道の奥へと。
山道を進み狭い脇道を過ぎると辺りの木々がざわめき気付けばオークの群れ、群れ、群れ。
側面、前後と囲まれ後続とも切り離された現状。
それを、ラザは笑ってオークの群れに飛び込んでいく。
王族にとって・・・死地を踏む事は至上の歓びとか、本で読んだもののラザはそれにも増して、抑え込めない獣王の心と私は名付けたのですが、陛下とラザにはそんなものがあると思う。
他の王族に、獣王の心と呼べるものがあるのかそんな事は知らない。
私が知らなくても良い事だと思えるから。
ラザは、リオグリスの業だとか言ってましたっけ。
それだと他の王族にも、現れないとおかしいじゃ無いですか?
強き者を求め、たとえそれが己の死に直結するとしても昂る心を抑えられない・・・そのせいでラザはポンコツ呼ばわりされてるでしょうに。
そして、ラザは獣化した、いいや?獣化が始まったのか。
マントを羽織り、桁違いに防御力を高めてくれる戦闘服を脱ぎ捨てたラザはオークどもを蹂躙した!
腕の一振りで並んだオークがひしゃげて吹き飛び、逃げるオークをジャンプして追い踏みつけて踏み潰す。
士気が乱れたオークとは言え、数は倍々だったはずなのに、ラザは倒してしまった、オーク全部を。
ちぎって、投げ、パンチの連打で、群れの真ん中に飛び込むと回し蹴りをお見舞いし、腕を振り回すだけでオークはひしゃげ、潰れ、逃げ場を失い冒険者達にも切り裂かれたほどだった、なのに今は。
私はイライザ様に意見した。
「イライザ様、一旦退きましょう。群れは主を叩けとは言いますが、現状を見て下さい。」
既に獣化が解けたラザは、息をするのも苦しげに道の真ん中で、マントに包まり視線だけで私を追い答えた。
「はー、はー、ダンゼ・・・動け、・・・ません。捨てて、・・・退きなさい。はー・・・」
息荒気にそう言うラザは、笑う余力も無いのだろう、一点に私だけを見て苦しげに息を吐いた。
「イライザ様っ?──ラザっ、無理ですよ、私が貴女を捨てて動くはずが無いでしょう?くっ、邪魔っ!」
一度はラザが殲滅したかに思えたオークの群れは、時間が経つと数は元通り、いいやそれ以上に膨れ上がった。
ラザの傍を離れたくは無い。
とは言え、オークの数が減らない事には、後続の居る場所まで退くのも難しい気がする。
私も獣化せざるを得ない、そうしたら少しはオークを減らせはするだろう、だがラザを誰が守るのだ。
私が離れては、ラザを1人にしてしまうじゃないか。
近寄るオークをラザに触れさせないように切り払い、叩き斬る。
「・・・はー、はー、後続が見えません。良い・・・ですか?・・・分断、・・・はー、されたので・・・」
「五月蝿いっ!五月蝿い、五月蝿いっ!ラザが死んだ世に興味は無いっ、腕でも足でもくれてやる。ラザだけは無事に返す、いいね。」
ラザが続けて退けと言うのを話途中に遮って、私は吼えた、ラザが生きていてくれるからこそ私が生きていられるんだ、と。
絶対ラザは生きて返すんだと。
「付いて、はー、・・・来てくれた、・・・はー、冒険者たちも、何人か生きて・・・います。はー、・・・捨てていって、・・・ダンゼ。」
それでも、ラザ・・・貴女はそんなに苦しげな体で言うのですか?
捨てて逃げろなんて。
「馬鹿言うなっ、元はラザに無理させてオークに釣られてしまったのは私だっ、私は責を負って死んでもいい、ラザは生かす。連れて帰るぞっ・・・ん?」
その時気付いたのです。
お喋りをラザとしていても、襲って来ていた邪魔なオークがしばらくは大人しい事に。
周りを見回すと5、6匹程度のオークは見て取れます。
が、先ほどまでは数十のオークが犇めき合っていた、脇道も前も後ろもオークの姿は無い。
恐らく下へ流れたのか?
退く方向ではあるが、後続が全滅していなければ合流し、体勢を建て直しつつ後の事も考えられるな。
「オークの数が減った?群れが移動している・・・これはチャンスです、ラザ。今一度言います、ラザが死ぬくらいだったら私が死ぬ。良いですか、絶対連れて帰るから!」
そうは言いました。
が、ラザと共に生きれる方が何かと幸せです、オークの居なくなった今なら退けない事は無い。
「はー、はー、動け、無いんです、・・・よ?・・・え、嘘。つ・・・冷たい。」
私が気づくよりも早くラザが気付いたのは、冷気。
明らかにさっきまでは感じられなかった異変。
その時ラザが、私が見た光景は奇跡と言えばいいのかな。
「何だ?冷気が上がってくる。」
我々の来た道から、パキパキと音を立てて冷気が立ち上って来ると、ヒュンっと飛んでくるものが、見るとそれは凍り付けのオーク。
後続の冒険者がオークを蹴散らし、又は逃げ出したオークを追って、山道を駆け上がってきたのだと思ったのです。
「まだ動くオークどもを残さず刈り取れ。前線続けっ。」
声はまだ遠い様でしたが、何とか聞き取れる。
後続が声が届く所に居る。
私は助かったのだ、と胸を撫で下ろす。
「聞き・・・ましたか?・・・ダンゼ、はー・・・後続が・・・来て・・・」
目を落とすと少し力が籠った瞳でラザも解ったように口を開いて、無理にも私を励ますみたく微笑うラザが愛しくて。
片膝立ちにしゃがんで、すぐにも飛び付いて抱き着きたいのを心の奥に仕舞い、ラザの髪を、頭を撫でた。
「はい、聞きました。・・・ここは危ないかも知れません、脇に下がりましょう。」
命令をされた訳でも無いのにこの時の私は、自然にラザの脇の下と膝の裏に腕を差し込んで抱え上げていた、ラザのお気に入りの抱っこ。
抱え上げて周りを見回し、出来るだけの声を張り上げ、
「イライザ様の命令だ!後続に道を譲れっ、魔法を食らうぞっ。」
そう言うと私は冒険者達が動き始めるのだけを確認して脇道へ避難した。
抱え上げられて幸せそうに微笑むラザの私への視線に気付く暇もなく必死で。
「──ダルテ!」
少しの間を置いて、辺りの冷気が更に度を増す凍気に変わった途端、暴力的で吹雪の様な凍気が我々の上がってきた道、後続がやってくるだろう道から吹き荒れる。
その吹雪に飛ばされてきたと思われる凍り付けのオークがまた、ラザを抱いて丸まる私達の目の前に。
いつ終わるとも知れない吹雪に瞳を閉じ過ぎるのを待つ。
これほどの魔力を有した冒険者が後続に居たのか、それなら後続の方は死人は余り出ていないだろうと思ったその時。
「・・・生きてるー?狼さーん。」
シェリルさんの声が、山にいるはずの無い、長い黒髪のエルフの声が聞こえて私は声のする方を向き瞳を開いた。
すると、目の前にはいるはずの無いシェリルさんの悪〜い笑顔が。
・・・命令という事にしておこう、ラザを抱いて私は丸まっていた所をシェリルさんに見られてしまった!
「ふ、加減が相変わらずシェリルさんは出来ない様だ・・・だが、助かりました。やはり、お強い。」
誤魔化す様に、吹雪にイライザ様を晒させる訳に行かないから丸まってたのですよ、と暗に含んでシェリルさんにお礼も忘れず纏めて喋ったら、動ける様になったラザがもそもそとマントの下から顔を出す。
「世辞はいいから、下がりなさい?怪我人だらけじゃない、・・・釣られてんなよ、バァーカ。」
それを見て悪い笑顔から、満面の笑みに変わり、私へ喋りながらマントの傍にしゃがみこむと顔を出したラザの鼻先を『バァーカ』と言いながら人差し指で思いきり跳ね上げる。
余談にはなりますが、後で聞いた話、鼻先を人差し指で跳ね上げる行為をシェリルさんの故郷ではデコピンといって仲良しが仲を確めあう、痛くても笑って許せるか?
を、計るいわゆる類友や、親友だけが出来る遊びなのだそうです。
ほう、仲を確めあうのは宜しいか解りませんが、ラザが泣きそうに鼻を押さえて痛がってるのですが・・・。
最近出てなかったから、ダンゼだすとキャラ掴めませんわー。
苦労しました。
なんとゆーか第一波を防ぎきったっとそんなとこでしょうか、話はゆるゆるしていきます・・・
次回──昼かな。
遅いのはちょっと浮気してたりするから、何ですよね。