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死屍累々──獰猛の目覚め 5

わたしは楽しくてしょうが無かった。

死んだ奴、死にそうな奴、これから死んじゃう奴には悪いんだけどわたし、笹茶屋京は徐々に、ううん。


この場に立った時から。

なかなか、ハイになったまま帰って来れて無い気がするのだけど、きっと濃い血の匂いのせいね。


「クソっ!左から新手が来たぞっ。」


だから、誰かが叫ぶと同時にわたしの立つ周囲は、冷気すら越える凍気がパキパキ、と空気を苛める音を上げて準備が整っていたりしちゃう。

言ったら悪いけど。

お前らのブタの臭いなんて血よりも臭いんだから・・・潜んでても丸解りなのに、ねぇ?

バカなの?


「姐さんっ!こっちがやられちまうっ、他の奴に任せていい。こっちに。」


叫ぶジピコスの声が耳に届く。

遅い。

ひいふうみい・・・おっとぉ、結構いるじゃない。



「──ダルテ!」


口の端を吊り上げて力を発動させる言葉を唱えた。

アハハハ、周囲に生まれた凍気が形を成してオークの群れ目指して移動してく。

あとは凍り付いた汚い壁が出来上がるだけ。

準備はちょおっとかかるけど、わたしの魔法はかなーり痛いわよ?


「ふええ?」


「あら、ジピコス。誰が剣だけって言ったかしら?」


そっか、村では魔法は使って無かったんだからジピコス、わたしの魔法は初めて見るのよね。


そんなに吃驚しないでもいいのに、だらしなく口あけちゃってぇ。

誰だって使えるでしょ?魔法なんてマナさえあればね。


「嘘っだろ。」


「寒っ、何があったのよ?これは──」


ジピコスの声が耳に届いたけどスルー。

今度は知らない女の声だ。

んと、さっき聞いたかも知んないとは思うけども。

声のした方を横目でちらりとと見る。

・・・何なの!日本でも見た事無いってゆーか、え?あれ、ホントに・・・ゴクッ。


自然に出てくる唾を飲み下す。

デカパイなんてレベルじゃない巨大な桃が二つ、ケモ耳女の胸に付いてる。

羨ましくないわよ?

わたしはわたしの美乳でスッゴイ満足してるし、これ以上ってなるとさすがに邪魔よね。


でも、ゴクッ。

揉んでみたい、あのたわわに実った桃に飛び込みたいってゆー欲望が湧いてきて、同時に次々と溢れる唾が止まらない。


自然と情けなくヨダレを垂らして、にへらと笑っていたのじゃないかと思った。

はっ!

それは今じゃない、だって妙にオークども──猛ってる。


後ろ髪を引かれる思いで振り返って、準備の整っている魔法を解き放った。


「──ダルキュニル!」


あっとゆー間に氷塊ほどの氷の柱が、パキパキと空気を凍らせて出来上がっていく。

それを──ぽいっと、


「何っだよ。あっという間にあんなに居たオークが氷の壁に・・・。姐さん一体何者なんだよ。」


投げる。

ダルテで凍り付かなかった、まだ元気なオークの群れに。


ぎゃあぎゃあジピコスが行ってるけどスルーでいっか、まいっか。


新手はぜーんぶっ、凍りの壁の中だしぃ。

もう動く事ないもの・・・そろそろこの場にいるオーク身動き取れなくして、イライザの方へ行かないとね・・・


そう思いながらもう1つダルキュニルを準備し、奥へと続く道に押し寄せるオークの群れへ、


そーれっ!


と投げ入れてまだ動いているオークどもの群れへ駆け出す、笑いが溢れるのを我慢できずに。





あっ・・・ああ、・・・いやっ・・・


突然、目の前で始まったオークとの戦闘に戦慄し、わたしは立って居られなくなり腰から膝から崩れた様にその場に倒れ込む、怖い。

走り出す京ちゃん。

続いておぞましい叫びが耳に届いて、ヒヤリとしてたら朱い閃光が走った。

京ちゃんの何だったか、確か魔法じゃないスキル。


探したけど京ちゃんの姿はそこには無くて、駆け抜けながらオークを斬ってるみたいでおぞましいあの叫び声が止まない、多分・・・オークが断末魔をあげてるんだろう、そう思いながら少しするとジピコスが必死そうに張り上げる叫び声。


それに答えるみたいにワァッ!とわたしを通りすぎてく人、人、人。


口々にざわつきながら目の前に現れたオーク達を押し戻そうと斬り合ってる、カキン、カキンッと金属の擦れ合う音。


一方でわたしの恐怖も大分落ち着いて周りを見回してみる。

そこには、オークとやり合って怪我をしたのか、元々怪我をしていて悪化したのか何人かの冒険者が唸る様に転がって震えていて。


ヒールを唱えた。

癒しの光はいつもと変わらずに冒険者を癒す。

続けざま順繰り、転がっていた冒険者全てにヒールを唱えた。

癒しの光が傷口をぽわわわと塞いでいく、良かった・・・この人たちはたすかったぽい。


すると、つぅーっと紅い液体が地面を伝って流れてきた、嫌な感じ。


この場をずぅっと死の臭いが覆ってるけど、それに輪を掛けて嫌な感じだった。

すると、どさりと。

全身を体毛に覆われた、獣人化したのか途中なのか、女性なのか男性なのか解らないけど体が音を立てて、目の前に仰向けで転がされて。


ここまで運んで来たんだろう人の視線を感じて見上げると、物凄い悲しそうな表情で転がした人を見ていた。

いけない・・・一刻も早く。


「ヒール、・・・動いてっ!」


ヒールを唱えないと。

まだ体は温かいその人に触れながら、助かれ、助かれ、帰ってきて!と念じながら続けてヒールを唱えた。

ぽわわわと傷口を塞いではいく、それに血も止まったみたいで。

少し様子を見ていると、はぁあー、はぁっはっ、とその人が荒い息を吐く。


「・・・良かった、息が戻ったよ。」


ヒールを掛け続けていると、段々獣化が収まり・・・胸をはだけた女性に変わ、ううん、戻っていた。


「──ッ!」


「死んじまったかと思った、無茶しやがって!」


運んで来た人が声に成らない叫びを上げて、女性に飛び付いて涙を流してる、仲間だったのか・・・親兄妹、夫婦なのかとか解らないけど、運んで来た人をわたしが見た感じだと30行ってないくらいで、女性は京ちゃんくらいか少し上くらいかな。


女性を抱き抱えて、名も知らない冒険者はわたしにぺことお辞儀すると、黙って後ろに足早に去っていった。


「おいっ、こっちにも頼む。キュアじゃ血が止まらねえ。」


助かってくれて良かったと一息付いていたら、わたしを呼んでるぽい鬼気迫った叫びが響く。


「・・・ヒール、ヒールっヒール!・・・」


傷口を癒しの光は塞いでくれる、でも。

目の前に倒れている、屈強な冒険者の顔には生気が無くて、生気が戻って来なくて。


唇を噛み締めながら、わたしはヒールを唱え続けた。

それでも、倒れた男は身動ぎ1つしてくれないんだ、これは・・・もう。


そう思っていると不意に肩に手を置かれて、肩越しに振り向くといつのまに居たのか最初からいたのか、ジピコスと同じ狐のケモ耳の女性が黙って何度も横に首を振る、その頬には幾条の涙が伝っていて哀しそうに微笑った。


女性もこの冒険者の仲間だったのか、わたしを呼んだ男の人に近付いて『もうだめよ。』とわたしにした様にして冒険者が亡くなった事を知らせる。

死んじゃった。

助けられなかった。


「・・・ちくしょうっ。」


「うっ、ごめんなさい・・・。」


条件反射で男の人の叫び声に、ビクっとして思わず謝ってしまうわたしがいる。

助かってくれたら良かったけど既に手遅れ。

傷口はもう塞いでしまったけど、地面が赤々と血だまりで濡れてた。

相当な量、血が流れ出たとこをわたしに教えてくれる。

駆け寄った時、腹には大きな穴が空いてた。

とっくに、ダメだったんだ。

自分で自分に言い訳と、慰めの言葉を胸の奥で掛けて落ち着かせるのに必死に。

やだなぁ、この場に着いた時点で解ってた事なのに悔しい!

目の前で死なれちゃうと、こんなに悲しくて、自然と熱い粒が地面に膝立ちになって冒険者の体を掴むわたしの手の甲に落ちた。

泣いてる・・・ダメだ。

泣いてる場合じゃない、泣いてちゃダメ。

次に後ろに下がってくる冒険者を治してあげないとなんだから、わたしに今。


まだ涙を流してる余裕なんて無いのに。


冒険者の張り上げる止まない怒号と、おぞましいあの断末魔がリピートされてるみたいにすぅっとまた耳に戻ってくる。


そうなんだ、始まっただけで終わってない。

全然まだこれからで、これだけでへたり込んじゃったらもっと多くの人が助けられない。


「謝んな、運が良かった方さ・・・五体残ってるだけマシだった。そう言うこった。あっち行ってやれ。」

茫洋と、目の前で繰り広げられる冒険者とオークの攻防を見詰めながら、わたしが意識の海に漂っているとわたしを呼んだ男の人が涙を流して泣きながら無理ににぃと笑ってくれて声を掛けてくれた。


「・・・うん。」


それはホントに些細なよくある事になっちゃった。

戦況は、良くない。

京ちゃんが走り廻って一人で左の方・・・わたしから見た山道の左の方の脇で茂みも樹々も切り倒されてその隙間に山とオークの肉塊を積み上げて戦ってる。


右の方はゲーテなんだろう大きな虎人がオークを千切って、ほふり何とかこっちも五分五分。


それで目の前の方、京ちゃんも左から駆け着け切り払っているけど、オークの数が一番多いし冒険者も近くて大技は使えないみたいで。


苦戦、してる。

京ちゃんと瞳が合うたびにヒールを一応しとく。

いくら強いからって無限に強い訳じゃない。

時間を掛ければかけるだけオークは数が増してるのに、こっちは怪我人と動けなくなった怪我人と・・・


「死体だらけ、遅かったみたい。ぅぅぅう・・・」


死体が増えていく。

キュアを唱える声に頼って、身近にいる人たちを優先した結果、気が付くとあちこちから死んだ人を呼んでるんだろう、覚えきれないくらい、色んな誰かの名を呼ぶ声が聞こえる。


解ってた、解ってる事だけどまだ、わたしは割り切れずに居た。

不条理に死んでいく人たち、徐々に不利になる戦況、倍々に増してる気がするオーク達。


「ゴホッ、・・・た、助け・・・」


そんな事を思いながらヒールを唱えていると、大きな巨漢がわたしのすぐ傍まで自分の足で歩いてきてそのまま仰向く形で地面に倒れ込んだ。

すぐにまた、さっきみたいに赤々と血だまりが地面に出来上がっていく。






気付いたけど、同じ事をあちこちの目線から追ってるだけだった。


反省はします、後悔はしません?



オークの群れにダルテでなんとか勢いを殺しました〜次はなんだっけ。


凛子はこの戦場でこんな事やってます的な。




次回──昼頃。




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