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死屍累々──獰猛の目覚め 3

掴みかかってた方はすらりと痩せてて、上背の高い年上っぽく彫りの深い男の人で、もう一人はゲーテに話し掛けてて今はジピコスを、喚くように叱ってるやたらと胸の大きい、京ちゃんよりも大きいグラマーな女の人。


何かの獣人って見ただけで解る、二人ともそれぞれケモ耳に尻尾もひくひく揺れたり、ピンと立ったり。


女の人の方のケモ耳は特に最近良く見た事のある形状で、どっかっで見たんだけどな、そこで尻尾に目を落とすと、これって・・・ジピコスと同じ尻尾だ、と声に出しそうになっちゃって必死に飲み込む。


彼女だったりするのかな、ジピコスの。


そんなバカっぽい勘繰りを働かせていたんだけど、はっと気付く。

わたし、回復して助ける為に来たんだった・・・思い直して京ちゃんの影を追って歩き出す。


荷車の残骸の前には、引く馬を失った馬車が3台と良く見ると他にも荷車が3台、少し離れてまた一台の荷車があり、その前に他の馬車より高級感と言うか、飾りの意味合いであちこちに金属を打ち止めた一風違う馬車が止まっていて、他の馬車と同じ様に馬の姿が無いんだ。

高級な馬車はきっと、イライザ様が乗ってきた馬車なんじゃないかな。


遺体が載ってる?

イライザ様の馬車に近い荷車からは荷が下ろされて、かわりに重ねるように遺体が積み上げられていて。

持って帰ってあげられるだけは、遺体も連れ帰りたいって事だったりするのかも知れないや。


歩きながら、怪我に呻く人にはヒールを唱えたし、血を流しながら息の荒い人にもヒールを唱えたし、動いてる生きていると思ったからヒールを掛けて回る。


見た事も、名前も知らない冒険者達も祈るように皆、感謝の言葉をくれたから役に立てて凄く嬉しくなった。


そんな時だった。

京ちゃんが青い長剣を抜いて駆けていくその先の茂みが、激しく揺れる。

がさがさと音を立てて現れたのは、やっぱりオーク。

それぞれ思い思いの武器を振り上げて、目の前に躍り出た京ちゃんを狙って振り・・・下ろさせない。


それより先に、京ちゃんの横薙に斬り払う剣閃が、並んで現れたオークを真一文字に斬り裂いて、辺りに血風が舞う。


「動ける奴は姐さんの後ろへ続けぇっ!オークを片付けるっ。」


すると、いつの間にかわたしの後ろに来ていたジピコスが、無理やり士気を高めたいのか声をあげて、冒険者達もそれに応える様に、ざわつきながら立ち上がりオークに向かっていった。


「おい、ジピコス。あんなエルフと・・・ニンゲンが援軍か?お前が行ってから何人死んだか解るのか?」


「あのな。姐さんは凄えーんだよ、黙って着いて来な。」


「援軍が来るまでって・・・凄え、ホントにエルフかよ。」


ジピコスがジャバーと喋る声を聞きながら、スピニングを構えてわたしは矢を番え、狙いを一匹のオークに定めて弦を離す。


放たれた矢は風切り音をあげて空気を割いてオークの胸に突き刺さり、追加で発動した真空を巻いた風の刃がオークの首を半分だけ切り裂いて、オークは断末魔をあげて血飛沫を撒き散らしながら動かなくなった。


一匹のオークをわたしが倒している間にも、京ちゃんは数十の群れになったオークの内、道の脇にはみ出した左翼を半分以上肉塊に変えて、他の冒険者達も押して迫る中央のオークを何とか弾き返せてるように見える。


やや、優勢かな。

そんな前線を目にしたジャバーが、意見を変えたぽく感嘆の声を発して、ジピコスに抱き着くとこを丁度、わたしが振り向いたら見えちゃったりして。

んー、葵ちゃんがあんなの見たら狂喜して、あっちが攻め、こっちが受けとか逆カプもありだなとか言うんだ。


一瞬、ニマニマする葵ちゃんの顔が浮かんでそんな事がね?頭を過るわたしもやっぱり、毒されてるよ・・・。






時間を少し戻そうと思う。

ジピコスの姿に二人の獣人が気付いて、駆け寄った山道のカーブ。


一人の獣人・・・馬の耳を頭の両側から生やし、馬の尻尾を腰の辺りから垂らす馬の獣人である、ジャバーだった。


ジピコスに掴み掛かるジャバーは頭一つジピコスより高く、上半身は油脂をたっぷり塗った黒革の鎧を纏い、下半身は茶色の革のズボンに膝下は金属で出来たすね当てと、材質も色も違う金属製のブーツを履いている。


馬の獣人(ティーゲニア種)は己の脚が、蹴りが最大の武器であり楯である所が大きい為に、ジャバーも他のティーゲニア達と変わらず、蹴りの威力を高めるならブーツに金は惜しまないのも同じ。


「ジピコス!お前、逃げたかと思ったぞ?・・・おお、シャダイアスか。なるほど早い訳だな。」


掴み掛かったジャバーは、そうとは思ってなかったにも関わらず、口ではジピコスを非難するが、視界に後ろを歩く巨大な鳥を捉えて気付いた様に掴み掛かっていた襟元を離すと、ジピコスの首に手をがっちりと固定するように回してから頭をガチンとぶつける。


それが長年連れ添った、彼等なりのコミュニケーションだった。


「そうだよ、ジャバー。お前ら仲間を置いて逃げるかよ、俺は大切に思ってんだぜ?」


照れ臭げに鼻を指でなぞってジピコスはヘヘッと高い声で笑い、そう言うとゲーテと話終わっていたもう一人の獣人・・・ジピコスと同じ様に狐の耳を頭の両側から生やし、腰の辺りからこれはジピコスより遥かに立派な太い狐の尾を携えた、フローレと瞳と瞳が合う。


「ジピコス、援軍か。村長に急報だって言ったろーな?」


気の抜けたゲーテに構わず、ジピコスに向かって微笑むフローレの容姿を語るなら、何といってもまずは誰もが目を一目で奪われる大きな大きな二房の胸を外せないだろう。

その胸を覆うのは三本のベルトだけで、胸を強調するかの様に臍も露な、肩で止めるタイプの下胸と臍の間だけしか隠せてない赤黒い革製ベストを着ている。

これをベストと言うのかコルセットだろ?と言っちゃうのかはお好みでドウゾ。

下半身は、履いている濃い黒革のタンガも丸見えでしかない申し訳程度の、タンガよりは薄い黒革のミニスカに、下から編み上げるのには一時間程要するサイハイブーツと言う、何処か擬人化された船や兵器や戦車が戦う例のゲームに出てきたあの人を思わせる出で立ちだ。


もう誰も覚えてないと思うけど、解る人だけが解ってくれたらいいと思う事だよ、うん。


このフローレ、恨みがましくジピコスを睨むものの、内心帰りを信じて待っていたので語感に比べて、特にジピコスとしても怖さは無かった。


「フローレ、村長に言うのは忘れた。」


だからか、いつもの様に正直に嘘は付かず、ジピコスは悪びれない答えを口にする。


すると、たちまちフローレのドングリ型の瞳がカァッ!と見開き、眉を額が盛り上がったかの様に釣り上げた。


「あ?」


「言ってもどうする事にもなんねぇ。10日ここで待つか?」


正論だ。

正規の騎士やら、助けに成りそうな強力な冒険者なりを、呼び寄せるのにまた村でジピコス達が待っただけの期間を必要とするのは明白だったからでもある。


そもそも・・・サーゲート、この王国には軍隊の概念が無いから、こう言った有事に備えは無いも同然。


それは、言わなくてもフローレだって解る所が悔しかった。


「ちっ、持ちこたえらんねーからな。知らないぞ、全滅だ。」


でもそれがどうした?

振り上げてしまった拳はもう、振り下ろせなくされようが無理やりに下ろさない事には座りが悪い。

気分の問題な部分も大きい訳だ。


フローレは叱りつける様に、ジピコスの言う正論に対して喚くのを止めれず、叫んでからぷいっと首を横にして、今はジピコスの顔なんて見たくないアピールをした。


「姐さんを見ろ。」


ジピコス達より少し前を行くシェリルこと笹茶屋京、通称──性悪エルフと呼ばれる、すらりと高い腰までの長い黒髪を風に遊ばせて、その黒髪に比べても遥かに暗い、まるで闇の色の様な異形の、形容し難い棘のような虫の脚の生えたような角が腕部のあちこちに付けられた、まさに異形の鎧を全身に纏うその姿はフルフェイスまで被ると何処か悪魔のような雰囲気が漂うそんな少女・・・、ごほん!

『えーと、女性でよろしいので?あ、はい。じゃあ乙女で、あ、ですね、そーですね。』


──そんな乙女がジピコスの目の前を歩いている。

少女と言うには少し難がある、ヘクトルやクドゥーナにビッチ呼ばわりされる彼女には。

いや・・・乙女でも厳しい・・・かも知れない。

もとい、厳しい。


普段の言動は極めて事故中心的な我が儘で、気に食わないととことん無関心な彼女には。


そんな彼女の背中を、ジピコスはびしぃと指差して、フローレの関心を誘う。

シェリルに視線を向けるフローレを見て内心ほくそ笑み、思わずにぃと口元が釣り上がってしまう、その瞬間をフローレは見逃さずに捉えた。


「何だよ、あのエルフ──黒髪・・・エルフ・・・性悪エルフかっ!噂の。」


業腹と行かないまでもまだ、ぷりぷりと怒っていたフローレの瞳がシェリルの特徴である長い黒髪を視界に捉え、同時に逡巡する。


それは村での真しやかな噂──返り血を浴びない、長く黒い髪は触手の様に動いて敵を縛る、謝ろうと何をしようと死んでも許さない、と言う“性悪エルフ”の噂にどうしても重なり、視線をジピコスに戻すと、釣り上がっている口元がニマニマと笑うようで良い気分とは言い難い。


噂じゃない真実を思いだし急にフローレはジピコスを憎らしくなったのだ。


その性悪エルフと仲睦まじく・・・デレデレと、姐さん呼びで舎弟を気取り、朝も早くから宿を出てはゲーテと二人して性悪エルフの傍に付き従い、夜も酒場が閉まるか、性悪エルフが満足するまで二人が、宿を空けていた事を思いだしたからで。


フローレが鼻先まで顔を近付け、ジピコスの双眸をギラギラと睨み、両肩を押さえ付ける。


「近え、近ーから、離れろフローレ。そうだ、あれが──」


そう言いながらフローレの胸を覆う三本のベルトを、ジピコスは掌で押して一旦離れると再度、びしぃとシェリルの背中を指差して、


「あの性悪エルフだっ、そして俺達の姐さんな。」


そう言うと満足げに眉を、瞳を緩めて微笑うジピコス。


その笑い顔にフローレは、まぁあたいがジピコスの一番ならそれってそれでいいんじゃね?

と、心に吐き出し用の無いイライラを抱えつつ、前向きに勘違いをしてゆくのだった。


ご多分に洩れず、このノルンという異世界も一夫多妻は勿論、多夫一妻もそう珍しい話でもない、そんな世界。


そんなノルンに育ったフローレの考えが、勝手にシェリルを二番目にしてしまうのは止められない事だったのかも知れない。


当のシェリルは、京は、ジピコスもゲーテにも何の関心が無い、異性を感じて無いのだとしても。


「あのエルフ、一太刀でオークを半分にしちゃうのかー、あたいらと比べると化け物だ。」


そうとなれば、別にどうでも良くなってしまうもの。

フローレも一様に心の平静を取り戻し、『二番目』のシェリルの強さを色眼鏡抜きで分析に係った。


何故フローレがオークを倒した場面を見ても居ないのにそれが言えたのか、それは勿論ゲーテから聞いたに決まってる。


ゲーテの位置では半分にぶった斬った様で、実際は剣圧でオークが爆ぜたのだったが、どっちでも良い・・・凄い事をしたとゲーテの瞳に、脳裏に焼き付いていた。



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