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過去───チュートリアル。

一学年上の近所のお姉ちゃん。



遊ぶのはいつも一緒で、


中二の夏休みに引っ張って行かれたネカフェに。



それは有った。



「葵ちゃん。新しいゲーム?受験いいの?三年でしょー。」





葵ちゃんは1学年上のお姉ちゃん。



何をやるって時にも、


独りっ子で暇だからか、


わたしを連れ出して遊んでくれた。




わたしには妹、


要るんだけどね。



丈も袖も短い服を小さい頃から変わらず好んで着てて、


男の子みたい。






中学に上がってからは明るいブラウンに髪を染めた。


わたしは優等生、


家でも学校でもそつなく演じてたから。



羨ましいかった?違う、


どこか憧れていたんだ。



わたしは成れないから、きっと。



葵ちゃんみたいには。






ネカフェのロビーに幟や、

仕切りに囲まれて鎮座しているわたしより大きな青の球体。



「だからぁ、休みの間だけだってば。だからねぇ、りんこぉ。」


葵ちゃんの両手に右手がすっぽり包み取られて、


ぎゅぅっと握られた。



「一緒に行こう?」



期待に満ちた、


葵ちゃんの瞳に。



射ぬかれてわたしの心は決まった。



「しょぅがないなぁ、葵ちゃんは。理解ったよ一緒に行こう!」





にっこり微笑う葵ちゃんは面倒な手続きをサラッと、

わたしの分までこなして順番を取る。

少し待つ。



葵ちゃんの番が来てわたしに手を振ると、


「先に行って待ってるよ。すぐ来てね。」



期待に弾んでいた葵ちゃんの顔が急に曇って、


唇を真一文字にギュッと結ぶと不安そうに口を開く。


「うん、すぐだよすぐ。」


わたしは頷くと葵ちゃんの手を離した。


その時わたしは葵ちゃんにまた流されてるな、


なんて。



思ってた。



葵ちゃんに遊びの誘いを受けると、


断れない。



葵ちゃんの後ろをついて歩く、


そんな毎日だった。



だから、


深く考えないで葵ちゃんのお願い、


聞いちゃった。





少し待つ。



わたしの番が来た。



「ブースのコクピットに入って。」





球体はそのままがヴァーチャルシステムらしいんだけど、


不安感。



期待もある。



待ってる間に葵ちゃんに聞いた話だとフルダイブだから、


まるでその世界に自分が生まれたみたいな感覚を味わえるみたいなんだ!






店の人に促されて、


青い球体の前まで歩いた。


これでRPGをやるんだ。



勿論、五感全て持っていける訳じゃないから、


匂いは解らないし、


触った感覚もまだ開発中。


視覚は360°確保されてて、


聴覚もはっきりクリア。



まだまだ開発中の部分も多いけどリアルを追求していってるんだって。



コクピットに入って4点式ベルトを装着する。



店員の声が聞こえる。


「セッティング出しますからー、目を閉じてリラックスして下さーい。」




目を閉じる必要あるの?


ドアをトランクを閉めるみたいに、


上から力一杯店員が押して閉じると、


急に球体の壁面が沢山の四角型に変わってウワンウワンと輝る。



天と地が無くなった感覚になって不安に包まれる。



だからがっちりベルトで固定されるんだね、


吃驚してブースの壁に頭をぶつけて怪我しない様に。



球状にわたしを包む四角型の群れは、


一斉に光り輝くと次の瞬間、


わたしは浮遊感を感じて上下理解らないまま闇に飲み込まれた。




我に返って気づくと───





地平線の無い草原に一人立ち尽くしていた。



すぐ、


どこから徒もなく少年の声が聞こえた。



「ようこそ。NOLUN───製品版へ。僕はご案内をさせて頂きます。イーリスです。」




「まず貴方の名前を教えてね。」



声が聞こえた後虚空に名前を書く欄が生まれる。



フルダイブなのにこんな時だけカーソルなんだ?


メニュー画面が強制的にクイックアップされて、


メニュー画面の下にはキーボードが用意されていた。


今後も何かに使うのかな。



イーリスの姿は無い、


急かされる訳じゃないからゆっくり決めよう、


と思って気付いた。



すぐ来てね。



葵ちゃん言ってたっけ。



馬淵の『ぶ』を変えて、


まぷち。



うん、


きっと可愛いし、


葵ちゃんにも理解りやすい。



決めた、


えんたーボタンクリック。


その瞬間、


またイーリスと言う少年の声が聞こえる。



「次は髪の色を選べるよ。普段の君から大胆にチェンジだね。」




髪の色。



ふぅーん選べるのかあ。



確かに、


黒一色ばかりが蠢いてるとゲームぽさで言うと薄い。



▽ ピンク




ピンク。



大胆にと言うイーリスの言葉を真に受けてまずはピンクにしてみた。



すると、


虚空にわたしの生首が浮かび上がる。



「ひぃいっ!!!」



思わず叫んでいた。



吃驚した。



当然だと思う、


自分の生首がいきなり浮かび上がるんだよ?


しかもピンク色の髪をした。



こうやって一応確認させてくれるのか。



ピンクは無いな。



自分の生首を見ても馴れてしまえば自分の顔だ。



鏡を見てるのと全然変わらないじゃん。



いろいろ試した結果、


やっぱり見慣れた黒を選ぶ。



するとイーリスの声が聞こえた。



「こんな機会は無いよ?ホントにその色でいいの?」


こんなの只の自己知能型AIだ。



AIなんだけど・・・


わたしはその言葉に流されてしまう。



だよね、


どうせなら普段絶体に染めたりしない色がいいかも。



▽赤




赤。



普段なら絶体に選ばない。



わたしぽく無い。



親に怒られる、


学校に怒られる、


友達に変な顔をされる。





だけどここは、


ヴァーチャルシステムで作り出された架空世界。



いちいちわたしの髪の色を怒られる事は無い。



友達が見たって変な顔をしない。



わたしは赤い髪に決めた。


えんたーボタンクリックでまた、


イーリスの声が聞こえた。


「ホントにその色でいいの?後悔したりしない?」



後悔するわけが無い。



わたしが選んだ新しいわたしなんだ。



更にえんたクリックでイーリスが喋り出す。



「次は瞳の色を選べるよ。カラコン要らずで新しい瞳をゲットだよ。」




次は瞳の色かぁ。





瞳の色を選べるよって言われても・・・


▽黒




うん、


黒でいいよ。



えんたクリックで再び、


わたしの生首が浮かび上がるけどもう驚かないもんね。



もう一度えんたクリックで、


イーリスの声が聞こえる。


「普段出来ない体験しようよ、ホントにその色でいいの?」



いちいちわたしの決定に文句を付けてくれるイーリス。



AIに設定されてるんだろうけど、


わたしはその言葉に流されちゃう人だったりする。



カラコンなんてしたこと無いんだけど。



「じゃぁ、試してみよう。かなっ?」



イーリスの声に反応して他の色を選んで見る。



青、


赤、


金、


ピンク、


水色──



水色いいんじゃない?






「ホントにその色でいいの?もう他の色は試した?」


うん、


もういい、


水色がいい。



えんたクリックでまた聞こえたイーリスの声。



わたしは決めた、


水色がいい。



えんたクリック。



「次は種族を決めてね。時たまレアな人種も居るからね。」




次は人種だって。










エルフとか?


▽ 人間




カーソルを動かして選ぶ。


エルフ、


ハーフエルフ、


有翼人、


ドワーフ、


ホビット、


バンパイア、


バンパイア──良いかも。

んー、


日中は弱体化します。って夜しかダメなんだ、


じゃあNGかあ。



ワイアー、


あ、


ウサ耳可愛いかも知れない。



ウサギの獣人、


知能が悪くてすばしっこい。



バカっぽい。



んーと──



いろいろ試した結果、


やっぱり人間がいいかな。



えんたクリックでイーリスの声が聞こえた。



「次で最後、契約神を決めてね。お薦めは最初のカーソル。」




チュートリアル長いよ。



葵ちゃんを待たせてる、


イーリスの言葉通り最初のカーソルを選んだ。










▽ イーリス




脱力感。



自分でお薦めしてきたよイーリス。



うん、


でもまぁいっか。


えんたクリック。



虚空に少年の姿が映し出される。



えーとイーリスだよね、


たぶん。



こっちに向かって手を振ってる。



わたしは苦笑いをしながら手を振り返して、


えんたクリック。



するとイーリスの声が聞こえてくる。



「これからよろしくね。」


ああ、うん。



よろしく。



何かめんどくさくなってきて投げ遣りにイーリスに言葉を投げ返す。



「準備が出来たよ。NOLUNの世界を楽しんでね。」



最後にイーリスの声が聞こえて、


地平線の向こうに塔が現れ、


遅れて大勢の人が現れた。


遅れたのはローディングの関係なんじゃないかな。








ローディングが追い付いて来ているのか、


だんだん周りにものが現れる、


見上げてもてっぺんが見えない塔から始まり、


人が、


建物が、


道が、


空に色が着いて、


目まぐるしく周りが変わってゆく。



そして最後にBGM。



雄壮で壮大な今から始まる異世界ライフを強調する様に。



あ、


ちょっと喧しいかな、


要らないかも。



メニュー画面をポップアップしてBGMをボリュームを下げる。



おぉ、


いいんじゃない?


喋りながら通り過ぎて行く緑髪のエルフ、


その隣には赤ら顔のドワーフ。



異世界って雰囲気するね。



ここから始まるんだ。







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