不思議のはじまり
初のホラーテイストの小説に挑戦してみました。
今まで苦手だと感じていたジャンルですが、書いてみることで新しい表現ができると思います。
自分の体験談も織り交ぜて描いていきます。
よろしくお願いします。
失踪した男が山奥で発見されました。
高い崖の下。一部白骨化。
時期的に失踪後すぐ転落したと判断されました。
事件性はなく事故と考えられます。
そんな内容の記事が小さく地方新聞の片隅に掲載され、世間からはすぐに忘れられた出来事。
事故死ということが腑に落ちない、とノブコはよく口にしていた。
小さく死亡が報道されたその男はノブコの彼だった。
ぱっとしない人だったけど、用心深さは人一倍。
遺体が発見された場所はどう見ても危険な場所なので、1人で出かけることは考えにくい。
自殺するなど絶対にありえない、という。
かといって殺されるほどの恨みをかっているとも思えない。
だからあんな所で1人で死ぬなんて絶対にありえない。
と何度も繰り返していた。
「でもさ、正直ほっとしたでしょ? あの男がいなくなって」
ノブコの幼馴染、ハルカは言った。
つきあったり別れたりを繰り返し、その度に愚痴を欠かさず聞かされていたので
率直な意見を口にしても喧嘩になるような間柄ではない。
ゆったりとしたクラシックが流れるランチタイムが過ぎたカフェは、ノブコとハルカの2人意外に1組の客がいるだけだった。
暖かい日差しに包まれた窓際の席からは街路樹とそこを行き交うビジネスマンたちの姿が見える。
「それは確かにそうなんだけどね」
ぬるくなった紅茶を口にした。
「でも、変なのよ。絶対に」
何度も繰り返される進展のないやりとりには慣れているが、相手がこの世を去った今も続くとは思わなかった。
「そしたら、何か思い当るよう事でもあるわけ?」
「あるんだけど変な話すぎて…」
ティーカップの縁にうっすらとついた口紅を人差し指でぬぐった。
「ホント変な話すぎて頭が混乱しちゃってさ……。
だから、聞いてくれたらきっと自分の気持ちが整理できると思うんだ。
ハルカなら笑わないで聞いてもらえるから、聞いてほしくて」
ノブコの結論が出ない話には聞きなれている。
変な話というものが、どんなものかは予想はつかないが
彼女はひとつの思考にハマると抜け出せない癖がある。
話をすることで少しは落ち着いて、前に進んで行けることができるなら聞いてみようと思った。
その聞いた話によって、自身にも不可解な出来事が起こることは全く予想もしていなかったが。