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六話 神々の血脈を受け継ぐ陽気な人々

 





 ロイーダ上空の攻防は全てのトンボ型の撃墜をもって終結した。

 かけつけた聖リメロア軍に損傷はなかったが、彼らが駆けつけるまでに既に戦っていた十機のヴァリエラドのうち、六機が破壊されてしまった。中破が四、大破が二、殉職者が二名であった。

 戦場の状況分析をまとめ、鎧機に乗ったままフィルメリアとグレオノが個別回線にて今後の方針について語り合っていた。

 そして、話がまとまったらしく、フィルメリアが各鎧機に指示を出す。


『今回仕留めた正体不明のトンボ型の残骸は持ち帰る必要はないわ。ホースレブカとヴァリエラド十機はこのまま明日まで滞在、早朝に交代人員と錬金術師を派遣するまで警戒を怠らないで。イーグレアス、ブルディレオ、ドルグオンは王都へ帰還します。ここは任せたわよ、レミドナ』

『これもお仕事だしね。任せておいてって』

『それじゃ私たちは王都へ戻るわよ、タカト、いいわね?』

「はい! タカト・ナガモリ、王都へ帰還します!」

『……ごめんなさい、もう敬語はいいから元通りでお願い。私が悪かったから』

「りょ、了解」


 通信機から漏れてくる力ないフィルメリアの声に首を傾げるタカト。

 彼は気付くことは無いが、通信機の向こうでフィルメリアは敬語を使えなどという子供じみた命令に羞恥心を感じているらしい。

 フィルメリアの心の機微を理解できないまま、タカトはドルグオンと共に王都へ帰還した。

 聖リメロア城敷地内へとドルグオンを着陸させ、タカトは操縦席から外へと転移した。彼らの到着を待っていたのか、既に庭にはシャリエが兵士たちと共に並び、タカトたちの帰還を待ってくれていた。

 ドルグオンから降りたタカトの姿を確認し、彼へ向けて走り出し、その胸に飛び込むシャリエ。

 よろめきながらも、しっかり彼女を抱きとめるタカト。心配そうに彼を見上げながら、シャリエは口早にタカトに訊ねかけた。


「タカト、大丈夫!? 怪我とかはない!? 気分が悪くなったりしてない!?」

「だ、大丈夫。何も問題はないから。フィルメリア様や他の皆さんに助けられて、なんとか」

「そっか、タカトが無事で、本当によかったよお」


 タカトの胸の中で心から安堵のため息をつくシャリエ。彼女を安心させるように笑うタカト。

 だが、二人のそんな光景がいつまでも続くはずもない。背後から獲物を見つけた猫のように笑う少女――フィルメリアがタカトたちに声をかけたからだ。


「もしかしなくても私はお邪魔かしら? 共に戦場を翔けた戦友に一言声でもかけようかと思っていたのだけれど」

「わっ、フィルメリア様っ!?」


 ようやく彼女の存在に気付き、シャリエは慌ててタカトから離れて頭を下げた。

 そんなシャリエに笑みを零しつつ、フィルメリアはタカトに向き直り、再び口を開いた。


「タカト、初めての夜戦にも関わらずあなたは十分過ぎるほどによくやってくれたわ。ありがとう、あなたのおかげで兵と民が救われた」

「いや、俺は必死にみんなについていこうとしただけで……」

「た・だ・し! 言いたいことが全くない訳じゃないのよ! 初めての夜戦だから大目に見るものの、自分を見失ったり勝手にレミドナの真似をしたり……見逃すのは今回だけだから心に留めておくように!」

「すみません……」


 褒めた次の瞬間に説教に転じるフィルメリア。タカトが勘違いしてしまわないように、しっかりと飴と鞭を使い分けているようだ。

 しゅんと反省するタカトと彼を元気づけようとするシャリエ。そんな二人にフィルメリアは溜息をついて、笑って声をかけた。


「もう夜も遅いから、今日はこのくらいにしてあげる。明日の朝、改めて時間をとらせてもらうわ。その時に今後についてお話しましょう」

「ああ、分かった」

「それじゃ客室に戻ってゆっくりおやすみなさいな。しっかり眠って体の疲れをとること」


 フィルメリアに頭を下げ、タカトは竜鎧機を休眠化させた。

 光に包まれタカトの傍に現れたチビ竜ドルグオンをシャリエが優しく抱きかかえる。

 二人並んで客室へ戻ろうとしたタカトたちの背中を見つめながら、やがてフィルメリアはタカトの背中に声をかけた。


「タカト! 初陣だったのに、敵を圧倒したり、夜戦に適応したり……本当に無茶苦茶だけど、あなたの頑張る姿、最高に格好良かったわよ! それだけ!」


 フィルメリアの言葉に驚き、シャリエと共に後ろを振り返るタカト。フィルメリアはそっぽを向いて鳥鎧機を休眠化する作業に移っていた。

 彼女の言葉に首かしげながらも、タカトはもう一度フィルメリアに頭を下げ、客室へと戻るのだった。


 豪華絢爛な客室へと戻り、疲れ果てているタカトは倒れるようにベッドの上へ転がり込んだ。

 そんなタカトを心配しながら、シャリエは彼の隣に座って訊ねかけた。


「タカト、どこか体の具合が悪いの? 本当に大丈夫?」

「ああ、ちょっと……いや、大分疲れただけ。眠気と倦怠感が物凄いかな」

「このまま寝る? 部屋の外を守ってくれてる兵士さんに言えば、夕食や湯浴みに連れて行ってくれるけど」

「ごめん、ちょっと無理っぽい。このまま寝ることにする」


 うつらうつらとするタカトを心配そうにのぞきこむシャリエ。彼女の腕から降り、トコトコとタカトの顔に近づいてゴシゴシと顔を擦り付けるドルグオン。

 そんなドルグオンに、タカトは半分眠りかけた意識の中で問いかける。それは彼の疲れ切った心から漏れてしまった少しばかりの弱音。


「竜神様……俺、なんでこの世界に呼ばれたんでしょうね。今まで真剣に考えたことなかったけど……今日、それを初めて理由が知りたいと思いました」

「ぐぁう」

「いつの日か、分かる日がくるんでしょうか……いつの日か、地球に還れる日がくるんでしょうか……」


 今日という一日はあまりに目まぐるしく、激流のようにタカトの心を摩耗させた。

 初めての戦場、それを一日二回も経験した疲労。そして、フィルメリアから聞かされたタカト以外の地球人がこの世界を訪れ、元の世界に還っていったという話。

 その全てが要因となり、これまで心に蓋をしていた望郷の想いを吐露してしまった。

 この世界の大切な人々のために生きるという気持ちは今も変わっていない。シャリエたちを守るために戦うことに何の後悔もない。

 けれど、それでもタカトは弱り切った心の奥底で願ってしまう。もし可能ならば、自分がこの世界に来た意味を知りたいと。そして、可能ならば――元の世界に還りたい、と。

 意識を落としたタカトを心配するように、彼の隣に丸まるドルグオン。そんなタカトを心から心配そうに見つめるシャリエだった。









 翌日、タカトの朝の目覚めはドルグオンのバタバタとベッドから飛び降りる音が目覚まし代わりとなった。

 タカトの傍から離れ、短い手足を必死に動かして駆けるドルグオンの姿に何事かとタカトは目をこすりながら体を起こした。

 視線の先、部屋の入り口には、焼いた肉を何枚も乗せた巨大な皿を運んできたシャリエの姿があった。

 タカトが目を覚ましたことに気付き、シャリエは微笑んで挨拶を告げた。


「おはよう、タカト。よく眠れた?」

「ああ、おはよう、シャリエ……しっかり眠れたよ。ところで、その肉は何? 朝からそれはきついと思うんだけど……」

「あはは、私たちのご飯じゃないよ。これは竜神様のご飯。タカトが目覚める前、竜神様のお腹がぐーぐー鳴ってたから、お腹すいてるのかなって。兵士さんにそのことを言ったら、これを持ってきてくれたの」

「竜神様用の……その、凄く良い肉なんじゃないのか、それ」

「多分……」


 床に置いた皿の肉にむしゃぶりつくドルグオン。一心不乱に肉を食べるドルグオンの姿を微笑ましそうに見つめるシャリエ。

 そんな姿になごみつつ、タカトはベッドから降りて湯浴みに向かうことをシャリエに告げる。昨日は湯浴みを行わないまま眠ってしまったため、少しばかり体のべたつきが気になったのだ。


「湯浴みに行ってくるよ。そのあと兵士さんに頼んで俺たちも朝食にしよう。早く済ませないと、フィルメリア様がいつ来るかも分からないからな」

「そうだね。それじゃタカトが戻ったら朝ごはんってことで」


 シャリエに見送られ、タカトは部屋を守る兵士に頼んで湯浴みへと案内された。

 それは貴族や王族だけが本来使う大きな浴場であり、タカトは広さに少しばかり驚きながらも有難く使わせてもらう。

 驚きはしたものの、気遅れなどしたりしないのは、タカトが日本人で、銭湯などを知っていたからだろう。

 お湯に浸かりながら、石を削り出して作られた風呂にタカトはなるほどと納得する。その作りはタカトがよく知る日本の風呂に似ている。

 異世界でありながら、こうした似た文化が継承されたのも、この国の王族の先祖がタカトと同じ地球人だからなのだろう。

 体を清め終え、タカトは用意された服に着替える。それはこれまでタカトのきていた街人の服ではなく、王族が羽織るローブのような服。

 慣れない服に悪戦苦闘しつつ、タカトは兵士に案内されて部屋へと戻った。室内に戻ると、既に朝食の準備が整っており、室内には良い香りが充満していた。

 先にテーブルについていたシャリエがタカトに手を振って呼び寄せる。彼女と向かいあうようにテーブルについたタカトは用意された料理に感嘆の声を漏らした。

 それは一般人では決して口にできないような素材を贅沢に用いられた品々。ごくりと唾を飲み込みながら、タカトはシャリエと二人で朝食を堪能した。途中、分けて欲しいとタカトの足元にすり寄ってきたドルグオンに苦笑しながら、食べ物を与えたりしていた。


 朝食を終えた二人は、片づけに来た給仕の人々から三十分後にフィルメリアが訪れると告げられた。

 彼女が来るまでの時間を、二人と一匹はのんびりと過ごすことにする。やることもなく、床の上で軽いストレッチを行っていたタカトに、ベッドに腰を掛け、ドルグオンを撫でながらシャリエは訊ねかける。


「今後の話って言っていたけど、フィルメリア様はどんな話をしてくれるのかな」

「そこまでは……ただ、トンボ型の襲撃事件はまだ終わってなんかいないから。多分、これからその事件解決に向けてどうすべきかの話し合いだと思う」

「トンボ型?」

「ああ、あの街を襲った正体不明の虫鎧機のこと。作戦中、姫様たちがあれのことをトンボ型って表現してたから」


 タカトの言葉になるほどと納得するシャリエ。

 二人で雑談に興じながら待つこと三十分。時間ぴったりに扉がノックされ、右肩にイーグレアスを乗せたフィルメリアが姿を現した。

 挨拶をする二人にやんわりと微笑み、声をかける。


「おはよう、二人とも。タカト、体の方は何ともないかしら?」

「ああ、大丈夫だ。疲れも取れてるし、なんともない」

「鎧機の初陣の翌日は大抵みんな体調を壊したりするんだけど、タカトは大丈夫みたいね。安心したわ」


 そう言って息をつくフィルメリア。

 心配してくれたことに礼を言うタカトに、首を横に振り、早速とばかりに用件を告げ始めた。


「これからのことを話したいんだけど、タカト、あなたにはドルグオンと共にこれから私の父に会ってもらいたいの」

「父……こ、国王様か!?」

「そうよ。『神々の血脈』を持つ異界からの来訪者であるあなたを早く紹介しろと昨日からずっと言われててね。申し訳ないけれど、顔を合わせてあげて頂戴。先に言っておくけれど、礼儀とか気にしなくていいわよ。私以上に父様は『アレ』だから……そうね、適当に笑って相手をしてあげるくらいでいいわ」

「あの、これから会うの、王様なんだよな? ……そんな適当な」

「いいのよ、そういう人だから。その間、シャリエにはここで待機してもらうことになるけれど」

「分かりました」

「ありがとう。それじゃ早速向かうけれど、準備はいい?」


 フィルメリアの確認にタカトは頷いた。

 足元のドルグオンを抱き抱え、タカトは彼女と共に長い廊下を歩いていく。

 国王と会うことに少しばかり緊張するタカト。そんな彼の初心さを微笑ましく笑うフィルメリア。

 謁見の間まで続く階段を昇ろうとした二人だが、会談の前で二人を待っていた男を視界に入れて足を止めた。

 その男はフィルメリアと同じく、淡い紫の髪を背まで伸ばした長身の男。暗色のローブを纏い、すらりとモデルのような体型だ。

 何より特徴的なのは、まるでビン底眼鏡のように分厚い丸々とした眼鏡。その眼鏡によってどんな目をしているのかよく分からないが、目以外のパーツはまごうことなき美青年のそれだった。

 その男は楽しげにタカトに対し声をかけた。


「おはよう、タカト君。昨日はゆっくりと眠れたかな? 鎧機の初陣は疲れただろう」

「お、おはようございます。ええと……」


 初めて会う人間から名前を呼ばれ、誰なのか分からないタカトは困惑するように隣のフィルメリアへ視線を送る。

 フィルメリアは呆れるように息をつき、その男にジト目を向けて言葉をぶつける。


「お兄様、それは私が先ほど全てタカトに確認しました。それと、妹の顔を見ても挨拶一つせず、タカトに話しかけるのは如何なものでしょうか」

「はははっ! それはしかたない、私はタカト君に興味津々で仕方ないのだからな。神々と同じ世界から現れ、竜鎧機を操り、見事な初陣を飾ったというお前の報告を聞けば、心動かされない訳にはいかん! 昨日の夜からずっとタカト君のことばかり考えていた。考え過ぎるあまり、夢の中にまでタカト君が現れてしまったほどだ!」

「お兄様、気持ち悪いです。止めて下さい」


 妹から冷たい瞳を送られても、微塵も応えていない男性。

 二人の会話から、タカトは彼がフィルメリアの兄、すなわち王子であることを知り、慌てて胸に手を当てて敬礼を示す。

 だが、そんな彼に男は首を振ってすぐさま止めるようにお願いした。


「敬礼なんて他人行儀な真似はやめてくれ、タカト君! 私は君とこれから唯一無二の親友、生涯の伴侶として生きていくつもりなのだ! 硬い絆で結ばれた友の間に堅苦しい礼節は不要! 私のことは気軽にアリウスと呼んでくれ!」

「お兄様、本当に気持ち悪いので止めて下さい。伴侶の使い方を間違ってます」


 興奮気味に語る男――アリウスに、ただただ妹であるフィルメリアは溜息をつくばかり。

 彼女は力なくタカトに改めて兄のことを紹介する。


「アリウス・ルルーク・リメロア。私の兄にして、次期王位継承権を持つ人……なのだけれど、王としての教育から逃げ回っては錬金術師として鎧機の研究ばかりに没頭しているわ。最近はお父様も匙を投げて、鎧機錬金工房の責任者に任命してしまったくらい、それくらいの鎧機愛者。もし鎧機のことで困ったことがあったら、この人に聞いて頂戴ね。夜通し語り明かしてくれると思うわ」

「鎧機のことを探究せずして、人生の何を語れるというのか! 私は五つを数えた頃から、この生涯を鎧機のために費やすと決めている! 私の将来の夢は、いつの日かこの手で全ての鎧機を超越する新たな鎧機を生みだすことなのだからな! 時にタカト君、鎧機は好きかい?」

「は、はい、大好きです! 鎧機は男の夢であり、浪漫です!」

「そうか! いや、その言葉を耳にして、君のことがますます愛おしくなってしまった。これは最早、今すぐ君と語り明かす他あるまい。さあ、私の部屋で竜鎧機について語り合おうではないか。おおお! よく見れば、君が抱いているのはまさしく幻想種ドラゴン! 生きてこの目で生ドラゴンをみられるとは、生きててよかった! 是非ともこのドラゴンが竜鎧機に変形するところを生でじっくりと……」

「お兄様、タカトをお父様のもとに連れていくのを邪魔するのは止めて下さい。あと、いい加減覚悟を決めて次期王としての教育を受けて下さい」

「ははは! 絶対に嫌だ! 何度も言っているだろう、私は王にはならぬ、王はお前の夫がなればよい! ……と、以前なら叫んで逃げていたのだが、もうそれも必要ないだろう? 私よりも王になるべき人間は見つかった。父もそう判断されるはずだ。お前も私を王にするなどという無駄な考えは捨て、その者を愛する努力を始めるべきだろう! はっはっは! 私は最良の弟を手に入れることができるようで何よりだ!」


 そう言ってタカトの背を叩いて笑うアリウスと、それを強引に止めさせるフィルメリア。

 ただ一人蚊帳の外のタカトは困惑するばかり。ただ、少しばかりフィルメリアの顔が赤いのは気のせいか。

 強引に話を打ち切り、タカトの手を引っ張って謁見の間へと向かおうとするフィルメリア。

 そんな二人を微笑ましく見届けながら、アリウスはタカトに声をかけた。


「暇なときは是非とも私の錬金工房へと訪れてくれ! タカト君の満足する鎧機の全てをお教えしようではないか!」

「本当ですか!? 是非、お願いしますっ」

「タカト、無視して。全くもう、お兄様の鎧機病といったら……」


 呆れるように言葉を吐き出しながら、フィルメリアは何とかタカトを謁見の間へと続く扉の前へと連れてきた。

 扉の前の兵士がフィルメリアに敬礼をし、その巨大な扉をゆっくりと開く。

 部屋の中、その奥にある玉座に腰を下ろしているダークブラウンの髪を短く切り揃え、口元に髭を生やした王がいた。

 先ほどのアリウスに負けず劣らず整った容貌をした王は、歳を重ねてさらにその深みを増している。

 ただ、中身がフィルメリアの言葉通り残念過ぎたようだ。二人の姿を見て、王は玉座から立ちあがり、二人のもとに駆けだしたのだ。

 玉座の前で跪く想定をしていたタカトはこれに面喰う。だが、王は気にすることなく豪快に笑ってタカトとフィルメリアに話しかけた。


「遅いじゃねえか! 待ちくたびれたぞ、フィルメリア! おお、こいつがタカトか! 良い面構えしてるじゃねえか、何でも自分から民を守るために立ちあがったんだってな! 実に男らしいじゃねえか、研究ばかりに勤しんでるアホリウスにも見習ってほしいくらいだ!」

「え、あ、え? お、王様……?」

「王よ。恥ずかしいけど、これ以上ないくらい恥ずかしいけど、この国の王様よ。……お父様、せめて初見くらい王として威厳ある態度を」

「馬鹿、これから家族になろうっていう男に自分を偽ってどうする! 俺ぁ逃げも隠れもしねえぞ、全てを曝け出してこそ家族ってもんだろう?」

「お父様」


 ジト目で睨まれ、王は渋々だがタカトから離れて玉座へと戻る。

 そして、改めて腰を下ろし、タカトに視線を向け直して笑いながら王は名を告げる。


「この国の王をやっているレクス・ルルーク・リメロアだ。お前のことは既にこいつから聞いてるからな、改めて自己紹介しなくていいぞ。我らが祖と同じく『チキュウ』からやってきたタカト・ナガモリよ。お前にとってここは異世界ってことになるが、異世界人を代表して心から歓迎するぜ」

「ありがとうございます、リメロア国王様。ですが、その、随分と簡単に俺が異世界から来た事をお認めになられるんですね」

「簡単に認めてるわけじゃねえよ。それを否定できない確固たる証拠をお前自身が既に証明してるってだけさ。聞いたんだろ? その竜鎧機は『神々の血脈』を持つ者しか動かせねえってよ」


 確認するようなレクスの問いかけに、タカトは頷いて肯定した。

 上位の鎧機は己の意思を持ち、異世界人である者およびその血を引く王家の者にしか操縦できないことはフィルメリアより説明を受けている。

 レクスは困ったというような表情を浮かべながら、国の内情を語り始めた。


「大体のところはフィルメリアに聞いてるだろうが、この国はお前と同じく『チキュウ』って世界から来た俺たちの祖先が建国した国だ。その祖先が生み出した兵器が鎧機なんだが、上位の鎧機に乗れるのは現在国内でも僅かしかいない。フィルメリア、兄貴、レミドナ、俺は引退しちまったから数から除外するとして、お前を除けば国内で三人しかいねえってことになる。これが非常に拙いってのは分かるか?」

「ええと……それは『今回の事件』から見ても、なんとなく」

「そうだ。これまでは何事もなくやり過ごせたが、今回起きた正体不明の虫鎧機の襲撃。こういう不測の事態に対抗するためにも、王国は強力な剣を握っていなければならねえ。その剣こそが、上位鎧機なんだ。ヴァリエラドじゃ対処できない相手でも、上位鎧機なら状況を覆すことができる……んだが、肝心の操縦者が足りねえんだ。俺たちの体に流れる『神々の血脈』、上位鎧機に契約者として認められるだけの濃さを持つ人間が、俺たち直系の人間しかいねえ。分家の人間じゃ血が薄過ぎて反応すらしねえんだ」

「世代を重ねて、薄れていく……」

「そうだ。フィルメリアもレミドナも何とか認められているが、次の世代はどうなるか分からん。現にアリウスは契約者として認められなかった。このまま『神々の血脈』が消えるのも時間の問題かと思っていた……そんなところにお前が来てくれたわけだ」


 にっかりと楽しげにタカトに笑うレクス。何か嫌な予感を感じて背筋が震えるタカト。

 だが、そんな二人の会話に横から入ったのはフィルメリアだ。彼女はレクスに進言した。


「お父様、その話は今回の事件が解決してからにしましょう。今はあのトンボ型の発生原因、目的を探り、叩き潰さなければなりません」

「おっと、そうだな。この話は全てが落ち着いてからにするか。話は戻るが、タカトも知ってる通り、現在国内では正体不明のトンボ型が現れては暴れ回っている。こんな状況を放置できるわけがねえ、民の命を守るためにも一刻も早く解決しなきゃならん。そのためにも、お前が立ちあがり、協力を約束してくれたことは心から感謝する。今は一人でも強き鎧機、強き操縦者の力が必要だ。竜鎧機に選ばれたお前が力を貸してくれるなら、これほど心強いことはねえ」

「そんなことはありません。俺は未熟ですし、竜神様の力に頼っているのが正直な現状ですから。ですが、この力が人々を守るために使われるなら……大切な人々を守れるなら、こちらこそよろしくお願いします」

「すまねえな。本当なら右も左も分からぬ異世界、一刻も早く元の世界に還りたいだろうが……」

「いえ、いいんです。とにかく今は、大切な人々をあいつらから守りたい、それだけです……元の世界のこと、戻る方法、そんなことは全てが終わってから考えればいいことですから」

「歳はフィルメリアと同じだったか。十七にしては随分としっかりしているな」

「そんなことはありませんよ。俺、この世界にきたとき散々泣いて喚いて引き篭もってやりたい放題してたんですから」

「はっはっは! 正直で良いじゃねえか! それが当たり前の反応よ、気にすることはねえ。そこからよく立ちあがったと褒めたいくらいだ」


 豪快、快活に笑うレクスにタカトも笑い返す。どうやらアリウス同様、レクスとタカトは波長があうらしい。

 また話が横道に逸れそうになっているので、父親に突っ込みを入れることでフィルメリアが軌道を修正する。

 咳払いを一つして、レクスはタカトに言葉を続ける。


「とにかく事件解決に向けて、様々な手は打つつもりだ。その間、タカトには王宮で息苦しい生活を強いてしまうかもしれんが、そこは許して欲しい。城内ならば行動に制約はつけないつもりだ。どんな些細なことでも極力願いは叶えるようにする。遠慮なくその辺の人間に言ってくれ」

「お心遣い、ありがとうございます。少しでも力になれるよう、全力を尽くします」

「ああ、よろしく頼む……だが、一つだけ忘れてくれないでほしい。お前が尽くすのは、決して俺やフィルメリア、王国のためじゃねえ。お前が戦う理由は『大切な人を守るため』、そこに拠っていることを忘れないでくれ。守ると決めたんだろ? 大切な人たちを。だったらその気持ちを忘れず貫き通すことで、お前の力を間接的に俺たちに貸してくれ」

「分かりました……必ず」

「良い顔だ。俺の若い頃を思い出させるじゃねえか! そうだな、俺もお前のような時代があったもんよ。まだ俺が十六の頃、妻の尻を追ってばかりだったが当時は微塵も相手をされずにいてな。その度に獣鎧機を勝手に駆りだして……」

「お父様、謁見は終わったようですのでこれで失礼しますね。いくわよ、タカト」

「お、おいっ! 馬鹿野郎、まだ俺とレオガイアの武勇伝がまだ!」


 さっと一礼をして、タカトを部屋から引っ張り出したフィルメリア。

 部屋の外に出て、大きく溜息をついてタカトに謝罪する。


「ごめんなさいね。ああなるとお父様、話が長いから。お兄様といい、本当にどうしようもないんだから」

「いや、全然。王様が凄く気さくな人で緊張せずに済んだくらいだ。豪快で気持ちの良い人なんだな、レクス王」

「それが取り柄だから。それじゃ、次は作戦室に向かいましょうか。今後のことを話し合う為に、みんな私たちを待ってくれているわ」

「分かった」


 フィルメリアに連れられ、タカトはドルグオンを抱き抱えたまま再び城の中を歩いていく。

 余談ではあるが、彼の腕の中でドルグオンはすっかり眠りこけていた。満腹が小さな竜を眠りへと完全に誘ってしまっていたようだ。



 

ロボットあるところに博士キャラあり。

ここまでお読み下さりありがとうございました。次も頑張ります。

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