表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

最終話 神竜鎧機ドルグオン








 リャシャ山脈における死闘、その犠牲は少ないものではなかった。

 三百機のヴァリエラド隊はその数を三分の二まで減らし、殉職者は三十人にも及んだ。

 大破六十二機、中破九十四機、ブロルカの率いる虫鎧機は民と王国に確かな恐怖の爪痕を残したのだった。

 だが、タカトたちがペシュメルギアを撃破したことで、トンボ型とカブト虫型の全ては動きを止め、その機能を完全に停止した。

 命令なくしては自動稼働できず、数にして三百あまりの虫鎧機がほぼ無傷のままリャシャ山脈の大地に沈んでいった。

 動きの止まった虫鎧機たちを警戒する兵士たちだが、やがてフィルメリアから全機に勝利報告がなされ、各機から勝利の勝鬨があげられた。

 ボロボロになったイーグレアスを抱き抱えるドルグオン。各鎧機の操縦席から、タカトたちは兵士たちの喜びの声を聞き届けるのだった。


 王都への凱旋、それは喜びと悲しみの入り混じったものとなる。

 ボロボロになりながらも王都へ帰還した鎧機と兵士たちの無事をレクスは王自らの足で出迎え、彼らに労いの言葉を向けた。

 そして、戻ってこれなかった英雄たちの死を深く悲しみ、彼らの死を深く悼んだ。この戦いで民を、国を守るために犠牲となった三十人の兵士にタカトたちも並んで黙とうをささげた。決して彼らの死を無駄にしないために。


 だが、悲しみもあれば喜びもある。生きて帰ってきたタカトをシャリエが涙を湛えて出迎えてくれた。

 人目もはばからずタカトを抱きしめ、彼の胸の中で涙する少女に、タカトは笑って『ただいま』と告げた。

 彼女の元に必ず無事で帰ると約束し、それをこうして果たすことができたこと、それが何よりもタカトは嬉しかった。

 胸を張って彼女を抱きしめられるこの瞬間を迎えられたことを誇りたい、それがタカトの心に溢れる想いだった。

 もっとも、あまりに人目をはばからなさ過ぎたせいで、レミドナやフィルメリアから茶化されてしまったのは御愛嬌だ。

 顔を真っ赤にして身を縮ませるタカトとシャリエだった。


 その日の夜は城を挙げての盛大な祝勝会が開かれた。

 城の大広間を解放し、酒に料理に食べ放題飲み放題の大宴会。その場所でもタカトはあっちこっちに引っ張りだこだ。

 皆を先導し、竜鎧機を駆り、ペシュメルギアを倒した少年。そんな彼を兵士たちは我らが英雄ともてはやした。

 中にはグラスに酒を注ごうとしてきた兵士もいたが、タカトは必死に未成年で酒は飲めないと笑って回避してはシャリエとフィルメリアに助けを求めるのだった。そんな彼を二人は心から微笑ましく笑って見つめていた。

 王国万歳を唱える兵士たち。騒がしくも賑やかに夜は過ぎていく、犠牲になった人たちをまるで笑顔で送るかのように。









 翌日の午後、タカトはフィルメリアとシャリエと共に王の元へ向かっていた。

 先日の報告は全てフィルメリアたちが王へ行っているが、改めて王がタカトに感謝を述べたいと申し出、タカトもそれを承諾した。

 その場には是非ともシャリエも同席させるように王から言われ、今回は彼女も同行している。彼女の腕の中にはドルグオンの姿もある。

 王の間へ向かおうとした三人だが、彼らを待っていた男が一人。機嫌が最高潮に達している陽気な男、アリウスだ。

 いつものビン底眼鏡をかけ、彼は歩いてきたタカトたちに挨拶を告げた。


「はっはっは! おはよう、タカト君! シャリエ君! 昨日はよく眠れたかな?」

「おはようございます、アリウスさん。おかげで起きるのがこんな時間になっちゃいました」

「タカトが気持ちよく寝ていたから、起こすのは忍びなくて」

「なに、昨日は激戦だったのだから仕方あるまい! タカト君は我が国の英雄と讃えられるだけの活躍をしたのだからね! ゆっくり体を休めてもらって結構!」

「そんな……必死だっただけですよ。あの人は……ブロルカさんは、強かったです」

「うむ……あの男は、ブロルカは強敵だった。道を違え、愚かにも民に刃を向けてしまった男だが……最後の最後でタカト君、君に救われた。願わくば、君があの男の死に心を捕われないことを心から望む。君は多くの人々を守るために、救うために正しいことを行ったのだと胸を張ってもらいたい。何より君が悲しい顔をしていたらシャリエ君と我が妹が悲しむだろうからな!」

「お兄様、一言余計です」

「本当のことだろう! おっと、私もあまりのんびりしていられないのだった。これからレミドナやグレオノと共にリャシャ山脈へ向かわなければならないからな」

「リャシャ山脈? あの場所に再び行くんですか?」


 タカトの問いかけに、アリウスは目を怪しく輝かせてその理由を語る。それはもう心から嬉しそうに。


「はっはっは! あの場所は今、宝の宝庫と化しているからな! ペシュメルギアを破壊し、機能を停止した無傷のトンボ型とカブト虫型が数百機も転がっている! これを王都まで持ち帰るのだよ!」

「王都に……? それ、危なくないんですか? いきなり暴れ出したりしたら」

「無論、そうならないように念には念を入れて鎧機の羽と足と武装は処置しておくとも! それらの虫鎧機はまだ利用できる! 私たち錬金術師が叡智を結集し、ヴァリエラドのように兵士が乗りこめるように改修してくれる! あの数百の鎧機、それも空戦特化と接近戦特化という戦力となる鎧機を上手くすれば王国の民を守る力となる! いやあ、今から虫鎧機を弄り回せるかと考えるとワクワクするじゃないか! どうやって虫鎧機を操縦できるようにするか興味があるかいタカト君!? 今からその方法を丁寧に語って……」

「お兄様、嬉々として語られているのはよろしいんですけど、時間の方は」

「ぬう、そうであった。それではタカト君、君の元気そうな顔も見れたことだし失礼するよ! また会おう、我が妹、そして義弟に義妹! はははっ! 鎧機が私を呼んでいる!」


 嵐のように場を騒がせ、アリウスは去って行った。

 そんな彼の背中を見つめつつ、溜息をつきながらフィルメリアは語る。


「ごめんなさいね、いつも通り過ぎる兄で」

「でも、あれでこそアリウスさんって気がするよ。でも、そうか……あの虫鎧機たちは、上手くすれば王国の鎧機になるかもしれないんだな」

「皮肉な話だけどね。街の人々を脅かし、多くの兵士の命を奪った兵器が、今度は命を守るための剣になるかもしれないなんて。タカトたちには嫌な思いをさせてしまうかもしれないけれど、国の所有するヴァリエラドも今回の戦いで多く失ってしまった。私たちは一機でも新たな鎧機を所有しなければならないの」

「大丈夫、分かってるよ。大事なのはそれを操る人間がどうやって使うかだから。操縦者の方は確保できそうなの?」

「それなのだけれど、私たち第三軍鎧機隊のところに転属願が次々と出てるのよね。虫鎧機に乗って国を守りたいって兵士が急に増えちゃって。それだけじゃないわ、貴族たちからも虫鎧機の戦力をなんとか充実させるようにと出資の話がきているの。みんな、今回の事件で虫鎧機の恐怖を知ってしまったのね。だからこそ、対抗手段としての虫鎧機の大切さを知った」

「全てはブロルカの思惑通り、か……俺たちは戦いには勝ったけれど、ブロルカは賭けに勝ったんだな」

「タカト……ブロルカの死は」

「分かってる、背負いこまない。アリウスさんもそう言ってくれたし、俺にはシャリエもフィルメリア様もいるから大丈夫だ」


 タカトの返答に満足そうに微笑む二人。二人がタカトの心を支えてくれる限り、彼がブロルカの死に心を潰されることは無いだろう。

 そして、三人は再び歩を進めて、レクスの前に姿を見せる。タカトたちの訪れに、レクスは力強い笑みを浮かべて歓迎した。


「よく来てくれたな、タカト。それにシャリエだったか。先に言っておくが、俺もフィルメリアと同じで仰々しいのが嫌いだから、その辺りは楽にしていい」

「は、はいっ」


 緊張するシャリエに先んじて手を打つレクス。

 そして、レクスはタカトに視線を向け、真剣な表情で改めて礼を告げた。


「まずは改めて礼を言わせてもらいたい。タカト、お前のおかげでこの国と多くの人間の命が救われた。王として、一人の人間として、そして父親として礼を言いたい。民たちを、俺の子供たちを守り抜いてくれたこと、心から感謝する」

「礼を言うのは俺の方です。フィルメリア様やアリウスさん、レミドナさんにグレオノさん、そして多くの兵士の皆さんが力を貸してくれたからこそ、俺はブロルカに勝てたんです。俺一人じゃ絶対に勝てなかった」

「ブロルカか……奴のことは聞いている。まさか、奴がこんな凶行にでるとは……奴がそこまで国の現状を憂いていたとはな。いつだって奴は優秀な兄だった。親父が血の問題に拘らなければ俺ではなく奴が王座についていただろうに……情けねえ話だ。俺は奴がこうして凶行に及ぶまで、奴の心に気付けなかったんだからよ」


 一度言葉を切り、瞳を閉じるレクス。

 思い返されるブロルカの記憶。その全てを走馬灯のように思い返しながら、やがて別れを告げるようにゆっくりと目を見開き話を再開する。


「ブロルカは戦争が巻き起こると言っていたそうだな。この国を、タカトとドルグオンを巻き込む巨大な戦いの嵐が吹き荒れると」

「ええ、そう言ってました。竜神様のことを『歴史の竜』だと、竜神様がこの世界に姿を見せたことは、大きな戦いの前兆なのだと」

「そうか……『歴史の竜』、それが何を意味するかは分からん。だが、奴の口ぶりからして、ドルグオンはただの『上位鎧機』じゃないようだ。隣国の動きは特に今のところ怪しい動きはないが……十分に警戒しておこう。戦争を起こすなど、馬鹿な真似はしねえと信じたいが、ブロルカの言葉を完全に否定できる訳じゃねえからな」

「戦争が、起こるんでしょうか……またこの国の人々が戦いに巻き込まれるなんて」

「それをさせねえのが俺たちの仕事であり役割だ。ま、その辺りは信じて任せてくれ」


 レクスの言葉に、タカトは頷いて応えた。戦争が起こらないように奔走するというレクスを信じるしかない。

 軽く一息つき、レクスは改めて話をタカトへ切り出した。それは彼への報酬。タカト・ナガモリが国のために貢献したことへの正当な見返り。


「民間人……異界人の時点でそう言い切るのもなんだが、タカトも一年間この国で過ごしてきた、それはつまり、立派なこの国の人間だということだ」

「ありがとうございます。この国の人間だと言って貰えること、とても嬉しいです」

「お前は民間人であり、兵士じゃねえ。つまり、俺たちは今回の戦い、お前に協力してもらったという形になるわけだ。そしてタカトは国を救うほどの功績を残した。これに対して俺はお前に褒賞を出さなきゃならねえ」

「有難いお話ですが、辞退させて下さい。褒賞が欲しくて戦った訳じゃありませんから……大切な人たちを守るために、逆に王家の力を貸して貰った、そう考えています」

「そういうと思ったけどよ、はいそうですかって辞退されて貰っちゃ困るんだ。これだけの功績を残した相手に何の褒賞も与えなかったって前例を作るのは非常に拙いんだ。俺たちの間だけならそれでもいいだろうが、この事実が後世に残ると子孫が困る。王家はこれだけの英雄に何もしようとしなかったって不名誉な歴史が残っちまう訳だ。タカト、世の中にはそういう褒賞もあるってことだ」


 レクスの説明に、タカトは納得する。彼とてレクスやフィルメリアを困らせたい訳ではない。

 褒賞が何であるかは分からないが、もしお金ならそれを元手にボロボロになったシャリエの両親の農場を立て直せればいいかな、などと気軽に考えていた。

 そんなタカトを置いて、レクスは傍に控えていた部下に命じる。部下はレクスに命じられるまま、タカトの前に外套を差し出した。

 それは紅に染まる拡張高いマント。部下にされるがまま、タカトはそれを身につけられてしまう。マントを身に付けたタカトを満足そうに眺めながら、レクスは笑ってタカトを褒める。


「似合ってるじゃねえか。どこから見ても立派な英雄だ、胸を張っていいぜ」

「ありがとうございます……ええと、これは?」

「うちの聖リメロア王国には貴族ってもんが存在してるのは知ってるな? 大体はウチの血縁の連中なんだが、中には功績をあげて成り上がった人間もいる。国に貢献した者には惜しみない見返りを、それが聖リメロア王国だ。タカト・ナガモリ――今回の事件解決の功績、実に見事であった。その褒賞として、タカト・ナガモリを第二位貴族として認める」

「……えええええええっ!?」


 レクスの言葉に驚いたのはタカトではなくシャリエだった。

 目をまん丸として驚く彼女に、タカトは状況を理解できずに首を傾げるしかない。彼はまだまだ国の仕組みに疎く、貴族の凄さを理解していないのだ。

 彼の中で王家の人間は別格で、貴族は国会議員程度にしか考えていない。その間違いをただすように、シャリエはあわあわと慌てながらタカトに説明をする。


「あのね、タカト、聖リメロア王国には第一位から第十位まで貴族があって、みんな広大な土地を持つくらい凄い人なんだよ。その中でも二位って言ったら、それこそ国を救うくらいの功績を残した人やその子孫じゃないとなれないくらい、凄い人で……」

「聖リメロア王国に存在する第二貴族は全部で四家だけ。そこにタカトのナガモリ家が加わるということね」

「……それってめちゃくちゃヤバいんじゃないのか!?」

「や、やばいんだよっ、やばくてすごいんだよっ」


 今更ながら慌てふためくタカトとシャリエ。そんな二人を楽しげに笑いながらレクスは補足を加える。


「この決定は貴族院の連中も賛同した決定だ、決して俺たち王家が強引にねじ込んだ訳じゃないから安心してくれ。過分な報酬のように思うかもしれないが、お前とドルグオンを国に留めておきたい意向も含まれている理由だと思ってくれていい。それと、貴族っつっても俺たちに命令権がある訳じゃない。お前はお前の望むまま、今まで通り自分の意思で行動を決定してくれ。戦う理由、守る理由は全てお前の胸一つだ」

「は、はあ……」

「土地や領地を与えるのは無しにした。そういうのは面倒だし、政治やらなんやらの制約も生まれちまうからな。タカトは王宮内に引き続き滞在してもらうことになるが、これまでとは違い外出は自由だ。自由なんだが、身の安全を確保するためにも、可能ならフィルメリアを常に傍に連れてやってくれ」

「フィルメリア様を、ですか? あの、逆にお姫様を外に連れ回すのって危険なんじゃ……」

「あら、心配してくれるのは嬉しいけど、私こう見えて結構強いのよ?」

「ま、そういうことだ。それと、領地無しで第二位貴族は前例がないからな。給金はこっちで適当に決定した。年間三千八百金貨が支払われる。必要な分を必要なときに倉庫番に言って勝手に引き出してくれて構わん」

「……それって凄いのか、シャリエ」

「……うちの農場が三百年運営しても手に入らない額だよお」

「じゃあ、シャリエの両親への仕送りの分だけ頂きます。あとは特に使い道ないんで……」

「ま、だろうな。必要になったら言ってくれりゃいい。これで一通りのタカトへの報酬となるが……もう一件、個人的なタカトへの報酬、というよりまだ結果は出ていないが」


 そう前置きをして、レクスはタカトに説明を続けた。

 それはタカトが予想すらしていなかったレクスからの報酬だった。


「お前が神々の世界、元の世界に戻る為の方法を現在様々な手を使って探している。まだ何も分かっちゃいないが、可能な限り手を打つことを約束する」

「え……」

「俺たちとしちゃ、お前が元の世界に戻られるのは確かに痛い。だが、戻る戻らないの決定権をお前の手元に残さないのも公平じゃねえ。だからこそ、尽力する事を約束する。もし、帰還する方法を見つけたとき、そのときはお前の自由だ。帰るにしろ残るにしろ、後悔のない選択をしてもらいたい。本音を言うと、この世界に残ってくれるのが一番なんだけどな」

「……ありがとう、ございます」


 レクスの言葉に、タカトは頭を下げて礼を言う。

 本来ならば、タカトはこの国を救った英雄、そしてドルグオンに選ばれた最高戦力。王として手放していいはずがない。

 だが、それでもレクスはタカトに帰還する方法を探すことを約束してくれた。その配慮に、タカトは心から感謝する。決定権を与えてくれたこと、それがどれだけ嬉しいことか。

 そんなタカトに、レクスは礼は必要ないと告げる。そう、これはあくまで交換条件を提示するためのカードなのだから。


「礼を言われちゃ困る。交換条件って訳じゃねえが、その代わりに俺からお前に頼みたいことが一つある」

「俺にできることならなんでもします」

「そう言って貰えると嬉しい限りだ。俺がタカトに望むのは、お前の血だ。前にも言ったと思うが、現在この国は『神々の血脈』を持つ人間が少なくなり、しかもその血の純度が限りなく薄まっちまってる。このままじゃ、数代も重ねれば上位鎧機に乗れる人間が消えちまうかもしれない。上位鎧機は国を守るための切り札だ、だからこそ、そんな事態にさせるわけにはいかねえんだ。この国の未来のために、タカト、お前が元の世界に帰る前に少しでも多くのお前の血が欲しい」


 レクスの言葉をタカトは納得した。『神々の血脈』の薄まってきている問題はフィルメリアからもアリウスからも聞かされていた。

 だからこそ、タカトは簡単な気持ちで頷いてしまった。血を望む意味を完全に履き違えてしまった。

 一度、アリウスから採血を受け、ザージエスジェイドを生み出したことから、血を望まれるという言葉を採血だと思ってしまったのだ。

 それがタカトの生涯最大のミスとなる。タカトは二つ返事でレクスに言葉を返した。


「構いません。俺の血が役に立つのなら――」

「――おおおお! そうか、よく言ってくれた! いや、これで縁談は整った! おいお前ら、今のタカトの発言をしっかり記録に残しただろうな!」

「ハッ!」

「……立つの、なら」


 台詞を続けようとしたタカトだが、それは叶わない。恐ろしい勢いでレクスは周囲の部下に指示を出し始めたからだ。

 慌しく走り回る部下たち。その光景を呆然と眺めるタカトとシャリエ。ただ、一人フィルメリアは顔を真っ赤にして俯いている。

 何が起きてるか分からないタカトに、レクスはしてやったりといった笑顔を浮かべてタカトに語りかけた。


「いやいや、男らしくスパッと決断してくれて助かったぜ。これでこの国の未来も安泰だな。孫の顔が楽しみだ、なるべく早く見せてくれよ?」

「あ、あの……何が、どうなって。今、部下の方に一体何の命令を」

「お前とフィルメリア、シャリエの三人の婚姻を書面に残したに決まってるだろ。何だ、二人だけじゃ足りねえか? がっはっは! 若いじゃねえか、気持ちは分かるが、まずは二人との結婚式を終えてから、ゆっくり妻の数を増やしていけば……」

「そ、そうじゃなくて! え、お、俺!? 俺が結婚するんですか!? しかも相手は、フィルメリア様とシャリエって、え、なんで!?」

「なんでって、タカトが約束してくれたんだろ? お前の血を残してくれるって」

「え、え、え、血を残すって、採血のことじゃ……」

「んなわけねえだろ。子供だよ、妻を娶ってやることやって子供作ってもらうんだよ。そうじゃなきゃ後世にお前の血を残せねえじゃねえか」


 何をいまさらと首を傾げるレクスに、タカトはやってしまったと血の気がさっと引くのを感じていた。

 血を残すその意味が、まさか結婚などと思わず。混乱極まる頭の中で『学生結婚』『未成年夫婦』などと訳の分からない単語が飛び交う始末。

 そんなタカトに、レクスが不思議そうに頭に疑問符を浮かべながら、見当違いの質問を行う。


「もしかしてフィルメリアとシャリエじゃ駄目だったか? シャリエとは以前からそういう関係みてえだし、フィルメリアが問題か? 俺が言うのもなんだが、フィルメリアは良い娘だぞ?」

「そ、そういう問題じゃありませんっ! あとシャリエとはそんな関係じゃないですっ! そ、そうだ、本人のっ、本人の気持ちはどうなるんです!? 二人の気持ちを無視して無理矢理推し進めるのは、その……」

「嫌なのか、お前たち?」


 レクスの問いかけに、シャリエは応えない。否、顔を真っ赤にして俯きながらも、小さく首を横に振っている。それはつまり、嫌ではないということ。

 そして、フィルメリアの方はもっと明確に己の意思を示した。視線は外しながらも、顔を赤らめて本音をタカトに告げる。


「流石にすぐどうこうっていうのは、その、無理だけど……タカトのこと、良いなって思ってるから。タカトが嫌じゃなければ、その……夫婦なら、きっとお話も沢山できると思うから」

「だ、そうだ。女二人にここまで言わせたわけだが、お前はどうする? ま、もう婚姻は決定しちまったし、あとは結婚式の日付を決めるくらいしかやることねえんだけどよ」

「あ、あう……」


 最早逃げ場を完全に塞がれ、タカトは顔を真っ赤にして口をパクパクとさせるしかない。

 彼の窮地を察したのか察してないのか、シャリエの腕の中から抜けだしたドルグオンは、彼の足元に頬を擦り付けて『ぐぁう』と陽気な鳴き声をあげるだけ。

 救いの手が誰一人からも差し伸べられることは無いことに気付き、タカトはこの日、二人の妻を手に入れることになる。

 ガチガチに固まる彼の両腕をそっと取る二人の女神。照れながらも微笑みを浮かべる少女たちに、タカトは自分の中の恋を自覚させられていしまう。





 異世界に訪れ、竜鎧機ドルグオンに契約者として認められた少年――永森タカト。


 彼を中心として巻き起こる次の戦いは目前に迫っているだろう。しかし今だけは、彼にほんの少しの休息を。

 タカトの心と背中を守る、太陽と月の二人の女神に寄り添われて――少年は幸せに押し殺されそうになる時間に悲鳴を上げるのだった。







(完)



これにて神竜鎧機ドルグオンは完結となります。

ここまでお付き合い頂いた皆様に心から感謝申し上げます。

完結まで、最後までお読み下さり、本当に本当にありがとうございました。

物語が少しでも楽しんで頂けたなら、これ以上の喜びはありません。

タカトたちの戦いは続いていくと思います。別の夜の戦いも続いていくと思います、頑張れタカト、負けるなタカト、スタミナドリンクだ(違

『神竜鎧機ドルグオン』、完結を迎えられたのは皆様のおかげです。本当にありがとうございました!



※以下妄想(続いたらこんな続きかもしれない物語)

・他国の侵略、他国にライバル鎧機登場『虎鎧機』、操縦者は強気な女将軍(少女)

・シャリエ攫われる→意思を奪われ鎧機に乗せられる→ドルグオンと戦う→救出(お約束)

・鎧機ごと日本に召喚、タカトシャリエフィルメリアの日本での生活→敵も来てた→日本の街での鎧機バトル

・ドルグオン、イーグレアス進化後継機(ロボットものならば当然)

・ドルグオンの真の姿登場(蒼髪の女神)

きっとそんな物語。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ