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十四話 勇気と想いを剣に乗せて

 







 ペシュメルギアの巨大砲を受けて倒れた筈のドルグオン。竜鎧機が再び立ち上がったことに、ブロルカは驚愕を隠せない。

 山を消し飛ばすほどの一撃を誇る最強の鉾だ、あれに耐えられる鎧機など存在する筈がない。ましてや、剣で切り裂いてみせるなど。

 警戒を高め、淡い緑の光に包まれたドルグオンを睨みながら、ブロルカは言葉を紡いだ。


『死に損ないが……そのまま死んでおれば楽に逝けたものを。そこまで苦しみ抜きながら死にたいか』

「俺は死なない。俺にはまだやるべきことが残されているんだ。それを成し遂げるまで、俺はこの世界から消えたりしない――ブロルカ・ルルーク・リメロア、アンタは俺が倒す。俺とドルグオンが、この手で倒してみせる!」

『舐めた台詞を吐きおって! 再び棺桶に叩き返してくれるっ!』


 胸に光を収束させ、ドルグオンへ光の刃を放とうとしたペシュメルギアだが、それを実行へは移せない。

 激しい爆発がペシュメルギアの背部で生じ、機体が大きく揺らされた。突如のダメージに、ペシュメルギアは背後を振り返り憎悪を露わにする。上空からザージエスジェイド、ブルディレオ、ホースレブカがペシュメルギアに向けて一斉攻撃を行ったのだ。

 死刑執行の妨害を行われ、頭に血が昇ったブロルカに、アリウスが口元を楽しげに歪めながら言葉を紡ぐ。


『悪いが義弟はやらせんぞ。我らの攻撃で貴様の鎧機は貫けずとも、タカト君への攻撃の妨害には十分役割を果たせるようだな』

『アリウス、レミドナ、グレオノ、貴様らああああああっ!』

『タカト! アンタへの攻撃は私たちが上手く散らすから任せなっ!』

『タカト・ナガモリ……お前はお前の役目を果たせ。願わくば、愚かな夢に溺れた兄を眠らせてやってくれ』

「みんな……了解! いこう、竜神様! 俺の――俺たちの戦いを終わらせるために!」


 翼を広げ、ドルグオンは大地を蹴って空を舞う。淡い緑の光が一条の線を描き、その軌道はさながら流星のように美しく。

 ドルグオンから広がる光、身を包む輝き。それこそがドルグオンの真の姿。タカトの血を受け入れ、タカトの想いに触れ、竜神は覚醒の時を迎えた。

 古来より人類の敵を退け続けた、人の守護者、『歴史の竜』。『上位鎧機』を超越した、世界に現存する唯一の『神位鎧機』――それがドルグオン。

 希望の光、意思の輝き、それがブロルカを得体のしれない重圧に誘う。冷静さを失ったブロルカは、タカトの接近を防ぐために激しい弾幕を張り続けた。


『ワシに、ワシに近づくなああああああああああっ!』


 下腹部から放たれる激しい弾幕。まさに魔弾の壁と表現するに相応しい量だ。

 しかし、それでもタカトは止められない。まるで全てが見えているかのように、タカトは弾幕を右に左に回避する。

 ならば隙間を無くすほどの弾幕をと銃口をドルグオンへと集中させようとしたペシュメルギアだが、易々と仲間たちがそうはさせない。

 突如巻き起こる下腹部からの爆発。何事かと視界をそちらにむければ、ホースレブカが大鎌を振るって弾幕用の散弾銃を切り刻んでいた。

 彼女だけではない。ザージエスジェイドの有線式ビーム砲とブルディレオのキャノン砲による波状攻撃により、次々と散弾銃が破壊されてしまっていた。

 そう、確かに彼らの攻撃ではペシュメルギアの堅牢な重鎧を貫けない。だが、ペシュメルギアに搭載されている武装に関しては別だ。むき出しになっている連装砲ならば、彼らの攻撃でねじ伏せられる。

 次々と守りの盾となる散弾銃を失い、焦燥するペシュメルギア。だが、追い込まれた訳ではない。所詮、ドルグオンが甦ったところで、ペシュメルギアの堅牢な守りは貫けないことは先ほど証明したばかりだ。

 いくら大剣を振り回そうと、先ほどと同じ光景が待っている。絶望の未来が待っている、そのはずなのに――どうしてもブロルカはタカトの接近を拒まずにはいられなかった。奴を近づけてはならないと、激しい警鐘が心の中で鳴り響いていた。

 ブロルカは気付けないが、彼が感じている感情、それは恐怖。ドルグオンから溢れる未知なる力に完全に呑まれ、敗北を予感したが故の恐怖。

 だが、彼は止まらない。止まれない。己の胸の野望のためにも、決して引かない。接近するタカトへ向けて、背中の大砲撃を構えた。

 それは彼の持ちうる最高にして最強の一撃。一度タカトの意識を奪い、ドルグオンを大地へと叩き落とした悪魔の刃。

 先ほどイーグレアスを狙い、ドルグオンに切り裂かれたものとは異なり、今度は力の全てを込めた最大火力による一撃だ。剣などで切り裂けるほど甘くは無い。

 背中の砲台に黒き闇の光が充填されていくのを感じながら、ブロルカは今度こそ勝利を確信して笑みを浮かべる。最大火力で放てば洞窟が破壊されるかもしれない、だがそんなことよりもブロルカはドルグオンを破壊する事で頭がいっぱいだった。

 ドルグオンは、この少年はここで潰さねばならない。己の野望をどこまでも邪魔するこいつらを何としても叩かねばならない。

 欲望と妄執に捉われ、ブロルカは冷静な思考を失っていた。ドルグオンを倒すことに意識を奪われ、最後の最後で大きなミスをした。


 タカトはたった一人で戦っているのではないことを――彼の背中を守る少女の存在を、ブロルカは忘れてしまっていた。


 ペシュメルギアが悪魔の一撃を放つより早く、一条の光が彼の背中の砲台へと発射された。最大出力で放たれた一撃は、銃口を強力に跳ねあげるだけの威力を備えていた。

 発射直前で軌道を逸らされ、ペシュメルギアの一撃はタカトではなく洞窟の天井へ向かって放たれた。その一撃は激しい震動と共に、空に大きな風穴をあけてしまうが、ブロルカの目はそちらに向けれらていない。

 彼の視線の先――そこには槌状銃を片腕で構えたイーグレアスの姿があった。片腕を失ってもなお、自立できない状態でもなお、フィルメリアはタカトを守るための戦いを止めていなかった。大地に腰を落としたまま、片腕で槌状銃の先端をペシュメルギアへ向けて、最後の一撃を放ったのだ。

 表情を歪めるブロルカに、通信機越しに少女は微笑んで告げる。


『言ったでしょう……? タカトを守り抜くこと――それが私の意地と覚悟だって』

『フィルメリアアアアアアアッ!』

『あとは任せたわ――お願い、タカト』

「はあああああああああああああっ!」


 彼女の声に応えるように、ドルグオンが大剣を構えてペシュメルギアへと肉薄する。

 弾幕がなくなり、最強の一撃が逸れた今、ペシュメルギアに彼の神速の突貫を止めることなどできない。

 先ほど同様、堅牢強固な鎧によって剣を防ぎ、返す刀でドルグオンを叩き潰す。その選択肢しか残されていない。

 だが、それだけはまずいとブロルカの心の中でもう一人の自分が必死に警鐘を鳴らし続けている。ドルグオンの一撃を受けてはならないと訴え続けている。

 もし、ブロルカが冷静さを保っていたなら、何とか回避することに努めたかもしれない。だが、二つの理由が彼の判断を誤らせた。

 一つは、一度ドルグオンの剣を弾き返すことができたという事実。それゆえに、ブロルカはペシュメルギアの装甲を過信してしまった。

 そしてもう一つは、ドルグオンとタカトの放つ重圧。それがブロルカの心を乱し、冷静な思考を失わせた。

 考えることを放棄し、ペシュメルギアは最強だと盲信した。それがブロルカの犯した過ちだったのだ。

 ドルグオンが緑色に輝く大剣を大きく振りかぶる。その一撃をペシュメルギアは自慢の装甲で受けることを選び、ブロルカは叫ぶ。


『貴様の剣では貫けぬとまだ分からんか! ペシュメルギアは最強の鎧機、貴様ら如きに倒せるはずが――』

「勝てるさ! 俺と竜神様なら――俺『たち』とドルグオンなら! シャリエ、フィルメリア様――俺に力を貸してくれ!」


 タカトを守る二人の女神。彼女たちに必ず戻ると約束した。必ず勝つと約束した。

 一緒に戦ってくれるなら、彼女たちが一緒なら、絶対に負けられない。太陽と月の女神に微笑んでもらっているタカトが負ける理由はない。

 彼の心の熱に呼応するように、竜剣は激しい輝きに包まれその姿を変えた。

 その刀身は緑色の宝石の如く澄み渡り、長く巨大な刃へと変わり。目を見開くブロルカに、タカトは咆哮をあげながら刃を振り抜くのだ。

 ペシュメルギアの巨体を袈裟斬りにするように斜めに刃を奔らせ、ドルグオンはその緑水晶の刃を振り切った。

 堅牢なペシュメルギアの漆黒の鎧に光の線が入り、そこから光が溢れだす。それはペシュメルギアの、ブロルカの終焉の時。

 己の終わりを感じながら、ブロルカは放心するように言葉を紡ぐ。


『馬鹿な……ワシの……ワシの野望が、ペシュメルギアが、最強の鎧機が、夢の集大成がこんなところで終わると言うのか……』

「アンタの国を守りたい想いは間違っちゃいない……だけど、アンタは方法を誤ったんだ。守るべき民を犠牲にし、神を気取り、他国を侵略して国を繁栄させるなんて……」

『ふ、ふふふっ……そうか、ワシは敗れたのか……ワシの集大成ペシュメルギアをも、『歴史の竜』は撃ち破ってみせるか……だが、それは果たして喜ぶべきことなのか……『歴史の竜』が姿を現したということは、それほどの力を必要とするほどの暗雲がこの世界を包もうとしている証明だということなのだからな……』

「何を……」


 鎧機の各所を爆発させながら、ブロルカは気にする事もなく一人うわ言を呟き続けた。

 そして、ブロルカは全てを悟ったように、通信機越しにタカトに語りかけた。


『見事だ、『歴史の竜』に選ばれし異界の子よ。だが、ワシを倒して全てが終わったなどと思うなよ……貴様の戦いはまだ終わっていないのだからな』

「何を言っているのだ……?」

『近い未来、この国は、世界は必ず戦いの風に巻き込まれる……敵が他国か、異界の者か、未知なる化物なのかは分からぬ……だが、『歴史の竜』が目覚めたということは、人類が窮地に陥るということ……貴様が自分で考えている以上に、『歴史の竜』に選ばれた意味は重い……忘れるな、これでもう貴様はここから逃げられない……この世界は、貴様を中心として争いの嵐に包まれるのだからな……』

「戦いの嵐……」

『……フィルメリア。この先、必ずこの国は戦争に巻き込まれる。予言でも何でもない、これは確定された未来だ……他国への警戒を怠るな。この国を、聖リメロア王国を終わらせるな……』

『ブロルカ、あなた……忠告、覚えておくわ』


 フィルメリアの返答に満足したように、ブロルカはそれ以上言葉を続けない。否、続けられない。

 鎧機の各所が爆発し、もはやいつ巨大な爆発が起こっても不思議ではない状態だったのだ。人鎧機、自身の体を鎧機と化した彼では脱出する事もできない。

 激しい爆炎に包まれながら、ペシュメルギアから最後の通信が届く。それは己の死を真っ直ぐに受け入れた老人の声で。


『これでいい……これできっと、民の意識も変わる……『歴史の竜』よ、どうか我が祖国、聖リメロア王国に永遠の祝福を――』


 その言葉を最後に、ペシュメルギアは激しい爆炎と共に鎧機を四散させた。

 激しい炎に包まれた鎧機の姿を、タカトは視線を逸らすことなく見つめ続けていた。国を想い過ぎたゆえに道を、方法を違えてしまった男――ブロルカ・ルルーク・リメロアの最期を心に刻みつけるように。


 全ての虫鎧機に命令を送っていたブロルカが倒れたことで、洞窟の外でヴァリエラドと戦っていた虫鎧機の全てが機能を停止した。

 それはすなわち戦いの終わりを意味する。タカトたちの勝利にて、この長きに渡る戦いは終結を迎えたのだった。







 

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました。

次で最終話となります。ラストまでしっかり頑張ります。何卒お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。


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