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十三話 窮地、幻、守りたい人たちの待つ世界

 






 ペシュメルギアの解き放つ閃光の嵐。アクセルを全力で踏み込み、左操縦桿を後ろに倒してタカトは何とか回避した。

 彼らのいた場所をすり抜けた光の刃は洞窟の壁へと突き刺さり、爆音と共に巨大な振動を発生させた。

 砂ぼこりに視界を遮られながらも、タカトは即座に敵の砲撃の危険性を理解する。威力はドルグオンの砲撃と同等かそれ以上。いくら強固なドルグオンでも、あれが直撃してしまえば無事に済むとは思えない。

 とにかく動きを散らして接近し、大剣を突き立てる、それがタカトの選択だった。巨体を誇るペシュメルギアならば小回りはきかないはず、敵を固定砲台のように好き勝手撃たせてはジリ貧になってしまう。

 彼と同じ判断を下したのか、砂煙の中からホースレブカも姿を現した。不規則な軌道を描きつつ、近づいてくる二機に、ブロルカは口元を歪めて対応した。


『接近戦に持ち込むことを考えたか。だが、ペシュメルギアを簡単に攻略できると勘違いしてもらっては困る。簡単に近づけると思うなよ』


 距離を詰めようとしたドルグオンとホースレブカに向け、ペシュメルギアから無数の散弾の弾幕が放たれた。

 下腹部が開き、そこから現れた二十を超える四連砲門。ただの散弾ならばと強引に押し込もうとしたドルグオンとホースレブカだったがそれは叶わない。

 二機に着弾した弾幕は一発一発が強烈。まるで弾け飛ぶように二機は後方へと押し返されてしまう。


「ぐううううっ! なんて重いっ!」

『あ痛たたた……こりゃトンボ型の散弾と同じ程度に考えちゃ駄目だ、貰い続けると墜ちかねないよ!』

『トンボ型などと一緒にしてもらってはな。ペシュメルギアは全ての鎧機の頂点に立つ性能を備えた、文字通り最強の鎧機なのだ。そら、もう一つくれてやろう』


 後方へと押し返されたタカトたちに、ペシュメルギアは胸部から再び光の刃を拡散させた。

 必死に回避に努めながらもタカトたちは完全に遠距離に貼り付けられてしまっていた。ペシュメルギアに近づくことができないのだ。

 例えるなら鉄壁の要塞、堅牢な守りに加え、鎧機を一撃で穿つ強力な武器を搭載したまさしく悪夢の如き鎧機。

 強引に後退させられてしまったドルグオンとホースレブカと入れ替わるように前に出たのはイーグレアスとブルディレオ。

 射撃に特化した二機はタイミングを合わせ、砲口をペシュメルギアへと向けて砲撃を解き放った。

 全てを飲み込む光の砲撃だが、ペシュメルギアは動じない。まるで無抵抗のように動かず、光の奔流をその巨体で受けとめたのだ。

 トンボ型やカブト虫型を飲み込み消し去るほどの威力を秘めた一撃だが、ペシュメルギアの体には傷一つ残されていない。わずかばかり後方に押し込まれただけだ。

 まさかの無傷に呆然とするフィルメリアとグレオノに、ブロルカはさも当然のように語る。


『面で捉える砲撃ではな。その程度で貫けるほど、このペシュメルギアの装甲は生温くはない』

『そんな……イーグレアスとブルディレオの最強の一撃が通じないというの?』

『忘れたか、その鳥鎧機と獣鎧機をいったい誰が仕上げたのかを。砲撃の最大出力、性能、その全てがワシの頭に入っておる。いかに上位鎧機だろうが、お前たちの鎧機如きではこのペシュメルギアは崩せぬわ』

『ならば貴様の知らぬザージエスジェイドならばっ!』


 イーグレアス上空から躍り出し、空を翔けるザージエスジェイド。

 ペシュメルギアの砲撃を潜り抜け、ザージエスジェイドの羽から解き放たれる十二の有線式ビーム砲。

 殲滅ではなく各個撃破に特化した砲撃。それこそがザージエスジェイドの強み。

 だが、その砲撃を以ってしてもペシュメルギアの装甲は貫けない。激しい爆風の中から、ザージエスジェイドに向けて放たれる弾幕をアリウスは必死に鎧機を駆って回避する。

 その光景を眺めながら、ブロルカは愉悦を漏らして言葉を紡いだ。


『良い鎧機だ、一人でそこまでの物を生み出すとは、流石はワシの唯一認めた錬金術師。だが、どれだけ優れていようとも、ペシュメルギアに勝てる鎧機などこの世に存在しない』

『私は貴様を師などと思っていないっ! 鎧機とは民を守るための力、それを私欲のために、民を傷つけるために用いる貴様などっ!』

『断言しよう。仮に貴様がワシと同じ立場であったなら、必ず同じ選択を選ぶはずだ。貴様も気付いているだろう? 聖リメロア王国には最早一刻の猶予もないのだ。このままでは間違いなく鎧機による戦争が起こる、その土壌が完全に出来上がってしまっている。それを解決できるのは、ワシの計画以外に存在しない。人々の心に鎧機への恐怖を植え付け、危機感を煽らなければ偽りの平和に溺れた人間は目を覚まさぬ』

「それはアンタの一方的な決めつけだろっ!」

『む……タカト・ナガモリか』


 ザージエスジェイドの背後に迫る光の刃を巨大な大剣で切り裂きながら、タカトはドルグオンを駆ってペシュメルギアへ近づく。

 再び放たれる光の奔流を最小限の動きで回避するタカトに、目を見開いて驚くのはブロルカだ。感心したように声を漏らす。


『ペシュメルギアの攻撃に適応し始めたか……恐ろしい適応力、才能、流石は『歴史の竜』に選ばれた異界人よ。だが、貴様も自分の力の意味を全く理解しておらぬ』

「力の意味なら教えてもらった! この力は、竜神様に分けてもらったこの力は、大切な人たちを守るための力なんだって!」

『ならば貴様もワシの計画に力を貸せ! 『歴史の竜』ドルグオン、過去の歴史において人類の窮地にのみ姿を現した『神位鎧機』に選ばれた人間ならば民を守るワシの計画が民のためになることが理解出来るだろう! ワシは大義のために戦っている!』

「大義のためなら数百人の人が犠牲になっても構わないのかよっ! そんな馬鹿げて破綻した理想なんか、ドルグオンで叩き潰してやる!」

『力の意味も国の意味も理解せぬ愚か者があっ!』


 ドルグオンに向けられた散弾の雨をタカトは巧みに鎧機を操って避け続ける。そして、避けながらも前進する動きを止めない。

 ペシュメルギアという強敵を前にし、完全に解放されたタカトの天賦の才。まるで己の手足のごとく、タカトはドルグオンを操ってみせる。

 そんな彼に何度目かも分からない驚きをフィルメリアは感じつつ、すぐに全機に指示を送る。


『ドルグオンの突入を援護するわよ! タカトの頑張りを無駄にしては駄目!』


 イーグレアスを始め、他の鎧機はタカトが少しでも動きやすくなるように援護射撃を行う。

 砲撃ではペシュメルギアの装甲は貫けないが、機体を動かしタカトへの攻撃を阻害する事はできる。

 仲間たちの援護により、タカトは一気にペシュメルギアとの距離を詰めていく。迷いも恐怖も全てを置き去りにして、ありったけの勇気を胸に抱いてドルグオンとタカトはペシュメルギアへと肉薄する。

 あまりの速さで弾幕を突破するドルグオンにブロルカは驚愕しながらも拡散ビーム砲で迎撃を試みるが、ドルグオンの接近があまりに早過ぎた。

 対応出来ぬ無防備なペシュメルギアの腹部目がけて、ドルグオンは両手で握った大剣を突き出したまま突貫する。

 全力でアクセルを踏み込み、タカトはペシュメルギアへ躊躇なく突っ込んだ。全てを終わらせるための一撃を突き立てる為に。


「くらええええええええええっ!」

『小癪な小僧がああああっ!』


 強引に腕を振り回してきたペシュメルギアの一撃を潜り抜け、ドルグオンは漆黒の鎧機の胸部にその大剣を突き立てた――はずだった。

 だが、胸に刺さると思われたドルグオンの剣は頑強な鎧を貫通することはなかった。先端のみが鎧に沈んだだけで、剣は止まってしまう。

 天国から地獄、最大の好機が一転して最悪の窮地へと変わってしまった。動きの止まったドルグオン、その隙を逃すほどブロルカは甘くは無い。

 これまで使用していなかった背中の巨大砲に光を収束させるペシュメルギアに、タカトは我を取り戻して離脱を試みるが遅い。

 距離を取ろうとしたドルグオンめがけて、ペシュメルギアは最強にして最悪の一撃を解き放つ。


『少しばかり肝を冷やしたぞ! だが、いかに『神位鎧機』であろうとワシの最高傑作には勝てぬわ! 絶望に飲み込まれ消え失せるがいい!』

『タカト君! いかんっ!』

『――駄目っ! タカト、逃げてっ!』

「くそっ、くそおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ペシュメルギアの大型砲から解き放たれた漆黒の光にドルグオンは飲み込まれてゆく。

 絶望を象徴するような黒き光に飲み込まれ、タカトは激しい衝撃と共に意識を奪われていった。その手は最後まで操縦桿を握る手を離すことなく。














「おい、どうしたんだ永森。そんなところにボケっと突っ立って」

「――あ」


 背後から声をかけられ、タカトは無意識のまま背後を振り返った。

 視界に広がるのは、いつもの見慣れた教室。彼の背中に声をかけたのは仲の良いクラスメイトだった。

 未だ状況を理解できず、呆然としているタカトに、仲の良い男子生徒たちは笑って軽口を叩きあう。


「ジュース買いに行くんじゃなかったのか? このままじゃ休み時間終わっちまうぜ」

「そのまま入口にぼーっと突っ立って、まさか次の授業の多野上が入ってくるのを邪魔してくれるのか? さっすが親友、体を張ってあの陰険ジジイの授業を妨害してくれるなんて、持つべきものはやっぱり友だよな!」

「永森がどれだけ多野上の説教を長引かせてくれるのかにかかってるよな。期待してるぜ、永森!」


 友人たちの声を聞き、ようやくタカトは現状を理解する。

 そうだ、自分は二時間目の授業を終え、その休み時間にジュースを買おうとして廊下に出ようとしていたところだったのだと。

 それをどうしてこんな廊下に呆然と突っ立っていたのか。その理由も分からず、タカトは首を傾げながらも教室へと戻る。


「おいおい、ジュースはどうしたー?」

「ん、ああ……やっぱ気が変わったわ。飲み物を買う金なんて銅貨一枚すら持ってないし、無駄遣いしたらシャリエに怒られちまう。フィルメリア様はそれくらい買えばいいって笑いそうだけど」

「シャリエ? フィルメリア? なんだそれ?」

「……俺、何か変なこと言ったか?」


 意味不明な言葉を並べるタカトを弄ろうとした友人たちだが、始業のチャイムが鳴り響き、残念とばかりにそれぞれ自分の席に戻る。

 タカトもまた自分の席に戻り、教科書やノートの準備をしながら、自分の発した言葉を振り返る。

 シャリエ。フィルメリア。意味の分からない響きの言葉、けれどなぜかその言葉がタカトの胸を激しく揺さぶる。

 結局、靄がかった胸の中がすっきりすることはなく、タカトは授業が耳に入らぬ時間を過ごすのだった。





 夕焼けに染まる校舎。タカトは一人、教室に残っていた。

 誰もいない室内で椅子に座ったまま、窓の外に映る紅の空を眺めていた。部活に所属していない彼はいつもなら真っ直ぐ帰宅するのだが、なぜか家に帰る気になれなかったのだ。

 家に帰ってしまえば、胸の中の不透明な靄が消えてしまう気がした。大切な何かを失ってしまう、そんな気がしたのだ。

 椅子に背を預けたまま、タカトは夕焼けを眺めながら一人呟く。


「……変だよな。いつも通りの日常、いつも通りの学校なのに、違和感が半端無いなんて……まるで異世界に迷い込んじまったみたいだ」


 自分の発した一人言に、タカトは思わず苦笑してしまう。

 ここは間違いなく自分の生まれ育った世界、生まれ育った国。違和感を感じる筈なんてないのに。

 けれど、タカトの心は目の前に広がる世界を受け入れることができなかった。望んでいた日常であるはずなのに、また舞い戻りたいと、あれほど渇望した日常だったはずなのに。

 これから家に帰って、家族と顔を合わせて、今日学校で起きたことを父や母や妹に冗談交じりで話して、笑いあって一日が終わる。そんな当たり前で平穏な日常が繰り返されるはずなのに、タカトはそれを受け入れられなかった。

 自分にはもっとやるべきことがあったはず、自分には『日常に戻ること』よりも『非日常で成し遂げなければならないこと』があったのではないかと、何度も自分の中の誰かが語りかけるのだ。

 考えても考えても埒があかず、机に突っ伏したタカト。その刹那、彼の腕に見慣れぬアクセサリーが装着されていることに気付いた。右腕に装着された緑の腕輪。それを不思議そうに眺めながら、タカトはそっと言葉を紡ぐ。


「なんだこれ……俺、アクセなんて趣味ないんだけど、いつの間にこんなものを――」


 腕輪にそっと触れた刹那、タカトの頭の中に誰かの声が響いてきた。

 それはよく知っているはずの、少女たちの声。ここではない世界で、彼が触れ合った少女たち。

 名前すら思い出せなかったはずの少女たちが、確かにタカトの中で優しく語りかけてきたのだ。


『タカトが元気になれるなら、タカトが笑顔になれるためならなんだってする……タカトの心を守ること、それが私にできる戦いなんだから』

『タカト――私が必ずあなたを守るわ。シャリエがあなたの心を守るなら、私はあなたの背中を守る。あなたは絶対に死なせない。何があろうと、決してこの戦いで失わせたりしない』


 タカトの中で甦る二人の少女の声。その声が、彼の意識をクリアにしていく。

 まどろみの中にいたような靄がかった頭が目覚め、忘れていたはずの記憶が甦る。そうだ、何故忘れていた。自分には、まだやるべきことがあったのに。守りたい人々がいたのに。

 彼の心と背中を守る二人の少女の名を、タカトはそっと紡ぐ。


「シャリエ……フィルメリア様……そうだ、俺はまだやり通せていないんだ。絶対に守ると誓った、絶対に生きて帰ってくると誓ったのに、それを果たさないまま日常に戻ることなんてできない。俺の居場所はまだ――この世界じゃないんだ!」


 椅子から立ち上がり、タカトは慌てて教室から飛び出した。このままのんびりしていることなど出来ない。

 自分には守るべき人たちがいる。自分を救ってくれた少女たちの力になりたい、自分の戦いはまだ終わってなどいないのだから。

 廊下に飛び出たタカトの前に、小さな相棒が姿を見せた。小さな手足を必死にトコトコと動かしてタカトに近づく相棒――ドルグオン。

 小さな蒼竜をそっと抱きしめながら、タカトはそっと言葉を紡ぐ。


「竜神様……俺はまだ、逃げられない。逃げたくないんです。俺の戦いはまだ終わっちゃいないから……シャリエを、フィルメリア様を、俺を信じてくれるみんなのために、俺は戻ります。今の俺の居場所は、他のどこでもない『みんな』のところだから」


 タカトの言葉に、ドルグオンは小さな鳴き声を一つあげて、その身を光に包ませた。

 ドルグオンとタカトを包む淡く優しい緑の光。その光が世界を塗りつぶしていく。消えていく幻の世界にタカトは心の中で別れを告げる。

 『日常』ではなく『非日常』の世界に。どんなに怖くても危険でも、絶対に守りたいと思う大切な人々が待つ世界に。

 世界が緑色の光に包まれる刹那、タカトは一つの光景を幻視した。蒼髪の美しき女神がタカトに優しく微笑みかけてくれるような、そんな光景を――















 戦況は完全に窮地へと追いやられていた。

 荒れ狂うペシュメルギアの猛攻を、ザージエスジェイド、ホースレブカ、ブルディレオの三機が必死に止めようとするが抑えきれない。

 各機共に満身創痍だが、一番酷いのは他の誰でもないフィルメリアの駆るイーグレアスだ。

 彼女は地に落ちて動かなくなったドルグオンの前に立ち、その身を盾にしてトドメを刺そうとするペシュメルギアの攻撃を受けとめ続けていたのだ。

 自慢の羽は落ち、片腕は失われ。それでもなお、イーグレアスは膝をつかない。

 必死に身を盾にしてドルグオンを守り続ける彼女を嘲笑うように、ブロルカは言葉を紡ぐ。


『健気なことだ。翼をもがれ、自慢の砲撃手段すら失ってもなお小僧を守るか。そやつは二度と目覚めぬというのに』

「黙りなさいっ! タカトは、タカトはやらせないっ!」

『なるほど、確かにワシのペシュメルギアを倒せる可能性があるとすれば、データのない小僧の竜鎧機だけだろう。だが、遅かった。ワシのペシュメルギアの最強の一撃をくらって無事に済むはずがなかろう。中の操縦者の命などとうの昔に潰えておるわ』

「黙れっ! タカトは、タカトは殺させないっ! 守ると誓ったのよ、シャリエに負けないくらい、タカトを守るって……彼の背中を私が守るって約束したんだからっ! あうっ!」


 吹き荒れる光の刃に足を切り刻まれても、イーグレアスはドルグオンの盾になり続ける。

 絶対に逃げようとしない彼女の姿に、ブロルカは怪訝そうに訊ねかけた。


『なぜそこまでして小僧を守る。それほどまでに『歴史の竜』と『神々の血脈』に状況をひっくり返してもらうことを期待しているか』

「……失いたくないからよ。タカトは、タカトはこれまで私たちのために誰よりも一生懸命戦ってくれた。強引だったのに、無理矢理だったのに、それでもタカトは戦ってくれた。戦いなんて知らなかったはずなのに、平穏に暮らしたかったはずなのに、歯を食いしばって戦い抜いてくれたのよ……」


 それはフィルメリアのどこまでも真っ直ぐな本心だった。

 タカトの戦力としての打算ではなく、一人の男の子として、決して失いたくないという想い。

 彼女をここまでタカトを守ろうと駆りたてるその理由。


「戦いなんて怖いはずなのに、何でもないように笑って、必死になって……そんなタカトを格好良いと思った。シャリエや街の人のために覚悟を決めて守るんだと戦うタカトを……この人を絶対に失いたくないと思った。『神々の血脈』だとか、竜鎧機に認められたとか、そんなことを抜きにして、絶対に失いたくないと思ったのよ! タカトは殺させない……タカトを守り抜くこと、それが私の意地と覚悟よ!」

『愚かな……王家の人間でありながら絆されたか。つまらぬ女よの、フィルメリア。貴様も王としての器ではなかったということか。気が変わった、まずはお前から消し去ってくれる』


 背中の巨大砲をボロボロになってイーグレアスに向けるペシュメルギア。それに気付き、慌てて他の三機が駆け寄ろうとするが、それより早くペシュメルギアから神の一撃が放たれた。

 暗闇の光が自分に迫る中で、フィルメリアは自分の最期を悟る。これだけボロボロになった状態で、あの一撃をまともに受けてしまえば無事で済むはずがない。

 王家の人間として、国のために戦い抜いたこと、そのことに後悔はない。ただ、心残りがあるとすればただ一つ。

 操縦桿からそっと指を離し、フィルメリアはそっと微笑みながら言葉を紡ぐ。それは姫としてではなく、一人の女の子としての言葉で。


「――タカトと沢山お話する約束、叶えられなかったわね……タカトのこと、もっと沢山知りたかったのに……それだけがちょっとだけ、悔しいな……ごめんね、タカト」


 闇の光に包まれる中で、少女は自分の死を受け入れるつもりだった。

 だが、彼女が冷たく暗い世界へ行くことなど許さない、認めない。なぜならフィルメリアを必ず守ると誓った少年がそこにいたから。

 絶対に守ると約束した。必ず力になると誓った。ならば、その約束は絶対、ここで果たさなければいつ果たすというのか。

 全てを暗黒に染める暴力の光の前に出た少年とその愛機。喰らえば間違いなく死を免れない一撃を前に、大剣を迷わず振り抜くのだ。

 以前までの大剣ではなく、緑の輝きに刀身を包ませた竜剣。その一刀は光の奔流を真っ二つに叩き割り、その先にあるペシュメルギアの胴部を風の刃で切り裂いた。

 最強の一撃を切り裂かれ、さらに最強の固さを誇る鎧を刻まれ、ブロルカは激しく驚きをみせる。最強の悪魔の前に現れた――否、立ち上がった竜神。その背中に、フィルメリアは一瞬見惚れ、そしてゆっくりと言葉を紡ぐのだ。


「信じていたわ……あなたなら必ず立ち上がってくれるって、絶対に生きているんだって――おかえりなさい、タカト」

『ありがとう、フィルメリア様……こんな俺を信じてくれて、守ってくれて。今度は俺があなたを守るから――俺とドルグオンが、この戦いを必ず終わらせてみせるから』


 舞い戻った最強の竜神と操縦者に、フィルメリアは目尻の涙を拭って操縦桿を握り直した。

 全身を緑の輝きに包ませた最強の竜鎧機ドルグオン。戦いは最後の舞台へと移ろうとしていた。

 最強の竜神ドルグオンと最悪の魔神ペシュメルギア。この国の未来をかけた、激しい戦いの舞台が――。







 

立ち上がるさ、男の子だもの。

ここまでお読み下さりありがとうございました。完結まであと少し、しっかり最後まで頑張ります。


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