蒼宮編_#3
自分の部屋へ戻った姫は、父親から聞いた思いがけない話に戸惑っていた。
「私が東宮様の許へ入内するなんて」
誰もいない部屋に姫の独り言が響く。
脇息にもたれ、盛大にため息をつく。
「いずれは結婚しなければならないことはわかってたわ。でも、お相手が東宮様?」
姫は両手で頭を抱えこむ。
「入内なんて、全然考えてなかったから、頭が混乱してきたかも」
最後の言葉は涙声になっていた。
心を落ち着けようと、目を強くつぶり、姫は左右の頬をパンパンと軽く叩く。
先ほど、父親に言われた言葉をを一言一句、頭の中で繰り返してみた。
『年明けて、二月に東宮が元服される。その際、添臥女御として、そなたが選ばれた。突然のことで驚いたかもしれないが、入内する心構えをしておいてほしい』と、父親が頭を下げてきたのだ。
その時は入内云々の話よりも、父親が頼むと頭を下げたことに少なからず姫は驚いていた。
冷静になってきて気付いたことがある。
「私の入内の話なのに。なぜ、お母様がいる前で話さなかったのかしら?」
声に出してみて、気になっていた事柄に、さらに感じた違和感。
「私の将来のことよ?」
姫はいろいろ考えをめぐらせていた。
何度考えても行き着く答えは、父親がいつか話すといった、母親の事情。
それを聞くまで、今抱えている胸の中のモヤモヤは晴れそうにないと姫は思った。
「お父様。いつかお話してくださる日まで、私待ちますわ」
誰もいない部屋。
姫の決意の言葉が響いた。