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天国シリーズ

天国タクシー

作者: kappa

 ここ天国ではお盆のときにみんな里帰りすることになっている。それなのに俺は去年、家に帰ることが出来なかった。去年は新盆(にいぼん)だったのに、俺の運動神経が悪いばっかりにナスの牛に乗れなくて……帰れなかったのだ。要するに天国の教習所で免許が取れなかったからなんだけどさ。


 ……だが、今年の俺は一味違うぜ。なんと今年から天国にタクシー会社が出来たんだ!

 やった、やったよ。俺もついに帰れるよ。ひゃっほう! 娑婆しゃばに戻れるぜ。

 なんでも聞いたところによると、あまりにも馬や牛に乗ることが出来ない連中が多いので、救済策として考え出されたらしい。それって俺みたいなのがいっぱい居たってことか……ちょっと笑えねぇな……。


 細かいことは置いておいて、俺はさっそくタクシー会社に連絡し、お盆の送迎を予約した。



 そして当日八月十三日の夕方、ついに俺の迎え火が焚かれた。なんで迎え火が焚かれたのか、分かるのかって? 自分ちが天国から見えるんだよ。遠く離れてて帰るには距離があるけどさ。

 タクシーはまだか? おっ、なんかこっちに向かってきたぞ。


 ……タクシー? あれがタクシー?


 そこに現れたのはキュウリの馬が4頭立てになった馬車だった。キュウリって……そこはお盆的に外しちゃいけないところなのか? キュウリが異様にでかい。教習所で見たときよりもシュールさがパワーアップしてやがる。


 俺がキュウリの馬車を見つめていると、御者が馬車から降りてきた。

「こんばんは、天国タクシー株式会社から参りました。御者ぎょしゃのカパタロウと申します。貴方様のお盆の行き帰りについて担当させていただきます。よろしくお願いします」と、御者が俺に挨拶してきた。

 果たしてこれはどこから突っ込みをいれたらいいのだろうか? とりあえず親睦を深めた方がいいのか?

「御者の河童太郎さんですか……、よろしく」

 とりあえず、俺は挨拶をかえして異文化コミュニケーション、もとい異種族コミュニケーションをとった。なにしろ、俺の目の前には頭にお皿を載せた緑色の生き物が立っていたからだ。

「河童族のカパタロウです。よろしくお願いします」

「……なんで河童さんが御者を? あとカパタロウさんは天国タクシーの社員さんなんですか?」

 湧き上がる疑問が尽きない。そもそもなぜここに河童が? しかも流暢に喋ってるし。

「お盆に向けて大量の御者が必要ということで、閻魔(えんま)社長に種族ごとスカウトされました。なにしろ我々河童族はキュウリの取り扱いに長けていますから。もちろん社員です、これどうぞ」

 河童は俺に名刺を渡してきた。名刺まで作ったのか……しかも閻魔社長って……。キュウリの取り扱いに長けた種族って言ってるけど、それってただ単に好物って話なのでは!?


「どうぞ、お乗りください」と、河童に勧められるまま俺は馬車に乗り込んだ。

 馬車の中は意外に広く、窓にはカーテンがつけられている。意外と座りごごちもいいし、ちゃんとスプリングがきいているらしい。

 なんというか馬車は馬車でも観光地とかで乗れそうな辻馬車っぽい黒い車体の馬車で、窓にカーテンがついているのは結構うれしい。これなら俺のプライバシーが多少守られる。馬車は馬車でもシンデレラのカボチャの馬車だとか、御成婚パレードみたいなオープンタイプはさすがに勘弁してほしい。やっぱり天国の知り合いに見られるのは恥ずかしいしな。


 俺を乗せたキュウリの馬車は空をびゅんびゅんと走っていく。さすがに4頭立ての馬車だと早いのか、割とすぐに実家が見えてきた。なつかしいなぁ。



 家に着くとちょうど夕飯時だった。

 テーブルに並んだ夕食を見て「今日の夕飯は鶏のから揚げか」と、以前より()(ぎわ)がずり上がってしまった父さんがいう。……もともと薄かったけどさ、俺も生きてたら将来あんな風になったのだろうか。

「今日はお盆で政治(まさはる)が帰ってきてるから、お夕飯は政治の好物にしたのよ」

 母さん、ありがとう。から揚げ大好きだよ。先に死んじゃってごめんな。それと父さんも……。俺が死んじゃったから老けちゃったのかな? ごめんよ、父さん。

「お兄ちゃん、ちゃんと家に帰ってきているのかなぁ。お兄ちゃんって運動音痴だったし、方向音痴でもあったし」

「さすがに政治もそこまで間抜けではないでしょ」

 妹よ、サクッとひどいことを……。確かに去年は帰ってこられなかったが今年はちゃんと帰ってきたぞ。母さんもなにげにひどい。

 そして俺は一家団欒(いっかだんらん)にさりげなく参加し、お盆一日目を満喫したのだった。

 なんていったらいいのかな、もちろん俺が帰ってきてるのなんて誰も分かってない。元々霊感なんてない一家だったからなぁ。でも、俺の好物用意してくれたり、十三仏さんの掛け軸だのをちゃんと飾ってお盆の用意をしてくれてるのが地味に嬉しかった。


 そしてお盆二日目の朝を迎えた。妹がどこかに出掛けるらしく洗面所を占領している。相変わらず、化粧前と化粧後が別人だ。眉無しの顔は怖いので眉毛だけはしっかり書けよ。

 玄関の呼び鈴(チャイム)がなった。お届け物かなと思ったら、生前俺と友達だった山田高雄やまだたかおが玄関に立っていた。

「山田さん、いらっしゃい。由布子ってばまだ支度が出来ていないみたいなのよ。せっかくだから上がって頂戴」と、母さんがいった。

 由布子の支度? 由布子の支度と山田とどういう関係があるんだ?

 せっかくだからとかいって母さんに勧められて、山田は床の間に用意されているお盆用の祭壇で線香を焚いた。しかし、さっきから変だ。このモヤモヤした気持ちは一体なんだ?


「山田さん、待たせちゃってゴメンナサイ。それじゃ母さん出掛けてくるね」

 そういって妹と山田が連れ立って家を出ていった。俺は気になるので背後霊のように二人の後を憑いていった。

 憑いていくと、二人が電車に乗って街に出て、向かっていったのは映画館だった。そこで山田のヤロウは映画館で隣同士に座った妹の肩にさりげなく腕を回しやがった!


 もしかして……もしかしなくてもこれはデートというやつですか?


 お兄ちゃんは、お兄ちゃんは許しませんよ。山田と付き合うなんて、とんでもない。こいつムッツリもいいところなんだぞ。子供は見ちゃいけませんな感じのDVDの貸し借りをしたことのあるお兄ちゃんが言うんだから間違いありません。

 そう思った俺は映画の最中ずっと山田の背後から色々と思念を送り続けた。思い(呪い?)は通じたのか、山田は悪寒がするといいだし映画が終わるとあっさり退散した。ヨカッタ、ヨカッタ。



 そんなこんなでとうとうお盆も最終日になり、ついに送り火が焚かれてしまった。チクショウ山田め、天国に戻らなきゃいけないのが残念だ。まあ、天国に帰れなくなるのも困るからアレだけどな。


 迎えのカパタロウが来るはずなんだけどまだかな……。


 ……うん、そういう予感はしてたんだ。


 カパタロウはやってきた、迎えの牛車を連れて。河童のカパタロウは牛飼い童役ってことか……。わらわの文字しか一致しないけど。もちろん牛はナスの牛だ。いい加減分かってきたけど、お盆的に外せない要素なんだろうな。ナスの牛車とはますますシュールさに磨きがかかっている。牛車自体は珍しいものだから乗れるのうれしいんだけどさ。なんというか妹のひな人形セットの模型? とそっくりだ。

しかもナスの牛はでかくてツヤピカに光っていた。高貴な乗り物の牛車とすごいミスマッチだ。


「担当のカパタロウです。お迎えに上がりました」

「ありがとう、今度は牛車なんだな」

「行きの馬と帰りの牛は外せませんから」

 そんなこんなで俺はナスの牛車に乗り、天国への帰路についた。ナスの牛はゆっくりなので乗っていて途中で眠くなってしまった。

 今年のお盆はなんというか楽しかったような、さびしかったような不思議な里帰りだった。また来年も帰ってくるけど、山田め今度は覚悟しろよ。 

当初よりいろいろ加筆しました。勢いで投稿したせいか表現したいことについて言葉が足りてなかったので。でも内容はほぼ一緒です。


※段飾りを飾る家が少なそうなので補足

 雛人形なのですが、牛車がついてくるのは段飾りなどの場合です。お内裏様とお雛様だけの親王飾りだと牛車とかお道具類とかはついてないですね。あと七段とか八段飾りじゃないと左大臣と右大臣とかもいないし、左近の桜と右近の橘の模型とかもなかったような気がする。段飾りって立派だけど飾るの大変だと思う。場所とるし、雛祭り終わったらすぐに片付けないと嫁に行き遅れるという迷信もあるし。ちなみに作者の家の地方では雛祭りは三月じゃなくて四月にやります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒頭で、ふいにキュウリの馬に牽かれた「カボチャ」の馬車が脳裏に浮かんだんですが、普通の箱馬車だったんですね。 まったくあさっての方向に想像力が逝ってしまったようです。 ナスの牛車って、これ…
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