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四星術(仮)  作者: 彩坂初雪
第二章
8/33

ルール

「四星術のルール、どのくらい理解してるかな?」

「たぶん、普通に試合をできるくらいには理解できてると思いますけど……」

 花夏の言葉は予想の何段階も上へいくものだった。

 簡単な自己紹介を済ませた後、テルと詩月は着替えがあるため部室に残し、花夏と二人で四星術場に着ていた。

 ちなみに、テルは自分のことを藤山テルと名乗っていたが、気にしないでおいた。

「……」

 呑気にストレッチをしている花夏を眺める。

 どういうつもりだろうか。

 最初、こちらの敵情を偵察するつもりかとも思ったが、当の本人が四人だけの秘密と宣言している。それ以前に、これが他の先輩にバレたら花夏は間違いなく孤立するだろう。

 そんな危険を冒してまでこんなことをする必要がどこにあるのか。単純に謝罪の気持ちからくる行動なら良いのだが……。

「芽依。どうしたの? そんなくらい顔して。ゾンビみたいだよ?」

 詩月より一足先に着替え終わったらしい。

 テルが後ろから声をかけてきた。

「……お前は人をゾンビ呼ばわりするのが好きだな」

「好きじゃないよ? 芽依だけしかそういう風に見えないもん」

「どういう意味だ?」

「あはは。どういう意味だろうね」

 笑って流された。

「それより、どう思う?」

「どうって、花夏先輩のこと?」

「ああ」

 テルは可愛らしくう~んと唸って、それからきっぱりと答えた。

「分かんない。でも、せっかくの機会なんだし、そんなこと考えるよりまず楽しもうよ」

「……」

 テルらしいなと思う。

 目の前に楽しめる事柄があるならまずそれを楽しむ。考えるのはその後、か。

「それもそうだな」

「そうだよ!」

「あの~……遅れてすみません」

「うわぉ!」

「うおぅ!」

 背後から幽霊みたいな声が聞こえて飛び上がる。

「ああああの! ええと、なにか失礼を? ごめんなさい!」

「あ、いや、大丈夫。問題ないから。そんな謝らなくてもいいって」

 詩月が必死に頭を下げるのでとりあえずやめてもらう。

 内気なのは分かるが、同じ学年の人相手に簡単に頭を下げるのはいかがなものかと思う。

 あえて突っ込んだりはしないけど。

「ん? その格好は?」

「な、なにか変でしょうか?」

「いや、変ではないけど……?」

 改めて詩月の服装を見ると、少し驚く。

 上から下まで、見事に真っ黒なのだ。なんの文字も、刺繍も入ってない本当に真っ黒なだけのジャージ姿。学校指定のものではない。

「お、みんな揃ったかな?」

「あ、はい」

「それじゃ、適当にチーム分けしてはじめよっか」

「分かりました」





 じゃんけんでチーム分けをした結果、芽依は詩月と、テルは花夏と組むことになった。

「それじゃ、まずはある程度知ってると思うけど、ルール確認からね」

 四星術のフィールドは縦六十メートル、横三十メートルだ。中心にラインが走っており、一チーム三十メートル四方の中で動くことになる。

 ルール確認のため四人とも中心に集まっている。

「問題です。四星術は球技で言うと、なにとなにを組み合わせたものと言われているかな?」

「はい!」

「おお、いい返事! テルちゃんどうぞ」

「野球とドッジボールです!」

「正解!」

 花夏が拍手をする。

「そう。四星術は野球とドッジボールを混ぜたようなもので、まず野球みたく攻撃する側と守る側に分かれる。そして、ドッジボールの要領で相手に攻撃を当てることが選手のすることだね」

 まあ、ドッジボールの要領といっても少し違う。

 攻める際は相手の陣地に入って良いし、攻撃というのもボールを当てたりするわけじゃない。相手の体に触れればそれが当たったことになる。もちろんこの時、相手を傷つけるような行為はご法度で、当たったとみなされれば問題ない。つまり寸止めでもオーケーだ。印章を使った攻撃の場合はそれがほとんどとなる。

「それで、攻撃が当たったら一点追加。そこは野球と同じだね。五回同じことを繰り返して、得点が高い方が勝ちとなる」

「守る側の説明もお願いしまーす!」

 テルは既に花夏と意気投合してる模様。二人ともややテンション高めなせいか、盛り上がっている。

「はいは~い。守る側は、とにかく逃げること、攻撃が当たらないよう守ることが仕事になるね。攻撃側と同じく印章の使用はおっけー。ただし、気をつけなきゃいけないのは相手を攻撃することで守るのは反則になるってこと。そこら辺の判定は難しいけど、審判が公平に下してくれるから心配しなくていいよ。それから、いくらドッジボールみたいと言っても、当てられたからって抜ける必要はない。攻撃、守備共にずっと参加し続けられるから安心してね」

「質問です!」

「はいどうぞテルちゃん」

「逃げてる最中にこのフィールドの外に出てしまった場合はどうなるんですか?」

「うん、いい質問だね。逃げてる最中にこのフィールドから外に出ちゃったら相手に一点追加される。だから、攻撃を当てることじゃなくて、フィールドから押し出すことを考えた攻撃も効果的になるね。それから、攻撃する側もフィールド外から攻撃することは禁止で、出たら一点取られる。ここは注意してね」

 芽依もこの際だと思って挙手。

「はい」

「おお、英くん。なんだいなんだい?」

「一回攻撃を当てた後、連続でその人に攻撃するのはアリですか?」

 割と前から疑問に思っていたことだ。

 攻撃を当てた、ということはその人の近くにいることが多いだろう。となると、連続で攻撃すればいくらでも点が入りそうな気がする。そこはどうなっているのか。

「およ、本当に良いとこに気付くね君らは。一度攻撃を当てたらその人への攻撃は五秒間禁止されてるよ。守る側はその間に体制を立て直す必要があるってことだね」

「五秒間だけですか?」

「そう、攻守は三分ずつで交代だから、それ以上引き伸ばすとゲームを停滞させる恐れがあるの。短いと思うかもしれないけど、そこはチームワークでなんとかしないと。せっかくの団体戦なんだし」

 一対一の勝負ならともかく、仲間がいるのだ。五秒という短い間でもフォローし合うことはできるだろう。

「了解しました」

「よし。じゃあ、ルール確認は……っと、まだ大事なことがあった。四星術は基本的に何人でやるスポーツか知ってるよね?」

「はい。四対四の合計八人ですよね?」

「そう。そのうち一人は、私たちの後ろに建ってる塔から指示を出す。この指示を出す人が実質リーダーってことになるかな?」

 後ろを振り向くと、五メートルほどの頑強そうな塔が建っている。あそこの上から他のメンバー三人に指示を出すのだろう。

「それと、これ」

 花夏がポケットからイヤホンにマイクがくっついたようなものを差し出してくる。

「え、これって」

「そう。四星術のためだけに作られた小型通信端末。仲間同士で指示を出し合ったりする時、相手に聞かれたら意味ないからね。これを使うの。公式戦ではもっと良いものが配布されるけど、学校にこれがあるってだけでもすごいことなんだよ? 壊さないでね」

 花夏は笑って一人一人に手渡していく。

 渡された一年生三人は揃って「いいんですか?」と花夏に尋ねる。

「あんまり良くないかな。なみに知られたら大変なことになるかも……。だから四人だけの秘密ってことで頼んだんだけど」

 本人は笑って言うが、さすがにやりすぎだと芽依は感じる。

 一年生が四星術をできること自体イレギュラーなのに、こんないくらになるかも分からないものを使わせてもらえるなんて、行きすぎだ。

「あの、どうしてここまで?」

 直球で疑問をぶつけると、

「なんとなく?」

 疑問系で返された。

「いやいや、なんとなくって……」

「冗談だよ」

 花夏はそこで一度言葉を止める。

 そして、顔を伏せてぽつりと言った。


「ただ、申し訳ないなって思っただけ」


 その言葉には、なぜだか重みがあった。

 芽依は「矛盾してないですか?」と言いたかったが、やめておいた。花夏がこれ以上ないくらい、追求しないでという空気を発していたから。

 花夏の言動はいまいちよく分からない。一年生の味方をしたかと思ったら黒江のに賛成して、そうかと思ったら今度はまた一年生に誠意を示している。行動が統一されていない。

「あの、とにかく始めませんか?」

 と、気まずくなりかけた雰囲気を立て直してくれたのは意外なことに詩月。

「そ、そうだね!」

 テルもそれに乗っかる。

「うん、じゃあ、今回は二対二で、指示を出す人はなし。試合も短めに二回まででいこう」

「分かりました」

 花夏自身もテキパキと動き、芽依も今は忘れることにする。

「それじゃ、それぞれのチームで三分だけ作戦会議して、始めるよ!」

「了解!」


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